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大師匠ケノン
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「なんだ君は?」
ボロ小屋の扉を叩くと、中からはエーテルと同じ白いローブを纏った男が顔を出した。
ただし、エーテルのように緑の模様はなく、こちらは真っ白ではあったが。
「あのっ、先生に言われてこちらを訪ねるようにと!」
もっと軽い感じの人が出てくると思ったのに、高い背にモノクルに整った髪。
低い声でずっと上から声が聞こえてくるのだ。それも顎に指を当てて人を見定めるように。
……緊張しないわけがない。
ソーマはエーテルから預かった一通の手紙を渡し、ケノンがそれに目を通す。
「ふむ……君は彼女の弟子になるのか。
ならば私の孫弟子になるわけだ……」
立ち話もなんだと、ケノンはソーマを中に招き入れる。
さぞやしっかりした暮らしなのだと思い、緊張は解れぬまま扉は開かれる。
しかし中には紙屑や素材らしきものが散乱しており、隅に毛布が一枚転がっている。
扉がパタンと閉じられ、ケノンは大きなため息を一つ。
「はぁぁ……ちょうど帰ってきたタイミングで君がやって来たから、生徒に家までつけられたのかと思ったじゃないか」
「あ、あの……」
あまりの豹変ぶりに困惑するソーマ。
ケノンは、整った髪をくしゃくしゃと掻き乱す。
白いローブと服を脱ぎモノクルも取り、上は肌着一枚となった。
「私のことは先生とでも呼んでくれればいいよ。
学園の生徒たちもそう呼んでいるし、エーテルの弟子なら君はもう身内みたいなもんじゃないか」
いつまでも荷物を抱えていないで、その辺りに置いておけ。
ハシゴを登ったところに毛布でも敷いて寝てくれ。
朝から晩まで学園にいるから、週末以外はほとんど家に帰らないこと。
ケノンから簡単な説明をされると、ケノンは夜の街へと消えていったのだった。
「あ、あのー……」
誰もいなくなった小屋の中で、ソーマは一人呟く。
学園と家とで表情を使い分けているのだろう。
小屋の中をよく見れば、ゴミにまぎれて一際大きな魔石や魔道具も散乱している。
その一つ一つは安いものではないし、これだけの数があればボロ小屋生活など簡単に抜け出せるはずなのだが。
「仕方ない……少し掃除でもしながら待ってるかな」
あまりにも目に余る光景。
棚の本はぐちゃぐちゃで、机にはこぼれたインクのシミが付いている。
割れた床板が飛び出していて危険もある。
幸い、小屋の大きさはそれほど大きくはない。
落ちていた麻袋にゴミをまとめ、魔道具は壁際に。
魔石や乾燥した植物などの素材は空いていた棚の上にまとめて置く。
床は後日ちゃんと直すとして、あとはバタバタになった本の片付けだった。
「これ……全部魔導書?」
棚には本が幾冊もあり、その中の一冊の本がソーマの目に留まる。
『多属性による効果と影響』
中でも比較的新しい本で、最近書かれたものか再版されたものなのかとソーマは考える。
聞き覚えのあるタイトルばかりの中にまぎれていた、おそらく知らないであろう内容の本。
エーテルが言っていた危険な研究とはこれのことだろうかと、本の表紙をめくったのだった。
「おぅ、今帰ったぞー」
なんとタイミングの悪いことか。
ソーマは瞬時に本を閉じ、棚へと戻した。
酒焼けで赤らんだ顔をして、ソーマを見るとニヤリと笑って部屋の隅に腰を下ろしていた。
そしてそのまま……
「もう寝てるし……
いや、なんなんだこの人……」
ソーマは毛布を軽く叩いてからケノンにそれをかけてやるのであった。
ボロ小屋の扉を叩くと、中からはエーテルと同じ白いローブを纏った男が顔を出した。
ただし、エーテルのように緑の模様はなく、こちらは真っ白ではあったが。
「あのっ、先生に言われてこちらを訪ねるようにと!」
もっと軽い感じの人が出てくると思ったのに、高い背にモノクルに整った髪。
低い声でずっと上から声が聞こえてくるのだ。それも顎に指を当てて人を見定めるように。
……緊張しないわけがない。
ソーマはエーテルから預かった一通の手紙を渡し、ケノンがそれに目を通す。
「ふむ……君は彼女の弟子になるのか。
ならば私の孫弟子になるわけだ……」
立ち話もなんだと、ケノンはソーマを中に招き入れる。
さぞやしっかりした暮らしなのだと思い、緊張は解れぬまま扉は開かれる。
しかし中には紙屑や素材らしきものが散乱しており、隅に毛布が一枚転がっている。
扉がパタンと閉じられ、ケノンは大きなため息を一つ。
「はぁぁ……ちょうど帰ってきたタイミングで君がやって来たから、生徒に家までつけられたのかと思ったじゃないか」
「あ、あの……」
あまりの豹変ぶりに困惑するソーマ。
ケノンは、整った髪をくしゃくしゃと掻き乱す。
白いローブと服を脱ぎモノクルも取り、上は肌着一枚となった。
「私のことは先生とでも呼んでくれればいいよ。
学園の生徒たちもそう呼んでいるし、エーテルの弟子なら君はもう身内みたいなもんじゃないか」
いつまでも荷物を抱えていないで、その辺りに置いておけ。
ハシゴを登ったところに毛布でも敷いて寝てくれ。
朝から晩まで学園にいるから、週末以外はほとんど家に帰らないこと。
ケノンから簡単な説明をされると、ケノンは夜の街へと消えていったのだった。
「あ、あのー……」
誰もいなくなった小屋の中で、ソーマは一人呟く。
学園と家とで表情を使い分けているのだろう。
小屋の中をよく見れば、ゴミにまぎれて一際大きな魔石や魔道具も散乱している。
その一つ一つは安いものではないし、これだけの数があればボロ小屋生活など簡単に抜け出せるはずなのだが。
「仕方ない……少し掃除でもしながら待ってるかな」
あまりにも目に余る光景。
棚の本はぐちゃぐちゃで、机にはこぼれたインクのシミが付いている。
割れた床板が飛び出していて危険もある。
幸い、小屋の大きさはそれほど大きくはない。
落ちていた麻袋にゴミをまとめ、魔道具は壁際に。
魔石や乾燥した植物などの素材は空いていた棚の上にまとめて置く。
床は後日ちゃんと直すとして、あとはバタバタになった本の片付けだった。
「これ……全部魔導書?」
棚には本が幾冊もあり、その中の一冊の本がソーマの目に留まる。
『多属性による効果と影響』
中でも比較的新しい本で、最近書かれたものか再版されたものなのかとソーマは考える。
聞き覚えのあるタイトルばかりの中にまぎれていた、おそらく知らないであろう内容の本。
エーテルが言っていた危険な研究とはこれのことだろうかと、本の表紙をめくったのだった。
「おぅ、今帰ったぞー」
なんとタイミングの悪いことか。
ソーマは瞬時に本を閉じ、棚へと戻した。
酒焼けで赤らんだ顔をして、ソーマを見るとニヤリと笑って部屋の隅に腰を下ろしていた。
そしてそのまま……
「もう寝てるし……
いや、なんなんだこの人……」
ソーマは毛布を軽く叩いてからケノンにそれをかけてやるのであった。
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