私の主人はワガママな神様

どろろ

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10.家族の集まり(3)

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 そして、七海が思う"他の人の影"は、晴太郎の母親だ。晴太郎の演奏は、有名なピアニストであった晴太郎の母親のものにそっくりらしい。晴太郎の中に、今は亡き天才ピアニストの姿を見る人たちが居る。晴太郎はそれがあまり気に入らないようだ。

「申し訳ありませんが、私は坊ちゃんのお母様を知らないのです。私が聴きたいのはお母様のピアノではなく、坊ちゃんのピアノです」

 音楽に興味がなかった七海は、本当に彼の母親を知らない。有名なピアニストと言われてもピンとこなかった。真面目にピアノの演奏を聴いたのは、晴太郎のものが初めてだ。

「そっか……うーん……出てみよっかな……でも、練習してないしなあ……」
「えっ?」
「いや、やっぱりちょっと考えさせてくれ。後で返事するから」

 意外と前向きな答えが返ってきて七海は驚いた。てっきり今年も欠場するものだと思っていた。晴太郎が良いのなら七海も嬉しいが、本当に大丈夫なのか、無理をしていないのか少し心配になってしまう。

「七海が、聴きたいって言ってくれたし……ちょっと、頑張ってみようかなー……なんて……」

 照れ臭そうに視線をうろうろさせながらそう言った晴太郎。その反応に、自分は割と恥ずかしいことを言ってしまったのではないかと少し後悔した。コホン、と軽く咳払いをして恥ずかしさを誤魔化す。

「えっと、まあ……出席したくなったら言っていただければ、社長に話は通しますので……」
「う、うん。あのさ、もし演奏するってなったら……七海、来てくれるよな?」
「……っ、はい、もちろんです」
「そ、そうか! だよな! 俺の従者だもんな」

 ぱあ、と晴太郎が顔を明るくした。自分がいるだけでそんなに喜んでくれるのか。そう思うと愛おしさが込み上げきて、なんとか顔に出ないようにぐっと耐えた。

 晴太郎とギクシャクしてしまって、仲直りをしたあの日から、彼との関係に変化が訪れた。互いに意識しすぎている、と七海は思う。
 スキンシップは元々多い方だと思っていたが、こんなにも多かっただろうか。抱きつかれる事はたまにあったが、こんなに多かっただろうか。七海が意識してしまっているから、そう感じているだけだろうか。真実はわからない。

 晴太郎の行動を見れいればほぼ答えはわかるようなものだが、彼の気持ちが知りたくなる。これは駄目なことだと分かっていても、彼の口から明確な言葉が欲しくなってしまう。
 しかし、それは本当に望んではいけない。主人に今以上の感情を求めるなんて、従者失格だ。このままでは、傍にお仕えできなくなってしまう。それだけはどうしても避けたい。
 ——晴太郎が立派な大人になって、幸せを掴む、その時まで。七海は彼の隣にいたい。
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