スキル【合成】が楽しすぎて最初の村から出られない

紅柄ねこ(Bengara Neko)

文字の大きさ
上 下
79 / 97
8章《勇者と魔王》

11話

しおりを挟む
 リリアが見ている前で、少年はセンにスキルを使う。
「リペア!」
 みるみる顔色が良くなり、意識を取り戻したセンはゆっくりと目を開ける。

「い……たたた……」
 やられた記憶がしっかりと残っているせいか、痛みは若干残ってはいたが、折れた骨もすっかり元通りらしい。

 魔素もない施設内で、こうも簡単に治癒スキルを使用するのも不思議ではあるが、この少年の正体は一体……
 『スキル』と言っているのは、本人が『魔法ではない』と言っているから。
 そんな強力なスキルは聞いたこともないし、使えるのは治癒だけでもないみたいだし。

「いやぁ、魔王様だったのならそう言ってくださいよ。
 姿も変わっちゃって危うく殺してしまうところだったじゃないですかぁ」
「し、知らないわよそんな人っ!
 だから私たちは別の大陸から来た普通の村人だって、何度も言ってるじゃないの!」

 少年が剣を収めたのは、リリアが水晶体に触れたためだった。
 水晶体が魔力パターンを検知して、鍵の役割をしているそうだ。
「それにしても、そうですね……記憶を失ってらっしゃるのでしたら自己紹介をした方が良いのでしょうか。
 それによく見ればこちらの少年からも魔王様に似た魔力パターンが……」

 リリアだけでなく、僕までもその『魔王』とやらと同じ魔力パターンを持っているなどと言う少年。
 どうでも良いことではあるが、この施設内、地下深くにあるせいか、そこそこ肌寒いはずなのだが……
 この少年はなぜ、こんなにも薄着でいられるのだろうか……

「どうかしました?
 ……まぁ回復してすぐですし、落ち着いたら場所を移動いたしましょう。
 私はこの施設のガーディアン、『2021004081号』です。
 仕組みは……覚えてはないですよねもちろん」

 ガーディアンというのは、施設に異変があった際に起動する『人が作った機械』だと言う。
 『2021年製』のバージョンアップされたプログラムを組み込んだ機械なのだと言うが、その意味はさっぱり分からない。
 いや、そもそも知らない言葉をつらつらと並べられても理解できるはずもなかった。

「魔王様をいつまでもこのような場所でもてなすのはよろしくないですね。
 今施設内の扉を開錠いたします」
「え……っと、あーうん……よくわからないけど、よろしく……」
 くるっと踵を返して、来た道を戻っていく『にーぜろぜろ……』もとい少年。
 3つほど前にあった扉は、少年が手をかけると、自動的に横へと動いた。

「この部屋になら予備のカードもありますし、地下水……は菌が繁殖しすぎてしばらくは使えそうにありませんね。
 私自身も数百年眠っていたみたいですし、あとで一度チェックしてみます。
 起動している以上、最下層の本体は無事みたいですし」
 先ほどから普通に案内してくれる少年だが、今までの話を聞く限り生き物ではない?

 ひとまずホコリまみれだった部屋の中を、その少年のスキルで綺麗な状態へと変化させていた。
「それってどういう魔法……じゃなかった、スキルなのよ?」
「クリーンですか?
 えっと……魔法でも似たようなことはできるそうですよ。
 それを解析して私の中に組み込んだらしいので、人に説明すると長くなりますけどよろしいですか?」

 とりあえず聞いてみたのだけど、いきなり知らない用語ばかり出てきたので勘弁してもらった。
 要約するとゴミとそれ以外を区別するために、色々な判断基準が設けられているらしい。
 バージョンアップとかいうものを繰り返して今のスキルになったそうだが、昔は必要なものまで消し去ってしまったことが何度もあるのだとか……

「へぇー……にーぜ……名前なんだっけ?」
 『凄いんだね』と、たった一言言いたいだけなのに、名前で詰まってしまう。
「名前はなんでも構いませんよ、ただの番号ですし、昔は皆さん『ブラン』と呼ばれてましたし」
 白いという意味らしいのだけど、よく魔力切れを起こしてスキルの使えない無能な機械になってしまったことから付けられているそうだ。

「ひどいときだと、余計なスキルを使いすぎて一日に二十回は再起動されましたね」
「再起動って……あんたいきなり動かなくなったりするってわけ?」
「今は大丈夫ですよ。
 長い間魔素は消費されていませんでしたし、残魔素量は現在『99%』です」

 スキルの使用には本体に蓄積された魔素を消費するそうだ。
 もちろん施設の維持のため、スキル用の魔素は別になっているなどと言うが、なにがもちろんなのかは理解できやしない。
 ともかく、ブランはその本体の魔素が尽きない限り、命令以外では止まることはない。

「命令って……誰の?」
 リリアが心配そうに喋る。
「もちろん魔王様ですが?」
 『だよね……』と項垂れるリリア。
 今までの話の流れから、なんとなく僕たちに忠誠を誓うという流れが読めていたそうだ。
 なにが不安なのかと聞いてみたら、少なくとも僕やリリアでは敵わないくらいの強さであること。
 そしてもう一つ、魔素を消費し続けるという動力源。

