私の主人はワガママな神様

どろろ

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14.本心(1)

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 春の演奏会が終わって数ヶ月、季節が巡りまた冬がやって来た。
 七海は変わらず、中条ホールディングスの総務部で働いている。仕事の合間に一服しようとビルの外にある喫煙所へ向かう。

「うっ、さむいな……」

 まだ冬の初めだからと油断した。スーツのジャケットだけではこの寒さを凌ぐには厳しい。しかしコートを取りにオフィスに戻るのは面倒なので、我慢することにして煙草に火を付けた。風に乗って消えていく紫煙をぼうっと眺めていると、声を掛けられた。

「あ、七海だ。珍しいね」
「これは……風太郎様、お疲れ様です」

 声を掛けてきたのは風太郎だった。彼も休憩だろうか。七海と違ってきっちりとコートを着込み、手には最新の電子タバコを持っていた。

「風太郎様、お疲れのようですね。開発部は大変ですか?」
「……まあ、そこそこかな。まだ大丈夫だけど、これからヤバいかも」
「これから、というのは?」
「仙台支店の話、あるでしょ? 僕らの部署からも春からあっちに行く人が何人かいるんだ。だから、引き継ぎとかでちょっと……」

 ただの噂でしかなかった仙台の話が、いよいよ現実味を帯びてきた。
 実際、人事異動の話もよく耳にする様になった。東京本社からも何人か仙台に異動になるようだ。七海にはあまり関係ない話だが、社内のことなので気にせずにはいられない。

「総務部は、そういう話出てないの?」
「いえ、うちはまだ誰も……」

 風太郎とは旅行での一件以来、ぐっと距離が縮まった。もともと話す機会が無かっただけで、年の近い同性同士。さらに同じ会社に属し、同じ喫煙者。意外と共通点が多いので、自然と話すようになった。

「なんか、疲れてる? 総務部忙しいの?」
「いいえ、仕事は普通ですが……まあ、私生活が色々と」
「晴太郎のことか。受験生、大変そうだもんね」

 彼の言う通り、受験生は大変そうだ。その受験生と一緒に生活するのもまた大変だった。一番大変なのは当人だと分かっているが、それに付き合う事に少し気疲れしてしまったのかもしれない。

 あの春の演奏会の日を境に、晴太郎は変わった。もちろん、良い方向に。
 

 ——俺、ピアノ頑張ってみる。


 あの日の晴太郎の瞳には、一寸の迷いもなかった。
 色々と吹っ切れたように見えた。自身の本当にやりたい事と、逃げずに向き合うことが出来たのだろう。本当に、素晴らしい成長を遂げた。

 生活も大きく変化した。受験生になったというのもあるが、塾やピアノのレッスンばかりで家にいる時間が少なくなった。
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