72 / 97
8章《勇者と魔王》
5話
しおりを挟む
「その剣って、一体どうなってるのよ?」
リリアは僕の持つ剣を指差して言う。
見た目は魔銀に近いのだけど、これには僕のスキル【合成】の全てが詰まっている。
なんて、格好つけてリリアに教えてあげたのだけど、反応は『ふ、ふ~ん……』と、非常に薄いものだった。
「ふぅ……それにしても疲れたよ」
僕は、近くにあった大きめの石に腰掛ける。
真っすぐに切り出された人工的な石は、軽く汚れを拭うと、顔が映り込むほどにツルツルしていた。
インベントリから魔力回復薬を取り出して、僕はそれを一気に飲み干す。
少し離れたところでは、ミアとコルンが武器を握りしめたまま上空を眺めていた。
「……じゃなくって、なんなのよさっきの攻撃!
なに? あのバビューンって飛んでったのは一体何なの??」
「いや何って言われてもなぁ……魔法みたいなものだよ。
僕の魔力を半分くらい使ったから、結構気持ち悪くなっちゃったけどさ」
弱い弱いと言われて、悔しくなった僕はまっ先に自分の剣を強化することにした。
だけど、強力な魔法を使うリリアはいるし、コルンの弓もまた遠距離から強力な攻撃を行うことができる。
『最低でも魔物と距離をとって戦えるようにしなくちゃなぁ……』
そう考えながら作っていたのだけど、どうにも威力は上がらない。
同じ武器同士の合成でも『強化値』というものは上がるのだけど、それも『+10』で星マークに変わり、それ以上は変化がなかった。
おそらくユーグにも予想外だろう。
僕が『ある合成方法』を思いつくと、しばらくしてからユーグから交換条件を持ちかけられてしまう。
そのため、なるべく多くの金が必要になり、集魔の香を使いながらいつまでもダンジョンに潜っていたのだが。
『やはり、大昔に合成スキルを封印したのは間違いではなかったようですね……』
何か呟いていたユーグだったが、僕は目の前の剣の合成に夢中になっていた。
「だから、特性と強化と追加素材をうまく使う事でさ、攻撃力がグンと上がる事を発見したんだよ」
僕は、リリアの目の前で、一つのボロボロの剣を取り出して見せる。
「ど、どういう事?」
ボロボロの剣は、そのままでは当然攻撃力など無いに等しい。
だが、このボロボロの状態で攻撃力を上げることができたとしたら……
その剣がピカピカの剣に生まれ変わった時にどれほどの攻撃力になるのだろうか?
もちろん最初は『まぁ成功するはず無いだろうけどね』なんて軽い気持ちで合成したわけだ。
鉄の剣に特性『錆びついた』を加え、武器攻撃力を『1』だけ底上げする『磨き粉』というアイテムを使う。
それ自体は強化値とは関係がないので、百個使えば『100』上がるのだが、貴重なアイテムゆえに数は集まらなかった。
あとはその剣の特性を変化させるために合成を行うのだ。
攻撃力『9』だった鉄の剣は、攻撃力『1』のボロボロの剣に。
リリアの目の前で、その剣の攻撃力を上げ、特性を『輝く』に変化すると、新品同様の攻撃力『36』の鉄の剣が完成だ。
「嘘よ、それじゃあセンの持つ剣の威力は説明つかないわ」
「あ、やっぱりリリアにはわかる?」
ピカピカの剣で落ちている金属を叩くリリア。
「馬鹿にしないでよ。
そんなやり方じゃ、ボロボロの剣の攻撃力を『100』にしたって、せいぜい数千程度の攻撃力にしかならないわよ」
実はそうなのだ。
ボロボロの剣がピカピカの剣になったところで、大して攻撃力は上がらない。
それでも通常のピカピカの剣よりは強くなることがわかったというだけのこと。
ダンジョン内で拾える武器ですら、攻撃力は千を超えることがある。
結局、今作ってみせたピカピカの剣も、今の僕たちには全く役に立たないものなのだ。
「ねぇセン、その武器が強いのは分かったんだけどさ……」
テセスが抜身の短剣を持ったまま、僕に向かって言う。
「ほら、せっかく新しい魔法も覚えたんだし、少しぐらい活躍させてくれても良かったんじゃない?」
テセスの視線は、コルンとミアの方を向く。
『ガツッ、ガツッ』と音が聞こえるので、何かと思えばコルンの弓の射る音だった。
「あ、もしかしてコルンも……なのかな?」
「そうよ、せっかくセンが新しい武器を作ってくれたのに、ものすっごく寂しそうな顔してたわよ?」
は、ははは……
ちょっと驚かそうかと思っただけなんだけどなぁ。
僕の持つ剣は、攻撃力『6444032』と表示されている。
遠距離攻撃可能で、ドラゴン戦のことも考えて一応風魔法が使えるようになっている魔銀の剣だ。
魔法付与は、魔石を使わずともそういった特性をもつ武器を合成すればよかったみたい。
作成方法は至って単純。
先ほどリリアにお見せした剣の要領で、いくつかの強化した剣を作る。
その武器同士を合成する際に、片方は弱く、もう片方は強くすることで、合成結果に複数の選択肢を得ることができたのだ。
簡単に言えば、弱い特性のまま攻撃力を強化することもできたし、その逆も可能だったということ。
ボロボロの剣とピカピカの剣を合成。《ボロボロの剣(+1):攻撃力36》
さらに同じ剣を作り、片方の特性を攻撃力の上がるものに。
《ボロボロの剣(+2):攻撃力1296》
あまりの結果に驚き、僕はこれまでの地道な強化を思い出し、笑うしかなかった。
実際にはこれを魔銀で行い、特性は必ずしも『輝く』を使ったわけではない。
その結果出来上がったのが、この武器というわけだ。
最後になるべく理想に近い効果が生まれるよう調整。
その無茶苦茶な性能にユーグが気付き、僕の魔力を使うことと、金の要求をされたというわけだ。
「だから、これのせいでまた金欠。
ユーグが守銭奴だから、本当に困っちゃうよ」
「あのねぇ……」
リリアが怒った表情で僕を睨みつける。
「ど、どうしたの……?」
「どうしたじゃないわよっ!
そんな武器があるなら、最初っから言っておきなさいよっ!」
準備をしっかりして、恥ずかしいのにリボンなんか着けて、気持ちを落ち着かせて挑んだドラゴン戦。
まっ先に飛び出して魔法を放って、『まずは様子見』だなんて言って。
こんな剣を持つ僕の前で、一人アレこれと考えて動いた自分が、すごく恥ずかしくなったのだと言う。
「もーっ! センのバカぁ!!」
リリアは怒って走っていく。
ドラゴンを倒して現れた帰還用の魔法陣とは逆の方向へ……
「後でちゃんとリリアちゃんに謝りなさいよセン……
……あっちの二人にも」
ミアはツマラなさそうにドラゴンからの素材を回収。
コルンはいつまでも弓を構え続けている。
戦いで傷付くのは嫌ではあるが、それ以上に強くなった自分を試したいという気持ちもあったのだろう。
でも……
「不安を煽ってその気にさせたのはユーグじゃん。
僕は普通に驚かそうかとおもっただけなのにさぁ……」
やられたら世界は終わるとか、僕が強化された武器を作っているのを知っていたくせに、そんな事を言ったのだ。
だから勢いよくリリアが飛び出したのも仕方ないと思うし、僕だって驚かせたいからすぐには剣を出さなかった。
ちなみにこの剣を一振りしたところ、巨大な旋風が巻き起こり、ドラゴンに触れると瞬時にその身を斬り裂いた。
それで風がやむわけではなく、ひたすら上空で荒れ狂う風の力。
ポタポタと雨のように雫龍の力は地表にこぼれ落ち。
それが止むと同時に風も収まっていく。
「僕だって魔力を半分も使ったのに、なんで怒られなきゃなんないのかなぁ……」
「怒らせちゃったのは事実なんだから、センがどう思っていても謝るべきよ。
心配させちゃったのは事実でしょ」
テセスはもう一つ、『なんで魔力酔いしないのか』と聞いてくる。
今の僕たちは、一度に魔力の半分も消費しようものなら、かなりの不快感に苛まれてしまう。
「魔力酔いしないわけじゃないよ……
この剣って力の調整が難しくってさぁ……」
僕はテセスに剣を持ってもらい、試しに使ってみないかと聞いてみる。
ただし吐いても倒れても文句は言わないように、と。
「え……嫌よそんなの。
私だって別に、センの目の前で何度も吐いたりしたくないわよ」
目の前……ではなく前回は服の上だったのだが……
僕は酔っ払って歩けないテセスを抱えて帰った日を思い出す。
あの日はとても大変だった。
まぁ誰が何をしたかとはハッキリ言うつもりはないが。
「まぁいいや。
