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2-6 仲良くなりたい
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何もかも奪われる。何にも手が届かない。何の意味もない。足掻くことも、手を伸ばすことも、救いたいと願うことも。全てが、水泡だ。ならば、いっそ──、
「あかり。マナを探しに行きましょう」
僕が見つめた先にいた少女は、しかし、そう言った。多くの命が消えるのを見て、それでも、真っ直ぐ前を向いていた。手を合わせ、亡くなった命に祈祷し、それでも、まだ失われていない希望に手を伸ばす。──彼女は強いから。
「……どうやって?」
「魔力探知なら、居場所が分かるでしょ?」
「この広い国から、たった一人を探せって? いや、無理でしょ」
固いアスファルトの地面に手足を投げ出して、僕は黒い空を見上げる。確かに、魔力探知は探したい人を探すことができる。だが、どこにいるか見当もつかないのに、一体、どうやって探せというのか。十分もあれば、マナをさらっていったあの忌まわしい人物は、おそらく、世界のどこにでも行ける。
「じゃあ、あんたは、マナのことを諦めるのね」
「──ああ、そうだよ。僕なんて、諦めがいいところくらいしか取り柄がないからさ」
「……とても、そんな風には見えないけど」
「いやいや。宿題だってやらないし、授業中はずっと寝てるし、帰宅部だし。どう見たってそうでしょ」
自分のことなんて、本当は、自分じゃよく分からない。だが、根気がないのは確かだ。やろうと思っても宿題すらできない。睡魔には簡単に負ける。部活は、続けられる自信がなかったから、入らなかった。僕はただ、それだけの、意志の弱い人間だ。
「は? 何言ってんの?」
しかし、まなちゃんは、無理解を顔に示していた。肯定するだけの要素はあったはずだが。
「ティカ先生にあれだけ怒られて、それでも宿題やってこないのはあんただけよ。どうせ、お金積まれてもやらないでしょ? やりたくないから、それを貫き通す、なんて、簡単にできることじゃないわ。まして、宿題なんて、やって当たり前なわけ。分かる?」
「えっーと……それは、宿題をやらなくてもいいってこと?」
「は? やらなきゃいけないに決まってるでしょ。馬鹿なの? ノア学園高校はあれでも一応、国内随一の進学校なわけ。言っておくけど、あんた、相当ヤバイやつって認識されてるわよ?」
「だって、やりたくないからさ。それに、まなちゃんにだけは言われたくないなあ……」
彼女ほどクラスから浮いた人間も他にいない。まあ、理由は様々で、仕方のない面もあるが。
「それから、授業中も、よくあんなに堂々と寝れるわね。反省してるふりもできないわけ?」
「反省はしてるよ! ただ、聞いてても全然分からないし、眠いなら、寝た方が良くない?」
まなちゃんは、眉間のシワを揉んで、ため息をつき、
「はあ……。それで、帰宅部? 部活なんて個人の自由でしょ。色んなところから勧誘されて断ってたみたいだけど」
「最初からやる気なかったからね」
「要するに、あんたは頑固なのよ」
「え?」
「やりたくないことはやらない。やりたいことはなんとしてでもやる。人の目とか意見とか、そんなの全く気にしない。そういうやつなのよ」
確かに、そういう側面があることは否定しないが……果たして、どういう反応をするべきなのか。
「えっと……ありがとう?」
「は? 本当に馬鹿なの? あたしは、そういう頑固なところが面倒だって言ってんの。分かる?」
「まなちゃんにだけは言われたくないなあ……!」
この子ほど、融通が利かない子もいないと思う。なんやかんやで、一度も宿題を見せてくれたことはないし。ティカ先生の授業なんて、十回くらい頼んだのに。いや、まだ九回だっただろうか。あれ、何か大切なことを忘れている気が──。
「あたしは自分が正しいと思うことをするだけよ。あんたと違って宿題もやるし、授業中に寝るなんてもってのほか。部活よりもやりたいことがあったから、入らなかっただけ。分かる?」
そういうところが、正論すぎて嫌いだ。
「あー、もう! 絶対、まなちゃんの方が面倒くさいって!」
僕は上体を起こし、やっと見れるようになった、まなちゃんの顔を見上げる。
「どうせあたしが何も言わなくても、あんたはマナを助けに行くんだから、さっさとしなさいよ」
「多分そうなんだろうけどさ……え。なんでそう思ったの?」
彼女は他人に興味がなく、そのくせ、かなりのお人好しという、なかなかに理解しがたい存在だ。それが、どうして、僕がマナを助けに行くと思ったのだろうか。
「はぁ? 分かんないわけないでしょ? あんたたち、すっごく仲良しじゃない」
仲良し。その言葉を僕は脳内で繰り返し──、思わず、吹き出した。
「僕とマナが仲良し、ね。ふはっ」
「うわ、感じ悪……」
僕は地面に手をついて立ち上がり、砂を払う。
「はははっ、仲良し、はないって! だって、僕とマナ、仲良くないから!」
「そうは見えないけど?」
「昔は仲良かったけど、今は全然。ほら、言ったじゃん? 着信拒否されてるって」
「そういえばそうだったわね……」
電話以外にも、メールやアプリなど、連絡が取れるものはご丁寧に、すべてブロックされているのだから、笑える。唯一、念話なら届くかもしれないが、かけてくるなと言われているし、あの様子だと、当分、気を失っていそうだ。どのみち、魔力も枯渇していたし。
「さあ、どうしようか? まなちゃん?」
