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8章《勇者と魔王》

5話

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「その剣って、一体どうなってるのよ?」
 リリアは僕の持つ剣を指差して言う。
 見た目は魔銀ミスリルに近いのだけど、これには僕のスキル【合成】の全てが詰まっている。

 なんて、格好つけてリリアに教えてあげたのだけど、反応は『ふ、ふ~ん……』と、非常に薄いものだった。

「ふぅ……それにしても疲れたよ」
 僕は、近くにあった大きめの石に腰掛ける。
 真っすぐに切り出された人工的な石は、軽く汚れを拭うと、顔が映り込むほどにツルツルしていた。

 インベントリから魔力回復薬を取り出して、僕はそれを一気に飲み干す。
 少し離れたところでは、ミアとコルンが武器を握りしめたまま上空を眺めていた。
「……じゃなくって、なんなのよさっきの攻撃!
 なに? あのバビューンって飛んでったのは一体何なの??」

「いや何って言われてもなぁ……魔法みたいなものだよ。
 僕の魔力を半分くらい使ったから、結構気持ち悪くなっちゃったけどさ」

 弱い弱いと言われて、悔しくなった僕はまっ先に自分の剣を強化することにした。
 だけど、強力な魔法を使うリリアはいるし、コルンの弓もまた遠距離から強力な攻撃を行うことができる。

『最低でも魔物と距離をとって戦えるようにしなくちゃなぁ……』
 そう考えながら作っていたのだけど、どうにも威力は上がらない。
 同じ武器同士の合成でも『強化値』というものは上がるのだけど、それも『+10』で星マークに変わり、それ以上は変化がなかった。

 おそらくユーグにも予想外だろう。
 僕が『ある合成方法』を思いつくと、しばらくしてからユーグから交換条件を持ちかけられてしまう。
 そのため、なるべく多くの金が必要になり、集魔の香を使いながらいつまでもダンジョンに潜っていたのだが。

『やはり、大昔に合成スキルを封印したのは間違いではなかったようですね……』
 何か呟いていたユーグだったが、僕は目の前の剣の合成に夢中になっていた。

「だから、特性と強化と追加素材をうまく使う事でさ、攻撃力がグンと上がる事を発見したんだよ」
 僕は、リリアの目の前で、一つのボロボロの剣を取り出して見せる。
「ど、どういう事?」

 ボロボロの剣は、そのままでは当然攻撃力など無いに等しい。
 だが、このボロボロの状態で攻撃力を上げることができたとしたら……
 その剣がピカピカの剣に生まれ変わった時にどれほどの攻撃力になるのだろうか?

 もちろん最初は『まぁ成功するはず無いだろうけどね』なんて軽い気持ちで合成したわけだ。
 鉄の剣に特性『錆びついた』を加え、武器攻撃力を『1』だけ底上げする『磨き粉』というアイテムを使う。
 それ自体は強化値とは関係がないので、百個使えば『100』上がるのだが、貴重なアイテムゆえに数は集まらなかった。

 あとはその剣の特性を変化させるために合成を行うのだ。
 攻撃力『9』だった鉄の剣は、攻撃力『1』のボロボロの剣に。
 リリアの目の前で、その剣の攻撃力を上げ、特性を『輝く』に変化すると、新品同様の攻撃力『36』の鉄の剣が完成だ。

「嘘よ、それじゃあセンの持つ剣の威力は説明つかないわ」
「あ、やっぱりリリアにはわかる?」

 ピカピカの剣で落ちている金属を叩くリリア。
「馬鹿にしないでよ。
 そんなやり方じゃ、ボロボロの剣の攻撃力を『100』にしたって、せいぜい数千程度の攻撃力にしかならないわよ」

 実はそうなのだ。
 ボロボロの剣がピカピカの剣になったところで、大して攻撃力は上がらない。
 それでも通常のピカピカの剣よりは強くなることがわかったというだけのこと。

 ダンジョン内で拾える武器ですら、攻撃力は千を超えることがある。
 結局、今作ってみせたピカピカの剣も、今の僕たちには全く役に立たないものなのだ。

「ねぇセン、その武器が強いのは分かったんだけどさ……」
 テセスが抜身の短剣を持ったまま、僕に向かって言う。
「ほら、せっかく新しい魔法も覚えたんだし、少しぐらい活躍させてくれても良かったんじゃない?」

 テセスの視線は、コルンとミアの方を向く。
 『ガツッ、ガツッ』と音が聞こえるので、何かと思えばコルンの弓の射る音だった。
「あ、もしかしてコルンも……なのかな?」
「そうよ、せっかくセンが新しい武器を作ってくれたのに、ものすっごく寂しそうな顔してたわよ?」

 は、ははは……
 ちょっと驚かそうかと思っただけなんだけどなぁ。

 僕の持つ剣は、攻撃力『6444032』と表示されている。
 遠距離攻撃可能で、ドラゴン戦のことも考えて一応風魔法が使えるようになっている魔銀の剣だ。
 魔法付与は、魔石を使わずともそういった特性をもつ武器を合成すればよかったみたい。

 作成方法は至って単純。
 先ほどリリアにお見せした剣の要領で、いくつかの強化した剣を作る。
 その武器同士を合成する際に、片方は弱く、もう片方は強くすることで、合成結果に複数の選択肢を得ることができたのだ。
 簡単に言えば、弱い特性のまま攻撃力を強化することもできたし、その逆も可能だったということ。

 ボロボロの剣とピカピカの剣を合成。《ボロボロの剣(+1):攻撃力36》
 さらに同じ剣を作り、片方の特性を攻撃力の上がるものに。
《ボロボロの剣(+2):攻撃力1296》

 あまりの結果に驚き、僕はこれまでの地道な強化を思い出し、笑うしかなかった。

 実際にはこれを魔銀で行い、特性は必ずしも『輝く』を使ったわけではない。
 その結果出来上がったのが、この武器というわけだ。

 最後になるべく理想に近い効果が生まれるよう調整。
 その無茶苦茶な性能にユーグが気付き、僕の魔力を使うことと、金の要求をされたというわけだ。
「だから、これのせいでまた金欠。
 ユーグが守銭奴だから、本当に困っちゃうよ」

「あのねぇ……」
 リリアが怒った表情で僕を睨みつける。
「ど、どうしたの……?」
「どうしたじゃないわよっ!
 そんな武器があるなら、最初っから言っておきなさいよっ!」

 準備をしっかりして、恥ずかしいのにリボンなんか着けて、気持ちを落ち着かせて挑んだドラゴン戦。
 まっ先に飛び出して魔法を放って、『まずは様子見』だなんて言って。
 こんな剣を持つ僕の前で、一人アレこれと考えて動いた自分が、すごく恥ずかしくなったのだと言う。

「もーっ! センのバカぁ!!」
 リリアは怒って走っていく。
 ドラゴンを倒して現れた帰還用の魔法陣とは逆の方向へ……

「後でちゃんとリリアちゃんに謝りなさいよセン……
 ……あっちの二人にも」
 ミアはツマラなさそうにドラゴンからの素材を回収。
 コルンはいつまでも弓を構え続けている。

 戦いで傷付くのは嫌ではあるが、それ以上に強くなった自分を試したいという気持ちもあったのだろう。
 でも……
「不安を煽ってその気にさせたのはユーグじゃん。
 僕は普通に驚かそうかとおもっただけなのにさぁ……」

 やられたら世界は終わるとか、僕が強化された武器を作っているのを知っていたくせに、そんな事を言ったのだ。
 だから勢いよくリリアが飛び出したのも仕方ないと思うし、僕だって驚かせたいからすぐには剣を出さなかった。

 ちなみにこの剣を一振りしたところ、巨大な旋風が巻き起こり、ドラゴンに触れると瞬時にその身を斬り裂いた。
 それで風がやむわけではなく、ひたすら上空で荒れ狂う風の力。
 ポタポタと雨のように雫龍の力は地表にこぼれ落ち。
 それが止むと同時に風も収まっていく。

「僕だって魔力を半分も使ったのに、なんで怒られなきゃなんないのかなぁ……」
「怒らせちゃったのは事実なんだから、センがどう思っていても謝るべきよ。
 心配させちゃったのは事実でしょ」

 テセスはもう一つ、『なんで魔力酔いしないのか』と聞いてくる。
 今の僕たちは、一度に魔力の半分も消費しようものなら、かなりの不快感にさいなまれてしまう。

「魔力酔いしないわけじゃないよ……
 この剣って力の調整が難しくってさぁ……」
 僕はテセスに剣を持ってもらい、試しに使ってみないかと聞いてみる。
 ただし吐いても倒れても文句は言わないように、と。

「え……嫌よそんなの。
 私だって別に、センの目の前で何度も吐いたりしたくないわよ」
 目の前……ではなく前回は服の上だったのだが……
 僕は酔っ払って歩けないテセスを抱えて帰った日を思い出す。

 あの日はとても大変だった。
 まぁ誰が何をしたかとはハッキリ言うつもりはないが。

「まぁいいや。
 この剣ってさ、魔力を力の一部に変えて攻撃してくれるんだけど、何も考えずに振ると全部持ってかれちゃうんだよね」
「……何が? まさか魔力??」

 だからそう言っているじゃん。
 とは言わなかったが、『そうだよ』と返すと、テセスの表情が歪んでしまう。
「あのねぇ……センの言う通りなら、さっき私が何も思わずに剣を振ったら、倒れて吐いて恥ずかしい思いをしていたってことじゃないの?」

 う、うん。
 実はその通りだし、僕もここ数日間、何度もそれで辛い目に遭っていた。
「もしかして慣れちゃったから平気だなんて言わないわよね?」
「あ、いや……十回くらい経験すると、意外と半分の魔力くらいなら平気になっちゃって」

「はぁ……センのそういうところ、本当に心配で仕方ないわ……」
 やれやれと、ため息をつくテセス。
 テセスにも似たような武器を作ろうかと考えていたのだけど、それを伝えたところ、速攻で『NO!』と答えが返ってきてしまった。

 とりあえずミアとコルンの元へ行き、謝りながらも武器のことを打ち明ける。
 ミアはそもそも魔力を持たないらしく、ユーグの制約のせいで僕の作る武器は意味をなさなかった。
 コルンは興味を持ったのだが、結局は魔力量の問題でそれほど期待は出来ないと言う。

 四人でリリアを探していると、ポツンと大岩の前に立つ姿を発見する。
「リリアっ、さっきはごめん!
 ……って……これ何??」

「あ、セン……なんだと思う?
 やっぱりボスのいるダンジョンなのかな……?」
 金属の散らばる見知らぬ地で、僕たちは謎の入り口を発見してしまった。
 奥の方には発光する何かがあり、金属や太い紐状のものが垂れ下がっている。
 通路の奥は、まるで異世界人が暮らしているようだとミアは言うのだ

「懐かしい……?」
 小声でボソッとリリアは呟いた。
 それは僕にもハッキリと聞こえていた。
 なぜなら僕も同じように感じていたからだ……
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