この剣ってさ、魔力を力の一部に変えて攻撃してくれるんだけど、何も考えずに振ると全部持ってかれちゃうんだよね」
「……何が? まさか魔力??」
だからそう言っているじゃん。
とは言わなかったが、『そうだよ』と返すと、テセスの表情が歪んでしまう。
「あのねぇ……センの言う通りなら、さっき私が何も思わずに剣を振ったら、倒れて吐いて恥ずかしい思いをしていたってことじゃないの?」
う、うん。
実はその通りだし、僕もここ数日間、何度もそれで辛い目に遭っていた。
「もしかして慣れちゃったから平気だなんて言わないわよね?」
「あ、いや……十回くらい経験すると、意外と半分の魔力くらいなら平気になっちゃって」
「はぁ……センのそういうところ、本当に心配で仕方ないわ……」
やれやれと、ため息をつくテセス。
テセスにも似たような武器を作ろうかと考えていたのだけど、それを伝えたところ、速攻で『NO!』と答えが返ってきてしまった。
とりあえずミアとコルンの元へ行き、謝りながらも武器のことを打ち明ける。
ミアはそもそも魔力を持たないらしく、ユーグの制約のせいで僕の作る武器は意味をなさなかった。
コルンは興味を持ったのだが、結局は魔力量の問題でそれほど期待は出来ないと言う。
四人でリリアを探していると、ポツンと大岩の前に立つ姿を発見する。
「リリアっ、さっきはごめん!
……って……これ何??」
「あ、セン……なんだと思う?
やっぱりボスのいるダンジョンなのかな……?」
金属の散らばる見知らぬ地で、僕たちは謎の入り口を発見してしまった。
奥の方には発光する何かがあり、金属や太い紐状のものが垂れ下がっている。
通路の奥は、まるで異世界人が暮らしているようだとミアは言うのだ
「懐かしい……?」
小声でボソッとリリアは呟いた。
それは僕にもハッキリと聞こえていた。
なぜなら僕も同じように感じていたからだ……
リリアは僕の持つ剣を指差して言う。
見た目は魔銀に近いのだけど、これには僕のスキル【合成】の全てが詰まっている。
なんて、格好つけてリリアに教えてあげたのだけど、反応は『ふ、ふ~ん……』と、非常に薄いものだった。
「ふぅ……それにしても疲れたよ」
僕は、近くにあった大きめの石に腰掛ける。
真っすぐに切り出された人工的な石は、軽く汚れを拭うと、顔が映り込むほどにツルツルしていた。
インベントリから魔力回復薬を取り出して、僕はそれを一気に飲み干す。
少し離れたところでは、ミアとコルンが武器を握りしめたまま上空を眺めていた。
「……じゃなくって、なんなのよさっきの攻撃!
なに? あのバビューンって飛んでったのは一体何なの??」
「いや何って言われてもなぁ……魔法みたいなものだよ。
僕の魔力を半分くらい使ったから、結構気持ち悪くなっちゃったけどさ」
弱い弱いと言われて、悔しくなった僕はまっ先に自分の剣を強化することにした。
だけど、強力な魔法を使うリリアはいるし、コルンの弓もまた遠距離から強力な攻撃を行うことができる。
『最低でも魔物と距離をとって戦えるようにしなくちゃなぁ……』
そう考えながら作っていたのだけど、どうにも威力は上がらない。
同じ武器同士の合成でも『強化値』というものは上がるのだけど、それも『+10』で星マークに変わり、それ以上は変化がなかった。
おそらくユーグにも予想外だろう。
僕が『ある合成方法』を思いつくと、しばらくしてからユーグから交換条件を持ちかけられてしまう。
そのため、なるべく多くの金が必要になり、集魔の香を使いながらいつまでもダンジョンに潜っていたのだが。
『やはり、大昔に合成スキルを封印したのは間違いではなかったようですね……』
何か呟いていたユーグだったが、僕は目の前の剣の合成に夢中になっていた。
「だから、特性と強化と追加素材をうまく使う事でさ、攻撃力がグンと上がる事を発見したんだよ」
僕は、リリアの目の前で、一つのボロボロの剣を取り出して見せる。
「ど、どういう事?」
ボロボロの剣は、そのままでは当然攻撃力など無いに等しい。
だが、このボロボロの状態で攻撃力を上げることができたとしたら……
その剣がピカピカの剣に生まれ変わった時にどれほどの攻撃力になるのだろうか?