「どうって……。とりあえず、ここにいても仕方ないわ。宿舎に戻りましょう」
「そうだね」
彼女も困惑しているようだったが、気が狂いそうな僕よりはよっぽど落ち着いているだろうと、判断を任せることにした。
「あかり。マナを探しに行きましょう」
僕が見つめた先にいた少女は、しかし、そう言った。多くの命が消えるのを見て、それでも、真っ直ぐ前を向いていた。手を合わせ、亡くなった命に祈祷し、それでも、まだ失われていない希望に手を伸ばす。──彼女は強いから。
「……どうやって?」
「魔力探知なら、居場所が分かるでしょ?」
「この広い国から、たった一人を探せって? いや、無理でしょ」
固いアスファルトの地面に手足を投げ出して、僕は黒い空を見上げる。確かに、魔力探知は探したい人を探すことができる。だが、どこにいるか見当もつかないのに、一体、どうやって探せというのか。十分もあれば、マナをさらっていったあの忌まわしい人物は、おそらく、世界のどこにでも行ける。
「じゃあ、あんたは、マナのことを諦めるのね」
「──ああ、そうだよ。僕なんて、諦めがいいところくらいしか取り柄がないからさ」
「……とても、そんな風には見えないけど」
「いやいや。宿題だってやらないし、授業中はずっと寝てるし、帰宅部だし。どう見たってそうでしょ」
自分のことなんて、本当は、自分じゃよく分からない。だが、根気がないのは確かだ。やろうと思っても宿題すらできない。睡魔には簡単に負ける。部活は、続けられる自信がなかったから、入らなかった。僕はただ、それだけの、意志の弱い人間だ。
「は? 何言ってんの?」
しかし、まなちゃんは、無理解を顔に示していた。肯定するだけの要素はあったはずだが。
「ティカ先生にあれだけ怒られて、それでも宿題やってこないのはあんただけよ。どうせ、お金積まれてもやらないでしょ? やりたくないから、それを貫き通す、なんて、簡単にできることじゃないわ。まして、宿題なんて、やって当たり前なわけ。分かる?」
「えっーと……それは、宿題をやらなくてもいいってこと?」
「は? やらなきゃいけないに決まってるでしょ。馬鹿なの? ノア学園高校はあれでも一応、国内随一の進学校なわけ。言っておくけど、あんた、相当ヤバイやつって認識されてるわよ?」
「だって、やりたくないからさ。それに、まなちゃんにだけは言われたくないなあ……」
彼女ほどクラスから浮いた人間も他にいない。まあ、理由は様々で、仕方のない面もあるが。
「それから、授業中も、よくあんなに堂々と寝れるわね。反省してるふりもできないわけ?」
「反省はしてるよ! ただ、聞いてても全然分からないし、眠いなら、寝た方が良くない?」
まなちゃんは、眉間のシワを揉んで、ため息をつき、
「はあ……。それで、帰宅部? 部活なんて個人の自由でしょ。色んなところから勧誘されて断ってたみたいだけど」
「最初からやる気なかったからね」
「要するに、あんたは頑固なのよ」
「え?」
「やりたくないことはやらない。やりたいことはなんとしてでもやる。人の目とか意見とか、そんなの全く気にしない。そういうやつなのよ」
確かに、そういう側面があることは否定しないが……果たして、どういう反応をするべきなのか。
「えっと……ありがとう?」
「は? 本当に馬鹿なの? あたしは、そういう頑固なところが面倒だって言ってんの。分かる?」
「まなちゃんにだけは言われたくないなあ……!」
この子ほど、融通が利かない子もいないと思う。なんやかんやで、一度も宿題を見せてくれたことはないし。ティカ先生の授業なんて、十回くらい頼んだのに。いや、まだ九回だっただろうか。あれ、何か大切なことを忘れている気が──。
「あたしは自分が正しいと思うことをするだけよ。あんたと違って宿題もやるし、授業中に寝るなんてもってのほか。部活よりもやりたいことがあったから、入らなかっただけ。分かる?」
そういうところが、正論すぎて嫌いだ。
「あー、もう! 絶対、まなちゃんの方が面倒くさいって!」
僕は上体を起こし、やっと見れるようになった、まなちゃんの顔を見上げる。
「どうせあたしが何も言わなくても、あんたはマナを助けに行くんだから、さっさとしなさいよ」
「多分そうなんだろうけどさ……え。なんでそう思ったの?」
彼女は他人に興味がなく、そのくせ、かなりのお人好しという、なかなかに理解しがたい存在だ。それが、どうして、僕がマナを助けに行くと思ったのだろうか。
「はぁ? 分かんないわけないでしょ? あんたたち、すっごく仲良しじゃない」
仲良し。その言葉を僕は脳内で繰り返し──、思わず、吹き出した。
「僕とマナが仲良し、ね。ふはっ」
「うわ、感じ悪……」
僕は地面に手をついて立ち上がり、砂を払う。
「はははっ、仲良し、はないって! だって、僕とマナ、仲良くないから!」
「そうは見えないけど?」
「昔は仲良かったけど、今は全然。ほら、言ったじゃん? 着信拒否されてるって」
「そういえばそうだったわね……」
電話以外にも、メールやアプリなど、連絡が取れるものはご丁寧に、すべてブロックされているのだから、笑える。唯一、念話なら届くかもしれないが、かけてくるなと言われているし、あの様子だと、当分、気を失っていそうだ。どのみち、魔力も枯渇していたし。
「さあ、どうしようか? まなちゃん?」
「どうって……。とりあえず、ここにいても仕方ないわ。宿舎に戻りましょう」
「そうだね」
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