私の主人はワガママな神様

どろろ

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13.晴太郎の音(1)

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 七海は意外とよく泣く、と晴太郎は思う。出会った日もめちゃくちゃ泣いていたが、一緒に暮らすようになって、よく泣いている姿を見せた。
 晴太郎よりずっと歳上で、兄たちよりも背が高くてよっぽど大人っぽいのに。
 泣き虫、というよりは涙脆いという方が合っている気がする。まだ幼い頃、晴太郎に付き合って一緒に子供向けアニメを見ていた時も、友情が芽生えるシーンで泣いていた。特撮ヒーローものの最終回を見た時も泣いていた。あとは、晴太郎が学校で七海の作文を書いた時も泣きながら読んでいた。
 七海が泣いているのを見ると、どうしてか晴太郎も泣きたくなってしまう。出会った日もそうだったが、よく一緒に泣いていたと思う。
 
 あれはまだ晴太郎が小学生の頃。一緒に特撮ヒーローの映画を見に行った時のことだ。

「ママ、どうしてあのお兄ちゃん泣いてるの?」
「こらっ、指を差さないの!」

 映画が終わった後、やはり七海は泣いていた。そして晴太郎はもらい泣きしていた。殆どが親子連れで溢れた映画館。大人の男性が涙を流しているのは珍しいようで、七海は子供たちの注目の的になっていた。

「……ぐずっ、ななみぃ、なんで泣いてるんだよー」
「……っ、だって……レッドとピンクが結ばれるなんて……ブラックが報われない……坊ちゃんだって、泣いてるじゃないですか」
「うっ、これは……お前が泣くから……!」

 晴太郎だって別に泣きたくて泣いている訳ではない。七海が泣いてると、何故か涙が伝染するのだ。本当に不思議でならない。
 ふたりで泣いて歩くのは流石に恥ずかしい。とりあえず近くにあったベンチに並んで座り、涙が引っ込むのを待つ。

「……坊ちゃんが泣くのは、私のせいなんですか?」
「そうだぞ! 七海が泣くから悲しくなるんだ!」
「では、私はこれから坊ちゃんの前で泣きません」
「えっ?」

 急にどうした、と目を丸くする晴太郎に七海は小指を立てて手を差し出して来た。

「約束します。坊ちゃんが悲しくならないように、私はあなたの前で泣きません」
「……本当に、出来るのか?」
「はい。指切りしましょう」

 晴太郎も七海と同じように小指を立てて、指切りをした。

 この約束をした日から、晴太郎は七海の涙を見た事がない。
 こんなどうでも良いような約束でも、七海は律儀に守ってくれる。——彼のそんなところが大好きだ。
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