私の主人はワガママな神様

どろろ

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14.本心(9)

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 帰り車に乗る時、晴太郎が選んだのは助手席だった。さすがにあんなことがあった後で、後部座席に乗ってしまうのではないかと思っていたのため、少しホッとした。
 助手席に座っても重い空気は変わらない。何も話す事なく、いつの間にか晴太郎は助手席で眠ってしまった。

「……晴太郎様、着きましたよ」
「ん……ああ、すまん。また寝てしまった」

 声を掛けると、彼は直ぐに目を覚ました。シートベルトを外してドアを開けようとしたところで、ふと止まった。七海がエンジンを止めずベルトも外さず、車を降りようとしないことに気付いたのだ。どうかしたのかと、不思議そうな顔で首を傾げた。

「……降りないのか?」
「いえ、その……少しだけ、話を聞いて頂けませんか?」

 晴太郎はドアから手を離し、自身の膝の上に置いた。どうやら話を聞いてくれるようだ。
 車のエンジンを止めると、あたりは一瞬で静寂に包まれる。今この世に存在しているのが晴太郎と七海の二人きりだと錯覚させるほどに、静かで邪魔な音は何も聞こえない。聞こえるのは、二人の吐息の音だけ。

「私は、晴太郎様のお気持ちに応えたいと思っています」
「…………うん?」
「しかし、あなたの家柄や歳の事も考えて……まだ、お応えするには早いと思っています」
「……ん? うん……?」
「ですから、まだ待って頂けませんか? もう少し、私に時間を……」
「えっ…………え? 待って、待って……本当、に?」

 信じられない、と晴太郎は目をぱちくりさせる。
 ふと、彼が無言で自分の手で自身の頬をつねった。痛い、と小さく呟くと、じわりと大粒の涙が目から溢れ出す。夢じゃない、と消え入りそうな声でもう一度呟いた。

「俺たち……両想い、だったんだ……」

 両想い、なんて言葉何年振りに聞いただろうか。たぶん、社会人になってからは聞いていない。そんな可愛らしい言葉を発する晴太郎に、また胸がきゅっとなる。動揺を悟られないように、口元を片手で覆って隠した。

「じゃあさ、いつになったら告っていい? 七海はいつになったら返事くれる?」
「そ、れは……晴太郎様が、大人になってから、ですかね……」
「大人って……それいつだよ? 高校卒業したら?」
「…………ハタチになったら」
「はっ、ハタチ?! えー、まだまだじゃん」

 晴太郎が不満そうに口を尖らせる。早く恋人になりたい、待てない、と言われているような気がして少し照れる。拗ねた顔も可愛らしいな、なんて思っている自分がいることに気づき、相当重症だと改めて実感した。
 相手に自分の気持ちが伝わったと思うと、さらに愛しくなってくるのはなぜなのだろうか。きっとこれからどんどん彼のことを愛おしく思うのだろう。ハタチになってから、なんて格好付けたことを言ったが、自分が我慢できるのか怪しくなってきてしまった。
 晴太郎が高校を卒業したら、なんてことを言うから絆されそうになったがぐっと堪える。やはり大人と言えば20歳だ。未成年に手を出すわけにもいかないし、何より彼に野蛮な男だと思われたくない。

「あと2年かー……長いなあ……でも、2年だけ我慢したらいいんだな」

 あと2年たって、彼が成人して立派な大人になったら。ガチガチに固められた家のしがらみから解放され、ある程度の自由が確約できるようになったら。
 その時は、自分の気持ちを包み隠さず話そうと七海は思う。

 きっと彼は、七海が好きなキラキラとした笑顔で喜んでくれるだろう。
 ——そうだったら、この上ない幸せだ。
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