5 / 146
2.小さな神様(3)
しおりを挟む
「それ、おれのサイフだ!」
「……これ?」
「そうだ! なかじょうせいたろうってかいてあるだろう?!」
確かに名前が書いてあったが、これが本当にこの小学生の物なのか確かめる術はない。こんなに幼い子が嘘をつくとも思えない。七海はしゃがんで彼に目線を合わせて、大金の入った財布を渡してやった。
少年は財布を受け取ると嬉しそうに笑った。
「……はあー、よかったあー。失くしてしまって、こまっていたんだ」
安心した様子で胸を撫で下ろしていた。あんなに大金が入っている財布なのだから、失くして焦るのは当たり前だ。
「このカード、ちょうレアなヤツなんだ! もう手にはいらないかもしれない」
彼が心配していたのは現金ではなく、キラキラしたトレーディングカードの方だったらしい。なんだか拍子抜けした。
「たすかった! ありがとう!」
「はあ……どういたしまして」
キラキラとした笑顔で例を言われると、少し心が痛む。本当は例を言われる資格なんてない。だって、その財布の中身を盗ろうとしたのだから。
「あ! わすれた!」
「……何を?」
「いいことをしてもらったら、ちゃんとおじぎをしないといけないんだ!」
「いいよ、そんな……」
「あと、ケイゴもわすれた! ありがとうございま……わっ!」
お辞儀をした勢いで、少年が背負っていたランドセルが開いて中身が飛び出した。バサバサと教科書やプリント類が地面に散らばる。
「ああっ、たいへんだ!」
「……手伝ってやるから、ランドセルこっちに向けて」
「うう……すまない……」
散らばってしまった荷物を拾い集め、ランドセルに入れてしっかりと閉める。これで今度は飛び出したりしないだろう。
「はい、これで大丈夫だろ」
「ありがとう。やさしいな、おまえ!」
「別にこのくらいは……あ」
しゃがみ込んで少年と話していると、ぐう、と腹の虫が割って入った。成長期なのに1日何も食べていないせいか、いつもに増して大きな音だ。
「はらがへっているのか?」
腹の音はしっかりと少年にも聴こえていたようだ。少し気恥ずかしくて視線を逸らして頷く。
「よし、こっちにこい!」
「えっ、ちょっと……!」
少年は七海の手を握って走り出した。といっても、彼の歩幅なんて大したことはない。七海が歩いて追いつける程度の速さ。もちろん、手を握った力も弱いので振り解こうと思えば簡単に振り解ける。
しかし、七海は手を振り解かず、黙って少年の後をついて行った。
「……これ?」
「そうだ! なかじょうせいたろうってかいてあるだろう?!」
確かに名前が書いてあったが、これが本当にこの小学生の物なのか確かめる術はない。こんなに幼い子が嘘をつくとも思えない。七海はしゃがんで彼に目線を合わせて、大金の入った財布を渡してやった。
少年は財布を受け取ると嬉しそうに笑った。
「……はあー、よかったあー。失くしてしまって、こまっていたんだ」
安心した様子で胸を撫で下ろしていた。あんなに大金が入っている財布なのだから、失くして焦るのは当たり前だ。
「このカード、ちょうレアなヤツなんだ! もう手にはいらないかもしれない」
彼が心配していたのは現金ではなく、キラキラしたトレーディングカードの方だったらしい。なんだか拍子抜けした。
「たすかった! ありがとう!」
「はあ……どういたしまして」
キラキラとした笑顔で例を言われると、少し心が痛む。本当は例を言われる資格なんてない。だって、その財布の中身を盗ろうとしたのだから。
「あ! わすれた!」
「……何を?」
「いいことをしてもらったら、ちゃんとおじぎをしないといけないんだ!」
「いいよ、そんな……」
「あと、ケイゴもわすれた! ありがとうございま……わっ!」
お辞儀をした勢いで、少年が背負っていたランドセルが開いて中身が飛び出した。バサバサと教科書やプリント類が地面に散らばる。
「ああっ、たいへんだ!」
「……手伝ってやるから、ランドセルこっちに向けて」
「うう……すまない……」
散らばってしまった荷物を拾い集め、ランドセルに入れてしっかりと閉める。これで今度は飛び出したりしないだろう。
「はい、これで大丈夫だろ」
「ありがとう。やさしいな、おまえ!」
「別にこのくらいは……あ」
しゃがみ込んで少年と話していると、ぐう、と腹の虫が割って入った。成長期なのに1日何も食べていないせいか、いつもに増して大きな音だ。
「はらがへっているのか?」
腹の音はしっかりと少年にも聴こえていたようだ。少し気恥ずかしくて視線を逸らして頷く。
「よし、こっちにこい!」
「えっ、ちょっと……!」
少年は七海の手を握って走り出した。といっても、彼の歩幅なんて大したことはない。七海が歩いて追いつける程度の速さ。もちろん、手を握った力も弱いので振り解こうと思えば簡単に振り解ける。
しかし、七海は手を振り解かず、黙って少年の後をついて行った。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。

有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺
高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです


エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる