78 / 146
14.本心(9)
しおりを挟む
*
帰り車に乗る時、晴太郎が選んだのは助手席だった。さすがにあんなことがあった後で、後部座席に乗ってしまうのではないかと思っていたのため、少しホッとした。
助手席に座っても重い空気は変わらない。何も話す事なく、いつの間にか晴太郎は助手席で眠ってしまった。
「……晴太郎様、着きましたよ」
「ん……ああ、すまん。また寝てしまった」
声を掛けると、彼は直ぐに目を覚ました。シートベルトを外してドアを開けようとしたところで、ふと止まった。七海がエンジンを止めずベルトも外さず、車を降りようとしないことに気付いたのだ。どうかしたのかと、不思議そうな顔で首を傾げた。
「……降りないのか?」
「いえ、その……少しだけ、話を聞いて頂けませんか?」
晴太郎はドアから手を離し、自身の膝の上に置いた。どうやら話を聞いてくれるようだ。
車のエンジンを止めると、あたりは一瞬で静寂に包まれる。今この世に存在しているのが晴太郎と七海の二人きりだと錯覚させるほどに、静かで邪魔な音は何も聞こえない。聞こえるのは、二人の吐息の音だけ。
「私は、晴太郎様のお気持ちに応えたいと思っています」
「…………うん?」
「しかし、あなたの家柄や歳の事も考えて……まだ、お応えするには早いと思っています」
「……ん? うん……?」
「ですから、まだ待って頂けませんか? もう少し、私に時間を……」
「えっ…………え? 待って、待って……本当、に?」
信じられない、と晴太郎は目をぱちくりさせる。
ふと、彼が無言で自分の手で自身の頬をつねった。痛い、と小さく呟くと、じわりと大粒の涙が目から溢れ出す。夢じゃない、と消え入りそうな声でもう一度呟いた。
「俺たち……両想い、だったんだ……」
両想い、なんて言葉何年振りに聞いただろうか。たぶん、社会人になってからは聞いていない。そんな可愛らしい言葉を発する晴太郎に、また胸がきゅっとなる。動揺を悟られないように、口元を片手で覆って隠した。
「じゃあさ、いつになったら告っていい? 七海はいつになったら返事くれる?」
「そ、れは……晴太郎様が、大人になってから、ですかね……」
「大人って……それいつだよ? 高校卒業したら?」
「…………ハタチになったら」
「はっ、ハタチ?! えー、まだまだじゃん」
晴太郎が不満そうに口を尖らせる。早く恋人になりたい、待てない、と言われているような気がして少し照れる。拗ねた顔も可愛らしいな、なんて思っている自分がいることに気づき、相当重症だと改めて実感した。
相手に自分の気持ちが伝わったと思うと、さらに愛しくなってくるのはなぜなのだろうか。きっとこれからどんどん彼のことを愛おしく思うのだろう。ハタチになってから、なんて格好付けたことを言ったが、自分が我慢できるのか怪しくなってきてしまった。
晴太郎が高校を卒業したら、なんてことを言うから絆されそうになったがぐっと堪える。やはり大人と言えば20歳だ。未成年に手を出すわけにもいかないし、何より彼に野蛮な男だと思われたくない。
「あと2年かー……長いなあ……でも、2年だけ我慢したらいいんだな」
あと2年たって、彼が成人して立派な大人になったら。ガチガチに固められた家のしがらみから解放され、ある程度の自由が確約できるようになったら。
その時は、自分の気持ちを包み隠さず話そうと七海は思う。
きっと彼は、七海が好きなキラキラとした笑顔で喜んでくれるだろう。
——そうだったら、この上ない幸せだ。
帰り車に乗る時、晴太郎が選んだのは助手席だった。さすがにあんなことがあった後で、後部座席に乗ってしまうのではないかと思っていたのため、少しホッとした。
助手席に座っても重い空気は変わらない。何も話す事なく、いつの間にか晴太郎は助手席で眠ってしまった。
「……晴太郎様、着きましたよ」
「ん……ああ、すまん。また寝てしまった」
声を掛けると、彼は直ぐに目を覚ました。シートベルトを外してドアを開けようとしたところで、ふと止まった。七海がエンジンを止めずベルトも外さず、車を降りようとしないことに気付いたのだ。どうかしたのかと、不思議そうな顔で首を傾げた。
「……降りないのか?」
「いえ、その……少しだけ、話を聞いて頂けませんか?」
晴太郎はドアから手を離し、自身の膝の上に置いた。どうやら話を聞いてくれるようだ。
車のエンジンを止めると、あたりは一瞬で静寂に包まれる。今この世に存在しているのが晴太郎と七海の二人きりだと錯覚させるほどに、静かで邪魔な音は何も聞こえない。聞こえるのは、二人の吐息の音だけ。
「私は、晴太郎様のお気持ちに応えたいと思っています」
「…………うん?」
「しかし、あなたの家柄や歳の事も考えて……まだ、お応えするには早いと思っています」
「……ん? うん……?」
「ですから、まだ待って頂けませんか? もう少し、私に時間を……」
「えっ…………え? 待って、待って……本当、に?」
信じられない、と晴太郎は目をぱちくりさせる。
ふと、彼が無言で自分の手で自身の頬をつねった。痛い、と小さく呟くと、じわりと大粒の涙が目から溢れ出す。夢じゃない、と消え入りそうな声でもう一度呟いた。
「俺たち……両想い、だったんだ……」
両想い、なんて言葉何年振りに聞いただろうか。たぶん、社会人になってからは聞いていない。そんな可愛らしい言葉を発する晴太郎に、また胸がきゅっとなる。動揺を悟られないように、口元を片手で覆って隠した。
「じゃあさ、いつになったら告っていい? 七海はいつになったら返事くれる?」
「そ、れは……晴太郎様が、大人になってから、ですかね……」
「大人って……それいつだよ? 高校卒業したら?」
「…………ハタチになったら」
「はっ、ハタチ?! えー、まだまだじゃん」
晴太郎が不満そうに口を尖らせる。早く恋人になりたい、待てない、と言われているような気がして少し照れる。拗ねた顔も可愛らしいな、なんて思っている自分がいることに気づき、相当重症だと改めて実感した。
相手に自分の気持ちが伝わったと思うと、さらに愛しくなってくるのはなぜなのだろうか。きっとこれからどんどん彼のことを愛おしく思うのだろう。ハタチになってから、なんて格好付けたことを言ったが、自分が我慢できるのか怪しくなってきてしまった。
晴太郎が高校を卒業したら、なんてことを言うから絆されそうになったがぐっと堪える。やはり大人と言えば20歳だ。未成年に手を出すわけにもいかないし、何より彼に野蛮な男だと思われたくない。
「あと2年かー……長いなあ……でも、2年だけ我慢したらいいんだな」
あと2年たって、彼が成人して立派な大人になったら。ガチガチに固められた家のしがらみから解放され、ある程度の自由が確約できるようになったら。
その時は、自分の気持ちを包み隠さず話そうと七海は思う。
きっと彼は、七海が好きなキラキラとした笑顔で喜んでくれるだろう。
——そうだったら、この上ない幸せだ。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる