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9章《暗黒龍ニーズヘッグ》
3話
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「ユーグから聞いたわよね、オリハルコンのこと」
リリアがインベントリに保管していたのは、コッソリと施設に出向いて入手したオリハルコンの剣。
そのままインベントリに入れたのではユーグにバレバレなものだから、偽装魔法を使って魔銀の剣に見せかけていたそうだ。
『今度から偽装魔法も保管対象外に指定しないといけないようですね……』
呆れた様子のユーグ。
しかし、今はそれどころではない。
「おいっ! センは見つかったのかリリア!」
こちらに声をかけながら、コルンが狙いを定めて矢を放っていた。
それに気付けば魔力を取り戻したブランも戦闘に加わっている。
「使い方はわかるよねっ。
いつも使ってる剣で魔法を使うのと同じ感覚、出力全開でも問題は無いわ。
施設に残されていたのは試作品ばっかりだったからさ」
僕に剣を渡すと、リリアもまたすぐに戦闘に戻っていく。
戦いは明かにこちら側が不利のようだ。
あのヤマダさんですら、空を飛ぶルシフェル相手には、まともに攻撃を当てられない。
いや、どこか遠慮をして攻撃を控えているようにも感じるが、それを抜きにしてもルシフェルの圧倒的な力の前では無力に等しかった。
「種族の違いだけで私を封印した、そんな愚かな生物は滅んでしまえばいい!」
ルシフェルは、光の剣を生み出してヤマダさんに斬りかかった。
かろうじて防いだヤマダさんは、そのまま振り上げられたルシフェルの右足によって、こちらに吹き飛ばされる。
苦戦を強いられていたヤマダさんは、ちょうど僕の近くで魔法を放った後に呟いていた。
「ったく……誰だよ、こんな教会に来ようなんて言った奴は……」
……え? いや、ヤマダさんだよね?
突然何を言い出すのかと思ったが、それも分かって言っていることのようだ。
自分で教会を魔物から解放しようと言い出したくせに、まさかルシフェルが生きているとは思わず、ボヤくしかなかった。
そんな心境で呟いた一言なのだろう。
「悪りぃ……わがままかもしれんが、アレを止めてくれないか?
その剣が使えるなら、可能性が無いわけじゃない……多分だけどな……」
たまたま聞こえたわけではなく、敢えて僕のいる近くで喋ったのだろう。
そうは言われても、周囲の魔素を吸収して攻撃力に変えるこの剣……どう使えばいいものかと考えてしまう。
とにかく剣を持って戦闘には参加した。
確かに強い剣だとは感じるのだが、ルシフェルに敵う気がしないのだ……
魔力を込めればまだまだ強くはなるだろうけれど、ルシフェルの素早さの前ではカスリもしなかった。
だとすると、目的は倒すことではないのかもしれない。
この剣の効果……
魔素を奪うということは、世界に影響を与えるということ。
いや今大切なのは、やはりこの剣の威力……だったら僕の剣でもいいはずなのだが……
「あぁー、もうっ!」
色々な考えが頭を巡ってしまい、いつものように戦うことができない。
ルシフェルは『フェザーショット』と叫びながら、羽を無数に飛ばしてくる。
一枚一枚に多量の魔力を込めて放たれた羽は、まるで岩……いや、家が丸ごと飛んできたかのような威力を備えている。
「ちょ……ちょっと!
そんなに自分の羽を飛ばしたら、もう飛べなくなっちゃうよ!」
自分でも一瞬、何を言っているのだろうかと思ってしまう。
次第にルシフェルの羽はボロボロになっていくものだから、こちらまで辛く感じてしまうのだ。
戦っている相手の心配をしている場合じゃない。
だけど、別に魔物でもないこの女性を、なぜ殺す必要があるのだろうかと考えてしまったのだ。
確かに今は敵対しているのだろう。
でなければ、こうやって武器を交える……ルシフェルのものは魔法で生み出したもののような気もするけれど……
いやいや、そんなことではなくて、僕は別に戦う意思は無い。
そうだ、戦いをやめさせればいいだけなんだ。
「ごめんユーグ!
