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入学式

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「まぁ、人の命がかかっていたのだから杖のことは怒るつもりはない」
 後日、ケノンが家に帰ってくるとすぐにソーマは謝罪した。

 勝手に杖を売り払い、そして手元には大銀貨3枚が残っていることも打ち明けてその一部を渡した。

 大銀貨といえば銀貨10枚分。
 銀貨1枚が銅貨10枚分なのだから、地下水道の掃除を2ヶ月もしなくてはならない額だ。

「私が聞きたいのは、代わりに用意したというこちらの杖のことだ」
「はい……銀貨25枚で作ってもらいました……」

 後になってソーマは自分のしたことの大変さに気付いたのだ。
 杖にはそれぞれ特徴があって、状況によって使い分けることもある。
 エーテルの師匠であるケノンほどの者ならば、そういった可能性は十分に考えられるだろう。
 もしかしたら授業で使う予定もあったかもしれない。

「やっちゃったと思って、急いで鍛治師に頼んだんですけど、同じ魔石がどれかわからなくて、高そうなのを入れてもらいました……」
「だろうな。
 急拵えだから形は歪だが、これにはフレイムリザードの魔石が使われている」

 ソーマの聞いたことのない魔物の名が出てくる。
 しかし赤い魔石で、名前から察するに火属性であることはソーマにもすぐにわかった。

「まぁいい……何かあるとは思ったが、エーテルが私に押しつけたのはことだったのか」
「ごめんなさい……」

 焦ったソーマは、少しくらい大丈夫だろうとマナを操作していた。
 魔道具と呼べるようになるには長い年月が必要だと聞いていたので、マナの浸透に必要な期間を自らの力で急速に縮めてしまったのだ。

「しかし……出来上がってしまったものをどうすべきか……」
 正座しながら項垂れるソーマを前に、ケノンは悩む。
 そして、それに対して何故そこまで困っているのかとソーマは少々疑問に思う。
 しかし余計なことは口にできない。今は怒られているのだから……

 疑問に思ったまま日は過ぎて、遂に入学の日となってしまった。

「……であるからして、諸君らには未来のこの国を支える、大いなる力となってほしいと私は思う」
 長々と話す学園長の言葉は、ソーマにとっての子守唄である。
 周囲はソーマよりも年上ばかりで、時々稀有な目で見られたりヒソヒソと噂をされているのを感じるばかりである。

 同じ年に入学した者は、年齢関係なく同じ学年となり、4つのクラスに分かれることになる。
 将来の研究のために魔法理論を中心に学ぶ緑のクラス『エメラルド』

 魔法だけでなく、経済や情勢を交えて国の基盤を学ぶ黄色のクラス『アンバー』

 流れるように詠唱を唱え、魔法実技に特化した青のクラス『サファイア』

 そして体力と魔力のバランスを重視して、よりサバイバルに特化したのが赤のクラス『ルビー』となる。

 若い男の教師が前に立ち、クラスの説明をしていた。
「それぞれ自分に合うと思ったクラスを選択しても良い。
 だが、あらかじめ保護者から聞いている者もいるのでな。
 名前を呼ばれたら速やかに移動するように」

 冒険者になるのならば赤一択。
 とにかく気持ちよく魔法をぶっ放したいなら青もいいだろう。
 黄色は難しい話が多く、緑は……

「ソーマ、ねぇソーマはどこのクラスなの?」
 急に声をかけられて振り返ると、そこには一緒にエーテルの授業を受けたフランの姿があった。
「あ、あぁそっか。
 フランも入学するんだったね」
「小さい子がいるなぁって思ったらソーマなんだもん。ビックリしちゃったよ」

 そりゃあ5歳児が紛れていれば目立たないはずがない。
 フランにも仲のよくなった子がいて、
ソーマのことは既に認知済み。
 すごいだの可愛いだのと、女の子数人に囲まれてしまうソーマであった。

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