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2-36 蜂歌祭に参加したい
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日が傾き始めた、蜂歌祭二日目。
屋台は明日まで開かれる。明日から学校が始まるのだが、今から新幹線で戻る気にもなれず、開き直って、遊び倒すつもりで下見をしていた。
明日は休むと学校に連絡もした。蜂歌祭に参加すると正直に話したら、先生はなぜか笑っていた。何かおかしかっただろうか。
──正直、マナが心配で授業に集中などできそうもなかったからなのだが。
「まなちゃんが言ってた宝石すくいって、あれ?」
「ええ。あの憎き宝石すくいの人に、あたしは指輪を盗まれたわけ。本当に許せないわ。失明させてやろうかしら」
「さすがに、やめたげて……?」
私は肩かけ鞄のチャックをいじり、その的屋を睨みつける。とはいえ、どうどうと観察しているわけではなく、食べられる雲との間の通路に身を隠し、静かに観察していた。昨日今日で終了した屋台もあったが、この屋台は明日も開くようだ。とはいえ、それなりに儲かっているらしく、店主は悪い笑顔をしていた。
その店主は、水の流れに乗って泳ぐ、魚の形をした宝石の中から、一部だけを回収していた。あかりの目から見て、宝石だけを回収しているのは間違いないらしい。どうりで、今朝、売れている気配もないのに、宝石の数が減っていると思ったわけだ。
「宝石が金魚に姿を変えてるわけね」
「それをあの網ですくうんだろうね。まあ、お察しのとおり、僕は下手だよ。水に入れた瞬間に紙が破れるから」
「あたしはやったことすらないわね」
「へえ? 珍しいね?」
「ペット禁止だったのよ。ちなみに、マナは?」
「……そういえば、お店の金魚、全部すくって、出禁になったって噂を聞いたことがあるねえ」
「は!? 嘘でしょ!?」
どうやったら、あのペラペラのやつで、そんなに、たくさんすくえるのだろうか。さすがだ。
「それにしても、ほんと、ビビったよねえ。あの空気の中、女王になります、とか言い出すからさ。そっち!? って思ったよねえ」
「別に、あたしはどっちでも良かったわよ」
「ほんとに、素直じゃないよね、まなちゃんって」
「あんたもでしょ」
女王になる、なんて言い出したから、正直、耳を疑った。だが、その後に、こう続いた。
「ただし、あと、三年──高校を卒業するまでは待ってください。私にも青春を謳歌する権利はあるはずです」
マナが青春とか言うと、なんとなくおばさんのように聞こえるのだが。私だけだろうか。
ともかく、そう簡単に決められる話でもないからと、儀式は保留になった。その件に関する話し合いや、各所への説明は近日行われるらしい。
今は、それよりも重要なことがある。そう、明日は、蜂歌祭本番なのだ。未来の女王が、歌を歌って、ボイスネクターを生み出す、そのための準備が行われていることだろう。
「女王って言ったら、今はマナの母親じゃないの?」
「マナのお母さんも、女王って呼ばれるんだけど、女王様、めちゃくちゃ音痴だからさ」
「聞きたくなかった事実ね……。ってことは、マナは上手いってこと?」
「鬼ヤバイよ。もうね、歌声に引き込まれ過ぎて、何人か死にかけるレベル」
「そんなに危険なものを、王都中に響かせて大丈夫なの……?」
「まあ、死んだとしても、幸せな気持ちで死ねるし、後悔はないんじゃないかな?」
「せめて、本当は死なないって言って」
ちなみに、まゆは単独行動している。れなの家に帰ってから、私が勢いに任せて言ったあれそれを、れなに蒸し返されたのだ。自分では何を言ったか覚えていなかったが、何回も繰り返すので、ついつい記憶してしまったほどだ。
そして、それを聞いていたまゆに、
「まな、私には甘々だよねー。ねー?」
と、嫌味たらしく言われたので、仕方なく、単独行動を許可した。まゆも十八だし、大丈夫だろう。だが、別に、甘やかしているつもりはない。そう考えつつも、私は右腕を掴み、心配な気持ちを抑えていた。
そのとき、宝石すくいのスキンヘッドのおじさんが、私の指輪を回収しているのが視界に入った。水から取り出されると、指輪は魚から、元の形に戻った。
「あ、あたしの指輪! ちょっと! 返しなさいよ!」
私は飛び出した。それに気づいたおじさんは、焦燥を体全体で表現し、手を眼前で海草のように動かして、
「ワ、ワタシ、ルスファ語、ワカラナイネ」
「食らいなさい、催涙スプレー!」
「イテー! メガ、メガアア!!」
鞄の中の薬品で調合した催涙スプレーを顔面に吹きかける。直撃した。もちろん、魔法では治せないタイプだ。
私は指輪を取り上げ、親指にはめて、その割れた表面をなぞる。これは、売り物にはならないと思うのだが、それすらも確認していなかったらしい。そして、宝石が入った袋も取り上げる。
「これ、全部盗んだやつでしょ?」
「チ、チガウネ」
「もう一回スプレーかけるわよ?」
「ソウデスハイ……」
