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9.甘いもの(2)
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それから数日後。
「坊ちゃん、明日は何かご予定はありますか?」
金曜日の夜のことだった。先日のテレビ番組せいで無性にチョコレートケーキが食べたくなってしまった七海。明日はせっかく2人とも休みなので、もし晴太郎が暇ならケーキでも焼いてみようと考えていた。
「明日は、ちょっと姉のところに……」
残念ながら彼には予定があるようだ。チョコレートケーキはまた今度にしよう。
「何時頃に行く予定ですか? 車を…」
「いや、いい。俺ひとりで行く」
「はい?」
「さや姉さんが迎えに来るから、大丈夫だ」
「しかし、それは私の仕事で……」
「いいってば! 七海は来るな!」
いきなり大きな声を出す晴太郎に、七海は驚いた。理由はわからないが、こんなにはっきりと拒絶されたのは初めてかもしれない。
「何をしに……」
「な、七海には関係ない!」
そう言って晴太郎はふいとそっぽを向いてしまう。この態度にはさすがの七海も少しむっとした。隠し事のひとつやふたつある事は当たり前なのだが、そんなにあからさまに拒絶する必要はないだろう。
「……私には話せないことなんですか?」
「え、七海?」
「お姉様には言えるのに、私には言えないんですね」
ふたりの間にピリッとした空気が流れる。七海は自分の声色が変わるのを感じた。晴太郎も七海の異変を感じたのか少し戸惑ったような顔をした。
姉には言えて七海には言えない秘密、そんな事があっても特に悪い訳ではない。しかし、今はそれが七海をひどく苛々させる。どうして毎日一緒にいる自分ではなく、たまにしか会わない姉を選ぶのか。別に変な事ではないはずなのに、胸がもやもやする。
「そんなに、私は信用できませんか?」
「ちがう、そんなわけ……」
晴太郎は七海の言葉を否定する。信用していない人間をずっと傍に置くわけがないのだ。信用しているしていないということが関係ない事だって分かっている。分かっているが、もやもやとしたドス黒い感情が胸の中をぐるぐるしていて七海のことを追い詰める。
これではまるで、彼の姉に嫉妬しているみたいだ。
「な、七海……ごめん、そんなに傷付けるつもりじゃ……」
戸惑う主人の声に、七海ははっとした。晴太郎は七海が傷付いてしまったと思っているようだ。不安げに七海を見上げる彼の瞳の中に、言い過ぎてしまったと反省の色が見える。
七海だって、晴太郎を困らせるような事を言いたかった訳ではない。晴太郎を不安にさせるような態度をとってしまった事を後悔した。
「いえ、すみません……私も、大人気ないことを……」
正直、晴太郎が七海の中の醜い感情に気付いていない事に少しほっとしている。しかし胸のもやもやは晴れない。彼が姉のところに行ってしまう事実は変わらないのだ。
「……申し訳ありませんが、少しひとりにして下さい」
七海はそう言って自室に籠った。このもやもやが晴れないと、また晴太郎を不安にさせるような事をしてしまう気がした。主人にあんな顔をさせるなんて、どうかしている。
そしてその後、晴太郎と一言も話さずにその日が終わってしまった。
「坊ちゃん、明日は何かご予定はありますか?」
金曜日の夜のことだった。先日のテレビ番組せいで無性にチョコレートケーキが食べたくなってしまった七海。明日はせっかく2人とも休みなので、もし晴太郎が暇ならケーキでも焼いてみようと考えていた。
「明日は、ちょっと姉のところに……」
残念ながら彼には予定があるようだ。チョコレートケーキはまた今度にしよう。
「何時頃に行く予定ですか? 車を…」
「いや、いい。俺ひとりで行く」
「はい?」
「さや姉さんが迎えに来るから、大丈夫だ」
「しかし、それは私の仕事で……」
「いいってば! 七海は来るな!」
いきなり大きな声を出す晴太郎に、七海は驚いた。理由はわからないが、こんなにはっきりと拒絶されたのは初めてかもしれない。
「何をしに……」
「な、七海には関係ない!」
そう言って晴太郎はふいとそっぽを向いてしまう。この態度にはさすがの七海も少しむっとした。隠し事のひとつやふたつある事は当たり前なのだが、そんなにあからさまに拒絶する必要はないだろう。
「……私には話せないことなんですか?」
「え、七海?」
「お姉様には言えるのに、私には言えないんですね」
ふたりの間にピリッとした空気が流れる。七海は自分の声色が変わるのを感じた。晴太郎も七海の異変を感じたのか少し戸惑ったような顔をした。
姉には言えて七海には言えない秘密、そんな事があっても特に悪い訳ではない。しかし、今はそれが七海をひどく苛々させる。どうして毎日一緒にいる自分ではなく、たまにしか会わない姉を選ぶのか。別に変な事ではないはずなのに、胸がもやもやする。
「そんなに、私は信用できませんか?」
「ちがう、そんなわけ……」
晴太郎は七海の言葉を否定する。信用していない人間をずっと傍に置くわけがないのだ。信用しているしていないということが関係ない事だって分かっている。分かっているが、もやもやとしたドス黒い感情が胸の中をぐるぐるしていて七海のことを追い詰める。
これではまるで、彼の姉に嫉妬しているみたいだ。
「な、七海……ごめん、そんなに傷付けるつもりじゃ……」
戸惑う主人の声に、七海ははっとした。晴太郎は七海が傷付いてしまったと思っているようだ。不安げに七海を見上げる彼の瞳の中に、言い過ぎてしまったと反省の色が見える。
七海だって、晴太郎を困らせるような事を言いたかった訳ではない。晴太郎を不安にさせるような態度をとってしまった事を後悔した。
「いえ、すみません……私も、大人気ないことを……」
正直、晴太郎が七海の中の醜い感情に気付いていない事に少しほっとしている。しかし胸のもやもやは晴れない。彼が姉のところに行ってしまう事実は変わらないのだ。
「……申し訳ありませんが、少しひとりにして下さい」
七海はそう言って自室に籠った。このもやもやが晴れないと、また晴太郎を不安にさせるような事をしてしまう気がした。主人にあんな顔をさせるなんて、どうかしている。
そしてその後、晴太郎と一言も話さずにその日が終わってしまった。
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