66 / 97
7章《チートマジシャン》
13話
しおりを挟む
ミアも回復して、僕とコルンは再び下がる。
小さな女の子に戦わせているみたいで、相変わらず僕は妙な気分になってしまうのだが……
まぁ、トテトテとおぼつかない足取りなはずもなく、少し身体を温めるような仕草をしていると思ったら、地面を蹴る音がこちらにまで聴こえて……
「やあぁぁっ!」
次の瞬間には、そんな掛け声とともに、魔物二体をまとめて薙ぎ払う姿があったのだから、そんな心配は無用なのだろうけれど。
それにしても、村の中で見るミアとは違って、惚れ惚れするほどにカッコいいと思ってしまう。
それなのに僕はどうだろうか?
コルンも『必殺技が弱い』と言われ、躍起になって先ほどから繰り返し技を使っている。
「赫灼……一閃!」
番た矢が真っ赤に染まり、放たれるとそれはキィィンという空を切る音とともに魔物へと吸い込まれていく。
最初に覚えた必殺技だが、回数をこなせと言われて一番都合のいい技なのだろう。
新しい技の方は、それほど連続では放てないと、そう聞いたことはあった。
だが、その分威力は乏しいのかもしれない。
僕の合成した矢の威力が合わさっても、魔物を倒すには至らなかった。
時間が経つと、ミアが倒した分だけ、魔物は少し後ろの方で再び復活しているのがわかる。
まるで時間が遡るかのように、倒して霧のように消えた魔物が、元の姿へ戻っていくのだ。
エレメンタル特有の技かスキルなのか?
それとも魔物にも治癒……いや復活の魔法でも使えるような者がいるというのか……
「スリーピングシープ!」
ずっとファイアーボールで応戦していたバリエさんが、今度は状態異常の魔法を使う。
運が良ければ、魔物を昏睡状態にできるという、決まれば非常に強力な魔法だ。
戦いの場を覆うように青い円陣が浮かび上がり、その中から魔物だけを自動選別して青い光が包み込む。
「やはり……ダメでしたか」
失敗が当然とばかりに、気を取り直して杖を前にかざし、再びファイアーボールの詠唱を始めるバリエさん。
予想はできていた。
これまでも、何度か使用したことはあったのだが、魔法が効く魔物と効かない魔物がいる。
そしてボスはどれだけ弱くとも、例外無く効いた試しは無かったのだ。
あのオークキングですら、だ。
「アステアっ、引いて!
乱戦になってくると私がアステアを斬ってしまいそうなの!」
「え、えぇ分かりました!
ミアさんも無理しないで下さいっ!」
魔物七体が、仲間同士で武器がぶつかり合うのもお構いなしに剣を降りまくるものだから、次第に僕たちの隊列みたいなものはぐちゃぐちゃになってしまっている。
そりゃあ物理攻撃が効かないなら、そんな攻撃の仕方もあるだろうけれど、ちょっとズルいなんて思ってしまう。
「これ以上追い詰められたら危ない。
一回戦況を整え直すから……センっリリア、風の魔法でできるだけ吹っ飛ばして!」
「「わ……分かった(わ)!」」
範囲を広げて魔法を放っても、これまでの戦いを見る限り吹き飛ばすのは難しそうだ。
だったら一体ずつ……それだと先に飛ばした個体が起き上がってくるか?
「センは私に合わせて魔法を使って頂戴!
気休めかもしれないけど、余裕のありそうなコルンにももう力を溜めてもらってるわ」
「気休めで悪かったな、火魔法以外はどうにも苦手なんだよ」
いつの間にか、コルンの手にもルースが握られている。
しかも、効果があるのかどうかはわからないが、様々なルースをいくつも持っているみたいだ。
リリアの普段持ち歩く質の良いルースというものを、選ぶ余裕もなくとにかく渡したという感じだろうか?
「行くよっ二人とも!」
「「良いよ(オッケー)」」
詠唱途中のバリエさんと、回復に専念しているテセスはともかく、アステアの前にも魔物はいる。
それだけの範囲をミアとアステアに当たらないように魔法を放つとなれば、リリアならおそらく……
「二人とも伏せてっ!」
リリアの声に合わせて、身を屈めるミアとアステア。
下手をすれば無防備になるその体勢へと、なんの躊躇もなく行動を取るのは、仲間を信頼しているからなのだろう。
そして僕はやはり躊躇してしまっていた。
「ウォータースラッシュ!」
リリアは本気の横薙ぎ一閃を、ちょうど胸あたりの高さで放っていたのだ。
そりゃあなるべく範囲を絞れば、それだけ吹き飛ばす力も上がるだろうけど。
もし味方に当たったらとか思わないのだろうか? 多分当たったら死んでたんじゃないか?
