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6.香水(3)
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「わー! うそうそ、晴太郎泣かないで!」
「香菜子……いじめすぎだぞ……」
「ごめん、ごめん! そんなに泣くと思わなかった……」
七海の胸に顔を埋めながら、ぐずぐずと鼻を鳴らし始めた晴太郎に、今度は香菜子と洋太郎があたふたする。
七海は自分の感情に動揺して言葉が出なかった。
——自分は今、何を思った? 主人に対して何を感じた? 今どうして胸が苦しくなったんだ?
「冗談だよー! ごめんね、ほんとにごめん!」
「晴太郎、七海はそんな事するやつじゃないぞ。わかるだろ? なあ、七海からも何か言ってくれ……七海?」
「え……は、はい」
洋太郎に名前を呼ばれ、はっと我に帰る。今は自分自身のことで動揺している場合ではない。主人が悲しんで泣いている。なんとかしなければ——……。
しかし、何も声を掛けてあげられない。なんとか出来たのは、震えた手で主人の背中を優しく撫でてやることだけ。
「あら、みんな揃ってどうしたの?」
そこに救世主が通りかかった。上の姉の紗香と黒木だ。
「姉さん! 晴太郎が泣いちゃって……」
「また香菜子がいじめちゃったの?」
香菜子と洋太郎が紗香に助けを求めて訳を話す。すると彼女は、七海に引っ付いたままの晴太郎に優しく声を掛けた。
「晴ちゃんは怒ってないわよね? ちょっとびっくりして取り乱しちゃっただけでしょ?」
晴太郎は七海の胸に顔を埋めたまま、こくりと小さく頷いた。
「顔を見せてくれないのは、みんなに見られるのが恥ずかしいだけよね?」
晴太郎はまた小さく頷く。
七海はほっと胸を撫で下ろした。晴太郎はもう怒ってもいないし、悲しんでもいない。ただ周りのみんなに泣き顔を見られるのを恥ずかしがっていて、顔をあげられないだけだったのだ。
「目を冷やさないと腫れてしまうわね。黒木、私の部屋に連れていきましょう」
「はい、お嬢様」
「七海、晴ちゃんを誘導してあげてね」
部屋に案内する紗香と黒木の後を、晴太郎と七海がゆっくり着いていく。その間も、晴太郎は七海に引っ付いたままだった。
「香菜子……いじめすぎだぞ……」
「ごめん、ごめん! そんなに泣くと思わなかった……」
七海の胸に顔を埋めながら、ぐずぐずと鼻を鳴らし始めた晴太郎に、今度は香菜子と洋太郎があたふたする。
七海は自分の感情に動揺して言葉が出なかった。
——自分は今、何を思った? 主人に対して何を感じた? 今どうして胸が苦しくなったんだ?
「冗談だよー! ごめんね、ほんとにごめん!」
「晴太郎、七海はそんな事するやつじゃないぞ。わかるだろ? なあ、七海からも何か言ってくれ……七海?」
「え……は、はい」
洋太郎に名前を呼ばれ、はっと我に帰る。今は自分自身のことで動揺している場合ではない。主人が悲しんで泣いている。なんとかしなければ——……。
しかし、何も声を掛けてあげられない。なんとか出来たのは、震えた手で主人の背中を優しく撫でてやることだけ。
「あら、みんな揃ってどうしたの?」
そこに救世主が通りかかった。上の姉の紗香と黒木だ。
「姉さん! 晴太郎が泣いちゃって……」
「また香菜子がいじめちゃったの?」
香菜子と洋太郎が紗香に助けを求めて訳を話す。すると彼女は、七海に引っ付いたままの晴太郎に優しく声を掛けた。
「晴ちゃんは怒ってないわよね? ちょっとびっくりして取り乱しちゃっただけでしょ?」
晴太郎は七海の胸に顔を埋めたまま、こくりと小さく頷いた。
「顔を見せてくれないのは、みんなに見られるのが恥ずかしいだけよね?」
晴太郎はまた小さく頷く。
七海はほっと胸を撫で下ろした。晴太郎はもう怒ってもいないし、悲しんでもいない。ただ周りのみんなに泣き顔を見られるのを恥ずかしがっていて、顔をあげられないだけだったのだ。
「目を冷やさないと腫れてしまうわね。黒木、私の部屋に連れていきましょう」
「はい、お嬢様」
「七海、晴ちゃんを誘導してあげてね」
部屋に案内する紗香と黒木の後を、晴太郎と七海がゆっくり着いていく。その間も、晴太郎は七海に引っ付いたままだった。
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