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2-24 それでも信じたい
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「……二号。もう一度聞くが、幽霊とかって──」
「ええ。信じてる──というより、むしろ、わりと見える方よ」
「え? 何、幽霊って本当にいるの?」
「は? 普通にその辺にいるでしょ?」
「へ、へえ……?」
あかりは周囲を見渡し、急に怯え始める。その行為に何の意味があるのだろうかと、思わずにはいられないけれど。今まで無事だったのなら、これからも大したことは起きないと思う。
ただ、
「あかりの周りにも、いつも何か漂ってるわよ」
「え? ……どんな感じ?」
私はあかりの近くにいる幽霊とは、いつも目を合わせないようにしている。あれは、何かヤバいやつだ。絶対に、関わらない方がいいと本能が告げている。
「本当に聞きたい? 多分、後悔するわよ」
「……やめておこうかな」
そんな会話をしていると、レックスが深刻そうな顔で重い口を開いた。
「蜂歌祭は昔、放火祭だったと言われている」
「火放つの!?」
「ああ。当時起こった戦争をそう表したと言い伝えられている」
「人間がこの地を奪ったときの戦争ね」
「そうだ。魔族を追い出すために、人間はこの地を外から火で囲んだ。そして、すべてを燃やし尽くした。そのときの阿鼻叫喚が、どういうわけか、女王の歌声になったってぇわけだ。ハニーナはこの辺りのボスだからな。大方、辺りを燃やしたときに、モンスターに出た被害に対して、何かしらの契約が結ばれたんだろうよ」
「だから、多いのね」
何が、とは言わないけれど。
「そうだ。この時期になるとな。そのときに亡くなった奴らは、さぞ、人間を憎んだだろうよ」
常に見えるものをいちいち意識したりはしないが、それにしても、多いとは思っていたのだ。
だが、さっきのは、そういう感じではなかったと思う。
「んで、幽霊が見えるやつとかは、ついうっかり、あの世に引きずり込まれる、なんて話も聞くんだわ」
「普通の幽霊くらいじゃ、あたしは歯牙にもかけないわ。あれは、もっとこう……、あたしを呼んでる感じだった」
それよりも、この穴は一体、どうして、ここに開いているのだろうか。底は見えないけれど。
「まなちゃん、恨み買うようなことでもしたの?」
「……あの子にあたしをここから落とすつもりはなかったと思ってるわ」
「いやいや、落ちかけてたじゃん」
「でも、落ちなかった。──それが事実よ」
ここに連れてくるのが目的だとしたら。この穴には何かが隠されているのかもしれない。今は確認する暇もないけれど。
「どっちにしても、王都にこんな大きい穴が開いてたら危険でしかたねえ。とりあえず、埋めとくか」
「あ──」
待ってというより早く、レックスがその穴をきれいに埋めた。彼もなかなか、すごい魔法使いだ。確かめたいことがあったのだが、それも叶いそうにない。
「……話を戻しましょう。それで、ここに集まったわけだけど、どうやって城に潜入するか、作戦はできてるわけ?」
「んあぁ。それなんだが……、どうやら、地下に通路があるみたいでな。あそこから、城の一室に繋がってるらしい」
「事実とは思えないわね。罠じゃないの?」
「まぁー、お城さんも一枚岩じゃないってことだ」
私が要領を得ないでいると、レックスが顎でついてくるように指示した。
「お姉ちゃん。そろそろ離して」
「死んじゃ嫌だ」
「うん。気をつけるから」
心配そうに私を見上げるまゆに、私は笑顔で応える。それに満足そうに頷いて、まゆは私と手を繋いだ。
***
レックスに連れていかれたのは、こぢんまりとした建物の中だった。コンクリートの床と壁に、赤い二人がけのソファが二つ、低い横長の机を挟んで向かい合わせになっている。奥にカウンターのようなものがあり、棚が設置されているが、何も並んでいない。それ以外に目ぼしいものはなく、簡素な空間が広がっていた。