少しだけ、魔素を無駄遣いしちゃうね!」
念のため、僕はユーグに許しを乞う。
結果としてどうなるかは想像はつく。
だが、それを行う覚悟が僕にはなかったのだ。
散々魔素の重要性を説かれ、ユーグからアレコレと言われていたのだから……
「技の名前なんて無いけどっ、とにかくっくらえぇぇ!!」
全身全霊の魔力を剣に込めてみる。
リリアが『大丈夫だから』と言ったのだから、きっと大丈夫なのだろう。
周りの魔素を吸収し続けて、次第に光り輝くオリハルコンの剣。
今なら一振りするだけで、魔力の刃がルシフェルに襲い掛かるに違いない。
上空にいたルシフェルは、僕の持つ剣を見て表情が引きつっているようにも感じる。
まぁ、これまでの戦いを見たところ、この剣でもまだルシフェルを倒すことはできないのだろうけれど。
そして、僕はひたすら魔力を込め続けてやった。
それこそ周囲の魔素が完全になくなってしまうほどに。
魔素が薄れていけば、魔法の効果は薄れていく。
ルシフェルの持つ光の剣は、ゆっくりと小さくなり消えてしまった。
「ふんっ……そんな小細工で私を倒したつもりか?」
魔素が失われルシフェルは地面に足をつけている。
羽で飛んでいるのではなく、飛行もまた魔素の力によるものなのだろう。
「だが、飛ぶのを阻止することはできたぜっ!」
ここぞとばかりにヤマダさんが斬りかかる。
ルシフェルは、迷うことなくその剣を羽で受け止めた。
もちろん、鋼のような硬さを持っているわけでもない、普通の肉体同様の硬さだろう。
グサリと痛々しく突き立てられた剣を、何事もないかのように振り払い、隙を見せたヤマダさんの腹部に渾身の拳が突き刺さる。
「ぐ……はっ……」
その場に倒れ込むヤマダさん。
魔素の有無に関わらず、ルシフェルの力はヤマダさんを上回っているようだ。
「何してんのよ!
アンタ無敵なんじゃないの?」
言われて気付いたのだけど、ヤマダさんはダメージを受けてもすぐに回復するスキルを持っているはずなのだ。
『リリア……魔素の無い場所では、私の力も使えないのですよ……』
むしろ、スキルのない本来の状態に戻ろうとする力が働いて、弱体化すらあり得るのだとユーグは言う。
いつの間にか僕たちと距離をとって、上空に飛び上がるルシフェル。
周囲だけを魔素の無い状態にしたところで、移動されては全く意味がない……
「かつての勇者がこんなものとはな。
よい、貴様らなどいつでも葬れる……
まずは私を封印した西の国を滅ぼしてやろうではないか」
ボロボロの姿だが、ルシフェルは教会を離れ、何処かへと飛んでいってしまった。
何百年と閉じ込められていた恨みというのは、さぞかし大きいのだろう……
生きているとは思っていなかったにしても、そんな危険な者を僕たちは封印から解き放ってしまったのだ。
「完っ全に俺の失敗だったな……
あの種族は魔力を使えなければさほど強くはない。
そう思っていたんだが、まさか俺まで弱くなるとはな」
ブランに任せておけば、もう少し良い結果だったかもしれない。
そんなことを呟いてはみたものの、もう遅い。
「西……っていうのは、今のお前たちが住む国の事だ」
ヤマダさんを教会から離し、身体を休めながら話を聞く。
大昔、魔素の変質を恐れた国の王がルシフェルの殺害を命じたのだ。
まだ魔王とは呼ばれていない時代に、勇者であるヤマダさんは命じられたままルシフェルに戦いを挑んでいた。
正直そんなことはしたくなかったのだが……
「俺は、ルシフェルに逃げるよう言ったんだ。
だが、まさかと思ってしまったよ」
遠く離れた地でならば、国に命を狙われることはない。
そう伝えて、別の地で住むように説得したらしい。
『何を言っているのだ勇者よ。
そんなことをしては、移り住んだ地の者が迷惑をするだけではないか』
『だがっ! ……このままではお前はずっと命を狙われ続けるのだぞ……』
荒野で勇者一行とルシフェルが向かい合っている。
そんな場面が僕の脳裏に映し出されるようだった。
『ふふっ、勇者はやはり優しいのだな。
深く悩まずに、こうしてしまえば良いのだよ』
