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1章 ダンジョンと少女
ダンジョンコア
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ギルドには、柄の悪い冒険者ももちろんいる。
とは言っても賊のような悪さをする人たちではなく、粗暴な態度が表に出る程度のものだ。
凍花は少女の見た目で助かったと感じる時も無いわけではなかった。
若い男性が言いがかりをつけられて、殴られているシーンを見たこともあるからだ。
今日もまたそんなシーンを見ることになり、ギルド内の雰囲気は随分と悪い。
「はい。今日も薬草10束、規定量いただきました」
凍花は報酬を受け取ると、受付嬢に小声で話しかける。
「それにしてもゴンズさん、荒れてますね……」
「そりゃあまぁ、夜更けに村に魔物を引き連れてきた冒険者のせいで叩き起こされてますからね。
今日は近づかない方がいいですよ」
荒くれゴンズも、別に何の理由もなく他人に喧嘩をふっかけるわけじゃない。
ランク6の実力のある冒険者のため、村に危険が迫ると対処にあたることが多いのだ。
その原因を作ったのが己の実力を過信していた冒険者。
今朝まで殴られた頬を腫らしながら正座をしていたのだと受付嬢は教えてくれた。
「魔物はいつまでも追っかけてくるんだから、逃げる場合もちゃんと村の入り口で対処してもらうことよ。
パニックになったからって、門番の邪魔までしちゃって村の中に侵入を許したんだから怒られて当然」
「あはは……私も気をつけなきゃですね」
だが、よくない事は続くもので、凍花がギルドから出ようとすると一人の冒険者が勢いよくドアを開けたのである。
「大変だ!
新しくできたダンジョンから逃げてきた奴が大量の魔物を引き連れてきやがった!!」
ダンジョンとは、予兆なく突如として現れる魔物の巣窟。
深さも魔物の強さもまちまちで、通常であればギルドから調査のために人を差し向けるわけだが……
「そんな報告受けてないわよっ!
とっ……とりあえずギルド長に話してくるから、ゴンズさんっ!!」
「ちっ、寝不足だってのに……どこのどいつか知らんがぶっ殺してやる……」
あまりに急な話だったようで、受付嬢も焦るしゴンズもまた気が立っている。
緊急時に凍花に声がかかるはずもないのだが、心配になって村の入り口へと向かう凍花。
「絶対に通すんじゃないぞ!
キューブが必要なやつはこれを使え!」
「ウガァァ!!」
すでに魔物のいくらかは村の入り口にやってきており、冒険者との戦闘中である。
普段は見ない他人の戦闘と二足歩行の巨大豚軍団。よく聞くオークという魔物をリアルに見ると、少々不気味に感じる凍花である。
一人の冒険者がスキルで強力な一撃を放つと、そのクールタイム中は身を引いて後方から魔法を使う。
倒した魔物からドロップ品を拾う余裕もなく、次々やって来る魔物を相手にしなくてはいけなかったが、次第に集まっていく冒険者たちの方に数の優位が働き、徐々に騒ぎは収まるかと思えていた。
「おかしい……いくらなんでも多すぎるぞ。
まさか半端にダメージを与えたんじゃないだろうな……」
逃げ帰ってきた冒険者は剣を握ったまま後方で震えており、門番の男がその冒険者に尋ねていた。
「こ……壊せると思ったんだよ。
それに……スライムしか出ないダンジョンだったんだ。まさかこんなことになるなんて思ってなかったんだよ!」
ダンジョンは怒り、もはやコアを破壊するしか手はないのだと周囲はざわつき始める。
とはいえ、一人や二人でどうにかなる相手でもなく、コアの破壊を優先すれば村が危険だなんて議論は始まった。
「私がここで魔物を押さえてるから!
みんなはダンジョンコアを破壊しちゃってください!」
身長は140センチそこそこの少女。
いつの間にか何十というスライムを周囲に従える謎のスキル持ちの少女は言う。
それぞれのステータスは現状可能な限り上げていたし、時間稼ぎは間違いなく可能である。
足りなければ新たに召喚すれば良いのだし、召喚のクールタイムも10秒程度。
「テバちゃん?!
