【未完】ファミレス転生 〜デザートはケモノ成分大盛りで〜

紅柄ねこ(Bengara Neko)

文字の大きさ
18 / 67

目的は僕ではないのです?

しおりを挟む
「貴様が怪しげな薬を使うというガキか。
 その力で一体何を企んでいるのだ?
 人間に紛れて魔法学院に潜り込んだようだが、そんなことで騙せると思うなよ!」

 矢継ぎ早に僕を責め立てる一人の男。
 一体何を言っているのだろうか?
 怪しげな薬……とは一体?

 思い当たるものといえば、タバスコかハラペーニョくらいなものだが、言うほど怪しいか?
 せいぜい爆弾と治癒ポーションの代わりになるくらいじゃないか。

 うん、十分に怪しいな。だとしても一体どこから情報が漏れたのだろうか?
 危険な使い方をした覚えもないし、まさか畑に残された僕たちの足跡なんかから?

 とにかく、何も悪いことはしていない。
 ところが、僕が何を言っても子供だからと相手にされず、今度は父が何かを言うと、男は『この場で処刑でも俺は構わんのだぞ』などと言う。

 奥の寝室ではアイビスの泣き声が聞こえてくるが、兵が止めに行ったところで泣き止むはずもない。

「僕がついて行けばいいんですよね?
 だがら、お父さんたちに手は出さないでください……」
 ここで言い争っても仕方ない。

 僕が諦めて大人しくすると、今度は『聞き分けが良くて当然だろうな、中身はガキじゃねぇんだろうから』なんて笑いながら言う。

 まぁ、たしかに中身は子供ではないかもしれないけどさ……
 だからって悪魔は酷くないか?
 そんなつもりだったら、既に街は火の海だ。
 まだ家族に手を出すつもりなら、今からでもそうしてやってもいいんだぞ……

 ひとまず撤収だと言っていたので、僕も気持ちを落ち着ける。
 すぐに外に連れ出されると、馬車に乗った人影が、僕に気付いて身を隠す。
 年老いた……産婆さん?

 ……あぁそうか、あの人の前でハラペーニョポーションを使ったものだから、僕のことを気味悪がって通報したわけだ。

 仕方ないかもしれないけど、関係ない両親まで巻き込むのはやめてほしいものだ……
 しかし、そうなると疑いを晴らすためには一体僕は何をすればいいのか。

 実際にアイテムを取り出して無害を証明する?
 だけど、それは強い力を持っているのだと言っているようなもの……
 いっそ学院長でも助けに来てくれないか……

 縛られて投獄されるのだろうか?
 忠誠を誓うとか、僕の力を国のために役立てたら許してもらえるのだろうか?

 そんな考えを巡らせていると、前を歩いていた男の動きが止まる。
「な、なんだ貴様はっ?」
 ん……なにかあったのか?
 僕は顔を前に向ける。
 目の前には、頭にツノをもった女性が一人……浮いていたのだ。

「あら、人間風情が私に向かってなんて口の聞き方なのかしら?」
 女性は空から僕たちを見下ろしていた。
 羽も生え、それ以上に目立つあちこち際どい衣装は、兵士たちの目には毒ではないだろうか?

「な、なな、なんて格好をしているのだ!
 そんなところに浮いていないで降りてこないかっ!!」

 いや、兵士以前に、この男にとってが一番の毒だったようだが……
「うるさいわね……私が用事のあるのは、貴方じゃないのよ」

 おそらく、この人こそ本物の『悪魔』と呼べる存在なのだろう。
 女が急に男に近づいて、『ふっ』と息を吹きかけた途端に、男は姿を消してしまった。
 一瞬の出来事だ。マジックでないのなら、そういう魔法なのだろうか?

「な、なんだ⁈ 一体どうしたのだっ!」
 ざわざわと兵士が騒ぎ出す。
 外の様子が気になったのか、産婆さんも馬車から顔を出して驚いた形相を浮かべていた。

 すると、女は僕の方に寄ってきて、ジロジロと品定めでもするようだ。
 倒すべきか?
 今ならタバスコ爆弾で……いや、それでは周りにも被害が……

「うーん……魔力のカケラもないし、この子じゃなさそうね。家の中……か」
 まだこの悪魔が敵だと決まったわけではない……が、一人の男が消されてしまったのも事実。
 ここで躊躇していたら、きっと全員がやられてしまうんじゃないか?

 おそらく、その辺の魔物なんかとは比べ物にならない強さなのだろう。
 本当に歯向かってもいいものなのか……

「まぁいいわ、役に立たないモノに要はないもの」
 女の手が迫る。僕も消されるのか?
「うちの息子に手を出すなぁぁ!」
 その瞬間、大声で叫びながら父レイブンが後ろから急接近。
 長剣を握りしめ、悪魔の女性に向かっていった。

「父さんっ!」
 僕はすぐに父の前に立ちはだかる。
 悪魔を守るためではない。
 悪魔の手はスッと向きを変え、今にも父を消し飛ばそうとしていたからだ。

 やむを得ないっ!
 僕は、すぐに鍋のフタを出現させ、タバスコ爆弾を片手に3つ。
 それを思いっきり投げつけると同時に、僕の身体は悪魔の攻撃を受けた鍋のフタと共に吹き飛ばされた。

「あら……な、なかなかやるじゃないの……」
 僕の方もずいぶんと痛い思いをしたが、悪魔にもかなりの痛手を負わせることはできた。

 こちらはすぐにハラペーニョポーションを飲んで、体力は回復できる。
 信じられないものでも見ているかのような父の視線は少しだけ辛かったが、それで家族が守れるのなら何の問題もない。

「そこまでして守りたいってわけ?」
 少しだけ怒りを露わにした悪魔の声が聞こえてくる。
 ただでさえ危ない衣装が、さらに爆発の影響で大変なことに。

 そんな薄着でいるから爆発のダメージも大きいのだ。
 胸を隠すように腕を回しているが、それだって自業自得だろう。

「いいわ、貴方の強さに免じて、貴方と貴方の家族は生かしておいてあげる。
 それに、次に会う時は手加減しないわよ……」

 悪魔は再び上空へ。
 このまま立ち去ってくれるのだと信じたい。
「そうそう、目的だけは遂行しないとね……」

 悪魔は振り返り、気付けばその腕には小さな赤子が抱かれていた。
「バイバイ、また会う日までぇ」

 悪魔が手をパタパタと。
 ニッ、と小さく笑った表情がとてつもなく不気味に感じられてしまった。
 そしてその瞬間、僕たちの足元に巨大な魔法陣が出現し、僕だけでなく、僕の家や馬車や兵士をも、全てを巻き込んで魔法が発動したのだった……
 
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...