袋に詰め込まれた宝石が、すべて盗品だとは、一体、どれだけ盗んだのだろうか。私はあかりに盗人の監視を頼み、近くにいた兵士を呼んで、逮捕してもらった。
屋台は明日まで開かれる。明日から学校が始まるのだが、今から新幹線で戻る気にもなれず、開き直って、遊び倒すつもりで下見をしていた。
明日は休むと学校に連絡もした。蜂歌祭に参加すると正直に話したら、先生はなぜか笑っていた。何かおかしかっただろうか。
──正直、マナが心配で授業に集中などできそうもなかったからなのだが。
「まなちゃんが言ってた宝石すくいって、あれ?」
「ええ。あの憎き宝石すくいの人に、あたしは指輪を盗まれたわけ。本当に許せないわ。失明させてやろうかしら」
「さすがに、やめたげて……?」
私は肩かけ鞄のチャックをいじり、その的屋を睨みつける。とはいえ、どうどうと観察しているわけではなく、食べられる雲との間の通路に身を隠し、静かに観察していた。昨日今日で終了した屋台もあったが、この屋台は明日も開くようだ。とはいえ、それなりに儲かっているらしく、店主は悪い笑顔をしていた。
その店主は、水の流れに乗って泳ぐ、魚の形をした宝石の中から、一部だけを回収していた。あかりの目から見て、宝石だけを回収しているのは間違いないらしい。どうりで、今朝、売れている気配もないのに、宝石の数が減っていると思ったわけだ。
「宝石が金魚に姿を変えてるわけね」
「それをあの網ですくうんだろうね。まあ、お察しのとおり、僕は下手だよ。水に入れた瞬間に紙が破れるから」
「あたしはやったことすらないわね」
「へえ? 珍しいね?」
「ペット禁止だったのよ。ちなみに、マナは?」
「……そういえば、お店の金魚、全部すくって、出禁になったって噂を聞いたことがあるねえ」
「は!? 嘘でしょ!?」
どうやったら、あのペラペラのやつで、そんなに、たくさんすくえるのだろうか。さすがだ。
「それにしても、ほんと、ビビったよねえ。あの空気の中、女王になります、とか言い出すからさ。そっち!? って思ったよねえ」
「別に、あたしはどっちでも良かったわよ」
「ほんとに、素直じゃないよね、まなちゃんって」
「あんたもでしょ」
女王になる、なんて言い出したから、正直、耳を疑った。だが、その後に、こう続いた。
「ただし、あと、三年──高校を卒業するまでは待ってください。私にも青春を謳歌する権利はあるはずです」
マナが青春とか言うと、なんとなくおばさんのように聞こえるのだが。私だけだろうか。
ともかく、そう簡単に決められる話でもないからと、儀式は保留になった。その件に関する話し合いや、各所への説明は近日行われるらしい。
今は、それよりも重要なことがある。そう、明日は、蜂歌祭本番なのだ。未来の女王が、歌を歌って、ボイスネクターを生み出す、そのための準備が行われていることだろう。
「女王って言ったら、今はマナの母親じゃないの?」
「マナのお母さんも、女王って呼ばれるんだけど、女王様、めちゃくちゃ音痴だからさ」
「聞きたくなかった事実ね……。ってことは、マナは上手いってこと?」
「鬼ヤバイよ。もうね、歌声に引き込まれ過ぎて、何人か死にかけるレベル」
「そんなに危険なものを、王都中に響かせて大丈夫なの……?」
「まあ、死んだとしても、幸せな気持ちで死ねるし、後悔はないんじゃないかな?」
「せめて、本当は死なないって言って」
ちなみに、まゆは単独行動している。れなの家に帰ってから、私が勢いに任せて言ったあれそれを、れなに蒸し返されたのだ。自分では何を言ったか覚えていなかったが、何回も繰り返すので、ついつい記憶してしまったほどだ。
そして、それを聞いていたまゆに、
「まな、私には甘々だよねー。ねー?」
と、嫌味たらしく言われたので、仕方なく、単独行動を許可した。まゆも十八だし、大丈夫だろう。だが、別に、甘やかしているつもりはない。そう考えつつも、私は右腕を掴み、心配な気持ちを抑えていた。
そのとき、宝石すくいのスキンヘッドのおじさんが、私の指輪を回収しているのが視界に入った。水から取り出されると、指輪は魚から、元の形に戻った。
「あ、あたしの指輪! ちょっと! 返しなさいよ!」
私は飛び出した。それに気づいたおじさんは、焦燥を体全体で表現し、手を眼前で海草のように動かして、
「ワ、ワタシ、ルスファ語、ワカラナイネ」
「食らいなさい、催涙スプレー!」
「イテー! メガ、メガアア!!」
鞄の中の薬品で調合した催涙スプレーを顔面に吹きかける。直撃した。もちろん、魔法では治せないタイプだ。
私は指輪を取り上げ、親指にはめて、その割れた表面をなぞる。これは、売り物にはならないと思うのだが、それすらも確認していなかったらしい。そして、宝石が入った袋も取り上げる。
「これ、全部盗んだやつでしょ?」
「チ、チガウネ」
「もう一回スプレーかけるわよ?」
「ソウデスハイ……」
袋に詰め込まれた宝石が、すべて盗品だとは、一体、どれだけ盗んだのだろうか。私はあかりに盗人の監視を頼み、近くにいた兵士を呼んで、逮捕してもらった。
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