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2-37 門の警備を疑いたい

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「それにしても、なんで門の内側に入れたのかしら? いかにも怪しいし、盗んだものかどうかくらい分かるんじゃないの?」
「……あ。あれか」

 あかりが手で槌を打ったのを見て、私は首を傾げる。

「ほら、僕、壁に穴開けて来たじゃん? だから、そこを通ったのかなーって」
「悪びれなさいよ……。でも、あたしがここに着いたときには、もう屋台が出てたわよ? あんた、あたしより早く来てた?」
「いや、ギリギリまでなんとかできないか考えてたね」

 となれば、壁に穴が開くより先に、屋台は開かれていたことになり、順序が合わない。躊躇いなく壁をぶっ壊すほど、あかりはイカれていないはずだ。──とはいえ、昨日、れなが私を背負っていたとき、置き去りにした城の使用人。あれを、全員片づけて、あかりはあの場にたどり着いたのだとか。さすが勇者というべきか。どちらにせよ、無茶苦茶だ。

「──あっ! 分かったわ、協力者がいたのよ!」

 あの商人が屋台を開き、もう一人が本物の宝石を集めてくる。最初は本物なしで開き、後から本物を追加する。そういう仕組みだとしたら、辻褄が合う。どちらにしても、外人もどきが門を通れたことは不可解だけれど。

 つまり、本来、門を通せばすぐに見つかっていたところを、穴が開いたことにより、宝石だけ検問をすり抜けたのだ。

 だが、なぜ、本物を屋台に混ぜる必要があるのだろうか。売った方がお金になると思うのだが。

「真相が何であれ、あんな怪しいやつ、どう考えても王都に入れちゃダメでしょ」
「さすがに見た目で判断はできないって」
「あの水晶は何のためにあるわけ?」
「僕、正規の方法で通ったことないから、知らないんだよねえ」

 あかりに言われて、普通に通れたのは私だけだったことを思い出す。レックスは優遇されているから通れるが、本来なら通れないと言っていた。

 ちなみに、そのレックスだが、私たちからは、完全に忘れられていた。檻から脱獄することもできなかったし、誰も助けに行かなかった。

 唯一、トイスだけは覚えていて、私たちが城を去るときになって、レックスは解放された。完全に拗ねていた。そして、レックスとはそこで分かれた。多分、王都にいる間はもう会わないだろう。

 ともかく、私は宝石について、協力者のことを兵士に伝える。これだけの数、目があるのだ。簡単にはくぐり抜けられまい。

 だが、侵入を許した門にも、問題がある。

「あたし、門番に文句言ってくるわ」
「え!? ねえ、ちょっと待ってよ!」

 私はあかりに、正面に立ちはだかられて、歩みを止める。押して通ろうかとも思ったが、やめた。

「何?」
「なんでそんなに怒ってるの? だって、その指輪、渋々もらってあげるって感じだったじゃん。そんなに大切じゃないでしょ?」
「は? 大切に決まってるわ。だから、怒ってるの。どうでも良かったらここまでするわけないでしょ」

 面食らったように、目をぱちくりさせるあかりの横を通り抜け、私は門の方へと進む。そして、そこにいた、美人の門番に話しかける。

「ねえ、ちょっと」
「ああ、昨日の、れなさんのお知り合いの方ですね。門を出られますか?」
「いいえ。今日は、文句を言いに来たの。さっき、そこで、あたしの物を盗んだ人が捕まったわ。検問はどうなってるわけ?」
「ちょっと、まなちゃん、やめなって……」
「申し訳ございません。昨日は水晶の調子が良くなくて……。私も魔法で検査させていただいているのですが、やはり、それだけだと検査しきれず……」
「調子が良くないなら、さっさと別のに替えなさいよ」
「本当に、仰る通りです。申し訳ございません。ただ、クレイアさんが触れてからは、絶好調ですよ」

 私は水晶の問題に気づき、ため息をつく。私が触れたことにより、何か運気が上がって、とかそういうことではない。私の体質が関わっているとすれば、

「……何か、魔法がかけられてたわね」
「クレイアさんも、そう思われますか。この水晶は魔力純度の高いものなので、そう簡単にはかからないと思うのですが」

 相当、強い魔力の持ち主により、魔法がかけられたのだろう。どの程度強いかは分からないけれど。

「あたしが触る前に、何人入れたの?」
「昨日は、宝石の屋台を開かれる方と、れなさん……あ。それから、その前にもう一人、魔族の方が──」
「そいつ、カムザゲスって名前じゃなかった?」
「はい、その通りです」
「何々、まなちゃんの親戚?」
「親戚というか……魔王だけど」
「……へー、魔王か」

 私は眉間のシワを揉み、思考を巡らせる。一体、何が目的で、こんなところまで直々に足を運んだのだろうか。

「どうする? 何か対策しておいた方が──」
「その必要はないわ。あの人が本気を出したら、こんな王都ごとき、一瞬で塵になるから。大丈夫よ」
「何も大丈夫じゃなくない!?」

 そもそも、魔王は快楽主義ではない。なぜ恐れられているかと言えば、その高い魔力と、もう一つ。人間をすぐに殺すからだ。とはいえ、無差別に殺すわけではない。

 魔族に対して罪を犯した人間は、どのような罪状であっても、死刑になる。それが、彼の法律だ。何もしていない人々を殺したりはしない。何かしてしまえば、確実に処刑されるけれど。

「……まだ、戦争するには早いし」
「そうなんだ?」
「ええ。魔族の圧倒的勝利で終わらせようと思えば、あと三年は力を蓄えないと。そのときに魔王と戦うのはあんたでしょ。それくらい、知っておきなさいよ。てか、勇者が魔王ビビってどうすんのよ。根性見せなさいよ」
「僕、難しいこと分かんなーい」

 あかりは本当に、勇者としての自覚が欠けているというか。難しいことが分からないというより、理解する気がないだけだと思う。これでも一応、国内屈指の進学校であるノア学園に合格しているのだし。

「とりあえず、宝石のことは置いておくとして。魔王の狙いだけど、祭のときを狙ってきたってことは、祭以外が目的か、祭自体が目的か──おそらく、後者だと思うけれど」

 祭以外が目的なら、別に今日である必要はない。となれば、三百年に一度の、明日の祭の方に用があるのだろう。

「ってことは?」
「……マナが危ないかもしれないわ」

 祭に直接関わる人物と言えば、マナしかいないだろう。
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