11 / 146
3.大事な大事なご主人様(4)
しおりを挟む「田中を呼んでくれ」
電話を切って少しすると、コンコンとノックの音がして静かに扉が開いた。これまた上品なスーツに身を包んだ初老の男性が立っていた。社長の秘書をしている人物だろうか。
「お呼びでしょうか」
「これを頼む」
「かしこまりました」
名刺を受け取って彼はすぐに部屋を出た。そして、しばらく待つと今度は電話の子機を持ってやって来た。
「七海様、お電話です」
「え……俺に、ですか?」
何がなんだかわからないまま電話に出る。
『あ、七海の息子さん? ××金融の村上ですけど、ついさっき500万円とその利息分、きっちりお支払い頂きましたー。毎度ありがとうございます。またお待ちしてますー』
ガチャリ、と電話が切れた。
「…………え?」
急な展開に頭が追いつかず助けを求めるように社長の方を向くと、彼は楽しげにニヤリと笑った。
「これで懸念点は無くなったんじゃないかな。さっきの話、受けてくれるかい?」
「……はい。あ、ありがとう、ございます」
「ほんとか?! 七海、うちにきてくれるのか?!」
ついさっきまで泣きそうだった晴太郎は、眩しいほどの笑顔になった。七海が来ることがそんなに嬉しいのか、七海のもとまで駆け寄って抱き着いた。
一連の嘘のような出来事に、頭の処理が追い付かない。昨日までのドン底生活から一変、借金は全て払い終え、学校も通い続けられる。暗くて寒い家から豪邸の一室への引っ越し。そして、平凡な高校生から超有名企業社長の御曹司の教育係へ。
「七海、七海! どうしたんだ? ぼーっとしすぎだぞ」
「夢、なんじゃないかと……」
「なんだ、信じられないのか? ほら!」
晴太郎は七海の膝の上によじ登り向かい合うと、ぱちん、と小さな両手で七海の頬を思い切り叩いた。
「……い、痛い」
「いたいとゆめじゃないんだぞ! 知ってたか……わっ、泣いてるのか?! すまん、つよくたたきすぎた!」
夢ではないと分かったらぽろぽろと涙が溢れて来た。溢れた涙は七海の頬と晴太郎の手を濡らす。今日は彼の前で泣いてばかりだ。
「ごめん、ごめん! 泣くなよおーっ、おまえが、泣くと、おれ、もっ、ないちゃう、だろっ!」
大きな瞳が潤んで、大粒の涙が溢れ出た。どうしてこの少年は自分につられて泣いてしまうのだろうか。
今度は七海があたふたする番だ。
眉を寄せてぐずぐずと鼻を啜る姿を見ていると、どうしたら良いか分からなくてその小さな身体を抱き寄せた。
「な、七海?」
「……っ、すみません、泣かないで」
「ううっ、おまえも、泣くなよ!」
ドン底から救ってくれた小さな神様は、七海の腕の中にすっぽりと収まってしまうほどまだ幼い少年。
手を差し伸べてくれたのはただの気紛れかもしれない。けれども、救われた事実は変わらない。この少年のために、この子の幸せのために生きていこうと、そう誓った。
「七海君、晴太郎を頼むよ」
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。

有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺
高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです


エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる