上 下
6 / 9

残り口数

しおりを挟む
 異世界も娯楽に飢えていたのであろう。
 ガチャガチャも次々と新しい形のものが登場し始める。
 その最新のものがロッカータイプのものである。
 100ゴールドの自販機タイプが進化して、残りの当たりが見てわかるようになっているタイプだ。

「どうせ最後まで当たりなんか入ってねぇんだろ?
 新商品って煽っておいて、最初の方に回した俺らが馬鹿みてえじゃねえか」
 ハズレ181口で、当たり1口の時によく聞くクレームである。
 途中に小当たりも無いから、ハズレしか出ないガチャだと文句をつけられるのだ。

「俺なんてこの間は売り切れまで購入したってのにハズレしか入ってやがらねぇ。
 そうしたら『途中で出ることもありますから』だと?
 当たりの入ってねぇガチャガチャを放置してんじゃねえ!」
 回す以上は当たりが入っている前提で冒険者たちは回している。
 一応は小さい文字で『当たりがすでに出ている場合もあります』とは書いてあるが、さすがに30回も40回も回してハズレしか無かったら怒りたくなるのも無理はないのだろう。

 そういった声を無くすためにロッカーが導入されたのが最新ガチャである。
「へぇー、俺D賞のフレイムタンが欲しいぜ」
「いいじゃん、やってみろよ。
 もう当たり3つも出てるから、そろそろD賞も当たるんじゃねえ?」

 いくつものロッカーの中に景品が飾られていて、引換券が出てきたらロッカーが開く仕組みになっている。
 鍵が出てくるのが普通だろうと思われるのだが、異世界ではこれも魔道具で作られているからすごい。
 カード状の魔道具を番号の同じロッカーに触れさせると自動解錠されるのだから、まるでカードタッチタイプの電気錠である。

 そして、こういう新しい筐体が投入されたタイミングというのは狙い目でもある。

「さすがアリアさんだね。
 ロッカーの導入って結構お金かかったんじゃない?」
「まぁそれなりにね。
 でも楽で良いのよ。景品の補充も一度にまとめてできるし、引き換えはお客さんが勝手にやってくれるからね」

 自販機ガチャを4台並べて、景品はランダムで10種類。
 おそらく一番高い魔道具はどれかの自販機の一番最後に入っていると思われるのだけど、アリアさんの性格上、大当たりの入っている自販機には小当たりは弱めにしているはずである。

 冒険者たちが『新台だ』と盛り上がりながら何度も回し、当たりが出ていないことを確認してから一台の自販機にお金を投入し始める。

「さすがにローマ君でも、大当たりはすぐには出せないでしょー。
 今までの4倍入っているからね」
 カウンターからアリアが様子を眺めている。
 しかし、まずは小手調べでしかない。
 5回、6回。
 この辺りまではハズレを覚悟していたから何の問題もない。
 本番はここからである。

「おっ、小当たりかな。
 えっと……J賞か」
「あら、おめでとう。
 割と早く当たったじゃないの」
 当たり全10種でロッカー4つ目の当たり。
 8回目で出たものは一番安い600ゴールドの腕輪なのでマイナスである。

「あら、まだ続けるの?」
「うん。今日は運が良い気がするんだよね」
 4台の自販機ガチャのうち、1台はすでに売り切れている。
 2番目に効果なB賞は無くなっていて、おそらく売り切れになった自販機から出たのであろう。

 しばらく悩みながら様子を見た結果、50から60回で一つの当たりを出すのだと思われた。
 そして盛り上がっていた冒険者たちが持って帰った景品も1000ゴールド相当とかなり弱いところである。

 一台に入るガチャの数は182口なので、その内100口以上は無くなっている計算となる。
 A賞ならば3万ゴールドだが、C賞かD賞なら5000ゴールド程度になる。

 ハズレの券で引き換えられるポーションのことを考えても、C賞かD賞ではやや負けてしまう。
 だが……

「ローマ君、さすがにやめておいた方が良いんじゃないの?
 もう結構使ってるよ?」
「大丈夫ですよアリアさん。
 今日は2万ゴールド用意してきましたから」
「2万って、本気ねぇ」
 アリアは苦笑する。

 まだ3台も残っている内の、1台だけにひたすら集中してお金を入れる姿は子供らしくない。
 そして追加で7600ゴールドを入れた時に自販機ガチャは売り切れたのだ。

 中には引換券が入っていて、それを取り出したローマの姿を見届けるアリア。

「あのさぁ、ローマ君?」
「ん? どうかしたの、アリアさん?」
「いやさぁ、普通ってA賞が出たら大喜びすると思うんだけど。
 なんか無言でロッカーを開けられると不安になるというか……」
「いや、めっちゃ嬉しいですよ。
 僕、こんなレアな魔道具持ってないですし」
「一応持ってはいるのね。仕入れるの大変だったんだけどなぁ」

 思った以上に安く手に入った時は非常に嬉しいものである。
 ただ、騒がないのは当たりが出ることに慣れすぎてしまったからだ。
 少しくらい子供らしくしようと思うローマであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

戦乱の世は終結せり〜天下人の弟は楽隠居希望!?〜

くろこん
ファンタジー
他力本願×最弱無双!戦国時代を旅しよう! ノベルアップにて歴史累計1位の作品です、感想やコメント頂くと震えて喜びながら蒸発します。 『どうしてこうなった!?』 戦国時代 日本で起きた修羅の時代、私が知っている戦国時代では織田信長、豊臣秀吉、徳川家康が世を終結させた。 だが、今私が生きている世の天下人は今川義元。 え、それ兄貴なんですけどぉぉぉぉぉ!? それに、なんだか私の知ってる歴史とは色々と違いすぎて... もう勘弁だ!なんだこの世界は! 権力争い?反乱のチャンス? 知るか!私は旅に出るぞぉぉ! イラスト:ぴくる様 原作:くろこん

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

処理中です...