スキル【合成】が楽しすぎて最初の村から出られない

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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9章《暗黒龍ニーズヘッグ》

6話

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『エリクシール』
 そう名付けられた小さな小瓶には、透き通った光り輝く液体が入っている。

 魔素の性質を理解すれば、これほどのアイテムが作れる。
 ……のは分かったのだが、絶対に僕では理解できないし、これを独学で調べた川内は一体何者なのだと思う。

「なんだ、思ったよりも簡単に作ったじゃねぇか」
 ヤマダさんが小瓶を持ち上げて揺らして見ている。
 今になって思うのだが、ユーグでも生み出せないアイテムを何故僕なら作れるかもしれないと思ったのか?

 それに違うよヤマダさん……それは川内の研究の結果なんだよ……
 でも、あれほど嫌っている人の記憶が僕の中にあることは言いたくない。
 下手をすればヤマダさんに殴られるんじゃないかとも思ってしまうからだ。

 まるで自分が研究してきたかのような気持ちにさえなってしまう。
 ついうっかりと喋ってしまいそうで怖いけれど、今までになかった新しい世界が見えているのだから興奮は仕方ない。

 世界樹への到着までは、まだ少し時間があるようだ。
 行ったことがあるヤマダさんだったら、一瞬で移動できそうなものなのだが。
 東の大陸へは魔素が薄すぎて転移できないが、世界樹は逆に周囲の魔素が濃すぎて転移ができないとか。

 意外と不便なのだと感じるが、それを利用したのが『エルフの秘術』というものらしい。
 魔族領に勇者、つまりアステアたちがやってきた時も、その秘術で転移をできなくしたらしいのだ。

 魔素の扱いには長けている種族で、人族よりも魔法が得意なのもそういう理由だと。
 いや、エルフは魔法が得意だなんて初めて聞いたよ。
 ミアだってエルフの血が入っているのに魔法は使えないって言うじゃないか。

「ダークエルフだし、力がないのよ。悪い?」
 そんなことを話していたら、ミアから睨まれた。
 本人も気にしているのだろう。
 どうもダークエルフが純粋なエルフから煙たがられる理由も関係していそうだった。

 しばらくは僕もアイテムを作っていた。
 空を飛んでみたいというコルンは、ピヨちゃんの背に登ろうとしたのだが、なぜか前脚で捕まえられて上空へ。
 見上げてみたら、まるで魔物に連れ去られているようにしか見えなかった。

 テセスは朝からずっと料理の準備をしている。
 準備というか、スキルを使って新しい料理を探しているのだろう。

 時折、ヤマダさんからアドバイスを貰いつつ、見たことのない料理が出来上がるたびに表情が明るくなる。
 インベントリ内にあるから、それがどんな料理かはユーグを助けた後のお楽しみなんだってさ。
 そう言って、どこかで見たことのある黒い飲み物を差し入れに来たっけ……

 苦いその飲み物は、意外にも緊張していた僕の気持ちを落ち着かせるのにちょうどいい飲み物だった。
 コーヒーといっただろうか?
 そりゃあエリクシールは完成したが、僕たちを待ち受けているのは世界樹に巣食う暗黒龍。

 各々、いつも通りのんびりとしているように思えてしまうが、実はそんなことはない。
 戦いになるか、それとも暗黒龍はどこかへ逃げていってしまうのか。
 そもそも世界樹を助けることができるのかも正直わかっていない。

 気持ちが少し落ち着いたと思ったら、僕の手はなぜか震えだす。
 考えないようにしていたことが頭を巡って、少し怖くなってしまったのだ。

 これまでの戦いでも何度も死にかけた。
 そんなことを思い出して、次はどうなるのかと不安でいっぱいになる。
 まぁ、一回は死んだような気もするが……

「そういえば、ヤマダさん?」
「なんだ、何か作りたいものがあるのか?」
 素材を広げて並べる僕を覗き込むヤマダさん。

「リバイブポーションだっけ、あれはもう持っていないって言ってたけど」
 死んだのか死にかけたのか、とにかく僕を蘇生した方法は何だったのか?

 ヤマダさんはそのアイテムを欲していたようだったし、川内の記憶が少しだけ残されていたもので、聞いてみたくなった。

「あぁ、ミアの力だよ。
 月光草の、身体に害のある魔素だけを消滅させるんだ」
 そんなことで生き返るものなのかと疑問ではあったが、大昔は普通にリバイブポーションの原料として使われていたらしい。

 今ではその月光草ですら貴重なものだから、あまり無駄にはできないのだけど。
 そういえば王都にいた兵士にかなりの数を使っていたミアを見たような……
 バリエさんの魔法、やっぱりあれ周りの兵士も巻き込んでいたんだ……

