上 下
1 / 67

転生ボーナスは一つだけみたいです

しおりを挟む
 俺の名前は『三波 烏(クロウ)』、歳は25で就職活動中。
 この歳で未だに内定を頂いた事はない。

 理由はお察しの通り。名前のことを面接で聞かれることが多いのだから、やはり変わっているのだろう。
 カッコいいとは思うのだが、周りの意見はそうではないようだ。
 ただ自分で自分の名前を否定してしまうのは違うだろうし、正直好きな方ではある。

 親だって考えて付けてくれたのだろう、別に就活で苦労しているからって恨んだりはしていない。

『からす君……かね?』
『いえ、カラスと書いてクロウと読みます』
『ハハッ、そいつは本当にクロウしそうな名前だね』

 何度かそんなやりとりがあったが、そんなダジャレを言われても、俺は苦笑いを浮かべるしかないだろうが。

 残念だが今回も面接の選考で落ちるのだろうな。
 諦めたくはないが、何度も経験しているとどうしてもそんな気持ちになってしまう。

 今日も面接帰りに近所のファミレスへ。
 家に帰っても両親は仕事で家にいなかったし、俺もアルバイトでわずかばかりにお金を稼ぐ程度。
「ねぇ弥生~、ここんとこ寝癖ついてるよ」
「えっ嘘っ⁈ ごめん明香っ、ちょっと鏡見てくるっ」

 なんだか楽しそうにしている二人組は女子大生だろうか?
 高級なレストランや遊びを満喫するほどの余裕もなかったし、おかげで彼女などできたこともない。

 少しだけ、そんな二人組を羨ましく思ってしまう。

「お客様、御注文は決まりましたか?」
「あ、えっと……直火焼きハンバーグ……」

 入店して、ボーッとパンフレットを眺めていたら店員に声をかけられて……
 『今日も失敗したなぁー』なんて思い耽っていたから、痺れをきらした店員が注文を取りに来たのだろう。
ただ、この後起きたことを僕は全く理解できていなかった。

「……の、スープとサラダセット。
 ドリンクバー付きでお願い」
 手にはメニュー表があって、俺は注文を終え顔を上げる。
 いわゆるサラダバー。資格のパンフレットでも眺めながら、夕暮れ時まで静かに食事をしていようと思っていたのだが……

「ドリンクバー……??」
 俺の横には、見たことのない店員が立っていた。
 白い衣装で、金髪の綺麗な女性が首を傾げて『はぁ?』とでも言いたげだ。
 いつからこんな美人を雇ったのだろうかと思ったくらいである。

「なんかよくわかんないけど、あのお店にあったやつのことよね。
 うーん……スープとサラダ? ……も、ついて一式かぁ……」

 ……美人の店員! と感じたのは一瞬だけ。
 それ以上に驚くことに気付いてしまった。
 大きく後ろに振り返り見回したところ、いつの間にかここは店ではない。

「わかった、じゃあアンタのスキルはそれで決定ね」
 ……はい? この女は一体、何を言っているんだろうか。

 しかも呆けていた俺に、続けて女は言った。
「そうそう、説明が後になっちゃったけど、アンタ死んじゃったから。
 まぁ、魔法世界の召喚技術もまだまだ発展途上だしね」

「ごめん、よくわかんないんだけど……」
 メニュー表を持ったまま、僕は女に尋ねる。
 何かの夢じゃないかと思いながら、視線は目の前のメニュー表にあった間違い探しへと。
 もちろん探そうなどという気にはなれないが……

「だからさぁ……」
 俺の理解が追いついていないことなど一切無視。
 ペラペラと説明は続き、俺も混乱しつつも理解する努力は行った。
 そして女が言うことを要約すると、こういうことらしい。

 俺を、というよりも異世界の者を召喚しようとした異世界人がいた。
 世界を跨ぐには、まだまだ技術が発展しておらず、結果僕の精神は次元の狭間でぐちゃぐちゃにされてしまったそうだ。

 日本にいた俺は、心肺停止で病院に運ばれ、すでに火葬されているらしい。
 じゃあここにいる俺は一体なんなのだと。

「次元の狭間で引っかかってもらっても迷惑なのよ。
 呼ばれてるんだから、さっさとあっちの世界に行ってきなさいよ」

 そしてこの女、この辺りのいくつもの世界を統括している女神らしい。
 ぐちゃぐちゃになった俺の魂を修復して、今に至るそうだが……

「いやいや、だったら日本に戻してよっ。
 女神様ならそのくらい余裕でしょ?」
 必死に訴える俺。
 漫画や小説の続きも知りたいし、異世界になんて行ったら、きっと車もテレビも無いに違いない。

「別にいいけど、もうアンタに力を与えちゃったし、地球に戻ってもまともに生活できないかもよ」
 付け加えて女神は、俺が死んでからすでに10年以上経っているという。

 女神的には10年が一瞬でも、今の俺が日本に戻ったところで『戸籍はどうするのだ?』『また親に心配かけるのか』と。

 そう言われて、少しでも『確かにな……』なんて思ってしまったのが悪かった。
「でしょ、じゃあ行ってらっしゃい」
 トンっ、と背中を押され、俺の身体は再び時空の狭間へと吸い込まれていったのだった。

「あ……肉体は用意してあげられないから、今から命を宿す予定の胎の子に入れてあげるからねぇ」
 すでに時空の向こうへと落ちていったクロウには、その女神の声は聞こえていないのだった。

「なんか……やっぱり不安だから、しばらくはスキルも封印しておこうかしら……
 力を使うのって疲れるんだから……特別だよ」

 そしてこのスキルの封印が、クロウの肉体に大きな負荷を与えてしまうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

処理中です...