そして、ソファには紫髪の男が座っており、こちらの様子をうかがっていた。
「……誰?」
「誰だと思う? ヒントは顔」
あかりに言われた通り、顔を見つめてみる。瞳は夕焼けのオレンジ。髪は日が沈んだばかりの頃の西の空を思わせる紫。全体として、秋の夕暮れの空を思わせる。まだ幼さが残る顔立ちだが、このままでも十分に恵まれたものを感じる。
「マナちゃんに似てるねー」
まゆがそう言った。私も同じ考えだ。
「もしかして、マナの妹?」
「妹じゃない。弟だ」
「声低っ」
顔立ちはマナにそっくりで、可愛らしい。成長期というやつか。
「ねえねえ、トイス、これ着てみない?」
割り込んできたあかりは、どこから取り出したのか、マナが着ていそうなドレスを少年の目の前に差し出した。彼が、宿舎で話していたトイスという人物らしい。
「着ない」
「こんな可愛いの着られるの、成長期前の今だけだよ?」
「別に。大人になって興味が湧いたら、そのときに着ればいいだろ」
「着たら、今、興味湧くかもしれないじゃん、ね?」
「今は、絶対に、着ない」
「マナにそっくりだし、絶対、可愛いんだから、着てよ! そして僕を喜ばせてよ!」
「俺はむしろ、あかりさんが男物を着てるところが見たい」
「いや、今は可愛いを極めてるから無理かな。そのうち気が向いたらねえ」
淡々と話す少年だ。あかりに迫られても、少しも調子にブレがない。
「じゃあ、おじさんが着ようかなー」
「あ、レックス、興味ある? いいよ、そのときのために用意しておいたサイズの大きいのが……」
「冗談! 冗談な! そのときのためにってなんだよ! 用意すんなよ! 誰得だよ! 絶対嫌だよ!」
「僕得」
「お前、見境なしだな……」
「誰でも僕好みに可愛くする自信があるからね」
あかりはどこかにドレスをしまうと、少し落胆した様子で、トイスの隣に座った。
「オレは外を警戒しておく」
レックスは扉の近くに立ち、見張りをしてくれるらしい。私はあかりの向かいに座り、隣にまゆが座った。
「ええ。信じてる──というより、むしろ、わりと見える方よ」
「え? 何、幽霊って本当にいるの?」
「は? 普通にその辺にいるでしょ?」
「へ、へえ……?」
あかりは周囲を見渡し、急に怯え始める。その行為に何の意味があるのだろうかと、思わずにはいられないけれど。今まで無事だったのなら、これからも大したことは起きないと思う。
ただ、
「あかりの周りにも、いつも何か漂ってるわよ」
「え? ……どんな感じ?」
私はあかりの近くにいる幽霊とは、いつも目を合わせないようにしている。あれは、何かヤバいやつだ。絶対に、関わらない方がいいと本能が告げている。
「本当に聞きたい? 多分、後悔するわよ」
「……やめておこうかな」
そんな会話をしていると、レックスが深刻そうな顔で重い口を開いた。
「蜂歌祭は昔、放火祭だったと言われている」
「火放つの!?」
「ああ。当時起こった戦争をそう表したと言い伝えられている」
「人間がこの地を奪ったときの戦争ね」
「そうだ。魔族を追い出すために、人間はこの地を外から火で囲んだ。そして、すべてを燃やし尽くした。そのときの阿鼻叫喚が、どういうわけか、女王の歌声になったってぇわけだ。ハニーナはこの辺りのボスだからな。大方、辺りを燃やしたときに、モンスターに出た被害に対して、何かしらの契約が結ばれたんだろうよ」
「だから、多いのね」
何が、とは言わないけれど。
「そうだ。この時期になるとな。そのときに亡くなった奴らは、さぞ、人間を憎んだだろうよ」
常に見えるものをいちいち意識したりはしないが、それにしても、多いとは思っていたのだ。
だが、さっきのは、そういう感じではなかったと思う。
「んで、幽霊が見えるやつとかは、ついうっかり、あの世に引きずり込まれる、なんて話も聞くんだわ」
「普通の幽霊くらいじゃ、あたしは歯牙にもかけないわ。あれは、もっとこう……、あたしを呼んでる感じだった」
