30 / 134
2-9 駅弁が食べたい
しおりを挟む
「新幹線で何食べる?」
「トンビアイス!」
「何って、別に、何も食べなくていいでしょ。どうせ三時間で着くし」
「いやあ、やっぱり、駅弁だよねえ、うんうん」
「トンビアイスもいいよね!」
「僕、糸を引くとじゅーってなる肉!」
「わたし、トンビアイス!」
金銭的にわりと厳しいのだが、まあ、たまの贅沢分くらい稼げばいいかと思い直し、私は駅弁なるものへと目を向ける。そして、そこに書かれた値段を見て、凍りついた。
「……あたし、トンビアイス買ってくるわ。あかり、お姉ちゃんをよろしく」
駅にもトンビニは設置されている。さすが、トンビニトラレル。そうして、トンビアイスを二つ買って席に戻ると、まゆはあかりと向かいの窓側の席に座って寝ていた。私がまゆの隣に座ると、あかりは、「えっ?」と、困惑したような声を出した。
「どうかした?」
「あ、いや、何でも……」
特に気にすることなく、私はトンビアイスの封を開ける。まゆが起きるまでに溶けることは、疑いようのない事実だった。
「それ、食べていいわよ」
「ほんと? ありがと」
「別にいいわよ。お金はきっちり返しなさい」
「あ、お金取るんだ……!?」
あかりは先ほどよりも大きな困惑を見せていた。アイスが溶けないうちにと、彼は弁当を急いでかき込んだ。そして、溶けかけたアイスを食べようとすると、棒から綺麗に外れ、ズボンの上に落ちた。
それから、三時間弱。結局、トイスとやらのことは教えてもらえなかった。
「それにしても、やけに落ち着いて見えるわね?」
あやとり、という、よく分からない遊びをさせられながら、私はあかりに問いかける。まゆは窓の外を眺めているため、二人でやっているのだが、これがなかなか楽しい。
「そう? ま、さらったのはレックスだし、トイスから状況を教えてもらって、だいたいは分かってるんだよね。アイちゃんも別に酷い目に合ったりはしてないよ」
「それを先に言いなさいよ」
「ごめんごめん、忘れてた」
あかりの様子から、大丈夫なのだろうということは、なんとなく察していたけれど。
「あー、ほどけちゃった」
「あんたから提案してきたのに、あたしの方が上手ってどうなの?」
なんとかして、あかりに勝たせてやりたいと思うのだが、これがかなり難題だ。ババ抜き、しりとり、あやとり、指の本数を足して五になったら消えるやつ、一から五まで先に全部言ったら勝ちのやつ、相手の親指の数交互に当てるやつ、あっち向いてホイ、腕相撲──は、握手ができなかったので、無しになった。あやとりにしても、お互いの手を触らないようにしているので、なかなかハードルが高い。
そして、一回もあかりに負けることはできなかった。あっち向いてホイなんて、じゃんけんの時点で一度も負けられない──勝ちたいという意味ではなく。
「あんた、むしろすごいわ」
「まあ、昔からだよねえ。むしろ、この才能のなさが僕っていうか?」
「……悔しくないわけ?」
「めちゃくちゃ悔しいけど? だから、ずっと勝負挑みっぱなしじゃん?」
「あ、勝ちたいとは思ってるわけね……」
「ポーカーでもやる?」
──まもなく、終点、トレリアン、トレリアン。お出口は、左側です。
そうアナウンスの声が聞こえた。
「これが終わったら、降りる準備しよう」
「いや、やってる暇ないと思うけど」
「お願い、一回だけ!」
「はいはい……」
結局、ルールもろくに分からなかったが、私が勝ち、慌てて片づける羽目になったのだった。
「トンビアイス!」
「何って、別に、何も食べなくていいでしょ。どうせ三時間で着くし」
「いやあ、やっぱり、駅弁だよねえ、うんうん」
「トンビアイスもいいよね!」
「僕、糸を引くとじゅーってなる肉!」
「わたし、トンビアイス!」
金銭的にわりと厳しいのだが、まあ、たまの贅沢分くらい稼げばいいかと思い直し、私は駅弁なるものへと目を向ける。そして、そこに書かれた値段を見て、凍りついた。
「……あたし、トンビアイス買ってくるわ。あかり、お姉ちゃんをよろしく」
駅にもトンビニは設置されている。さすが、トンビニトラレル。そうして、トンビアイスを二つ買って席に戻ると、まゆはあかりと向かいの窓側の席に座って寝ていた。私がまゆの隣に座ると、あかりは、「えっ?」と、困惑したような声を出した。
「どうかした?」
「あ、いや、何でも……」
特に気にすることなく、私はトンビアイスの封を開ける。まゆが起きるまでに溶けることは、疑いようのない事実だった。
「それ、食べていいわよ」
「ほんと? ありがと」
「別にいいわよ。お金はきっちり返しなさい」
「あ、お金取るんだ……!?」
あかりは先ほどよりも大きな困惑を見せていた。アイスが溶けないうちにと、彼は弁当を急いでかき込んだ。そして、溶けかけたアイスを食べようとすると、棒から綺麗に外れ、ズボンの上に落ちた。
それから、三時間弱。結局、トイスとやらのことは教えてもらえなかった。
「それにしても、やけに落ち着いて見えるわね?」
あやとり、という、よく分からない遊びをさせられながら、私はあかりに問いかける。まゆは窓の外を眺めているため、二人でやっているのだが、これがなかなか楽しい。
「そう? ま、さらったのはレックスだし、トイスから状況を教えてもらって、だいたいは分かってるんだよね。アイちゃんも別に酷い目に合ったりはしてないよ」
「それを先に言いなさいよ」
「ごめんごめん、忘れてた」
あかりの様子から、大丈夫なのだろうということは、なんとなく察していたけれど。
「あー、ほどけちゃった」
「あんたから提案してきたのに、あたしの方が上手ってどうなの?」
なんとかして、あかりに勝たせてやりたいと思うのだが、これがかなり難題だ。ババ抜き、しりとり、あやとり、指の本数を足して五になったら消えるやつ、一から五まで先に全部言ったら勝ちのやつ、相手の親指の数交互に当てるやつ、あっち向いてホイ、腕相撲──は、握手ができなかったので、無しになった。あやとりにしても、お互いの手を触らないようにしているので、なかなかハードルが高い。
そして、一回もあかりに負けることはできなかった。あっち向いてホイなんて、じゃんけんの時点で一度も負けられない──勝ちたいという意味ではなく。
「あんた、むしろすごいわ」
「まあ、昔からだよねえ。むしろ、この才能のなさが僕っていうか?」
「……悔しくないわけ?」
「めちゃくちゃ悔しいけど? だから、ずっと勝負挑みっぱなしじゃん?」
「あ、勝ちたいとは思ってるわけね……」
「ポーカーでもやる?」
──まもなく、終点、トレリアン、トレリアン。お出口は、左側です。
そうアナウンスの声が聞こえた。
「これが終わったら、降りる準備しよう」
「いや、やってる暇ないと思うけど」
「お願い、一回だけ!」
「はいはい……」
結局、ルールもろくに分からなかったが、私が勝ち、慌てて片づける羽目になったのだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。
没落貴族なのに領地改革が止まらない~前世の知識で成り上がる俺のスローライフ~
昼から山猫
ファンタジー
ある朝、社会人だった西条タカトは、目が覚めると異世界の没落貴族になっていた。
与えられたのは荒れ果てた田舎の領地と、絶望寸前の領民たち。
タカトは逃げることも考えたが、前世の日本で培った知識を活かすことで領地を立て直せるかもしれない、と決意を固める。
灌漑設備を整え、農作物の改良や簡易的な建築技術を導入するうちに、領地は少しずつ活気を取り戻していく。
しかし、繁栄を快く思わない周囲の貴族や、謎の魔物たちの存在がタカトの行く手を阻む。
さらに、この世界に転生した裏には思わぬ秘密が隠されているようで……。
仲間との出会いと共に、領地は発展を続け、タカトにとっての“新たな故郷”へと変わっていく。
スローライフを望みながらも、いつしか彼はこの世界の未来をも左右する存在となっていく。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
譚音アルン
ファンタジー
ブラック企業に勤めてたのがいつの間にか死んでたっぽい。気がつくと異世界の伯爵令嬢(第五子で三女)に転生していた。前世働き過ぎだったから今世はニートになろう、そう決めた私ことマリアージュ・キャンディの奮闘記。
※この小説はフィクションです。実在の国や人物、団体などとは関係ありません。
※2020-01-16より執筆開始。
異世界転移したら~彼女の"王位争い"を手助けすることになった件~最強スキル《精霊使い》を駆使して無双します~
そらら
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑
とある大陸にあるローレスト王国
剣術や魔法、そして軍事力にも長けており隙の無い王国として知られていた。
だが王太子の座が決まっておらず、国王の子供たちが次々と勢力を広げていき王位を争っていた。
そんな中、主人公である『タツキ』は異世界に転移してしまう。
「俺は確か家に帰ってたはずなんだけど......ここどこだ?」
タツキは元々理系大学の工学部にいた普通の大学生だが、異世界では《精霊使い》という最強スキルに恵まれる。
異世界に転移してからタツキは冒険者になり、優雅に暮らしていくはずだったが......
ローレスト王国の第三王女である『ソフィア』に異世界転移してから色々助けてもらったので、彼女の"王位争い"を手助けする事にしました。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる