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1章 ダンジョンと少女
テイマーバトル
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「さぁさぁお待ちかね、テイマー同士による魔物の殺し合いの始まりだぁぁ!!」
「待ってたぞー!」
「やれー! いてこませー!」
会場はさらに熱気に包まれていく。
このテイマー同士の戦いが人気なのは、遠慮のない死合が見られるからである。
人同士では、どうしても手加減が入ってしまうのだが、それが魔物同士ならば誰も躊躇することもない。
強いて言うならば、せっかく仲間にした魔物を殺されるリスクを負うかどうかということ。
「さぁさぁ、次は注目の少女が登場だぁ!
歳はわずか12歳、歴代最年少のテイマーが操るのは長耳の小悪魔、レプロだぁぁ!!」
いやに気合の入った紹介である。
それだけ注目されていたのだろうが、どうにもやりづらいと思う凍花だった。
試合開始の笛の音が鳴り、オオトカゲがズンズンと迫ってくる。
一撃必殺の『捨て身アタック』が持ち味で、反動のダメージを受けるものの、威力は他のスキルに追随を許さない。
あっという間に魔物同士の距離は迫っていて、凍花も少々焦ってしまった。
「モフ君、リフレクション!」
物理攻撃をさらに強力にして跳ね返すスキル。
本当は後々まで使わずに温存するつもりであったが、焦って段取りはめちゃくちゃになってしまった。
飛んでいき場外に落ちたオオトカゲは、あっという間に弾け飛んで消える。
レプロになんて負けるわけがないと思っていた相手は、もちろん大抗議するのだが、それを行ったところで勝敗は覆ることはない。
そもそも再戦とでもなったとして、魔物はもう消えたのだから戦いようはないという話である。
見たことのない試合の結果に、しばらく会場は静まり返ったが、ドラーニアがパチパチと手を叩き始めると周りも一斉に拍手をしてくれた。
「ありがとうございます。ドラーニアさんの魔法、すごかったです」
一回戦を終えた凍花は、それを見ていたドラーニアの元へ駆け寄る。
「ふむ、人はこうやって相手を褒め称えるものだと思ったのだが」
「いえ、合ってるんですけど、ちょっと驚かせちゃったみたいですね」
「ん? 今の試合に何か驚く要素があったのか?」
「えーっと……」
これで確定である。
ドラーニアに勝てる見込みなど微塵もありはしない。
おそらく人間の常識なんてありはしなくて、こんな大会、飼い犬が吠えて戯れあっている程度の認識なのだろう。
試合の続きを観戦していると、やはりテイマーの扱う魔物たちは街周辺に生息するものが多い。
それも個体差はあるものの、育成や成長といった要素は感じられることはない。
「トウカよ。お主、今の自分のレベルはわかっているのか?」
「え……っと、28ってなってます」
ステータスカードの数値など久しぶりに見た気がする。
確かにレベルが上がれば召喚した魔物への振り分けできるステータスも上昇するが、毎度毎度少しずつなので特に気にしたことがないのだ。
「さっきから感心しながら見ておるが、出てきた魔物は全部10以下だぞ?
一番レベルの高い奴でも、アタシが戦っていた肉ダルマで16だったな」
ずっと『すごいすごい』と言いながら観戦していた姿をドラーニアは見ていたらしい。
いくら種族がレプロであっても、それだけのレベル差があっては勝負にもならないだろうと言うのだ。
「そうだな、ハンデじゃないが相手の攻撃を一度くらいは受けてやれ。
さっきみたいに静まり返った試合は好かん」
「えぇ……大丈夫なんでしょうか?」
「心配なかろう? 別に素早さに全振りしているとかではないんだろう?」
「そりゃまぁ少しくらいは……」
うすうす気付いてはいたのだが、やはりドラーニアは他人のステータスを視ることができるようだ。
レプロは元々素早さ特攻型で、後から少しだけ他のステータスにも振り分けている。
そして凍花は言われた通り、2回戦の試合でわざとダメージを受けることになったのだ。
「行けっニクス! 速攻だ!」
『キュィィィ!!』
素早い動きと迫力に圧倒され、凍花はレプロに跳んで逃げるように指示。
再び飛翔するニクスを追いかけて、スキル『跳躍』を使って追いかけた。
「トウカ!」
ドラーニアの言葉が飛んでくる。
面白くないとでも言いたげなそれは、凍花にものすごい緊張感を与えてくる。
「うぅ……わかりましたよぉ……」
レプロはニクスの背中に乗ったと思うと、再び跳んで地面に舞い戻った。
その謎の行動に、再び会場は騒めく。
「なっ……ニクス! ファイアーボールだ!
