スキル【合成】が楽しすぎて最初の村から出られない

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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8章《勇者と魔王》

6話

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「これって、やっぱりダンジョンの中……じゃない場所だよね」
 リリアは周囲の光景を見まわして言う。
 当然周囲は山に囲まれた荒地。
 ここがダンジョンの中なのかどうかと聞かれても、誰もそれに答えることはできないでいた。

「……ねぇ、この中に入ってみない?」
「別に僕はいいけど……みんなはどうする?」
 帰還用の魔法陣が浮かび上がってから、もう一時間近くの時が経っている。
 あれ以来ユーグの声も聞こえず、軽く問いかけてはみたが返答はない。

「転移は使えるんだっけ?」
 テセスがネックレスに手をかけて、少し先にある岩を目指して魔法を使おうとする。
 パッとテセスは移動して、少し先の荒野に。
「あ、あれ? 思った場所と違うんだけど……」

 思った位置よりも手前に転移したらしく、当のテセスは困惑してしまっている。
 となると、ダンジョン内同様にユーグの力で転移を禁止しているのか?
 転移させてくれない理由は知らないのだが、ここがもしダンジョン内だとすると、中途半端に転移できた理由もまた不明であった。

「やっぱり今は村に戻った方が良いと思うわ」
「俺はどっちでもいいぜ。
 魔法陣が消えないとも限らないし、あの山を越えたら意外とすぐ近くに町があったりするんじゃねぇか?」

 慎重なテセスと適当なコルン。
 ミアは『早く帰りたい』だそうだ。
 リリアは中に入ってみたい気持ちが強かったが、僕がテセスの意見を尊重したら、リリアもまた『今はやめておくわ……』と口惜しそうに振り返るのだった。

 ドラゴンの沈んだ場所へ向かう僕たち。
 大丈夫だろうとは思っているが、もし魔法陣が見つからなければどうしようかと考える。
 再び先ほどの場所に戻り、中に入ってみるというのもアリなのだろうか?

 まぁ、あれから何時間も経っているわけでもなく、大体の場所へと戻ってきた僕たちの前には、帰還用の魔法陣は浮かび上がったままだったのだけど。
「じゃあ行こっか……」
 この荒れた地から元の村へ戻ると、きっと次は簡単には来ることができない。
 そんな気がして、どこか残念な気持ちでいる僕。

 ユーグに確認するか、いっそ空を飛ぶ手段でも探して上空からこの地を探してみるか……
 『そういえば……』と、リリアの腕に抱かれた竜の姿を見る。
 いや、この竜は進化しても、大きさはそれほど変わらないのだったな。
 戦いのために生み出されたのだから、どこへでも付いていけるよう、僕たちとそれほど変わらないサイズでいるのだとヤマダさんは言っていたはずだ。

 魔法陣に入ると、ダンジョンの入り口へと転移する。
 焔龍の迷宮と同じであれば、しばらくするとこのダンジョンは消えてしまうだろう。
 前とは違って、こんな危険なダンジョンに潜る冒険者なんていないはずだから、前よりももっと早く消えるに違いない。

 ところが……

「ねぇ聞いた?
 私たちが帰ってきてもう3日になるのに……まだあのダンジョン、消えてないらしいわよ?」
 とね屋で食事をしている僕たち。
 テセスは、マリアからそんな話を聞いたのだと言う。
 上級ダンジョンから更に山の方へと向かったところに作った雫龍の迷宮。
 倒れてしまった冒険者を治癒しに出向いた際に、近くにいた冒険者の回復をしていて気付いたのだそうだ。

「なんで消えないんだろう?
 だって前のやつはすぐに消えたじゃん。
 冒険者が全員出てきてからだったけど……」
 消えるのが当然だと思っていたから、非常に不思議だった。
 ヤマダさんもミアも『わからない』と言うのだから、本当に不思議な現象なのだろう。

「皆さん、今日はダンジョンに出向かないのですか?」
 料理を運んできたマリアが、僕たちに声をかける。
「今日はお手伝い?
 そういえば教会は改修工事だっけ?」
 ふと依頼所のアメルさんが言っていたことを思い出し聞いてみる。
 手数料は村の修繕費なんかに充てられているのだ。

「そうなんです。
 外壁の補修、あと中の扉は壊れかけていましたし、女神像と立派なものにするとかでドワーフの皆さんがやる気になってまして……」
 そんなマリアに直接話を聞いてみたが、やはりダンジョンは消滅していないそうだ。
 加えて気付いたことがあり、荷物の積まれた荷馬車が少し離れた物陰に放置されているのを見つけたらしい。

「誰の荷馬車とか、わからなかった?」
「えぇまぁ……名前が書いてあるわけではありませんでしたし、いくつか道具は残されていましたが、馬に生活に必要そうなものを乗せ持ち運んだ後……のような感じでしたね」
 つまり、誰かがそこに荷馬車を置いて、どこかへ向かっている?
 その『どこか』は、きっとダンジョンの中だろうし、荷馬車ということは冒険者ではなく商人なのだろうか?

