私の主人はワガママな神様

どろろ

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13.晴太郎の音(4)

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「七海……!」

 ガチャリ、とドアが開く音。七海が戻ったと思って名前を呼んだが、ドアの向こうに立っていたの紗香と黒木だった。

「ふふっ、ごめんね、七海じゃなくって」

 くすくすと笑いながら紗香が言った。いくら相手が姉であっても、呼び間違えたのは恥ずかしい。七海の帰りが待ち遠しくて仕方がないのがバレバレではないか。

「晴ちゃんったら、本当に七海のことが大好きなのね」
「七海のことをお探しのようでしたら、自分が探して来ましょうか?」
「あ、いや……大丈夫。七海は、飲み物を買いに行ってるだけなんだ」

 姉には揶揄われるし、黒木には変な気遣いをさせてしまった。

「姉さん、黒木、来てくれてありがとう」
「久しぶりの晴ちゃんの演奏だもの、来るに決まってるじゃない」
「うん……父さんたちは?」
「もちろん、来てるわ。父さんと幸兄さんは挨拶で忙しくて顔を見に来れないみたい。風ちゃんも来るって言ってたけど、会ってないわね。双子は仕事を抜けて晴ちゃんの演奏だけ見に来るって言ってたわ」
「そっか……」

 家族みんなが来てくれる。風太郎はこんな賑やかな場所苦手なはずなのに。双子の兄と姉なんて、自分の仕事があるのにわざわざ駆けつけてくれるのだ。みんな期待して楽しみにして、晴太郎の演奏を聴きに来る。

 みんなが聴きたいのは、本当に自身の演奏なのか、それとも母のものにそっくりな演奏なのか。その真意は分からない。
 みんなの期待に応えられるか、みんなが望む演奏が出来るか。緊張と不安が押し寄せる。
 ——母のような演奏が出来なければ、誰も自分の演奏なんて興味がないのでは? 誰も聴いてくれないかもしれない。

「晴ちゃん、大丈夫?」
「えっ、何が……」
「緊張しているのかしら。手、そんなに握っちゃだめよ」

 姉に言われて、手をぎゅっと握り締めていたことに気付いた。力を込めて握り締めていたせいで、掌に爪の痕が残っている。

「お嬢様、そろそろお時間が……」
「あら、もうそんな時間?」

 黒木が腕時計を見ながら時間を伝える。紗香にも中条家の長女として、挨拶に行かなければならないところがあるようだ。

「晴ちゃん、頑張ってね! 終わったらまた来るわ」
「うん。姉さん、ありがとう」

 そう言うとふたりは慌ただしく控室を出て行ってしまった。忙しい中、わざわざ顔を見に来てくれたのだろうか。本当に紗香は自分のことを想ってくれている良い姉だと思う。
 紗香たちが出て行ってしばらくすると、今度はノック無しに、ガチャリと勢いよくドアが開いた。
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