もちろん最初は『まぁ成功するはず無いだろうけどね』なんて軽い気持ちで合成したわけだ。
鉄の剣に特性『錆びついた』を加え、武器攻撃力を『1』だけ底上げする『磨き粉』というアイテムを使う。
それ自体は強化値とは関係がないので、百個使えば『100』上がるのだが、貴重なアイテムゆえに数は集まらなかった。
あとはその剣の特性を変化させるために合成を行うのだ。
攻撃力『9』だった鉄の剣は、攻撃力『1』のボロボロの剣に。
リリアの目の前で、その剣の攻撃力を上げ、特性を『輝く』に変化すると、新品同様の攻撃力『36』の鉄の剣が完成だ。
「嘘よ、それじゃあセンの持つ剣の威力は説明つかないわ」
「あ、やっぱりリリアにはわかる?」
ピカピカの剣で落ちている金属を叩くリリア。
「馬鹿にしないでよ。
そんなやり方じゃ、ボロボロの剣の攻撃力を『100』にしたって、せいぜい数千程度の攻撃力にしかならないわよ」
実はそうなのだ。
ボロボロの剣がピカピカの剣になったところで、大して攻撃力は上がらない。
それでも通常のピカピカの剣よりは強くなることがわかったというだけのこと。
ダンジョン内で拾える武器ですら、攻撃力は千を超えることがある。
結局、今作ってみせたピカピカの剣も、今の僕たちには全く役に立たないものなのだ。
「ねぇセン、その武器が強いのは分かったんだけどさ……」
テセスが抜身の短剣を持ったまま、僕に向かって言う。
「ほら、せっかく新しい魔法も覚えたんだし、少しぐらい活躍させてくれても良かったんじゃない?」
テセスの視線は、コルンとミアの方を向く。
『ガツッ、ガツッ』と音が聞こえるので、何かと思えばコルンの弓の射る音だった。
「あ、もしかしてコルンも……なのかな?」
「そうよ、せっかくセンが新しい武器を作ってくれたのに、ものすっごく寂しそうな顔してたわよ?」
は、ははは……
ちょっと驚かそうかと思っただけなんだけどなぁ。
僕の持つ剣は、攻撃力『6444032』と表示されている。
遠距離攻撃可能で、ドラゴン戦のことも考えて一応風魔法が使えるようになっている魔銀の剣だ。
魔法付与は、魔石を使わずともそういった特性をもつ武器を合成すればよかったみたい。
作成方法は至って単純。
先ほどリリアにお見せした剣の要領で、いくつかの強化した剣を作る。
その武器同士を合成する際に、片方は弱く、もう片方は強くすることで、合成結果に複数の選択肢を得ることができたのだ。
簡単に言えば、弱い特性のまま攻撃力を強化することもできたし、その逆も可能だったということ。
ボロボロの剣とピカピカの剣を合成。《ボロボロの剣(+1):攻撃力36》
さらに同じ剣を作り、片方の特性を攻撃力の上がるものに。
《ボロボロの剣(+2):攻撃力1296》
あまりの結果に驚き、僕はこれまでの地道な強化を思い出し、笑うしかなかった。
実際にはこれを魔銀で行い、特性は必ずしも『輝く』を使ったわけではない。
その結果出来上がったのが、この武器というわけだ。
最後になるべく理想に近い効果が生まれるよう調整。
その無茶苦茶な性能にユーグが気付き、僕の魔力を使うことと、金の要求をされたというわけだ。
「だから、これのせいでまた金欠。
ユーグが守銭奴だから、本当に困っちゃうよ」
「あのねぇ……」
リリアが怒った表情で僕を睨みつける。
「ど、どうしたの……?」
「どうしたじゃないわよっ!
そんな武器があるなら、最初っから言っておきなさいよっ!」
準備をしっかりして、恥ずかしいのにリボンなんか着けて、気持ちを落ち着かせて挑んだドラゴン戦。
まっ先に飛び出して魔法を放って、『まずは様子見』だなんて言って。
こんな剣を持つ僕の前で、一人アレこれと考えて動いた自分が、すごく恥ずかしくなったのだと言う。
「もーっ! センのバカぁ!!」
リリアは怒って走っていく。
ドラゴンを倒して現れた帰還用の魔法陣とは逆の方向へ……
「後でちゃんとリリアちゃんに謝りなさいよセン……
……あっちの二人にも」
ミアはツマラなさそうにドラゴンからの素材を回収。
コルンはいつまでも弓を構え続けている。
戦いで傷付くのは嫌ではあるが、それ以上に強くなった自分を試したいという気持ちもあったのだろう。
でも……
「不安を煽ってその気にさせたのはユーグじゃん。
僕は普通に驚かそうかとおもっただけなのにさぁ……」
やられたら世界は終わるとか、僕が強化された武器を作っているのを知っていたくせに、そんな事を言ったのだ。
だから勢いよくリリアが飛び出したのも仕方ないと思うし、僕だって驚かせたいからすぐには剣を出さなかった。
ちなみにこの剣を一振りしたところ、巨大な旋風が巻き起こり、ドラゴンに触れると瞬時にその身を斬り裂いた。
それで風がやむわけではなく、ひたすら上空で荒れ狂う風の力。
ポタポタと雨のように雫龍の力は地表にこぼれ落ち。
それが止むと同時に風も収まっていく。
「僕だって魔力を半分も使ったのに、なんで怒られなきゃなんないのかなぁ……」
「怒らせちゃったのは事実なんだから、センがどう思っていても謝るべきよ。
心配させちゃったのは事実でしょ」
テセスはもう一つ、『なんで魔力酔いしないのか』と聞いてくる。
今の僕たちは、一度に魔力の半分も消費しようものなら、かなりの不快感に苛まれてしまう。
「魔力酔いしないわけじゃないよ……
この剣って力の調整が難しくってさぁ……」
僕はテセスに剣を持ってもらい、試しに使ってみないかと聞いてみる。
ただし吐いても倒れても文句は言わないように、と。
「え……嫌よそんなの。
私だって別に、センの目の前で何度も吐いたりしたくないわよ」
目の前……ではなく前回は服の上だったのだが……
僕は酔っ払って歩けないテセスを抱えて帰った日を思い出す。
あの日はとても大変だった。
まぁ誰が何をしたかとはハッキリ言うつもりはないが。
「まぁいいや。
この剣ってさ、魔力を力の一部に変えて攻撃してくれるんだけど、何も考えずに振ると全部持ってかれちゃうんだよね」
「……何が? まさか魔力??」
だからそう言っているじゃん。
とは言わなかったが、『そうだよ』と返すと、テセスの表情が歪んでしまう。
「あのねぇ……センの言う通りなら、さっき私が何も思わずに剣を振ったら、倒れて吐いて恥ずかしい思いをしていたってことじゃないの?」
う、うん。
実はその通りだし、僕もここ数日間、何度もそれで辛い目に遭っていた。
「もしかして慣れちゃったから平気だなんて言わないわよね?」
「あ、いや……十回くらい経験すると、意外と半分の魔力くらいなら平気になっちゃって」
「はぁ……センのそういうところ、本当に心配で仕方ないわ……」
やれやれと、ため息をつくテセス。
テセスにも似たような武器を作ろうかと考えていたのだけど、それを伝えたところ、速攻で『NO!』と答えが返ってきてしまった。
とりあえずミアとコルンの元へ行き、謝りながらも武器のことを打ち明ける。
ミアはそもそも魔力を持たないらしく、ユーグの制約のせいで僕の作る武器は意味をなさなかった。
コルンは興味を持ったのだが、結局は魔力量の問題でそれほど期待は出来ないと言う。
四人でリリアを探していると、ポツンと大岩の前に立つ姿を発見する。
「リリアっ、さっきはごめん!
……って……これ何??」
「あ、セン……なんだと思う?
やっぱりボスのいるダンジョンなのかな……?」
金属の散らばる見知らぬ地で、僕たちは謎の入り口を発見してしまった。
奥の方には発光する何かがあり、金属や太い紐状のものが垂れ下がっている。
通路の奥は、まるで異世界人が暮らしているようだとミアは言うのだ
「懐かしい……?」
小声でボソッとリリアは呟いた。
それは僕にもハッキリと聞こえていた。
なぜなら僕も同じように感じていたからだ……
10
お気に入りに追加
4,070
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~
うみ
ファンタジー
恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。
いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。
モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。
そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。
モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。
その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。
稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。
『箱を開けるモ』
「餌は待てと言ってるだろうに」
とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。