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2-9 駅弁が食べたい

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「新幹線で何食べる?」
「トンビアイス!」
「何って、別に、何も食べなくていいでしょ。どうせ三時間で着くし」
「いやあ、やっぱり、駅弁だよねえ、うんうん」
「トンビアイスもいいよね!」
「僕、糸を引くとじゅーってなる肉!」
「わたし、トンビアイス!」

 金銭的にわりと厳しいのだが、まあ、たまの贅沢分くらい稼げばいいかと思い直し、私は駅弁なるものへと目を向ける。そして、そこに書かれた値段を見て、凍りついた。

「……あたし、トンビアイス買ってくるわ。あかり、お姉ちゃんをよろしく」

 駅にもトンビニは設置されている。さすが、トンビニトラレル。そうして、トンビアイスを二つ買って席に戻ると、まゆはあかりと向かいの窓側の席に座って寝ていた。私がまゆの隣に座ると、あかりは、「えっ?」と、困惑したような声を出した。

「どうかした?」
「あ、いや、何でも……」

 特に気にすることなく、私はトンビアイスの封を開ける。まゆが起きるまでに溶けることは、疑いようのない事実だった。

「それ、食べていいわよ」
「ほんと? ありがと」
「別にいいわよ。お金はきっちり返しなさい」
「あ、お金取るんだ……!?」

 あかりは先ほどよりも大きな困惑を見せていた。アイスが溶けないうちにと、彼は弁当を急いでかき込んだ。そして、溶けかけたアイスを食べようとすると、棒から綺麗に外れ、ズボンの上に落ちた。

 それから、三時間弱。結局、トイスとやらのことは教えてもらえなかった。

「それにしても、やけに落ち着いて見えるわね?」

 あやとり、という、よく分からない遊びをさせられながら、私はあかりに問いかける。まゆは窓の外を眺めているため、二人でやっているのだが、これがなかなか楽しい。

「そう? ま、さらったのはレックスだし、トイスから状況を教えてもらって、だいたいは分かってるんだよね。アイちゃんも別に酷い目に合ったりはしてないよ」
「それを先に言いなさいよ」
「ごめんごめん、忘れてた」

 あかりの様子から、大丈夫なのだろうということは、なんとなく察していたけれど。

「あー、ほどけちゃった」
「あんたから提案してきたのに、あたしの方が上手ってどうなの?」

 なんとかして、あかりに勝たせてやりたいと思うのだが、これがかなり難題だ。ババ抜き、しりとり、あやとり、指の本数を足して五になったら消えるやつ、一から五まで先に全部言ったら勝ちのやつ、相手の親指の数交互に当てるやつ、あっち向いてホイ、腕相撲──は、握手ができなかったので、無しになった。あやとりにしても、お互いの手を触らないようにしているので、なかなかハードルが高い。

 そして、一回もあかりに負けることはできなかった。あっち向いてホイなんて、じゃんけんの時点で一度も負けられない──勝ちたいという意味ではなく。

「あんた、むしろすごいわ」
「まあ、昔からだよねえ。むしろ、この才能のなさが僕っていうか?」
「……悔しくないわけ?」
「めちゃくちゃ悔しいけど? だから、ずっと勝負挑みっぱなしじゃん?」
「あ、勝ちたいとは思ってるわけね……」
「ポーカーでもやる?」

 ──まもなく、終点、トレリアン、トレリアン。お出口は、左側です。
 そうアナウンスの声が聞こえた。

「これが終わったら、降りる準備しよう」
「いや、やってる暇ないと思うけど」
「お願い、一回だけ!」
「はいはい……」

 結局、ルールもろくに分からなかったが、私が勝ち、慌てて片づける羽目になったのだった。
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