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しおりを挟む「君の肉体はもう存在しないよ」
白い空間で、私は浮いている光の玉が喋ることを聞いていた。
これは私に課せられた罰なのだそうだ。
そんなことを言われても思い当たる節はない……
普通に生活し、ちょっと普通じゃないバイトをしていただけなのだ。
「君の情報、そうだね……心をこの世界に移させてもらったよ。
心配しなくても心を入れる器はちゃんと用意してあげる。
きっと君みたいな人は、気に入ってくれるんじゃないかな?」
何を言われているのかわからない。
現実世界の私はもういない?
もうハンバーガーを食べたりケーキバイキングに行ったり、映画を見て友達と会話をすることもできないのだろうか?
私の罪をツラツラと述べられて、最初はアーリビルケドゥというモンスターに決定したようだ。
もちろんモンスターだから、冒険者に殺されることもある。
そのたびに再評価され新しい器へと心を移されるそうである。
「もちろん何度も痛い目に遭うでしょう。
ですが安心なさい。
貴方のような残虐な者であれば、すぐにこの世界の頂天に立つことができるでしょう」
残虐とはひどい言われようだ。
私の目的の為に、冒険者を後ろから刺しただけではないか。
それに、ここはゲーム世界であって現実ではない。
「貴方にとって現実ではなくとも、我々にとってはこの世界しかないのですよ?
私たちも生きています。
貴方たちが思い考えるように、私たちもまた同じようにこの世界で暮しているのです」
とにかく、もう私は現実には帰れないそうだ。
ゲームのクリアが現実に帰る方法だとばかり思っていた。
それは『試練を課せられているんだって』という、ある男性の教えてくれた言葉から、私が勝手にそう思ったことだった。
今頃モニターの前で私の事を知っただろうか?
悲しんでくれているのならまだ救われる。
もしくは、脱落してしまった私を見て幻滅しただろうか……
会話も終わり、私は平野に降り立つこととなった。
モンスターとして生きること。
可能な限り人々を恐怖に陥れること。
それが器を大きくする単純な方法である。
あれほど世界に住む人々の生活を説かれたというのに、やらされることは人殺しなのだ。
だが、それをしなくては器は次第に小さくなり、私は捕食されるだけの存在へと成り果てる。
とにかく子供を狙った……
泣き叫ぶ母の声が耳から離れなくなるまで、小さな集落を狙って深夜に家に押し入った。
その度に心は苦しくなり、ある時に私は冒険者の前に立っていた。
見つかってしまったのではなく、自ら『もう殺して欲しい』と願ってしまったのだ。
『く……苦しい……助けて……』
斬られた傷はとても痛く、胸辺りを刺されたせいか呼吸ができない。
冒険者は私のそんな姿を見て笑うのだ……
私は無抵抗で斬られたというのに、モンスターというだけでこんな扱いになってしまうのだ……
そして私は初めて光となって消えた……
「おめでとう、ずいぶんと気持ちのいい事をやってきたみたいだね」
何が気持ちのいいものか……
子供の柔肌に噛み付いた感触、泣く母の首元を切り裂いた感触……全てが不愉快で仕方ない。
「最初は人を殺せないって子が多いけど、やっぱり君は特別だね」
そう言われて私はスライムにされてしまった。
最弱の印象が強いスライムだけど、私の場合はハグレスライムだそうである。
ステータスも少し高く、その身体は民家にだって自在に入ることができてしまう。
謎の光の玉は、これでさらに人を恐怖に陥れるのだと私に言った。
どうやら本当にこの世界から、私の存在を消すことはできないのかもしれない……
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