スキル【合成】が楽しすぎて最初の村から出られない

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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8章《勇者と魔王》

3話 sideユーグ

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 長い間、まるで意識を刈り取られたように眠っていた。
 地表に住む者へ力を分け与えるはずの私が、まさか逆に貰うことになるなんて、想像をしたこともなかった。

『すまんな、俺だけでは目覚めさせる事は難しいみたいでな……』
 何か懐かしい声と魔力を感じて、私は長き眠りより目覚めることになった。
 ただし、私の意識を表層化できるのは本体の中だけのようだ。
 外から声をかけてくる人族ヒューマン……いや、暗黒龍に毒される前に切り離した世界、地球から連れてきた者には、私の声は届いてはいない……

 この枯れかけた大樹の前で、男……名を山田といっただろう。
 その者と、従者と思しきそれぞれ異なる四人の者たち。
『なんと穏やかな魔力でしょう……
 それに、そうですか……山田……あなたの持つアイテムの数々を、私のために使ってくださったのですね……』

 はるか昔、私は世界を創造すると、日々蓄えてきた魔素の力から月を作り出した。
 月は地表を管理して、私が手を施さずともある程度は正常な状態へと戻してくれる存在になった。

 おかげで更に別の世界を生み出す余裕もでき、その度に私は月を作り出した。
 一つの世界に一つの月が生まれ、それぞれ異なる生物が、まるでその世界の支配者であるかのように育っていった。

 ある時、月をもう一つ作る余裕が生まれ、私はより良い世界を期待して二つの月を浮かべる計画を立てた。
 それが大間違いだった。

 当時、最も進んでいた世界は、最初に作られた地球の存在する世界だった。
 電気の扱いや、鉱物を混ぜ合わせる技術などの進み具合は、私の想像していたはるか上を行っていた。

 当然、更に良くなるとばかり思っていた私は、その最も進んだ世界に二つ目の月を設けたのだ。

『まだ魔力が足りないのか?
 おいデュラン、他に魔王城に魔素の強いアイテムは無かったか?』
『地下の倉庫の中は既に出し尽くしました。
 あとは我々の装備品ですが……』
『いや、だったらいいさ。
 俺のスキルも喰らって貰うことにするさ』
『そ、それでしたら我々が!』

 私はもう目覚めている。
 話さえ出来れば、それ以上無理に魔力を注いで貰わなくてもいいのだが……

『なにか……伝える手段は無いかしら……』
 山田は、様々なアイテムを私の中へ返してくれた。
 その中に一つの金色に光るものがあることを知る。
『世界樹の実……なんて名付けましたっけ?
 そうだわ、この中の世界でならば私も……』

 山田が世界樹に手を触れようとしている。
 しかし貴方の渡そうとしているスキルは、この先必ず必要になるもの……
『ん? なんだ、還元したはずの実が……
 なんだこれは?
 『魔物の出現:なし』だと……?』

 私が山田の目の前に作り出したアイテムの存在。
 この意図を山田は正しく汲み取ってくれるだろうか?
 考えにふける山田を見て、ひとまずどうにかなりそうだと安堵すると、私の意識は再び薄れてしまった。

 …………

 月が二つになった地球は、とても資源に恵まれるようになった。
 作物や鉱物はもちろん、これまで生成されなかった魔素が、世界中に満ちるようになった。

 もちろん最初は戸惑うばかりの生き物たち。
 だが、時間が経ち百何十年というほんの短い間に、それらを使いこなす者まで現れた。
 これで更に進化した世界が見れるに違いないと……私は信じて疑わなかった。

 その中でも、特に鍛錬した人族の中の一部の者は、次第に魔法の腕を上げ、その力は子孫へと受け継がれていくようになる。
 人体にはもともと魔力を蓄える力があったのだろう。
 試しに自我の持たない別世界の生き物を地球に送ってみたが、特に変化は現れず、『地球に未知の生物が現れた』と余計な混乱を招くばかりであった。

 魔素とは、地表や大気に存在する原子や動かし、様々な現象を引き起こす力。
 まるで私自身の小さな分身が、世界に無数存在するかのように。

 あまりに強すぎたその力を、人族は様々な方法で利用しようと試みて、遂に世界に大きな変化を引き起こしてしまった。
 それが、合成獣キメラの存在であった……

『おい、世界樹よ!
 これがお前の望む行動で良かったのか?』
 彼は、私の中に入るやいなや、私のお腹をガンガンと叩く。
 小さな部屋の中……そういえば慌てて出口も作りはしなかった。

 『おーい、まさか閉じ込めるつもりじゃないだろうな?』
 山田は剣を抜く。
 このままでは、この男は必ず中で暴れだすに決まっている。

『ま、待ってください山田……』
 私は、長い間使っていなかった力を思い出しながら使用する。
 眠りにつく前は、大気中の酸素を吸うように使うことができた能力。
 今ではそれも簡単ではなかった。

 どうにか山田と話す事はでき、私は山田と共に別の者を待つことになった……

 …………

 何百年、何千年と蓄えてきた月の魔力は、今の世界を維持する為には必要不可欠な力である。
 合成獣キメラは、人族の思いとは裏原に、勝手に進化を始めるようになる。

 そして、あまりにも進化し続けた身体は、自らを維持することが困難になってしまっていた。
 この時になぜ始末しなかったのだろう……
 もはや、人族に制御できる存在ではなかったのだ。

 エネルギーを求めた合成獣は、空に浮かぶ月に身を移していた。
 私が作り出した月が、合成獣にとってはご馳走に見えたのだろう。
 そのことに気付かずに、ただ地球が救われたのだと私は思ってしまっていた。

 そしておよそ百年の時が過ぎたが、新たな合成獣が生み出される事はなかった。
 人族も、それがどのような災害を齎すのかは理解したのだろう。

『まだ来ませんね……』
『中で待つなんて、一言も伝えてはいないからな。
 それよりも身体は大丈夫なのか?』
 ずいぶんと痩せこけてしまった私を見て、山田は心配してくれている。
 そして、時折金貨を取り出しては、私の力に変えてくれるのだ。

 金はとても良い。
 魔素を奪いすぎると、世界のバランスは崩れてしまうが、自然にできた資源の中では、非常に力の強い物質だ。
 これで私も少しずつではあるが、力を取り戻しつつあった。
 これならば山田に頼まれたアイテムも生み出す事は可能だろう……

『ぐっ……』
 時折胸を締め付けるような痛みが、私を襲う。
 今でも私の力を貪る悪魔が、力を増しながら巣食ってしまっているのだ。

 …………

 月が一つ消えた。
 地球に作った二つ目の月が、だ。
 途端に人族は衰退の一途を辿る。
 長い間魔素に頼り切っていた人族は、その力が失われると、元の世界よりも原始的に生きるようになってしまった。

 合成獣は、もはや獣とはいえないほどに姿を変えていた。
 あれは人族のいうところの『ドラゴン』という存在に似ていた。
 人族の目指した合成獣の姿は、最初の小さな毛むくじゃらの生き物ではなく、このドラゴンだったのだろうか?

 このままでは地球が危ないと考えた私は、やむなくその世界を切り離すことにした。
 だが、私の生み出した世界。
 そう簡単につながりを消してしまうことも出来ず、生き物を呼び出すことができる程度のつながりだけは残しておいた……

『で、俺が呼ばれたってわけか』
『申し訳なく感じております……
 ですが……』
『あぁ、別に構わんさ。
 どちらにせよ、おれはもうあの世界では生きていられない存在だったからな』

 月を一つ吸い尽くしたドラゴンは、より大きな魔素を求め私の根元に寄生してしまった。
 気付くのが遅れ、半分は同化してしまった状態からは、どうにも引き剥がす事はできなかった。

 一度生み出した月の力は、あえてゆっくりと放出されるように、強い力で固められている。
 生み出す事はできたが、それを身に取り込む事は敵わなかった。

 私にできた事は、残る全ての種族を世界ごと、人族に関しては大きな大陸を一つ集め、新たな世界を作り出すこと。
 月を上空に二つ浮かべ、力が尽きれば次の月を空へと浮かべるようにした。

 一度に三つの月を浮かべることも考えたが、あの忌々しきドラゴンを生み出したことを考えると、私にはそれはできない事だった。

 人族は、他の種族よりも知恵と知識を持ち世界を支配し始める。
 大陸ごとの文化は持っていたが、様々な種族が入り乱れて、私の簡易的に作り出した秩序が保たれる事はなかった。

 ふと切り離した世界が気になった。
 私が切り離した地球を含む世界は、再び成長し、二つ目の月を生み出す以前の姿を取り戻していたのだ。
 たった数千年の間に……

 だが、そんな最先端をゆく世界でも、理不尽に死にゆく存在は多いらしい。
 その中で、社会のために身を粉にし、潰れてしまった者の一人を目の前に呼び出した。
 それほどの進化できる者ならば、その持ち得た知識で私を救ってくれるのではないか……

 一人目は川内という青年。
 体内の魔素を回復させるために必要な、睡眠を削って死にかけていた。
 元々魔法やスキルの世界に興味を持っていた彼は、私の話を聞くと楽しそうにスキルやアイテムを創造し始める。

 彼が何を思ってそのスキルを生み出したのかは、私には分からない。
 まさか私の力に干渉する力だとは思っていなかったのだ。
 私が甘い考えを持っていたのだと、この時になってようやく思い知らされる事になる。

 あまりに勝手なその人物を、私は魔素の悪王だと揶揄ってやった。
 だが、結局は『魔王』という中途半端な呼称に落ち着いてしまっていたのだが。
 おそらく名前が『真緒』だということも理由の一つだったのだろう……

 そして今、あまり期待していなかった二人目は、私を長き眠りより目覚めさせていた……

「おっ、やっと来たみたいじゃねぇか?」
「そうみたいですね山田……
 私も……今一度あなたたちを信じてみたくなりました……」

 彼らに力を授ければ、きっと私は再び眠りについてしまう。
 そうでなくても多くの力を失ってしまうだろう……

 セン……そしてリリア……
 川内真緒が作り出したスキルをもつ子供らよ……
 山田と共に、私を……世界を救ってください……
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