 ミア自身はアイテムマスターという職業だと濁している。
 だが、ダークエルフであるミアには純粋なエルフとは違って変わった力を持っているらしい。
 あまり本人は言いふらされたくないそうで、小さな声で教えてくれるのだが……

「魔王様、ちょっと……」
 すぐに遠くからやってきてヤマダさんの腕を引っ張っていくミア。
 エルフは聴力も良いと教えてくれていたが、どうやら全部聞こえていたようである。

「消滅……ねぇ……」
 素材の持つ効果を、完全に消滅させることができる力。
 小さな頃から意味もわかっておらず、ミアは時折力を使っていた。
 そりゃあ貴重なアイテムをダメにしたなんてことがあれば、注意されることはあっただろう。
 それがダークエルフなものだから、余計にあたりが強かったのかもしれない。

 ま、そんなことがあったからヤマダさんがミアを引き取ったってことなのだろう。
 今はその力でアイテムの効果を最大限引き出す技術を身につけたらしいし、良かったのかもしれないな。

「そういえば僕も持ってるんだよな、月光草」
 デッセルさんに半ば押し付けられてしまったような素材で、使い道がわからずにインベントリに仕舞い込んだもの。

 そんなことを聞いたら、やっぱり教会に保管してあったやつも貰えば良かったと思う。
 ついこの間、掃除して捨ててしまったらしいし。
 ミアが王都で欲したのを見た時に気付くべきだった。
 本当に勿体無いことをした……

 月光草を取り出して、素材に含まれる魔素を感じる。
 この時だけは、なんだか僕が僕じゃないように思えてくる。
 今までは漠然と素材を組み合わせていただけなのに、今では様々な形の魔素が混じり合っているのを身体が理解しているようなのだ。

 ヤマダさんが毒と言っていた部分が見えてくる。
 魔物の持つ魔素に近い形をしているようだ。
 そして、それを打ち消す方法も自然とわかってしまう。
 知識の中にある、それを補い合って最大限に効果を高める素材を取り出すと、小瓶の中にそれらを合成し始めた。

 月光草だけでも蘇生は可能だが、リバイブポーションはさらに効果が強い。
 全ての月光草がなくなり、ヤマダさんに手渡すと非常に驚かれてしまった。
 合成スキルを持っていても、作れない者も多かったそうだ。

「セン……お前、何か隠してないか?」
「えっ? いや、別に何も……」
 疑われて当然だったのかもしれない。
 先ほどまで魔素の形だの属性だのと言われても、全く理解できていなかったのだ。

 大昔はそういったことを学ぶ魔術学院なる施設があったそうだ。
 この短期間で、僕がそれを理解するのはおかしいと言い出すヤマダさん。
 逆に、そんなことを知っていたのなら、『最初から教えて欲しかった』と反論。

 僕だって世界樹を救うために頑張っているつもりなのだから。
 それにしても、ヤマダさんに文句を言うのも気持ちがいいものだ。

 ダンジョンで僕が怒ったときにも感じたけれど、魔王様と呼ばれていたって僕たちと一緒。
 やっぱり、言いたいことを言い合えるのが一番かもしれないな。

「あー……悪かったよ。
 アイツと同じスキルを持つお前たちが少し怖かったんだよ」
 アイツ……というのはやはり川内だろうか。

 最初は何も思わなかったが、少しずつ昔を思い出して僕とリリアのスキルをおかしいと思うようになったらしい。
 だが、世界を救うのに必要なスキルでもあって、ヤマダさん自身、色々と考えることが多かったみたいだ。

「大丈夫だよ、川内って人みたいに研究に没頭するつもりもないし。
 それに、ヤマダさんが思ってるほど、悪い人じゃないと思うんだけどなぁ?」

「……そうか、だったら安心だな。
 何をしたのかは聞かんが、俺はやっぱりアイツのことを許す気にはなれないからな」
 少しだけ怖い表情を見せて、ミアの元へと向かうヤマダさん。
 リバイブポーションの件は、『大事に使わせてもらう』と言って、その内の三本だけを手に取っていた。

 船も随分と進み、あと少しで世界樹が見えてくるそうだ。
 魔族領、というかヤマダさん個人の所有船なのだろうが、とても早くて風も気持ちがいい。

 魔物さえいなければ、すごく良い世界なのだけど……
 それも暗黒龍を倒したら、きっといなくなるだろう。

「あっ……言い忘れていたが、もし暗黒龍がいなくなっても魔物は消えないからな!
 この旅が終わったら、世界中の魔物を倒しに行くからお前たちにも手伝ってもらうつもりだ!」

 離れたところから、ヤマダさんが僕に向かって叫ぶ。
 世界中の……ということは、この後何年もかけて魔物を退治して回るということか……

 僕たちが村でのんびりとできるのは、一体いつになることやら……
 そう考えると、僕は合成する手が止まり、引きつった表情で空を見上げてしまうのだった。
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