ルシフェルは、自らの上空に無数の光の剣を生み出した。
戦闘態勢に入ったと思い、ヤマダさんたちも武器を構えて緊張が走る……
だが、ルシフェルの生み出した剣は、そのまま直下にいる自分の身へと突き立てていたのだ。
「アイツは自分で命を捨てやがった……」
今でもそれを止められなかったことをヤマダさんは悔いているそうだ。
しかし、後日それ以上に驚いた事実を聞かされることになった。
『なにっ⁈ 川内の奴がルシフェルを実験に使っているだと!』
当時、特に大きな二つの大陸間は、転移魔法や巨大な船で繋がっていた。
その一つが僕たちの住む大陸、もう一つが施設のあった今はもう荒れはてた大陸だ。
死体となったルシフェルは、人の住まない南の大陸に埋葬されることとなったのだが……
『仮死状態であちらまで運んでいたようなのです』
そう報告を受けたヤマダさんは血の気が引く思いだったという。
生き返らせて眠らせる。
教会を建て、そこに安置されてから、川内の仲間が時々出入りをしていたと聞いていた。
「まさか変質した魔素の研究までしていたなんて思ってなかったぜ……
アイツは拘束されたまま、自分では魔法も使えない身にされて生かされ続けたんだろうよ」
横になっていたヤマダさんは、少しだけ体力を取り戻したようで、ゆっくりと起き上がる。
「川内のやつ……俺には『おもちゃならもう壊れちゃったさ』なんて言ってやがったが……」
その言葉をヤマダさんは死んだものと捉えたのだろう。
教会はいつの間にか放棄されており、中には見たこともない魔物で満ち溢れていた。
確認に行くわけにもいかず、ヤマダさんは一人で再び施設に乗り込んだ。
機械兵を破壊して、川内を問い詰めた……が、なんの問題の解決にもならなかったのだと言う。
人族にとってそれ以外の種族など道具にしか見えない……とまでは言わないが、それに近い力関係が出来上がりつつあった世の中だった。
奴隷として扱われるのがまだ優しく思えるほどの、そんなルシフェルに対する扱いに、ヤマダさんの怒りは抑えきれなかったのだと言っていた……
リリアがインベントリに保管していたのは、コッソリと施設に出向いて入手したオリハルコンの剣。
そのままインベントリに入れたのではユーグにバレバレなものだから、偽装魔法を使って魔銀の剣に見せかけていたそうだ。
『今度から偽装魔法も保管対象外に指定しないといけないようですね……』
呆れた様子のユーグ。
しかし、今はそれどころではない。
「おいっ! センは見つかったのかリリア!」
こちらに声をかけながら、コルンが狙いを定めて矢を放っていた。
それに気付けば魔力を取り戻したブランも戦闘に加わっている。
「使い方はわかるよねっ。
いつも使ってる剣で魔法を使うのと同じ感覚、出力全開でも問題は無いわ。
施設に残されていたのは試作品ばっかりだったからさ」
僕に剣を渡すと、リリアもまたすぐに戦闘に戻っていく。
戦いは明かにこちら側が不利のようだ。
あのヤマダさんですら、空を飛ぶルシフェル相手には、まともに攻撃を当てられない。
いや、どこか遠慮をして攻撃を控えているようにも感じるが、それを抜きにしてもルシフェルの圧倒的な力の前では無力に等しかった。
「種族の違いだけで私を封印した、そんな愚かな生物は滅んでしまえばいい!」
ルシフェルは、光の剣を生み出してヤマダさんに斬りかかった。
かろうじて防いだヤマダさんは、そのまま振り上げられたルシフェルの右足によって、こちらに吹き飛ばされる。
苦戦を強いられていたヤマダさんは、ちょうど僕の近くで魔法を放った後に呟いていた。
「ったく……誰だよ、こんな教会に来ようなんて言った奴は……」
……え? いや、ヤマダさんだよね?
突然何を言い出すのかと思ったが、それも分かって言っていることのようだ。
自分で教会を魔物から解放しようと言い出したくせに、まさかルシフェルが生きているとは思わず、ボヤくしかなかった。
そんな心境で呟いた一言なのだろう。
「悪りぃ……わがままかもしれんが、アレを止めてくれないか?