だ……大丈夫なのか?」
「任せてくださいよアレンさん!
こう見えて、この子たちも強いんですから」
凍花が命令を下すと、スライムたちはオークの前に立ちはだかり水弾を放つ。
だがオークもそれでやられるわけではない。
力の限り振り回した腕がスライムを吹き飛ばし、一撃で3匹のスライムが消滅。
だが、それしきの攻撃では凍花は止まらない。
新たに召喚、スキル水弾およびステータス強化。
個々が冒険者よりは弱くても、もはや数の暴力である。
「無理はするなよテバちゃん!
おいっ、実力のあるやつはコアの破壊に向かうぞ!」
アレンもこの村では相当な実力者で、指揮を取れば多くの冒険者が従うくらいであった。
あまり関わることもなかったため、本当の実力を初めて知ることとなった凍花である。
ーーそして数十分が経った頃。
遅れてやって来たサラは村に残り、魔物の討伐に加勢していた。
コアの暴走は初体験だそうで、ぶつくさと文句を言いながら魔法を放っていた。
「はぁー……嘘でしょ?
コアが破壊されない限り続くんだこれ……」
「コアの自衛行動らしいですよ。
ダメージを受けると次々と魔物を発生させるから、いち早く破壊するのが最善策って言ってましたし。
オーク5体にスライム40体ほどの戦闘を遠目に見ながら、二人は話していた。
普段は少しずつ魔物を生み出すダンジョン自体という存在もまた生きている。
ダメージを受ければ、生きるために外敵を追い出そうとする行動が結果としてスタンピードと呼ばれているそうである。
さらに数分もするとオークは最後の1匹となっていた。
スようやくスタンピードの終わりを感じた凍花とサラだったが、物事はそう簡単には終わりを告げてはくれないものである。
「やべぇのが村に向かってるんだ!」
それがダンジョンから戻った一人の冒険者の放った一言であった。
とは言っても賊のような悪さをする人たちではなく、粗暴な態度が表に出る程度のものだ。
凍花は少女の見た目で助かったと感じる時も無いわけではなかった。
若い男性が言いがかりをつけられて、殴られているシーンを見たこともあるからだ。
今日もまたそんなシーンを見ることになり、ギルド内の雰囲気は随分と悪い。
「はい。今日も薬草10束、規定量いただきました」
凍花は報酬を受け取ると、受付嬢に小声で話しかける。
「それにしてもゴンズさん、荒れてますね……」
「そりゃあまぁ、夜更けに村に魔物を引き連れてきた冒険者のせいで叩き起こされてますからね。
今日は近づかない方がいいですよ」
荒くれゴンズも、別に何の理由もなく他人に喧嘩をふっかけるわけじゃない。
ランク6の実力のある冒険者のため、村に危険が迫ると対処にあたることが多いのだ。
その原因を作ったのが己の実力を過信していた冒険者。
今朝まで殴られた頬を腫らしながら正座をしていたのだと受付嬢は教えてくれた。
「魔物はいつまでも追っかけてくるんだから、逃げる場合もちゃんと村の入り口で対処してもらうことよ。
パニックになったからって、門番の邪魔までしちゃって村の中に侵入を許したんだから怒られて当然」
「あはは……私も気をつけなきゃですね」
だが、よくない事は続くもので、凍花がギルドから出ようとすると一人の冒険者が勢いよくドアを開けたのである。
「大変だ!
新しくできたダンジョンから逃げてきた奴が大量の魔物を引き連れてきやがった!!」
ダンジョンとは、予兆なく突如として現れる魔物の巣窟。
深さも魔物の強さもまちまちで、通常であればギルドから調査のために人を差し向けるわけだが……
「そんな報告受けてないわよっ!
