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1章 ダンジョンと少女

使徒

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 ドラーニアはかなり昔より存在するダンジョンコアである。
 しかし安定化できる存在ではなく、いつまでもダンジョンとして存在ありつづけている。

「安定化というのが、森の小鳥や虫のような存在のことですね」
「ねぇドラジェさん。
 よくわかんないから、もういいよ」

 ニクスを倒しても実体化したままにする方法、つまりニクスの肉の入手方法を聞いただけなのだ。
 『ではその前に魔物の歴史から……』などと言われて今に至る。

 ただでさえ召喚したニクスをわざわざ倒さなくてはいけないという、動物好きの凍花にとっての苦行。
 それでも『やれ』と言われたら渋々でもやってしまうのは妥協ということなのだろうか?
 スライムを使い捨てていた時から、素質はあったということか?

 これがゲーム画面ならきっと『バグ技発見』とか思いながら倒しまくって素材を入手するのだろうが……
「……まぁいいですよ。
 召喚した魔物からドロップアイテムを得る方法ですが、通常の魔物と同様にマテリアが影響しています」
「マテリアって、魔物にスキルを習得させる時に消費するやつだよね?」
「それは貴女のスキルですので、詳細は知りませんが。
 物質を固定化する概念というのでしょうか?
 そこにあって、そこに無いものが魔物なのですよ」

 言っている意味はさっぱり理解できなかったが、要約すると魔物はエーテルの塊でマテリアを取り込んで徐々に実体化していくとのこと。
 魂が現世に肉体を求めているイメージなのだろうか?

「ですのでマテリアを与えて召喚すれば、倒された後も姿は残りますよ。
 そうでなくては、復活させることもできないじゃないですか」
 いちいち面倒くさいドラジェの発言だが、ステータスカードとにらめっこしながら試行錯誤するよりはよほど楽である。
 ドラジェの教えのもと、凍花は試しにスライムにマテリアを与えて召喚を試してみた。

 スキルも覚えないのに、せっかくのマテリアを注ぎ込むなんて発想は凍花には無い。
 ステータスの底上げとスキルを覚えさせるくらいしか触ったことがないのだ。
 だから、ここに素材を投入したり、魔物ではないを作成することなど理解もしていない。

 そんな中現れたのは、何一つスキルを覚えさせていない、ぷるぷると動くスライム。
「じゃあ倒してみましょうか」
 表情も変えずにドラジェは凍花にそう指示をした。
「私がやるんですか……?」
「他に誰がやるのですか?」

 召喚させておいて倒せなどと、よく簡単に言えたものである。
 しかしながら魔物に倫理観を求めるのも間違っているのだろうが……

 スライムを短剣で刺すと、プルプルと身を震わせたのちに動かなくなった。
 せっかく新調した新しい剣だったのに、まさか最初の獲物が我が子スライムになってしまうとは……

「ちゃんと固定化はできたようですね。
 そんな感じでニクスも用意しておいてくださいね。
 ドラーニア様が暴れでもしたら大変ですので……」
 ふっと遠い目をしたドラジェを見て、ドラーニアへの気苦労が感じられた凍花であった。

 ニクスの件はともかく、せっかくなのでとドラジェは召喚について知っている知識を教えてくれることになった。
 長いこと生きていると、自分が使えないにも関わらず『無駄な知識ばかり入ってくる』のだとボヤきながら授業は続いた。

 攻撃力と防御力、それに体力や素早さはわかる。
 しかし、器用さだとか精神力と言われても正直ピンとこない。
 運の数値など、もっと不明である。

「あとはダンジョンのレベルによって召喚できる魔物の強さの上限も上がっていくことですかね」
「あ、それは知ってる。
 後からでも強化できるから、トラのステータスはできるだけ上げてるもん」
「それも良いのですが、できればランクの高い種族を選んだ方が強いのですが……」
 寝そべるトラを見て、弱いとでも言いたげなドラジェ。
 魔物にやられてしまうのが嫌なだけで、別にトラに強さを求めているわけではない。

「妥協の使徒は、自身のステータスが上がらない代わりに様々なスキルの恩恵があると聞きます。
 パンテラなどという弱い種ではなく、もっと高ランクの魔物を召喚すれば良いのに……勿体無い」
 好きでトラと一緒にいるのに、ひどい言われようだ。

 というか、ゲームのようにレベルアップで強くなるんじゃないかと思っていたが、そんな隠し要素があったとは。
 そう思いつつも、自分では戦いたいと思っていない凍花は『まぁ別にいっか……』などと呟いたのである。
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