スキル【合成】が楽しすぎて最初の村から出られない

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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8章《勇者と魔王》

10話ー2

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『懐かしい』……という感情?
 センまで連れて、わざわざここに来る必要はあったのかしら……

 扉は開かないし、通路には壊れたアイテム? が散乱している。
 奥に行くにつれ、魔素とかいうものが薄くなっていくのは感じている。
 ここまで来ると魔法はおろか、インベントリ……いや、アイテムの効果すら役に立たないかもしれない。

「うん、剣を振る力とかは大丈夫みたい」
 そんなことをセンに話すと、自身のステータスに変化が無いかを試しているみたいだった。
 体内に蓄積された世界樹の力までは、そう簡単には消えないみたいだ。

「行き……止まりかな?」
 ペタペタと扉を触るセン。
 その大きな扉と、脇には水晶体が一つ。
 それ以外のガラクタはおそらく関係ないだろうけれど、これまでには無かった水晶体は少し気になってしまう。

 水晶体といえば啓示の儀式……だけど。
 魔力を注ぐのかと思ってみても、今のこの環境ではそんな力は湧いてこない。
 本当に魔物が出なければいいのだけど……

 そんなことを私が考えたからなのだろう……
「や……やめなさいよって言ってるでしょ!!」
 不思議な格好の少年が、剣を私に向ける。
 センを蹴り飛ばし、今にも殺そうと振り上げた剣を私に……。

 あの眼は本気だと思う。
「聞かせて、侵入者……ってどういうことなの?」
 そんなつもりじゃなかったと言ったところで、おそらく容赦してくれる者ではないのだろう。
 だが、レベルの高い私たち相手に、剣の腕だけで圧倒する少年。
 その少しの可能性にかける他ないのだろうから……

「侵入者が時間稼ぎ?
 ……まぁいいや、何も教えられることはないし、行使しなければ僕は破壊されてしまうだけだからね」
 一瞬なにかを考えたようだけど、すぐにその手に握られた剣は私の足を貫いた。
「っ……⁈」
 こんなにもアッサリとやられてしまうなんて……

 ここには何があるのか、なぜこんなにも懐かしく感じるのか?
 ただそれを知りたかっただけなのに、ユーグにも声が届かない施設の奥で私たちは殺されてしまうのだろうか?

「くっ……あっち行ってよ!」
 センもまた虚で不安そうな表情で、どこかをぼんやりと眺めている。
 出血が多く視界がぼやけてしまったの……?
 せめてセンだけでも助かってほし い……

「いっ……つ……」
 剣が再び私の足に突き立てられる。
 命を奪うというより、逃がさないための攻撃……なのか?
 だったら少しは生き延びる可能性だって……

 私はセンに心配かけないよう、必死に痛みを堪えていた。
 気を失いかけているセンの近くに、ポーションの小瓶を叩きつけて少しでも回復を……
 
「うーん……回復行為も抵抗……なんだけどなぁ」
 少年は私の血のついた剣を、ヒュッと一振りする。
 よほどの速度で剣を振らなければ、血だけがその場に留まるなんて光景は見ることはないだろう。

「残念だけど、もう見逃すことはできないみたいだよ。
 ごめんね、二人とも……」
「えっ……嘘……」
 今までの氷のような表情は生温いものだと悟った。
 この少年は、あれでいて私たちを許そうとしていたのだろう。

 あれは悪魔だ。
 グレイトウルフやドラゴンなど比ではない。
 感情があるのか無いのか、どちらにせよ、この少年が本気で私たちを殺そうとしているのだと理解させられてしまったのだ……

 溢れ零れ落ちる涙……
 つい昨日の夜、センが私に『好き』だと言ってくれた。
 それなのに……それなのに……
「こっ……来ないでっ……」

 もう何も話してくれない少年。
 後退りしている無力な私だというのに、なんの遠慮も無い……
 終ぞ扉の背が当たる。

 視界に入ったセンの姿は、気を失い伏せてしまっている。
「セン……センってばぁ……」
 ジリジリと近づいてくる少年に、私はなす術なく泣くばかりだった……
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