とっ……とりあえずギルド長に話してくるから、ゴンズさんっ!!」
「ちっ、寝不足だってのに……どこのどいつか知らんがぶっ殺してやる……」
あまりに急な話だったようで、受付嬢も焦るしゴンズもまた気が立っている。
緊急時に凍花に声がかかるはずもないのだが、心配になって村の入り口へと向かう凍花。
「絶対に通すんじゃないぞ!
キューブが必要なやつはこれを使え!」
「ウガァァ!!」
すでに魔物のいくらかは村の入り口にやってきており、冒険者との戦闘中である。
普段は見ない他人の戦闘と二足歩行の巨大豚軍団。よく聞くオークという魔物をリアルに見ると、少々不気味に感じる凍花である。
一人の冒険者がスキルで強力な一撃を放つと、そのクールタイム中は身を引いて後方から魔法を使う。
倒した魔物からドロップ品を拾う余裕もなく、次々やって来る魔物を相手にしなくてはいけなかったが、次第に集まっていく冒険者たちの方に数の優位が働き、徐々に騒ぎは収まるかと思えていた。
「おかしい……いくらなんでも多すぎるぞ。
まさか半端にダメージを与えたんじゃないだろうな……」
逃げ帰ってきた冒険者は剣を握ったまま後方で震えており、門番の男がその冒険者に尋ねていた。
「こ……壊せると思ったんだよ。
それに……スライムしか出ないダンジョンだったんだ。まさかこんなことになるなんて思ってなかったんだよ!」
ダンジョンは怒り、もはやコアを破壊するしか手はないのだと周囲はざわつき始める。
とはいえ、一人や二人でどうにかなる相手でもなく、コアの破壊を優先すれば村が危険だなんて議論は始まった。
「私がここで魔物を押さえてるから!
みんなはダンジョンコアを破壊しちゃってください!」
身長は140センチそこそこの少女。
いつの間にか何十というスライムを周囲に従える謎のスキル持ちの少女は言う。
それぞれのステータスは現状可能な限り上げていたし、時間稼ぎは間違いなく可能である。
足りなければ新たに召喚すれば良いのだし、召喚のクールタイムも10秒程度。
「テバちゃん?!
だ……大丈夫なのか?」
「任せてくださいよアレンさん!
こう見えて、この子たちも強いんですから」
凍花が命令を下すと、スライムたちはオークの前に立ちはだかり水弾を放つ。
だがオークもそれでやられるわけではない。
力の限り振り回した腕がスライムを吹き飛ばし、一撃で3匹のスライムが消滅。
だが、それしきの攻撃では凍花は止まらない。
新たに召喚、スキル水弾およびステータス強化。
個々が冒険者よりは弱くても、もはや数の暴力である。
「無理はするなよテバちゃん!
おいっ、実力のあるやつはコアの破壊に向かうぞ!」
アレンもこの村では相当な実力者で、指揮を取れば多くの冒険者が従うくらいであった。
あまり関わることもなかったため、本当の実力を初めて知ることとなった凍花である。
ーーそして数十分が経った頃。
遅れてやって来たサラは村に残り、魔物の討伐に加勢していた。
コアの暴走は初体験だそうで、ぶつくさと文句を言いながら魔法を放っていた。
「はぁー……嘘でしょ?
コアが破壊されない限り続くんだこれ……」
「コアの自衛行動らしいですよ。
ダメージを受けると次々と魔物を発生させるから、いち早く破壊するのが最善策って言ってましたし。
オーク5体にスライム40体ほどの戦闘を遠目に見ながら、二人は話していた。
普段は少しずつ魔物を生み出すダンジョン自体という存在もまた生きている。
ダメージを受ければ、生きるために外敵を追い出そうとする行動が結果としてスタンピードと呼ばれているそうである。
さらに数分もするとオークは最後の1匹となっていた。
スようやくスタンピードの終わりを感じた凍花とサラだったが、物事はそう簡単には終わりを告げてはくれないものである。
「やべぇのが村に向かってるんだ!」
それがダンジョンから戻った一人の冒険者の放った一言であった。
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