黒焦げにしてしまえ!」
次の攻撃をわざと受けることにしたのだが、そこでまさかの魔法が飛んでくるとは思わなかった。
生唾を飲んで、しばしの間の我慢。
(だ、大丈夫だよね?)
湖畔でも魔物の攻撃は全て避けていた。
なのでレプロは攻撃を受けること自体が未経験なのだ。
念のために魔法耐性は付けていたから、自信がないわけではないが……
魔法が着弾すると大きな火柱になってレプロを襲う。
それを見た観客は、さすがに勝負が決まったと言い出して盛り上がる。
「ど、ドラーニアさん……」
凍花は『本当に大丈夫なの?』と言いたげな様子でドラーニアを見るが、そこで見たのはまさかの欠伸をする姿。
とりあえず凍花はレプロの状態を確認することにした。
体力はまだ全然減っておらず、リフレクションと跳躍がクールタイム中。
火柱が落ち着くと、そこには無傷のレプロが現れて会場は再三騒めいた。
さすがにもう反撃してもドラーニアは怒らないだろう。
しかし、相手は空を飛んでいるため攻撃が届きそうにない。
「決勝までは少し時間が空くみたいだし、使っちゃっていいかな?
……よしモフ君、アローレイン!」
スッと立ち上がったレプロの手に光が集まっていく。
スキルによる弓状の武器が出現し、ゆっくりとレプロが動作を開始したその瞬間……
「ま、参った! ひぃっ、やめてくれ!」
あまりに呆気ない幕切れに、凍花もレプロもしばらくの間棒立ちであった。
「待ってたぞー!」
「やれー! いてこませー!」
会場はさらに熱気に包まれていく。
このテイマー同士の戦いが人気なのは、遠慮のない死合が見られるからである。
人同士では、どうしても手加減が入ってしまうのだが、それが魔物同士ならば誰も躊躇することもない。
強いて言うならば、せっかく仲間にした魔物を殺されるリスクを負うかどうかということ。
「さぁさぁ、次は注目の少女が登場だぁ!
歳はわずか12歳、歴代最年少のテイマーが操るのは長耳の小悪魔、レプロだぁぁ!!」
いやに気合の入った紹介である。
それだけ注目されていたのだろうが、どうにもやりづらいと思う凍花だった。
試合開始の笛の音が鳴り、オオトカゲがズンズンと迫ってくる。
一撃必殺の『捨て身アタック』が持ち味で、反動のダメージを受けるものの、威力は他のスキルに追随を許さない。
あっという間に魔物同士の距離は迫っていて、凍花も少々焦ってしまった。
「モフ君、リフレクション!」
物理攻撃をさらに強力にして跳ね返すスキル。
本当は後々まで使わずに温存するつもりであったが、焦って段取りはめちゃくちゃになってしまった。
飛んでいき場外に落ちたオオトカゲは、あっという間に弾け飛んで消える。
レプロになんて負けるわけがないと思っていた相手は、もちろん大抗議するのだが、それを行ったところで勝敗は覆ることはない。
そもそも再戦とでもなったとして、魔物はもう消えたのだから戦いようはないという話である。
見たことのない試合の結果に、しばらく会場は静まり返ったが、ドラーニアがパチパチと手を叩き始めると周りも一斉に拍手をしてくれた。
「ありがとうございます。ドラーニアさんの魔法、すごかったです」
一回戦を終えた凍花は、それを見ていたドラーニアの元へ駆け寄る。
「ふむ、人はこうやって相手を褒め称えるものだと思ったのだが」
「いえ、合ってるんですけど、ちょっと驚かせちゃったみたいですね」
「ん? 今の試合に何か驚く要素があったのか?」
「えーっと……」
これで確定である。
ドラーニアに勝てる見込みなど微塵もありはしない。
おそらく人間の常識なんてありはしなくて、こんな大会、飼い犬が吠えて戯れあっている程度の認識なのだろう。
試合の続きを観戦していると、やはりテイマーの扱う魔物たちは街周辺に生息するものが多い。
それも個体差はあるものの、育成や成長といった要素は感じられることはない。
「トウカよ。お主、今の自分のレベルはわかっているのか?」
「え……っと、28ってなってます」
ステータスカードの数値など久しぶりに見た気がする。
確かにレベルが上がれば召喚した魔物への振り分けできるステータスも上昇するが、毎度毎度少しずつなので特に気にしたことがないのだ。
「さっきから感心しながら見ておるが、出てきた魔物は全部10以下だぞ?
