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15.幸せのため(2)
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「副社長がお呼びだ。来なさい」
「副社長が……?」
副社長である幸太郎が、総務部の平である七海を仕事中に呼び出すことは、今まで無かった。しかも秘書兼従者の高嶋に直接呼びに行かせるなんて。
きっとこれは仕事上のトラブルではない。中条家の中で何かが起こっている。それを知らせようとして風太郎は連絡してくれたのだろう。
「先に風太郎様に呼ばれていて……」
「風太郎様が? 後にしろ。先にこちらに来なさい」
冷たい声で高嶋が言い放つ。怒ってはないが、感情の無い鋭く尖った声色に、七海は一瞬だけ怯んでしまう。
高嶋は幸太郎のため、会社のためであれば人を傷つけることを厭わない人間だ。そんな彼が昔から苦手だった。
「七海っ!」
非常階段の方から風太郎が駆け付けた。ひとつ上の開発部のフロアから走って降りて来たようで、息が上がっている。
「……風太郎様。50階の特別会議室に居ろと申したはずですが?」
「ごめん、高嶋。どうしても七海と話したくて。行こう、七海」
「いけません。幸太郎様の命令です。さあ、早く」
「っ、兄さんの……」
「風太郎様も来てください。大事な話があります」
幸太郎の名を聞いた途端、風太郎が黙ってしまう。上司であり兄である幸太郎は、彼にとって絶対的な存在である。兄弟という関係であったとしても、逆らうことは出来ない。
結局、風太郎とはまともに話が出来ないまま、高島によって50階の会議室へと連れて行かれた。
*
コンコン、と無機質なノックの音が2回。
「副社長、高嶋です。ふたりを連れてきました」
「入れ」
無機質な、低い声。きっと呼び出されたのは良いことではない。それを察することができるくらい、彼らの声は冷たかった。
高嶋がドアを開き、彼に続いて中に入る。部屋の一番奥の上座に幸太郎、そこから少し扉側の方の席に紗香と黒木が座っていた。普段本社にいない紗香と黒木が本社にいることは珍しい。紗香の顔にいつもの穏やかな笑顔は無い。
「よく来たな。座りなさい」
幸太郎に促され、七海は彼の向かい側の席に座った。
「なぜここに呼ばれたか分かるか?」
「……いいえ」
「晴太郎のことだと言っても、わからないか?」
「……申し訳ありませんが、わかりません」
七海には全く心当たりがない。晴太郎のことだと言われても、悪いことはないはずだ。受験勉強はしっかりしているし、ピアノの練習も一生懸命取り組んでいる。学校の成績はずっと右肩上がりで、ここ1年下がったことはない。何も問題は無いはず。
「そうか。では、聞き方を変えよう」
幸太郎は至って穏やかな声で言った。穏やかすぎて、感情も抑揚も何もない。まるで尋問のようだ。七海が彼の知りたい事を答えるまで、放す気は無いのだろう。
「七海。お前と晴太郎の間に、何かあったか? 例えば、そうだな……恋人になった、とか」
「副社長が……?」
副社長である幸太郎が、総務部の平である七海を仕事中に呼び出すことは、今まで無かった。しかも秘書兼従者の高嶋に直接呼びに行かせるなんて。
きっとこれは仕事上のトラブルではない。中条家の中で何かが起こっている。それを知らせようとして風太郎は連絡してくれたのだろう。
「先に風太郎様に呼ばれていて……」
「風太郎様が? 後にしろ。先にこちらに来なさい」
冷たい声で高嶋が言い放つ。怒ってはないが、感情の無い鋭く尖った声色に、七海は一瞬だけ怯んでしまう。
高嶋は幸太郎のため、会社のためであれば人を傷つけることを厭わない人間だ。そんな彼が昔から苦手だった。
「七海っ!」
非常階段の方から風太郎が駆け付けた。ひとつ上の開発部のフロアから走って降りて来たようで、息が上がっている。
「……風太郎様。50階の特別会議室に居ろと申したはずですが?」
「ごめん、高嶋。どうしても七海と話したくて。行こう、七海」
「いけません。幸太郎様の命令です。さあ、早く」
「っ、兄さんの……」
「風太郎様も来てください。大事な話があります」
幸太郎の名を聞いた途端、風太郎が黙ってしまう。上司であり兄である幸太郎は、彼にとって絶対的な存在である。兄弟という関係であったとしても、逆らうことは出来ない。
結局、風太郎とはまともに話が出来ないまま、高島によって50階の会議室へと連れて行かれた。
*
コンコン、と無機質なノックの音が2回。
「副社長、高嶋です。ふたりを連れてきました」
「入れ」
無機質な、低い声。きっと呼び出されたのは良いことではない。それを察することができるくらい、彼らの声は冷たかった。
高嶋がドアを開き、彼に続いて中に入る。部屋の一番奥の上座に幸太郎、そこから少し扉側の方の席に紗香と黒木が座っていた。普段本社にいない紗香と黒木が本社にいることは珍しい。紗香の顔にいつもの穏やかな笑顔は無い。
「よく来たな。座りなさい」
幸太郎に促され、七海は彼の向かい側の席に座った。
「なぜここに呼ばれたか分かるか?」
「……いいえ」
「晴太郎のことだと言っても、わからないか?」
「……申し訳ありませんが、わかりません」
七海には全く心当たりがない。晴太郎のことだと言われても、悪いことはないはずだ。受験勉強はしっかりしているし、ピアノの練習も一生懸命取り組んでいる。学校の成績はずっと右肩上がりで、ここ1年下がったことはない。何も問題は無いはず。
「そうか。では、聞き方を変えよう」
幸太郎は至って穏やかな声で言った。穏やかすぎて、感情も抑揚も何もない。まるで尋問のようだ。七海が彼の知りたい事を答えるまで、放す気は無いのだろう。
「七海。お前と晴太郎の間に、何かあったか? 例えば、そうだな……恋人になった、とか」
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