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 私たちは必死に逃げた。細い道を通ったり、駐車場や敷地を通ったり、屋根を走り抜けたり、とにかく、無我夢中で逃げた。

 ふと、後方のあかりが先ほどより遅いように感じ、注視すると、その腕にはノラニャーが抱えられていた。

「なんでノラニャー持ってんの!?」
「──あ、ほんとだ! なんか走りづらいと思ったんだよね!」
「ラーウ」
「わー、可愛いねー!」

 相変わらず、マイペースなまゆと、なぜかノラニャーを持っているあかりに、私は絶句した。あかりはノラニャーを置くに置けず、結局、抱えたまま走っていた。

「逃げてばっかじゃどうにもならないわね……。逃げるしかないけれど」

 足音はもう、かなり近くに聞こえる。とはいえ、追われているのは地図を持っているマナのはずなので、彼女が追いかけて来なければいいだけなのだが。

「マナについてこないでって言ってきなさいよ」
「いや、さっきから電話かけてるんだけどさ……あ。よく考えたら、僕、着信拒否されてるんだった」

 いや、着拒って。あんなに優しそうなマナがそこまでするとは、余程の理由があったに違いない。

「あんた何したのよ……」
「まあ、色々とね。ははは」
「捕まえました」
「ひっ……」

 右腕を捕まれ、私は反射的に振り向く。

 ──追いつかれた。

 そして、マナの後ろから、あり得ない数のノラニャーが走ってくる。

「地図です、どうぞ」
「い、いらない!」
「……え」

 マナに渡された地図を思わず放り投げると、その先にはあかりがいた。すると、ノラニャーたちは、矛先をあかりに変えて、揃って向かっていく。

「ちょ、ちょ待っ──ぎゃーっ!」

 私はマナに抱えられて、塀を伝い、屋根の上に移動させられる。魔法も使わず、人を抱えてあっという間に屋根に上るとは、恐ろしい身体能力だ。

 安全なそこからあかりの様子をうかがうと──意外にも、一匹ずつ、確実に風の魔法で首をはね、冷静に対処していた。精確すぎて怖い。

 ちなみに、魔法で攻撃したところで、モンスターは死ぬわけではない。ただ、一定のダメージを与えられると自動的に巣に戻る仕組みになっているだけだ。しかし、

「えぐいわね……」
「痛みなどは感じていないと思いますが?」
「そうだけど、そういうことじゃないと思うの」

 ネコの首が血とともに飛ぶ光景を、まともに見られる方がどうかしている。すぐに光の粒子になって消えるとはいえ。

「わー! 赤ーい!」

 まゆはといえば、血を浴びて楽しんでいた。すぐ消えるからといって、そんな楽しみ方をしないでほしい。

「ねえこれ、倒してもすぐに巣から戻ってくるじゃん!」

 あかりの叫び声で、私とマナはやっと気がつく。

 モンスターを倒しても、巣に戻るだけなので、倒されたノラニャーが再び巣からこちらに向かってくるのだ。近くに巣があるというのなら、痛みを感じないノラニャーたちは本能に従い、いつまでもやってくることになる。

 ──それよりも、彼はいつまで、そのノラニャーを抱えているのだろうか。

「巣を撃破するしかなさそうですね」
「は? 地図を渡せば済む話でしょ? そんなに高くもないし、また買えば──って、ちょっと!?」

 私はひょいとマナに担がれる。なんという力だ。

「まなさん。勇者とは、勇気ある者のことを言うんですよ」
「それが何!?」
「それから、勇者とは、諦めない者のことを言うんですよ」
「あっそう、で!?」
「行きますよ」
「人の話を聞き──ぐへぇっ!」

 マナはそのまま俊足で走り始める。私を担いでいるのに、まったく速度が変わらない。この子は、色々とどうなっているんだ。

「巣には、ノラニャーより強いモンスターがいます。何がいると思いますか?」

 箱の中身を見ずに当てろと言われたようものだ。分かるはずがなかったので、私は一番、あってほしくないものを答える。

「そうね……ケロガーとか?」
「正解は、大きなカエルです」

 立ち入り禁止の看板を無視して進むと、あっという間に巣にたどり着いた。先ほど、マナは地図を取り返したときにここまで来たため、場所を記憶していたのだろう。

 隠れて様子をうかがうと、そこには、私の背丈の二倍ほどのカエル型のモンスター──通称、ケロガーがいた。
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