「ちょっと……はやく助けに行った方がいいんじゃない?
 まだダンジョンが消えていないってことは、中で生きているってことよね?」
 椅子からガタッと勢いよく立ち上がるリリア。
 僕も慌てて立ち上がり、『すぐに行こう』と声にする。
 コルンとテセスも立ち上がる中、ヤマダさんがお茶を啜りながら『落ち着け、三日も平気なんだから一分二分遅くなっても変わらん』と冷たく言い放つ。

ーーーーーー

(おいユーグ、俺だけに教えろ。
 今、ダンジョン内に誰か入っているのか?)
『あら山田? みんなには教えてあげちゃダメなの?』
(いや、な。ちょっと面白そうだと思ったんでな。
 それにどうせ中にいるのはアイツなんだろ?)

 山田は食後に一杯のお茶の飲み始める。
 とね屋で出される冷たい井戸水ではなく、インベントリに蓄えられた【料理スキル】で作られたものだ。
 効果は体力値の上昇ではあるが、そんな効果はどうでもいい感じでという感じではある。

『そうですね。山田の思っている人物で合っていますよ』
(だったら心配する必要はないな)
『そうですね。
 それに、ドラゴンが倒されて魔物は増えませんし……』
(だな。残党狩りみたいなもんだし、放置でもいいくらいだ)

ーーーーーー

「で、でもやっぱり僕は行くよっ」
 まだ料理は少し残っていたのだが、心配が勝って食事どころではなかった。
 バタバタと慌ただしく店を出る僕たちだったが、ヤマダさんとミアだけは店内に残っていた。

 慌てても事態が良くなりはしないだろう。
 ヤマダさんの言うことも、もっともだとは思う。
 僕は大きく深呼吸を行い、何をすれば良いかを考えてみた。
「普通に考えて一階層のどこかで身を潜めてる……よね」
 まずは居場所の特定だろうと思い、みんなに聞いてみる。

「多分そうなんじゃない?
 冒険者ですら中級ダンジョンの最初の方で詰まってるんだから」
 リリアは冷静な表情で言うが、それだとどうにも納得がいかないようだ。
 馬を連れて中に入る……つまり魔物から逃げるのは難しいのではないか?

 いや、逆に馬に乗ってダンジョン内を駆け巡っている?
 それならば戦闘にはならないのかもしれない……けど。
 凶暴な魔物がいるのだから、そんなことをせずに早く出てくればいいのではないか?

「思いつくのは、一階層の行き止まりみたいな場所で、ジッと身を潜めているか……
 まさか隠し部屋みたいなものがあるわけでもないでしょうに」
 ウンウン呻りながら、リリアは考える。
「聞いちゃえばいいんじゃない、リリアちゃん?
 大変な事態なんだし、ユーグもそのくらいの力はつかってくれるでしょ」

「あ……そっか。
 ねぇユーグ! 聞こえているなら教えてよっ。
 中に誰か入ってるの?」
『え、えぇ……あなた方より十ほど歳を召された男性が馬と共に……』
 やはり中に誰かが入っているようだ。
 すぐにダンジョンの前まで転移して、放置された荷馬車が気になりつつも、一刻も早く助けに行こうと思い中へ入っていった。

「どのあたりにいるのかしら……?
 ねぇユーグ?」
『……』
「……?
 ユーグ? ねぇ、ちょっとユーグ!」
 返答のないことにイライラが募るリリア。
 急に力を失ってしまったわけでもないだろうに、いったいどうしたのだろうか?

『あ、ごめんなさい皆さん。
 ちょっと居場所の特定には時間がかかってしまうので、大体の階層だけお教えしますね』
「もうっ! 人の命がかかってるんだから、ちゃんとしてよっ」
 腰に手を当てて、前のめりで怒るリリア。
 文句を言うリリアに、ユーグは『三十階層あたりで力を感じます……』と言う。

 当然『はい??』である。
 村の冒険者ですら一階層も攻略できないのに、なぜ三十階層などという深い階層に商人がいるというのか?
 そうだ、こういう時こそ落ち着いて考えよう。

「やっぱ俺たちの知らないような強いやつがいるんじゃね?
 ほら、魔王みたいに異世界から来たとかさぁ」
 コルンの言うそれは、現実的に考えにくいのではないだろうか?
 ユーグが呼び出した異世界人は、先代魔王とヤマダさんの二人だけだと聞いたことがある。

「じゃあ魔族の誰かとかじゃねぇか?」
 魔族なら潜れるかもしれないが、荷馬車や馬を使うものなのだろうか?
 他に現実的な意見は無いのだろうか?

 とりあえず二十八階層へ転移すると、ダンジョンの中には人の気配どころか魔物の気配も感じられないでいる。
 そういえばドラゴンは倒したのだし、魔物はいなくなるのだったか?
 いや、新たには生まれないだけで、既に出現していた魔物は残っているはずだが……
「もしかして、この階層の魔物は全部その男の人が倒したんじゃない?」
「リリアちゃんもそう思う? じゃあもっと下の階層だね」

 二人がそう結論付けるのも無理はない。
 僕にもそうとしか思えず、更に下の三十三階層まで降りていくと、ようやく戦闘の音が聞こえてきたのだった。
 こんな階層まで来ることができる者とはいったい……

 無事でいたという安心と、謎だらけの不安感で、僕たちの表情はなんともいえないものになっていたのだった……
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