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11.七海の弱点(1)
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「酒は飲んでも飲まれるな、という言葉は知っていますね?」
昔、まだ七海が使用人見習いとして、須藤に色々と教え込まれていた頃の事だ。
「従者として、絶対に主人より先に酔い潰れてはいけません。いいですか?」
「はい」
あの時、まだ自分は未成年で晴太郎は小学生。酒のことなんて全く知らなかったし、主人が酒を飲める歳になるのはまだまだ先の話で、まったく実感がわかなかった。
「あの……もし酒が飲めなかったら、どうなるのでしょうか? 従者になれないのですか?」
「そうですね……酒の席で使い物にならないのは困りますし、対応策を考えないといけませんね」
「そう、ですか」
直接的には言わなかったが、『酒に弱い従者なんて必要ない』と言われているような気がしてならなかった。体質的な問題で従者になれないなんて、なんて不憫なのだろうか。
母親は知らないが父親は酒豪だったので、きっと遺伝的にも問題ない。あの時の自分はそう思っていたが、全然違った。
それが発覚したのは、晴太郎の世話係として働きながら、大学生として学校にも通っていた時。
何度か酒を経験するうちに、体質的に駄目だということがわかった。少し飲んだだけで、ところ構わず寝る、吐く、記憶を失くす。最悪だ。1番危ないと思ったのは、コインパーキングで車輪止めを枕にしながら寝ていた時。本当に最悪だった。
中条家の人たちに情けない姿を見せたくない。酒に弱いと知られたら従者で居られなくなるかもしれない。晴太郎の傍にいる事が出来なくなってしまうかもしれない。だから今まで、中条家の集まりでの飲酒を避けてきたのだ。
*
「……み、七海!」
身体を揺さぶられて目が覚めた。少し頭痛がして、眉間に皺を寄せる。
「もうそろそろ着くぞ。っていうか、寝るなんて珍しいな。今日朝早かったからなあ」
「そう……ですね。早起きでしたね」
違う。これは早起きのせいではなく、確実にアルコールのせいだ。じんじんと鈍い頭の痛みがそうだと訴えている。
仙台駅に着いた頃にはちょうど昼時になっていた。元から予約していてらしい料亭で昼食をとったのだが、ここで乾杯の時、社長に勧められて小さいグラスで一杯だけビールを飲んだ。
この一杯だけで、主人を放置して眠ってしまう程度には酔いがまわった。幸い、他の兄弟や使用人たちも眠っていたようなので、お叱りは無しだ。
「坊ちゃん、すみません」
「うん?」
「つかぬことをお聞きしますが、私の顔、赤くないですか……?」
「……? 赤くは無いけど。むしろいつもより白いような……具合悪いのか?」
「いいえ、お気になさらず」
顔が赤く無いのであれば、だいぶ酒は抜けているはずだ。もう大丈夫。晴太郎が少し心配してくれたが、酒で主人に心配をかけるなんて情けなさ過ぎる。なるべく彼の前ではいつものように振る舞いたい。
「本当に大丈夫か? もし辛いなら、父さんたちに言って俺たちだけ先に宿に行くか?」
「いえいえ、大丈夫です。遊覧船に乗りたいと仰っていたじゃないですか」
「乗りたいって言ったけど……本当に大丈夫なんだな?」
「はい、本当に大丈夫です」
酒が原因の頭痛なんて、大人になれば誰もが経験すること。晴太郎は心配してくれていたが、気にすることではない。多少頭が痛いが、これも外の風に当たればすぐ治る。主人に心配をかけてしまった事が少し心苦しい。
昔、まだ七海が使用人見習いとして、須藤に色々と教え込まれていた頃の事だ。
「従者として、絶対に主人より先に酔い潰れてはいけません。いいですか?」
「はい」
あの時、まだ自分は未成年で晴太郎は小学生。酒のことなんて全く知らなかったし、主人が酒を飲める歳になるのはまだまだ先の話で、まったく実感がわかなかった。
「あの……もし酒が飲めなかったら、どうなるのでしょうか? 従者になれないのですか?」
「そうですね……酒の席で使い物にならないのは困りますし、対応策を考えないといけませんね」
「そう、ですか」
直接的には言わなかったが、『酒に弱い従者なんて必要ない』と言われているような気がしてならなかった。体質的な問題で従者になれないなんて、なんて不憫なのだろうか。
母親は知らないが父親は酒豪だったので、きっと遺伝的にも問題ない。あの時の自分はそう思っていたが、全然違った。
それが発覚したのは、晴太郎の世話係として働きながら、大学生として学校にも通っていた時。
何度か酒を経験するうちに、体質的に駄目だということがわかった。少し飲んだだけで、ところ構わず寝る、吐く、記憶を失くす。最悪だ。1番危ないと思ったのは、コインパーキングで車輪止めを枕にしながら寝ていた時。本当に最悪だった。
中条家の人たちに情けない姿を見せたくない。酒に弱いと知られたら従者で居られなくなるかもしれない。晴太郎の傍にいる事が出来なくなってしまうかもしれない。だから今まで、中条家の集まりでの飲酒を避けてきたのだ。
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「……み、七海!」
身体を揺さぶられて目が覚めた。少し頭痛がして、眉間に皺を寄せる。
「もうそろそろ着くぞ。っていうか、寝るなんて珍しいな。今日朝早かったからなあ」
「そう……ですね。早起きでしたね」
違う。これは早起きのせいではなく、確実にアルコールのせいだ。じんじんと鈍い頭の痛みがそうだと訴えている。
仙台駅に着いた頃にはちょうど昼時になっていた。元から予約していてらしい料亭で昼食をとったのだが、ここで乾杯の時、社長に勧められて小さいグラスで一杯だけビールを飲んだ。
この一杯だけで、主人を放置して眠ってしまう程度には酔いがまわった。幸い、他の兄弟や使用人たちも眠っていたようなので、お叱りは無しだ。
「坊ちゃん、すみません」
「うん?」
「つかぬことをお聞きしますが、私の顔、赤くないですか……?」
「……? 赤くは無いけど。むしろいつもより白いような……具合悪いのか?」
「いいえ、お気になさらず」
顔が赤く無いのであれば、だいぶ酒は抜けているはずだ。もう大丈夫。晴太郎が少し心配してくれたが、酒で主人に心配をかけるなんて情けなさ過ぎる。なるべく彼の前ではいつものように振る舞いたい。
「本当に大丈夫か? もし辛いなら、父さんたちに言って俺たちだけ先に宿に行くか?」
「いえいえ、大丈夫です。遊覧船に乗りたいと仰っていたじゃないですか」
「乗りたいって言ったけど……本当に大丈夫なんだな?」
「はい、本当に大丈夫です」
酒が原因の頭痛なんて、大人になれば誰もが経験すること。晴太郎は心配してくれていたが、気にすることではない。多少頭が痛いが、これも外の風に当たればすぐ治る。主人に心配をかけてしまった事が少し心苦しい。
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