上 下
18 / 51

大師匠ケノン

しおりを挟む
「なんだ君は?」
 ボロ小屋の扉を叩くと、中からはエーテルと同じ白いローブを纏った男が顔を出した。
 ただし、エーテルのように緑の模様はなく、こちらは真っ白ではあったが。

「あのっ、先生に言われてこちらを訪ねるようにと!」
 もっと軽い感じの人が出てくると思ったのに、高い背にモノクルに整った髪。
 低い声でずっと上から声が聞こえてくるのだ。それも顎に指を当てて人を見定めるように。
 ……緊張しないわけがない。

 ソーマはエーテルから預かった一通の手紙を渡し、ケノンがそれに目を通す。
「ふむ……君は彼女の弟子になるのか。
 ならば私の孫弟子になるわけだ……」

 立ち話もなんだと、ケノンはソーマを中に招き入れる。
 さぞやしっかりした暮らしなのだと思い、緊張は解れぬまま扉は開かれる。
 しかし中には紙屑や素材らしきものが散乱しており、隅に毛布が一枚転がっている。

 扉がパタンと閉じられ、ケノンは大きなため息を一つ。
「はぁぁ……ちょうど帰ってきたタイミングで君がやって来たから、生徒に家までつけられたのかと思ったじゃないか」
「あ、あの……」
 あまりの豹変ぶりに困惑するソーマ。

 ケノンは、整った髪をくしゃくしゃと掻き乱す。
 白いローブと服を脱ぎモノクルも取り、上は肌着一枚となった。
「私のことは先生とでも呼んでくれればいいよ。
 学園の生徒たちもそう呼んでいるし、エーテルの弟子なら君はもう身内みたいなもんじゃないか」

 いつまでも荷物を抱えていないで、その辺りに置いておけ。
 ハシゴを登ったところに毛布でも敷いて寝てくれ。
 朝から晩まで学園にいるから、週末以外はほとんど家に帰らないこと。
 ケノンから簡単な説明をされると、ケノンは夜の街へと消えていったのだった。
「あ、あのー……」
 誰もいなくなった小屋の中で、ソーマは一人呟く。

 学園と家とで表情を使い分けているのだろう。
 小屋の中をよく見れば、ゴミにまぎれて一際大きな魔石や魔道具も散乱している。
 その一つ一つは安いものではないし、これだけの数があればボロ小屋生活など簡単に抜け出せるはずなのだが。
「仕方ない……少し掃除でもしながら待ってるかな」

 あまりにも目に余る光景。
 棚の本はぐちゃぐちゃで、机にはこぼれたインクのシミが付いている。
 割れた床板が飛び出していて危険もある。

 幸い、小屋の大きさはそれほど大きくはない。
 落ちていた麻袋にゴミをまとめ、魔道具は壁際に。
 魔石や乾燥した植物などの素材は空いていた棚の上にまとめて置く。

 床は後日ちゃんと直すとして、あとはバタバタになった本の片付けだった。
「これ……全部魔導書?」
 棚には本が幾冊もあり、その中の一冊の本がソーマの目に留まる。

『多属性による効果と影響』
 中でも比較的新しい本で、最近書かれたものか再版されたものなのかとソーマは考える。
 聞き覚えのあるタイトルばかりの中にまぎれていた、おそらく知らないであろう内容の本。
 エーテルが言っていた危険な研究とはこれのことだろうかと、本の表紙をめくったのだった。

「おぅ、今帰ったぞー」
 なんとタイミングの悪いことか。
 ソーマは瞬時に本を閉じ、棚へと戻した。
 酒焼けで赤らんだ顔をして、ソーマを見るとニヤリと笑って部屋の隅に腰を下ろしていた。
 そしてそのまま……

「もう寝てるし……
 いや、なんなんだこの人……」
 ソーマは毛布を軽く叩いてからケノンにそれをかけてやるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...