「これだけ人間に近いんだもん……また眠っていなさいなんて言えないじゃない……」
 きっとドラゴン戦なんかに、すごく良い戦力にはなると思う。
 だけど、動いているだけで魔素を消費すると聞くと、ユーグのことが心配になってしまう。

 リリアと話しをしてから、とりあえず今後は勝手にスキルを使用しないように伝えてみた。
「わかりました。
 ですが、全てのスキルの解除は正常な機能の維持が難しくなります。
 施設の放棄、及びガーディアン機能停止を除く場合は一部のスキルをオンにしたままにすることを推奨いたします」
 命令は聞くのだと言ったわけなのだが、リリアのことを記憶を失った魔王様だと判断したブランは『提案モード』という方式に勝手に移行しているそうだ。
 わからない、わからなさすぎて正直どうでもよくなってきた。
 無駄に魔素の消費をしないよう伝えたいだけなのだけど、返事がやたら小難しくて嫌になってきたのだ。

「お二方とも、まだ施設のこともほとんど理解しておられない様子ですし、ここは『節約自動判断エコモード』で様子をみられてはどうでしょう?」
 また別の言葉がブランの口から出てきてしまった。
 さすがのリリアもお手上げのようで、『じゃ……じゃあもうそれでいいわよ』なんて諦めてしまったようだ。

 とにかく、この施設の説明から教えてもらうことにする。
 とは言っても、大まかな説明はユーグが教えてくれたことが全てだったみたいで、特に新しく知ったことはなかった。
 大昔に魔法やスキルの研究を行っていた施設。
 魔素を用いて、新しいアイテムや魔法を生み出していたそうだ。
 その最たる研究内容が『オリハルコン精製』というものだと言う。

「やっぱりユーグの言ってた通り、この大陸ってオリハルコンのせいで荒れちゃったのかな?」
「確認中……施設外の情報が取得できませんでした」
 眠りについてからの大陸の情報はブランには入っていないみたいだ。
 というか、急に喋り方も変わった気がしたブランだったが。

「施設の中で案内できる場所は特にありませんし、外へ向かいませんか?」
 中にあるのは研究できる部屋や寝室、作ったアイテムやスキルの保管部屋なんかだと言う。
 その『保管部屋』には非常に興味があったが、『見せておきたいものがある』と言われたのなら仕方ない。

 結局のところ、殺されそうになって得た収穫は何もなかった。
 施設内では魔法もスキルもろくに発動せず、とてつもなく強力なガーディアン『ブラン』がいたのだという事実のみ。
 あ、いやリリアが魔王様と呼ばれた理由はわからなかったが、そのおかげでブランが忠実に命令に従うようにはなったのだけど……

『あ、二人とも戻りましたか。
 何度か試みたのですが、やはり施設内は極端に魔素が薄いため……?』
 外に出ると、すぐにユーグの声が聞こえてきた。
 ずっと様子を見ていて、待っていてくれたようだ。

『あの……その機械兵は一体……』
「機械兵? なんだかわからないけど、この施設を守っていたんだってさ」
 ユーグの声に応えて僕が反応する。
「どうかされましたか? セン様」
 ブランのその反応をみるに、どうやらユーグの声は届いていないのだろう。
 もしくはユーグがわざと語りかけていないのか……

『機械兵には声は届かないようですね。
 構いません、そのまま聞いてください二人とも。その機械兵は……』
 先頭を歩くブランに着いてきながら、ユーグの言葉を聞いている僕とリリア。

 大昔、オリハルコンが初めて精製されたときに、それを狙った国家があった。
 急になんの話なんだと思ったのだが、その時に使われていたアイテム、というか完全に戦争に使うような兵器であるのだという。
 ほんの少しのオリハルコンのために、あらゆる分野で活躍した強力なスキル保持者、冒険者上位、裏世界の者なんて言われていた異種族を含めた最強の部隊が組まれていたそうだ。

 それでも施設のあった街は、いつもの平和な暮らしをしていた。
『強すぎるんですよ、その機械兵。
 魔素の消費は激しかったですが、被害がほとんどないので歴史には何も残されなかったようです。
 負け戦の記録は残したくなかったのでしょうが、そのせいで幾度か同じような歴史を見てきましたね……』

 街が破壊されなかったのは良いことじゃないか。
 だけど、ユーグ的には魔素の消費と有能な戦士が亡くなっていくのは見るに堪えない状況だったのだとか。
 オリハルコンが当時はどのようなものだと伝えられていたかは様々ありすぎてハッキリしない。
 まぁ街人の平穏な暮らしが守られたのなら、なんて思ったが、結局は魔素が薄くなって魔物は減少。
 薬草などの素材も少なくなり、生活困難者が増加していたとかなんとか。

「着きましたよお二方とも。
 この辺りに人工精霊の保管庫が……壊れていなければいいのですが……」
 下に転がっているガラクタを除けると、地面から鋼製の蓋が現れた。
 施設と同じマークが書いてあり、それをゆっくりと開くブラン。

「私たちも手伝った方がいいのかしら……」
「ま、まぁいいんじゃない?
 なんだか複雑な構造をした扉みたいだし……」
 縦横に開けたり閉めたり棒を回したり。
 完全に開いてから聞いてみたところ、動力が落ちているから『セキュリティー上』仕方ない開け方だったとかなんとか……

 とにかく開いたのならどうでもいいが、ブランは一体何を見せたいというのだろうか……
しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。