上 下
7 / 67

機械の故障ではないのですっ

しおりを挟む
 学院生活も、早一ヶ月を過ぎた。
 授業では、やはり基本的な魔力量の底上げと、魔力の操作が重要視されるようだ。
『攻撃力:128』
『魔力:0』

 まぁ僕には関係ないことだろうけれど。

「今日も、最初は瞑想訓練からだ。
 体内に蠢く自らの魔力を感じるんだ。
 これがしっかりできていなくては、発動した魔法もうまく形にならんからな」

 特に魔力操作と合わせて、物体のイメージがしっかりしていなくては、魔法はうまく発動しないようだ。

 そんな講義は、魔法の使えない僕にはあまり意味のないことなのだけど。
 ……と、思っていたのだけど、そうでもないみたいだ。

「うーん……コーラの味じゃない……」
 そういえば製造方法を知っている人は少ないとか聞いたっけ。
 ガラナとカラメル色素がどうのこうの……
 ついつい炭酸も強くしすぎて、喉が痛い飲み物になってしまう……

 何が言いたいって、ドリンクバーのスキルって、『僕の創造した液体』を出すことができるスキルだったのだ。
 塩水でもノニジュースでも。
 実際には原材料なんて知らないものでも、『こんな味』と思えば出てきてくれる。

 つまり僕はコーラの味を覚えていない……?
 炭酸の印象が強いからだろうか……うーん……

 まぁとにかく、それを使って毎日プロテインを摂取していたりする。
 摂りすぎもよくないだろうから、カルシウムとビタミンDを含んだものをイメージして少量だけ。
 正直、スキルで作った飲み物が身体に害が無いのかは不明だったけど。

「んー……
 タピオカ入りは無理だったしなぁ……」
 瞑想しながら教室でブツブツと呟く僕。
 大きな固形入りでなければ出せるはずなので、次に試してみたいドリンクを考えていたりする。

 プロテインのおかげで、少しだけ力も少しついたような気がしていた。
 しっかりと走り込んだらステータスも上がっていたし、やはり基礎体力は大事だと思う。
 でもまぁ、普通に成長しているだけだろうけど。

「よーし! 魔法使いたるもの、いざという時には逃げることも必要だ。
 なにせ集中力を必要とする分、なるべく身軽な装備にする必要もあるからなっ!」

 先生が、いつもとは少し違った授業の始め方をした。
 逃げるとは一体何から?
 というか、今のセリフだと戦いに行くことが前提にも聞こえるのだけど……

「先生っ!
 逃げる前に、魔法で倒すというのはダメなんですか?」
 ヨタカ……君だったと思う。
 ちょっと真面目な雰囲気の生徒が、先生に質問した。

「そういう手段が、必ずしも行えるわけではない。
 例であげるのならば、エレメンタルという魔物だな。
 特定の魔法以外は全て無効化してしまう魔物相手に、その攻撃手段を持っていなかったらどうするんだ?」

 先生の質問に、再びヨタカが答える。
「……逃げます」
「そうだ、そうしなくてはやられてしまうからな」

 えーっと、つまり何?
 魔法を使って何かと戦うの? 戦争?
 もしかして……とは思ったけど、小さな声でツグミちゃんに聞いてみたら、『僕がそれを知らなかった事』に対して驚かれてしまった。

 この世界、多くの魔物が棲んでいたのだ。
 しかも、それらを退治する冒険者になるために、学院に来ている生徒がほとんどだった。

 ツグミちゃんの顔を見ながら呆けてしまう僕。
「もしかして知らないで入学したの?」
「う、うん……生活魔法とかを学ぶんだと思ってたよ」

 確かに、生活魔法程度だったら『水球』までは必要ないように思えてくる。
 あれでお湯をためてお風呂に入ることしか想像していなかった……

「よーし、魔力操作の基本は一応教えてやった。
 次は身体を動かしながら、今まで習った事を行うんだ!」

 あれから数日して、一応全員が水流の魔法は使えるようになった。
 掌から流れる水は、まるで流水解凍でもしているかのようにチョロチョロと。
 それを、勢い良く放つことで水弾という魔法になるらしい。

 きっと水球で同じことをやったら、水……爆……いや、さすがに違うだろう。

 冒険者たるもの、いつどんな時だって、どんな体勢であっても行動できなくてはならない。
 いざという時にも身体が動くように。そういった主旨の授業を行なっていくそうだ。
 中庭に出ると、以前見た先輩方が、今日もお手本のため整列している。

「そんなに難しい事じゃない。
 何より大事なのは、自分が魔法を使いやすいよう落ち着いて行動する事だ。
 あとは慣れろ、それだけだ!」

 先生の説明が終わると、先輩方は全速力で走りながら的に向かって水流を放つ。

 同じ水流でも、勢いはかなり強い。
 攻撃用の魔法ではないので的を破壊できるわけではないが、練習ならばこれで十分なのだとか。

「君たちも、しっかりと集中すれば的に当てるくらいのことはできるはずだ。
 この一ヶ月で、ちゃんと基本を身につけていれば……だがな」

 先生からそんな言い方をされると、少し不安になってしまう。
 ツグミちゃんも、ヒガラお嬢様の腕を掴んで『無理無理っ』なんて言っている。

 的までの距離があって、僕のスキルでは届くかどうかもわからない。
 大丈夫だろうか……
 僕もようやく学院にも少し慣れてきた。
 しかし、一ヶ月経って入学時から何も変わらないのでは、先生や他の生徒に幻滅されてしまいそうだ……

 そんな事をふと思ってしまったのだ。

「よしっ、外周の数カ所に的を立てておいたぞ。
 一人ずつ走りながら的を狙ってみろ!」

 面白そうだと張り切るのは、やはり例の三人組。
 ヤンはあれでいて物覚えは早く、最初の一つは外してしまったが、残りは全て命中させていた。

「なんだ、ヤンは家で練習でもしてきたのか?」
「えっへへ……実は早くやってみたかったんです!」
 なるほど、ヤンだったらあり得そうな話だ。

「どうだっ、俺も凄いだろ!」
 女子二人に誇らしげなヤン。
 『』というのは、まぁつまりそういう意味なんだろうけど……

「すごいよヤン君、やっぱり上手だよねぇ。
 ね、ヒガラちゃん」
 うん、やっぱりツグミちゃんは良い子だなぁ。
 僕にはマウントを取りたいだけにしか聞こえてこない。

「あら、私だってすぐにできるようになるわよ。
 それよりも、クロウの方が凄いんじゃないの?」
「えっ? な、なんで僕?」
 ヒガラお嬢様……頼むからこっちを見ないでください……
 ヤンの視線も痛いです……ホントごめん……

「男子、次は誰が行くんだ?」
 みんな、ヤンの上手い魔法制御を見て、二番手は恥ずかしいようだ。

「じゃあ、僕が行きます」
 誰も行かないのなら仕方ない。
 いつまでもごまかしていても、隠し通せるものではないし……

「なるべく勢いよく……ドリンクバーの水よりもっと勢いよく出せばもしかしたら……」
 スタート位置に立つと、少しだけ緊張してしまう。

 そういえば、水をレーザーみたいにして石を切る動画とかあったよなぁ……
 それくらい勢いよく出せたら届くかなぁ?

 僕が走り出して、1個目の的が近づいてくる。
 そして僕は、的にめがけて水を出してみた。

 チュインッッ!!

「…………え?」
 的の向こうにあった石の壁の汚れが、水の当たった一部だけ落とされて白く見えている。
 小さな的も勢いでポッキリと折れて、中庭は一瞬にして静寂に包まれてしまったのだった……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話

ルジェ*
ファンタジー
 婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが─── 「は?ふざけんなよ。」  これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。 ********  「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください! *2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...