その剣が使えるなら、可能性が無いわけじゃない……多分だけどな……」
たまたま聞こえたわけではなく、敢えて僕のいる近くで喋ったのだろう。
そうは言われても、周囲の魔素を吸収して攻撃力に変えるこの剣……どう使えばいいものかと考えてしまう。
とにかく剣を持って戦闘には参加した。
確かに強い剣だとは感じるのだが、ルシフェルに敵う気がしないのだ……
魔力を込めればまだまだ強くはなるだろうけれど、ルシフェルの素早さの前ではカスリもしなかった。
だとすると、目的は倒すことではないのかもしれない。
この剣の効果……
魔素を奪うということは、世界に影響を与えるということ。
いや今大切なのは、やはりこの剣の威力……だったら僕の剣でもいいはずなのだが……
「あぁー、もうっ!」
色々な考えが頭を巡ってしまい、いつものように戦うことができない。
ルシフェルは『フェザーショット』と叫びながら、羽を無数に飛ばしてくる。
一枚一枚に多量の魔力を込めて放たれた羽は、まるで岩……いや、家が丸ごと飛んできたかのような威力を備えている。
「ちょ……ちょっと!
そんなに自分の羽を飛ばしたら、もう飛べなくなっちゃうよ!」
自分でも一瞬、何を言っているのだろうかと思ってしまう。
次第にルシフェルの羽はボロボロになっていくものだから、こちらまで辛く感じてしまうのだ。
戦っている相手の心配をしている場合じゃない。
だけど、別に魔物でもないこの女性を、なぜ殺す必要があるのだろうかと考えてしまったのだ。
確かに今は敵対しているのだろう。
でなければ、こうやって武器を交える……ルシフェルのものは魔法で生み出したもののような気もするけれど……
いやいや、そんなことではなくて、僕は別に戦う意思は無い。
そうだ、戦いをやめさせればいいだけなんだ。
「ごめんユーグ!
少しだけ、魔素を無駄遣いしちゃうね!」
念のため、僕はユーグに許しを乞う。
結果としてどうなるかは想像はつく。
だが、それを行う覚悟が僕にはなかったのだ。
散々魔素の重要性を説かれ、ユーグからアレコレと言われていたのだから……
「技の名前なんて無いけどっ、とにかくっくらえぇぇ!!」
全身全霊の魔力を剣に込めてみる。
リリアが『大丈夫だから』と言ったのだから、きっと大丈夫なのだろう。
周りの魔素を吸収し続けて、次第に光り輝くオリハルコンの剣。
今なら一振りするだけで、魔力の刃がルシフェルに襲い掛かるに違いない。
上空にいたルシフェルは、僕の持つ剣を見て表情が引きつっているようにも感じる。
まぁ、これまでの戦いを見たところ、この剣でもまだルシフェルを倒すことはできないのだろうけれど。
そして、僕はひたすら魔力を込め続けてやった。
それこそ周囲の魔素が完全になくなってしまうほどに。
魔素が薄れていけば、魔法の効果は薄れていく。
ルシフェルの持つ光の剣は、ゆっくりと小さくなり消えてしまった。
「ふんっ……そんな小細工で私を倒したつもりか?」
魔素が失われルシフェルは地面に足をつけている。
羽で飛んでいるのではなく、飛行もまた魔素の力によるものなのだろう。
「だが、飛ぶのを阻止することはできたぜっ!」
ここぞとばかりにヤマダさんが斬りかかる。
ルシフェルは、迷うことなくその剣を羽で受け止めた。
もちろん、鋼のような硬さを持っているわけでもない、普通の肉体同様の硬さだろう。
グサリと痛々しく突き立てられた剣を、何事もないかのように振り払い、隙を見せたヤマダさんの腹部に渾身の拳が突き刺さる。
「ぐ……はっ……」
その場に倒れ込むヤマダさん。
魔素の有無に関わらず、ルシフェルの力はヤマダさんを上回っているようだ。
「何してんのよ!
