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2-15 門の審査を受けたい
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乗り心地の悪い馬車の荷台に乗せてもらい、道の凹凸に度々、体を投げ出されながら、目的地まで無事に到着した。他の馬車も向かうところは同じらしく、長蛇の列をなしていた。
「すごく混んでますね」
私は乗せてくれた気のいいおじさんに声をかける。
「三百年に一度の祭りだからね。稼ぎ時ってやつよ」
「けれど、門を二つ越えるのは、よっぽどじゃないと無理だとうかがいましたが?」
「二つは無理でも、一つならいけるだろ? 屋台はそっちで出すんだ」
「なるほど……」
つまり、祭り本体は王城の付近で行うが、出店は一つ外側の区域に出るわけだ。確かに、そちらの方が人も多いだろう。それ以上は中に入れないのだから。
「それで、おじさんは、門を越えられそうなんですか?」
「ははっ。少なくとも、手前のは越えられるだろうよ。もう一つってなると、厳しいけどな。姉ちゃんこそ大丈夫かあ?」
「通れるか通れないか、肝試しみたいなものです。通れなかったら残念、ということで」
「手ぶらで帰るってわけか。そりゃあ大変だな」
「どういうことですか?」
「ん? なんだ、知らねえのか? 祭りは明日から三日間に渡ってやるんだ。今さら、門の外に向かう馬車なんていないだろうよ」
そこで、私はやっと、帰り道の苦労について考えさせられることになった。どのみち、通れたとしても、許可証をもらって一度は鍛冶屋に帰るのだ。
「レックス、隠してたわね……」
いよいよ、敵味方ということを抜きにして、歳上だから敬う、などという気もなくなってきた。敬語もずいぶん雑になってきたが、王から勅命が下るということは、彼もそこそこ身分のある人間なのだろう。
「まあ、そんなこと言ったら、あかりはなんなのって話なんだけど」
なんやかんやで、この馬車の点検が始まったようだ。荷物をすべて出して確認するらしい。ずいぶんと丁寧なことだ。
「お次の方ー」
呼ばれたため、おじさんに別れを告げ、検問に向かう。今度は普通の門番だ。どこにでもいそうな。いや、門番というより、駅員っぽいかもしれない。どちらでもいいけれど。
「はい、えー、調べますので、えー、しばらくおかけになってお待ちください」
「しばらくって、どのくらいですか?」
「えー、遅くても一時間ほどで終わりますので」
身分証代わりの学生証を提示すると、それを机上に設置された台に置いて、虚空を片手五本の指で叩き始めた。そこにキーボードでもあるのだろうか。
「一時間は長すぎるわね……」
「えー、あ、ノア学園なんですねー」
「あ、はい、そうです」
「うちの息子も目指してるんですよー、ノア学園。えー、中学三年なんですけどね?」
「へえ。息子さん、勉強は得意なんですか?」
「それが、昔から苦手でねー! 医者になるんだーって、今、必死に勉強してるとこ」
急に距離感を詰められた。私は動揺をあまり表に出さないようにして、相手に合わせる。
「お医者さんを目指すなんて、優しい方ですね」
「そう、優しいの! え、もうねー、母親が昔っから体弱くてさー。何とかしてやりたいんだって。それ聞いたとき、おじさん、もう、泣けて泣けて……」
などと、世間話に花を咲かせているうちに、確認は済んだらしい。
「はー、なるほどなるほ、ど。えー、クレイアさん、確認が取れましたので、許可証を発行しますね」
「……発行してもらえるんですか?」
「はい、問題ないと確認ができましたので。今日から一週間、データを保管しておきます。──今、通る?」
「いえ、結構です」
「了解でーす。またどうぞー」
「……あの、一つ聞いてもいいですか?」
「はい?」
「レックスの鍛冶屋って分かりますか? そこに行きたいんですけど、いい方法、ないですかね?」
「あーあそこねー。えー、なら、内側から行くのが早いんじゃねえかと思うんだけど」
「なるほど、その手があったわ」
「あっちの壁沿いにまーっすぐ進んで、隣の門から出て右に行って、まーっすぐ外ね。通る?」
「はい、お願いします」
「ちょっと待ってねー……えー、はい。行っていいよー」
「それでは」
「王都を満喫してちょーだい」
私は門番さんに言われた通りの方向に進む。ちょうど、出店の準備がされており、道の両側にテントが立てられている最中だった。
「たこ焼き、イカ焼き、りんご飴、金魚すくい、わなげ、たこ焼き、チョコバナナ、ポテト、たこ焼き……たこ焼き多いわね」
まゆが喜びそうなものばかりだなとおもいながら、私は出店を眺めて歩く。提灯が吊るされており、当日は夜まで楽しめそうだ。まあ、祭りを楽しむ目的で来たわけではないのが残念だけれど。学校があるため、明日には帰らなければならないし。
「あ、出張トンビアイスなんてやってる」
トンビニはどこまで進出するつもりなのだろうか。
見た限り、王都にはコンビニがない。大体が露店商なので、新鮮で楽しい。などと、歩いていると、あっという間に門に着いた。
「……ついでに、内側の門に挑戦した方がいいわね」
もう一度ここまで来る手間を思い返し、私はそう決める。門を通りすぎて、内側の壁に向かって三十分、そこから、壁沿いに一時間ほど歩いたが、門は見えてこない。この分だと、内側に門は一つしかないのかもしれない。王都が一体、どの程度の広さなのか知らないけれど。
「すごく混んでますね」
私は乗せてくれた気のいいおじさんに声をかける。
「三百年に一度の祭りだからね。稼ぎ時ってやつよ」
「けれど、門を二つ越えるのは、よっぽどじゃないと無理だとうかがいましたが?」
「二つは無理でも、一つならいけるだろ? 屋台はそっちで出すんだ」
「なるほど……」
つまり、祭り本体は王城の付近で行うが、出店は一つ外側の区域に出るわけだ。確かに、そちらの方が人も多いだろう。それ以上は中に入れないのだから。
「それで、おじさんは、門を越えられそうなんですか?」
「ははっ。少なくとも、手前のは越えられるだろうよ。もう一つってなると、厳しいけどな。姉ちゃんこそ大丈夫かあ?」
「通れるか通れないか、肝試しみたいなものです。通れなかったら残念、ということで」
「手ぶらで帰るってわけか。そりゃあ大変だな」
「どういうことですか?」
「ん? なんだ、知らねえのか? 祭りは明日から三日間に渡ってやるんだ。今さら、門の外に向かう馬車なんていないだろうよ」
そこで、私はやっと、帰り道の苦労について考えさせられることになった。どのみち、通れたとしても、許可証をもらって一度は鍛冶屋に帰るのだ。
「レックス、隠してたわね……」
いよいよ、敵味方ということを抜きにして、歳上だから敬う、などという気もなくなってきた。敬語もずいぶん雑になってきたが、王から勅命が下るということは、彼もそこそこ身分のある人間なのだろう。
「まあ、そんなこと言ったら、あかりはなんなのって話なんだけど」
なんやかんやで、この馬車の点検が始まったようだ。荷物をすべて出して確認するらしい。ずいぶんと丁寧なことだ。
「お次の方ー」
呼ばれたため、おじさんに別れを告げ、検問に向かう。今度は普通の門番だ。どこにでもいそうな。いや、門番というより、駅員っぽいかもしれない。どちらでもいいけれど。
「はい、えー、調べますので、えー、しばらくおかけになってお待ちください」
「しばらくって、どのくらいですか?」
「えー、遅くても一時間ほどで終わりますので」
身分証代わりの学生証を提示すると、それを机上に設置された台に置いて、虚空を片手五本の指で叩き始めた。そこにキーボードでもあるのだろうか。
「一時間は長すぎるわね……」
「えー、あ、ノア学園なんですねー」
「あ、はい、そうです」
「うちの息子も目指してるんですよー、ノア学園。えー、中学三年なんですけどね?」
「へえ。息子さん、勉強は得意なんですか?」
「それが、昔から苦手でねー! 医者になるんだーって、今、必死に勉強してるとこ」
急に距離感を詰められた。私は動揺をあまり表に出さないようにして、相手に合わせる。
「お医者さんを目指すなんて、優しい方ですね」
「そう、優しいの! え、もうねー、母親が昔っから体弱くてさー。何とかしてやりたいんだって。それ聞いたとき、おじさん、もう、泣けて泣けて……」
などと、世間話に花を咲かせているうちに、確認は済んだらしい。
「はー、なるほどなるほ、ど。えー、クレイアさん、確認が取れましたので、許可証を発行しますね」
「……発行してもらえるんですか?」
「はい、問題ないと確認ができましたので。今日から一週間、データを保管しておきます。──今、通る?」
「いえ、結構です」
「了解でーす。またどうぞー」
「……あの、一つ聞いてもいいですか?」
「はい?」
「レックスの鍛冶屋って分かりますか? そこに行きたいんですけど、いい方法、ないですかね?」
「あーあそこねー。えー、なら、内側から行くのが早いんじゃねえかと思うんだけど」
「なるほど、その手があったわ」
「あっちの壁沿いにまーっすぐ進んで、隣の門から出て右に行って、まーっすぐ外ね。通る?」
「はい、お願いします」
「ちょっと待ってねー……えー、はい。行っていいよー」
「それでは」
「王都を満喫してちょーだい」
私は門番さんに言われた通りの方向に進む。ちょうど、出店の準備がされており、道の両側にテントが立てられている最中だった。
「たこ焼き、イカ焼き、りんご飴、金魚すくい、わなげ、たこ焼き、チョコバナナ、ポテト、たこ焼き……たこ焼き多いわね」
まゆが喜びそうなものばかりだなとおもいながら、私は出店を眺めて歩く。提灯が吊るされており、当日は夜まで楽しめそうだ。まあ、祭りを楽しむ目的で来たわけではないのが残念だけれど。学校があるため、明日には帰らなければならないし。
「あ、出張トンビアイスなんてやってる」
トンビニはどこまで進出するつもりなのだろうか。
見た限り、王都にはコンビニがない。大体が露店商なので、新鮮で楽しい。などと、歩いていると、あっという間に門に着いた。
「……ついでに、内側の門に挑戦した方がいいわね」
もう一度ここまで来る手間を思い返し、私はそう決める。門を通りすぎて、内側の壁に向かって三十分、そこから、壁沿いに一時間ほど歩いたが、門は見えてこない。この分だと、内側に門は一つしかないのかもしれない。王都が一体、どの程度の広さなのか知らないけれど。
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