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23.私の主人はワガママな神様(5)
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喫煙者の減少と共に、喫煙所の数は少なくなっている。七海の席から少し離れた場所に、それはひっそりと存在していた。
周囲に人はいなかった。誰もいないものだと思い、中の見えにくいスモークガラスの扉を勢いよく開けた。
「あっ!」
「えっ」
誰もいないと思っていた中には二人、先客がいた。
「……や、やあ。来てたんだ、ね」
うち一人は風太郎。久しぶりに会うというのに、七海の顔を見るなりどこかぎこちない挨拶をして来た。
そして、もう一人。
「……どうしてお前が、ここに?」
彼に見つからないように、と先ほど山田に言われたばかりだったのに。
そこにいたもう一人は、幸太郎だった。
やばい、と思ったがもう遅い。ばっちり目が合ってしまった。急に逃げるわけにもいかないし、気づきませんでしたで済まされる距離では無い。
固まって動けないでいる七海に、幸太郎ははあ、と大きくため息をついて言った。
「……そんなところに突っ立っていたら、扉が閉まらない。煙が外に出るだろう」
「……あ、はい。すみません!」
彼に言われるままに、中に入り扉を閉めた。
数年ぶりにみる彼は、ほんの少しだけ老けてしまったが、ほとんど昔のまま変わらない。彼の前に立つと、やはり緊張して意識せずとも背筋が伸びてしまう。リラックスしにここに来たはずなのに、これでは逆効果だ。
気不味い空気が流れる中、先に口を開いたのは幸太郎の方だった。
「まだ晴太郎と一緒にいるのか」
彼から放たれる威圧感に、七海は一瞬怯んでしまう。ぴりぴりとした緊張感が走るこの部屋から逃げ出したくなる。しかし、それでは駄目だ。逃げてばかりでは、いつまでも幸太郎に認められないままだ。
ぐっと手を握りしめ、幸太郎を真っ直ぐ見つめた。
「……はい」
違うと嘘をついたってどうにもならないことは明らかだ。それに、七海はもう晴太郎を離さないと決めている。だから正直に答えた。
「お前は本当に、晴太郎を愛しているんだな?」
「はい」
この返答に、嘘偽りはない。そう答えた七海から逃げるように、幸太郎は視線を逸らした。
幸太郎のらしくない動作に、七海は少し驚いた。
「……お前たちの愛は、正しかったんだな」
ふと、彼から放たれていた威圧感が消えたような気がした。
「遠ざけても会いに行くお前たちとは違って、私は出て行った妻も子供も追いかけなかった。私のこれは……愛じゃなかったのかもな」
ぽつりと呟くように溢した言葉は、ひどく自信がないように聞こえて、らしくないと七海は思った。悲しげに目を伏せるその姿は、七海の記憶の中にある幸太郎の姿とは重ならない。
他人に厳しく、自分にはさらに厳しく。自分が正しいと、堂々と胸を張って会社を動かしていた幸太郎。
そんな彼が、家族にだけ見せる顔を持っていることを七海は知っていた。会社の人間に見せる厳しい顔とは違い、とても穏やかで優しい顔。そんな一面を持つ彼が家族を愛していなかったなんて事は、絶対にありえないのだ。
「……私は、それは、幸太郎様の愛だと思います」
彼は愛じゃなかったと言うが、それは違うと七海は思う。
周囲に人はいなかった。誰もいないものだと思い、中の見えにくいスモークガラスの扉を勢いよく開けた。
「あっ!」
「えっ」
誰もいないと思っていた中には二人、先客がいた。
「……や、やあ。来てたんだ、ね」
うち一人は風太郎。久しぶりに会うというのに、七海の顔を見るなりどこかぎこちない挨拶をして来た。
そして、もう一人。
「……どうしてお前が、ここに?」
彼に見つからないように、と先ほど山田に言われたばかりだったのに。
そこにいたもう一人は、幸太郎だった。
やばい、と思ったがもう遅い。ばっちり目が合ってしまった。急に逃げるわけにもいかないし、気づきませんでしたで済まされる距離では無い。
固まって動けないでいる七海に、幸太郎ははあ、と大きくため息をついて言った。
「……そんなところに突っ立っていたら、扉が閉まらない。煙が外に出るだろう」
「……あ、はい。すみません!」
彼に言われるままに、中に入り扉を閉めた。
数年ぶりにみる彼は、ほんの少しだけ老けてしまったが、ほとんど昔のまま変わらない。彼の前に立つと、やはり緊張して意識せずとも背筋が伸びてしまう。リラックスしにここに来たはずなのに、これでは逆効果だ。
気不味い空気が流れる中、先に口を開いたのは幸太郎の方だった。
「まだ晴太郎と一緒にいるのか」
彼から放たれる威圧感に、七海は一瞬怯んでしまう。ぴりぴりとした緊張感が走るこの部屋から逃げ出したくなる。しかし、それでは駄目だ。逃げてばかりでは、いつまでも幸太郎に認められないままだ。
ぐっと手を握りしめ、幸太郎を真っ直ぐ見つめた。
「……はい」
違うと嘘をついたってどうにもならないことは明らかだ。それに、七海はもう晴太郎を離さないと決めている。だから正直に答えた。
「お前は本当に、晴太郎を愛しているんだな?」
「はい」
この返答に、嘘偽りはない。そう答えた七海から逃げるように、幸太郎は視線を逸らした。
幸太郎のらしくない動作に、七海は少し驚いた。
「……お前たちの愛は、正しかったんだな」
ふと、彼から放たれていた威圧感が消えたような気がした。
「遠ざけても会いに行くお前たちとは違って、私は出て行った妻も子供も追いかけなかった。私のこれは……愛じゃなかったのかもな」
ぽつりと呟くように溢した言葉は、ひどく自信がないように聞こえて、らしくないと七海は思った。悲しげに目を伏せるその姿は、七海の記憶の中にある幸太郎の姿とは重ならない。
他人に厳しく、自分にはさらに厳しく。自分が正しいと、堂々と胸を張って会社を動かしていた幸太郎。
そんな彼が、家族にだけ見せる顔を持っていることを七海は知っていた。会社の人間に見せる厳しい顔とは違い、とても穏やかで優しい顔。そんな一面を持つ彼が家族を愛していなかったなんて事は、絶対にありえないのだ。
「……私は、それは、幸太郎様の愛だと思います」
彼は愛じゃなかったと言うが、それは違うと七海は思う。
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