アンタ無敵なんじゃないの?」
言われて気付いたのだけど、ヤマダさんはダメージを受けてもすぐに回復するスキルを持っているはずなのだ。
『リリア……魔素の無い場所では、私の力も使えないのですよ……』
むしろ、スキルのない本来の状態に戻ろうとする力が働いて、弱体化すらあり得るのだとユーグは言う。
いつの間にか僕たちと距離をとって、上空に飛び上がるルシフェル。
周囲だけを魔素の無い状態にしたところで、移動されては全く意味がない……
「かつての勇者がこんなものとはな。
よい、貴様らなどいつでも葬れる……
まずは私を封印した西の国を滅ぼしてやろうではないか」
ボロボロの姿だが、ルシフェルは教会を離れ、何処かへと飛んでいってしまった。
何百年と閉じ込められていた恨みというのは、さぞかし大きいのだろう……
生きているとは思っていなかったにしても、そんな危険な者を僕たちは封印から解き放ってしまったのだ。
「完っ全に俺の失敗だったな……
あの種族は魔力を使えなければさほど強くはない。
そう思っていたんだが、まさか俺まで弱くなるとはな」
ブランに任せておけば、もう少し良い結果だったかもしれない。
そんなことを呟いてはみたものの、もう遅い。
「西……っていうのは、今のお前たちが住む国の事だ」
ヤマダさんを教会から離し、身体を休めながら話を聞く。
大昔、魔素の変質を恐れた国の王がルシフェルの殺害を命じたのだ。
まだ魔王とは呼ばれていない時代に、勇者であるヤマダさんは命じられたままルシフェルに戦いを挑んでいた。
正直そんなことはしたくなかったのだが……
「俺は、ルシフェルに逃げるよう言ったんだ。
だが、まさかと思ってしまったよ」
遠く離れた地でならば、国に命を狙われることはない。
そう伝えて、別の地で住むように説得したらしい。
『何を言っているのだ勇者よ。
そんなことをしては、移り住んだ地の者が迷惑をするだけではないか』
『だがっ! ……このままではお前はずっと命を狙われ続けるのだぞ……』
荒野で勇者一行とルシフェルが向かい合っている。
そんな場面が僕の脳裏に映し出されるようだった。
『ふふっ、勇者はやはり優しいのだな。
深く悩まずに、こうしてしまえば良いのだよ』
ルシフェルは、自らの上空に無数の光の剣を生み出した。
戦闘態勢に入ったと思い、ヤマダさんたちも武器を構えて緊張が走る……
だが、ルシフェルの生み出した剣は、そのまま直下にいる自分の身へと突き立てていたのだ。
「アイツは自分で命を捨てやがった……」
今でもそれを止められなかったことをヤマダさんは悔いているそうだ。
しかし、後日それ以上に驚いた事実を聞かされることになった。
『なにっ⁈ 川内の奴がルシフェルを実験に使っているだと!』
当時、特に大きな二つの大陸間は、転移魔法や巨大な船で繋がっていた。
その一つが僕たちの住む大陸、もう一つが施設のあった今はもう荒れはてた大陸だ。
死体となったルシフェルは、人の住まない南の大陸に埋葬されることとなったのだが……
『仮死状態であちらまで運んでいたようなのです』
そう報告を受けたヤマダさんは血の気が引く思いだったという。
生き返らせて眠らせる。
教会を建て、そこに安置されてから、川内の仲間が時々出入りをしていたと聞いていた。
「まさか変質した魔素の研究までしていたなんて思ってなかったぜ……
アイツは拘束されたまま、自分では魔法も使えない身にされて生かされ続けたんだろうよ」
横になっていたヤマダさんは、少しだけ体力を取り戻したようで、ゆっくりと起き上がる。
「川内のやつ……俺には『おもちゃならもう壊れちゃったさ』なんて言ってやがったが……」
その言葉をヤマダさんは死んだものと捉えたのだろう。
教会はいつの間にか放棄されており、中には見たこともない魔物で満ち溢れていた。
確認に行くわけにもいかず、ヤマダさんは一人で再び施設に乗り込んだ。
機械兵を破壊して、川内を問い詰めた……が、なんの問題の解決にもならなかったのだと言う。
人族にとってそれ以外の種族など道具にしか見えない……とまでは言わないが、それに近い力関係が出来上がりつつあった世の中だった。
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