一番レベルの高い奴でも、アタシが戦っていた肉ダルマで16だったな」
ずっと『すごいすごい』と言いながら観戦していた姿をドラーニアは見ていたらしい。
いくら種族がレプロであっても、それだけのレベル差があっては勝負にもならないだろうと言うのだ。
「そうだな、ハンデじゃないが相手の攻撃を一度くらいは受けてやれ。
さっきみたいに静まり返った試合は好かん」
「えぇ……大丈夫なんでしょうか?」
「心配なかろう? 別に素早さに全振りしているとかではないんだろう?」
「そりゃまぁ少しくらいは……」
うすうす気付いてはいたのだが、やはりドラーニアは他人のステータスを視ることができるようだ。
レプロは元々素早さ特攻型で、後から少しだけ他のステータスにも振り分けている。
そして凍花は言われた通り、2回戦の試合でわざとダメージを受けることになったのだ。
「行けっニクス! 速攻だ!」
『キュィィィ!!』
素早い動きと迫力に圧倒され、凍花はレプロに跳んで逃げるように指示。
再び飛翔するニクスを追いかけて、スキル『跳躍』を使って追いかけた。
「トウカ!」
ドラーニアの言葉が飛んでくる。
面白くないとでも言いたげなそれは、凍花にものすごい緊張感を与えてくる。
「うぅ……わかりましたよぉ……」
レプロはニクスの背中に乗ったと思うと、再び跳んで地面に舞い戻った。
その謎の行動に、再び会場は騒めく。
「なっ……ニクス! ファイアーボールだ!
黒焦げにしてしまえ!」
次の攻撃をわざと受けることにしたのだが、そこでまさかの魔法が飛んでくるとは思わなかった。
生唾を飲んで、しばしの間の我慢。
(だ、大丈夫だよね?)
湖畔でも魔物の攻撃は全て避けていた。
なのでレプロは攻撃を受けること自体が未経験なのだ。
念のために魔法耐性は付けていたから、自信がないわけではないが……
魔法が着弾すると大きな火柱になってレプロを襲う。
それを見た観客は、さすがに勝負が決まったと言い出して盛り上がる。
「ど、ドラーニアさん……」
凍花は『本当に大丈夫なの?』と言いたげな様子でドラーニアを見るが、そこで見たのはまさかの欠伸をする姿。
とりあえず凍花はレプロの状態を確認することにした。
体力はまだ全然減っておらず、リフレクションと跳躍がクールタイム中。
火柱が落ち着くと、そこには無傷のレプロが現れて会場は再三騒めいた。
さすがにもう反撃してもドラーニアは怒らないだろう。
しかし、相手は空を飛んでいるため攻撃が届きそうにない。
「決勝までは少し時間が空くみたいだし、使っちゃっていいかな?
……よしモフ君、アローレイン!」
スッと立ち上がったレプロの手に光が集まっていく。
スキルによる弓状の武器が出現し、ゆっくりとレプロが動作を開始したその瞬間……
「ま、参った! ひぃっ、やめてくれ!」
あまりに呆気ない幕切れに、凍花もレプロもしばらくの間棒立ちであった。
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