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1章 ダンジョンと少女

ダンジョン捜索

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「ラビっ?!」
 攻撃を弾かれてラビの身体は宙を舞う。
 魔物のスキルが物理攻撃を反射してしまうのだ。

 先程まで、その対策をしながら魔物を討伐していたのだから、ラビも知らないはずはなかった。
「トラ! 魔物は任せるわ!
 ……そこの男の人も冒険者なら早く倒しちゃいなさいよ!」
 立派そうな剣を持っているくせに、スライムよりもひ弱で腰のひけている冒険者に腹が立つ。
 とはいえ、今は文句など言っている余裕もない。
 凍花はスライムを召喚すると、すぐにラビへ回復魔法ヒーリングを使う。

 袖の長い服の右側が赤く染まっており、痛みで苦しそうな表情をしながらラビはうずくまっているのだ。
 服の袖で見えないが、肘の辺りからおかしな方向へと腕先は伸びている。

 ラビの人間離れした#本気の攻撃が全てその右腕に跳ね返ってきたのだろう。
 その__・__#あまりに痛々しい光景に、凍花もラビを直視できないでいる。

「ご……ごめんなさいお姉ちゃん……」
「別に謝ることじゃないでしょ……
 それよりほら、もう一度ヒーリング使うからジッとしてて」

 痛みもまだ残るようですぐには動けそうもないラビと、その手当てで凍花は余裕がない。
『ニャア』
 気付けばトラも魔物を退治して傍らに座って様子を見ているではないか。
「あぁ、そういう行動だけは早いのね。
 ……くっそ焼き滅ぼしたくなるわ」
 ラビが身体を張って助けたというのに、男は知らぬ間にFOフェードアウト

 しばらくその場で手当をしていたが、もちろん男が戻ることもなく、凍花の怒りは限界を超えていた。
「ありがとうお姉ちゃん……」
「いやぁ焦ったよラビ。
 でも、本当になんでも反射するんだね、あのスキル。
 ちょっとダンジョン探してみようかな?」

 ラビの全身はまだ泥だらけで、凍花の着ていたものも手当中に随分と汚れていた。
 しかし、いつもならばスライムを使って綺麗にするところを、この時は何もせずにダンジョンを探し始めた。

 いつもの違う雰囲気の凍花を見て、ラビも後ろを急いで追う。
 広大な土地に形状の不明な見たことのないダンジョン。
 当然普通に探したところですぐに見つかるわけもなく、凍花は様々な方法で位置を特定しようと試し始めた。

「とりあえずスライムを大量に放ってダンジョンを探すように命じたけど、できると思う?」
「わ、わかんないです……」
「じゃあ索敵スキルとか持ってる魔物やつを召喚すればいいのかなぁ?
 んー……これでどうだ」
『ココッコッコッコッ……』

 試しにステータスを極端に割り振った鶏の召喚を行う凍花。
「ポロ、ですね。この子がダンジョンの場所を知ってるんですか?」
「いやぁー……とりあえず別の方法を試そうかな」

 かなり大量のマテリアを消費したのだが、結果出来上がったのは元気の良いポロであり、攻撃系のスキルは持っていても索敵には役立ちそうもない。
 オークやスケルトンが役に立つとは思えないし、あとは最近追加されたフェアリーくらいだろうか?

 ステータス次第では魔法も覚えそうだし、その小さな身体が活かせるかもしれない。
 ただ、やはり狙ったスキルの持つ魔物の召喚というのは非常に難しい。
【鱗粉:対象一体に催眠効果を与える】
 フェアリーらしいスキルが発現するが、それと同時に怖くなってしまった凍花。

 催眠は成功率こそ高くはないものの、相手を混乱させて一時的に意のままに操る効果。
 そんなスキルを持っていたかもしれないフェアリーたちと森の中で戦闘を繰り広げていたのだ。
 たまたま相性が良く倒しやすかったか、はたまた鱗粉が失敗に終わっていただけか。運が良かったとしか思えない。

「そうだ、ちょっと試してみよっかな。
 ……よしっ、じゃあスライム。ダンジョンに戻りなさい」
 スライムを召喚し、凍花は命じてみる。
 命令がなければ特に動かず、少し経ってようやく気ままに行動しだす魔物だが、可能な行動であれば命じることでその指示通りに動かすことができる。
 その力が強く発動している時、言葉など関係なく意のままに操っていることに気付いたのは少し後になってからだったが。
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