それよりも、この穴は一体、どうして、ここに開いているのだろうか。底は見えないけれど。
「まなちゃん、恨み買うようなことでもしたの?」
「……あの子にあたしをここから落とすつもりはなかったと思ってるわ」
「いやいや、落ちかけてたじゃん」
「でも、落ちなかった。──それが事実よ」
ここに連れてくるのが目的だとしたら。この穴には何かが隠されているのかもしれない。今は確認する暇もないけれど。
「どっちにしても、王都にこんな大きい穴が開いてたら危険でしかたねえ。とりあえず、埋めとくか」
「あ──」
待ってというより早く、レックスがその穴をきれいに埋めた。彼もなかなか、すごい魔法使いだ。確かめたいことがあったのだが、それも叶いそうにない。
「……話を戻しましょう。それで、ここに集まったわけだけど、どうやって城に潜入するか、作戦はできてるわけ?」
「んあぁ。それなんだが……、どうやら、地下に通路があるみたいでな。あそこから、城の一室に繋がってるらしい」
「事実とは思えないわね。罠じゃないの?」
「まぁー、お城さんも一枚岩じゃないってことだ」
私が要領を得ないでいると、レックスが顎でついてくるように指示した。
「お姉ちゃん。そろそろ離して」
「死んじゃ嫌だ」
「うん。気をつけるから」
心配そうに私を見上げるまゆに、私は笑顔で応える。それに満足そうに頷いて、まゆは私と手を繋いだ。
***
レックスに連れていかれたのは、こぢんまりとした建物の中だった。コンクリートの床と壁に、赤い二人がけのソファが二つ、低い横長の机を挟んで向かい合わせになっている。奥にカウンターのようなものがあり、棚が設置されているが、何も並んでいない。それ以外に目ぼしいものはなく、簡素な空間が広がっていた。
そして、ソファには紫髪の男が座っており、こちらの様子をうかがっていた。
「……誰?」
「誰だと思う? ヒントは顔」
あかりに言われた通り、顔を見つめてみる。瞳は夕焼けのオレンジ。髪は日が沈んだばかりの頃の西の空を思わせる紫。全体として、秋の夕暮れの空を思わせる。まだ幼さが残る顔立ちだが、このままでも十分に恵まれたものを感じる。
「マナちゃんに似てるねー」
まゆがそう言った。私も同じ考えだ。
「もしかして、マナの妹?」
「妹じゃない。弟だ」
「声低っ」
顔立ちはマナにそっくりで、可愛らしい。成長期というやつか。
「ねえねえ、トイス、これ着てみない?」
割り込んできたあかりは、どこから取り出したのか、マナが着ていそうなドレスを少年の目の前に差し出した。彼が、宿舎で話していたトイスという人物らしい。
「着ない」
「こんな可愛いの着られるの、成長期前の今だけだよ?」
「別に。大人になって興味が湧いたら、そのときに着ればいいだろ」
「着たら、今、興味湧くかもしれないじゃん、ね?」
「今は、絶対に、着ない」
「マナにそっくりだし、絶対、可愛いんだから、着てよ! そして僕を喜ばせてよ!」
「俺はむしろ、あかりさんが男物を着てるところが見たい」
「いや、今は可愛いを極めてるから無理かな。そのうち気が向いたらねえ」
淡々と話す少年だ。あかりに迫られても、少しも調子にブレがない。
「じゃあ、おじさんが着ようかなー」
「あ、レックス、興味ある? いいよ、そのときのために用意しておいたサイズの大きいのが……」
「冗談! 冗談な! そのときのためにってなんだよ! 用意すんなよ! 誰得だよ! 絶対嫌だよ!」
「僕得」
「お前、見境なしだな……」
「誰でも僕好みに可愛くする自信があるからね」
あかりはどこかにドレスをしまうと、少し落胆した様子で、トイスの隣に座った。
「オレは外を警戒しておく」
レックスは扉の近くに立ち、見張りをしてくれるらしい。私はあかりの向かいに座り、隣にまゆが座った。
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