76 / 134
2-55 襲撃の犯人を捕まえたい
しおりを挟む
必要以上の氷を出し、残ったそれらに敵を追わせる。限られた空間内で、追尾する無数の氷と鬼ごっこだ。シューティングゲームにこういうのがあったなと僕は思った。平面ではなく、立体で視野も限られているタイプだ。溶けにくさにこだわったので、避けるしか回避方法はない。
そして、そのうちの一つが、敵の足を掠めた。──直後、その部分から、敵の氷結が始まる。当たったら氷像になる魔法。ただ、命までは奪わない。眠らせるだけだ。
「自分が使った魔法の説明はするなって言われてるからさ。どうなるかは言えないんだよね」
昔、勝ちを確信して、ペラペラと話した結果、酷い目に合わされたのだ。同じ過ちを繰り返すことも多々あるが、できれば繰り返したくはない。
「──化け物め……!」
脳内に、声が届いた。性別年齢の区別のつかない、加工されたような声だ。僕はその顔を拝んでやろうと、両肩にも氷を当て、腕を封じてからフードに手を伸ばす──と、直後、姿が消えた。
「……いやいや、やめてよ、そういうの」
その小さな人物は、凍りつく自身の手足を切り落とし、傷口を凍らせ、手足をあえて氷漬けにしたまま、大事そうに抱えてその場から離れる。
「そういう無茶はしない方がいいと思うよ。人生、何が起こるか分かんないし」
思いきり睨まれる。その瞳が、赤く、輝いたような気がした。そのとき、僕は歌声がもう、聞こえないことに気がつく。
「もー、ゆっくり聞きたかったのにい。……まあいいや、後で聞かせてもーらおっと」
僕は敵の残った片足を見つめる。
「それで、君、どうしてマナを狙うの? ま、言わないならここで殺してもいいんだけどね。僕は国のために動いてるわけじゃないし、協力者をあぶり出そうとも考えてないからさ」
一歩ずつ、近づいていく。マナを殺そうとしたのだ。絶対に無理な企みだとしても、企んだ時点で、決して許されない。それを、自分の手でどうにかできる機会は、おそらく、今しかないだろう。国はお堅い真面目なやつらばかりだし。
「さあ、どうする?」
僕は切れ味のいい風の刃を、空間全体に用意する。首をはねるのは得意だが、あいにく、手加減の仕方は知らない。しかし、敵は、話そうとしない。
「へえ、そう。──じゃあ、ここで死ね」
風刃が敵の喉を狙い、鋭く舞う。殺したとしても、正当防衛か何かで、捕まりはしないだろう。感謝されてもおかしくはない。
そう、本気で刃を差し向けたのだが──、
「っ!?」
敵を囲うように顕現した土の壁により、すべて防御された。僕は咄嗟に魔力探知する。が、周囲に動く気配は探知できない。
「どこに──?」
そのとき、石タイルの床がせり上がる。そして、その人物床を突き破って、空間の中に入ってきた。桃髪の少女──マナだ。まだ、儀式のときのままの服装だった。
「マナが守ったの?」
「はい」
「……なんで?」
「あなたが道を踏み外すことのないように」
土壁が消えると、敵も消えていた。どうやら、マナの手法を真似て、地面に潜ったらしい。
「あ──」
「土の中は魔力が豊富でよく見えませんからね」
これ以上、追うのは不可能だ。あの状態からもう一度、僕たちに向かってこようとも思わないだろう。
僕は、土壁を地面に埋め、氷を水蒸気に変え、地面の穴を塞ぐ。納得がいかない。
「人を殺すなとは言いません。でも、それは、あなたに、不当な状況で、傷ついてほしくないからです。殺してもいいと言った覚えはありませんよ」
マナの言葉は、不思議と頭にすんなり入ってくる。
それが、やけにムカついたからか、僕は、心にもない言葉を発していた。
「──偽物のくせに。偉そうにしないでよ」
マナの顔を見る勇気はなかった。言ってから、とても後悔した。しかし、
「ごめんなさい」
マナは、本当に自分が悪いのだとでも言うように、謝った。だんだんと、腸が煮え返るような怒りが込み上げてきた。
だが、それは、自分の愚かさに対してだ。
「……いや、今のは僕が悪かった。ごめん」
顔を見る勇気はないまま、時は流れ、人々は意識を取り戻していく。そうして、兵士たちがこちらへ向かってくる。
「他に何かやることはない?」
「はい。歌って終わりです」
「じゃあ、今の格好、まなちゃんに見せに行こうよ。壁の向こうにいたから、よく見られなかっただろうし」
「まなさんは、私の歌を聞いていましたか?」
「それがさー、まなちゃん、意識がはっきりしてたみたいなんだよね。すごくない? 僕、まなちゃんに起こしてもらわなかったら、ここに来られなかったよ」
「さすが、まなさんです。私もまだまだですね。精進しなくては」
「いや、それ以上極めたら本当に人が死ぬって……」
僕は通路の先を見つめる。敵が逃げていったであろう方向を。相手が子どもだろう何だろうと関係ない。先の魔力、確実に記憶した。次に会えば、すぐに分かる。
「あかりさん、まなさんのところまで案内してください」
「え?」
「早くしてください。早くっ、早くっ」
「あーはいはい……」
どんだけまなちゃんのこと好きなんだよ、と嫉妬せずにはいられなかった。
そして、そのうちの一つが、敵の足を掠めた。──直後、その部分から、敵の氷結が始まる。当たったら氷像になる魔法。ただ、命までは奪わない。眠らせるだけだ。
「自分が使った魔法の説明はするなって言われてるからさ。どうなるかは言えないんだよね」
昔、勝ちを確信して、ペラペラと話した結果、酷い目に合わされたのだ。同じ過ちを繰り返すことも多々あるが、できれば繰り返したくはない。
「──化け物め……!」
脳内に、声が届いた。性別年齢の区別のつかない、加工されたような声だ。僕はその顔を拝んでやろうと、両肩にも氷を当て、腕を封じてからフードに手を伸ばす──と、直後、姿が消えた。
「……いやいや、やめてよ、そういうの」
その小さな人物は、凍りつく自身の手足を切り落とし、傷口を凍らせ、手足をあえて氷漬けにしたまま、大事そうに抱えてその場から離れる。
「そういう無茶はしない方がいいと思うよ。人生、何が起こるか分かんないし」
思いきり睨まれる。その瞳が、赤く、輝いたような気がした。そのとき、僕は歌声がもう、聞こえないことに気がつく。
「もー、ゆっくり聞きたかったのにい。……まあいいや、後で聞かせてもーらおっと」
僕は敵の残った片足を見つめる。
「それで、君、どうしてマナを狙うの? ま、言わないならここで殺してもいいんだけどね。僕は国のために動いてるわけじゃないし、協力者をあぶり出そうとも考えてないからさ」
一歩ずつ、近づいていく。マナを殺そうとしたのだ。絶対に無理な企みだとしても、企んだ時点で、決して許されない。それを、自分の手でどうにかできる機会は、おそらく、今しかないだろう。国はお堅い真面目なやつらばかりだし。
「さあ、どうする?」
僕は切れ味のいい風の刃を、空間全体に用意する。首をはねるのは得意だが、あいにく、手加減の仕方は知らない。しかし、敵は、話そうとしない。
「へえ、そう。──じゃあ、ここで死ね」
風刃が敵の喉を狙い、鋭く舞う。殺したとしても、正当防衛か何かで、捕まりはしないだろう。感謝されてもおかしくはない。
そう、本気で刃を差し向けたのだが──、
「っ!?」
敵を囲うように顕現した土の壁により、すべて防御された。僕は咄嗟に魔力探知する。が、周囲に動く気配は探知できない。
「どこに──?」
そのとき、石タイルの床がせり上がる。そして、その人物床を突き破って、空間の中に入ってきた。桃髪の少女──マナだ。まだ、儀式のときのままの服装だった。
「マナが守ったの?」
「はい」
「……なんで?」
「あなたが道を踏み外すことのないように」
土壁が消えると、敵も消えていた。どうやら、マナの手法を真似て、地面に潜ったらしい。
「あ──」
「土の中は魔力が豊富でよく見えませんからね」
これ以上、追うのは不可能だ。あの状態からもう一度、僕たちに向かってこようとも思わないだろう。
僕は、土壁を地面に埋め、氷を水蒸気に変え、地面の穴を塞ぐ。納得がいかない。
「人を殺すなとは言いません。でも、それは、あなたに、不当な状況で、傷ついてほしくないからです。殺してもいいと言った覚えはありませんよ」
マナの言葉は、不思議と頭にすんなり入ってくる。
それが、やけにムカついたからか、僕は、心にもない言葉を発していた。
「──偽物のくせに。偉そうにしないでよ」
マナの顔を見る勇気はなかった。言ってから、とても後悔した。しかし、
「ごめんなさい」
マナは、本当に自分が悪いのだとでも言うように、謝った。だんだんと、腸が煮え返るような怒りが込み上げてきた。
だが、それは、自分の愚かさに対してだ。
「……いや、今のは僕が悪かった。ごめん」
顔を見る勇気はないまま、時は流れ、人々は意識を取り戻していく。そうして、兵士たちがこちらへ向かってくる。
「他に何かやることはない?」
「はい。歌って終わりです」
「じゃあ、今の格好、まなちゃんに見せに行こうよ。壁の向こうにいたから、よく見られなかっただろうし」
「まなさんは、私の歌を聞いていましたか?」
「それがさー、まなちゃん、意識がはっきりしてたみたいなんだよね。すごくない? 僕、まなちゃんに起こしてもらわなかったら、ここに来られなかったよ」
「さすが、まなさんです。私もまだまだですね。精進しなくては」
「いや、それ以上極めたら本当に人が死ぬって……」
僕は通路の先を見つめる。敵が逃げていったであろう方向を。相手が子どもだろう何だろうと関係ない。先の魔力、確実に記憶した。次に会えば、すぐに分かる。
「あかりさん、まなさんのところまで案内してください」
「え?」
「早くしてください。早くっ、早くっ」
「あーはいはい……」
どんだけまなちゃんのこと好きなんだよ、と嫉妬せずにはいられなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
転生したので好きに生きよう!
ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。
不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。
奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。
※見切り発車感が凄い。
※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。
【完結】旦那様、契約妻の私は放っておいてくださいませ
青空一夏
恋愛
※愛犬家おすすめ! こちらは以前書いたもののリメイク版です。「続きを書いて」と、希望する声があったので、いっそのこと最初から書き直すことにしました。アルファポリスの規約により旧作は非公開にします。
私はエルナン男爵家の長女のアイビーです。両親は人が良いだけで友人の保証人になって大借金を背負うお人好しです。今回もお父様は親友の保証人になってしまい大借金をつくりました。どうしたら良いもにかと悩んでいると、格上貴族が訪ねてきて私に契約を持ちかけるのでした。いわゆる契約妻というお仕事のお話でした。お金の為ですもの。私、頑張りますね!
これはお金が大好きで、綺麗な男性が苦手なヒロインが契約妻の仕事を引き受ける物語です。
ありがちなストーリーのコメディーです。
※作者独自の異世界恋愛物語。
※コメディです。
※途中でタグの変更・追加の可能性あり。
※最終話に子犬が登場します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる