【未完】ファミレス転生 〜デザートはケモノ成分大盛りで〜

紅柄ねこ(Bengara Neko)

文字の大きさ
3 / 67

それは旨味を含んでいるからなのです

しおりを挟む
「お母さん、今日も市場に行きたいっ」
 そんなわがままを言っている僕は、もう5歳になっていた。
 身体はまだまだ小さいけれど、歩くことも喋ることにも不自由はしない。

 強いて言うなら、難しい言葉を知っているものだから、余計な事を喋るとすぐに問い詰められることくらいだろうか。

 そんな事を思うと、僕の表情は少しだけ暗くなってしまった。

「あらあら、クロウは本当に市場が大好きよねぇ。
 でも、んー……どうしようかしら……」
 母が僕の頭を撫でる。

 家にいても正直面白いことは少ないのだ。
 魔法は使えないしスキルも未だに使い方がわからない。
 やることといったらトレーニングをしてステータスを上げることくらい。

「良いじゃねーか、それより昨日の料理は美味かったぞカナリー。
 今日も美味しいのを頼むなっ!」
「もうっレイブンったら……
 今月はあんまり余裕がないのよ?」

 そう、僕の家はそれほど裕福ではない。
 だから、本当は余計な買い物は控えたいはずなのだ。

「しょうがないわね……
 クロウ? 今日は余計なものは何も買わないからね」

「うんっ、わかった!」
 そうは言ったところで、実はわかりたくはない。

 質素な生活は構わない。
 ただ問題があって、料理の味がどうにも口に合わないのだ。
 塩が入っていないとか、毎日同じ食材というわけではない……

「母さん、これ食べたいっ!」
 市場に着いた僕は、早速お目当ての食材を見つけてしまった。
 視界が低すぎて、なかなか探すのに骨が折れるのだが、僕は運が良いようだ。

「あのねぇ、これは保存食なのよ?
 今日食べたいって言っても、すぐに食べられるようなものじゃありません」
 そりゃあこの世界では保存食なのだろうけれど、僕の中ではそうではない。

「本当に……乾燥したキノコなんて、何に使えば良いのかしら……」

 どうにもこの世界には旨味は知られていないようだ。
 昨日はイノシン酸とグルタミン酸の含む食品を見つけていた。
 というか、野菜と肉なのだが。

 いつもいつも野菜だけのスープだったりで、どこか味気ないと思っていたのがようやくわかったのだ。

『アミノ酸が足りないっ!』
 なんて、この世界で口にするわけにもいかず、僕は市場について来ておねだりするだけである。

 そして今回はグアニル酸を含む食品を見つけることができた。
 家計がキツイのに、いつまでも肉を旨味成分の為に使うのは勿体無い。
 鰹節でもあればいいのだけど、あいにく乾燥した魚は一夜干しみたいなものばかりだった。

「まったくもう……キノコだから高いものじゃないけれど、全然わかってないじゃないの……」
 少しだけムスッとする母は、やはり可愛らしい。
 いつも通り料理に使う野菜も買い満足した僕は、母と共に家に戻ろうとしていた。

「見ろよほらっ、水流!」
 僕よりも少し大きい子供たち。
 市場の脇で、集まって生活魔法を見せ合っているみたいだ。

「どうしたの、クロウ?」
 その様子を少しだけ眺めていると、手を繋いでいた母はそんな僕が気になってしまったようだ。

「ううん、なんでもないよ」
 正直に言うべきかとは思ってしまった。
 僕が魔法が使えないかもしれないことを。
 
 女神様が言っていた『スキル』とかいうのも、まだステータスにも表示されない。
 だから当然使い方もわからなかったのだ。
 もしかして女神に騙されているのだろうか……

 少しだけ寂しい気分になりつつも、僕は帰宅して早々、干しキノコをカゴから取り出して水に浸けてもらっていた。

「保存食なのに、今日食べちゃうの?」
「うん、今からなら晩ご飯には食べられるでしょ?」

 母とそんな事を話してから、僕はしばらくトレーニングをしていた。
 反復横跳びとか腕立て伏せとか。

 何やってんだと笑われそうではあるが、ステータスとして見えてしまえば、きっと地球に住む人たちもやりたくなるに違いない。

「ふぅ……攻撃力はやっと100になったか……」
 僕のこの身体でこの数値。
 多分、大人の冒険者なら平均値は1000前後だろうか?

 前世の僕の握力は40キロくらいだった。
 今の僕、5歳児にしては強いだろうけれど、それでも10キロないくらいだろう。

 まぁそれはともかく、そろそろ干しキノコも水で戻っている頃。
 僕はキッチンに近づいて、入れておいた容器を覗き込んでいた。

「……あれ?」
 しかし中身は空っぽだ。
 母に聞くと、もう既に煮込み始めていると言う。
「だって、早く作り始めなくちゃ、レイブンが帰ってきちゃうじゃないの」

 母の言う通り……僕は調理にかかる時間なんかはほとんど考えていなかったのだ。

 その日の食事は、やはり今ひとつ。
 出汁の味に慣れてしまっていた僕には、この世界の料理はどうにも物足りない……

「うん、いつもの美味しいスープじゃないか。
 クロウは一体どうしたんだ?
 あまり手が進んでいないようだが……」
 料理を食べ進める父の表情は変わらず笑顔である。
 が、僕は納得いっていない。

「なんでも干しキノコを戻す為に使った水を捨てちゃったから。
 それで少し拗ねているみたいなのよ……」

 いいや、拗ねてなんかはいない……
 ただちょっと、残念な気分になっただけだ……

 そう思いながら、僕はやっぱり拗ねてしまっていたのだった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...