そもそも風魔法でもなかったし……
僕は万が一当たっても致命傷にはならない程度の、リリアの魔法に比べたらただの追い風みたいな魔法を。
コルンはそもそも形を成していなかったのか、アチコチに魔法が飛んでいき、屈んだ二人にも若干当たっているようではあった。
まぁ、少し考えればリリアが正しいのかもしれない。
どのみち二人が耐えられるような風魔法では、魔物たちを吹き飛ばすこともできなかっただろうし、避けてくれることは前提で考えていたのかもしれない……
何年も戦いを続けてきたけれど、僕はまだまだ状況判断をするのが遅いのだろう……
このまま行き止まり側にいても、追い詰められてしまうということで、ミアの先導で魔物の向こう側の通路へと駆けていく僕たち。
魔物とすれ違う瞬間、『なかなかの威力だ』という魔物の声が聞こえ、ダメージが無いわけじゃないことは分かる。
ふと気付いて、僕は振り返り起き上がろうとする魔物を凝視した。
《ヘプターイクリプス:七体のエレメンタルは、本体と体力を共有している》
「早く逃げるぞ、センっ!」
「あ、あぁ今行くよコルン!」
弓をインベントリに片付けているコルンが見える。
こんな時に収納可能な武器というのは便利で羨ましいものだ。
とにかくそのわずかな時間では、大した情報は読み取れなかった。
体力とか魔力も見れたけれど、だからってあとどれだけダメージを与えればいいのかもわからないし、多分だけどこれが一番重要そうな情報だったのだ。
「本体……?」
走りながら、僕はその情報の意味を考えている。
倒しても復活するのは、体力を共有しているため、他の個体から体力を分けてもらっていると考えればいいのだろう。
じゃああの七体の中に本体が混ざっているのだろうか?
魔物から離れ、見通しの良い三叉路に差し掛かると、ミアが振り返り僕たちを一瞥する。
「回復薬はみんな持ってる?
今の武器はあまり効果は無いわ、できるだけ強い魔法が使えるようにして。
バリエは時間がかかり過ぎ、もう魔法はいいから、サポートに徹して頂戴」
コルンには矢を惜しまず使うよう、リリアには弱っていそうな魔物を確実に倒して数を減らすよう。
テセスにも、状態異常の回復は無視して、その分攻撃魔法を支持していた。
戦いの中で気付いたらしいのだが、足が竦むような状態異常は、七体が揃っている時にのみ発動しているようだ。
アステアと並んで剣を構え直し、ミアは一歩来た道へと歩み出す。
「ぼ、僕は?」
アドバイスが無かったものだから、たまらずミアに聞いたのだが、その回答は冷たい言葉だった。
「……自分で考えなさいよ。
何が有効で、自分が今何をできるのか考えたらわかるでしょ……」
ミアからそう言われると、急にフッと血の気が引いたような感覚になった。
呆られているのだろうか?
確かにこのところ、まともに戦えている気はしない。
ボス戦では剣を振るアステアと、魔法を使うバリエさんとリリア。
コルンの弓は大きなダメージ源になっているようだし、テセスの治癒魔法は大事なものだ。
じゃあ僕は戦いの最中、一体何をしていたのだろうか?
ちょこちょこと魔法を使って、確かにダメージは与えているだろうけれど、それだけじゃないだろうか?
回復薬もそれぞれのインベントリに入っていて、手渡す必要はない。
「来るよっ! 大丈夫、無敵の魔物なんていないって、魔王様が言っているんだから!
この世で唯一無敵なのは、魔王様だけよっ!」
そのミアの言葉に、動揺していた僕もすぐに我に帰る。
そうだ、とにかく今はあの魔物たちを倒さなくてはいけないのだ。
武器を構えるみんなを見て、ぼくも冷静に今できることを考える。
きっと、手持ちのルースでは威力は低い。
バリエさんの魔法やコルンの必殺技でも弱いのだと、ミアは言うのだ。
僕が何かしたところで焼石に水なのだろう。
それほど、深い階層にやってきて、魔物は強くなっているのだと思い知らされた。
「ちょ、ちょっとセン⁈
こんなところで何を広げてるのよ?」
リリアが驚くのも当然だろう。
インベントリに入っていた素材を、全て外に取り出したのだ。
もちろん、邪魔になりそうな大きな毛皮なんかは、取り出した後に再び片付けてはいるが。
牙、皮、水晶体、液体の入った瓶、そんなものの合成はあらかたやり尽くした。
属性のダメージなら魔符だろう。
だがそれでは狙いが定めにくい上、一度きりの効果。
もっと、ルースのように汎用性を持たせつつ、威力の高いものを作らなくてはいけない。
金属のぶつかり合う音が聞こえ、ミアの咆哮に似た大声も聞こえる。
「リリアっ! センのことはいいから、早く魔法を!」
「えっ、あっ……うん!」
次第に状況が悪化していく様子が、音だけでも十二分に伝わってくるが、おそらく僕が加勢したところでそれは変わらない。
「この魔力回復薬、貰うわよっ」
視線の先にあったアイテムを一つ、リリアが手に取るのが見える。
既に魔法を何度も放ち、魔力も尽きかけているのだろう。
ならば、やはり魔符が一番だろう。
大量に合成して、風魔法で魔物の群れの中に運んで破ってやればきっと……
すぐに腰袋のルースを取り出して、素材を集める。
コピアの木も、コルンが面白がって集めてくれたおかげで、まだ大量に残っているのだ。
あとは、魔力の素となる魔力草。
この際惜しんでなんていられない……
一瞬、その高価な草に手を伸ばすのを躊躇ってしまったが、すぐに思い直して手を伸ばす、が……
ズシャッ!
目の前にあった緑色をした葉は、黒い剣の形をしたものに切り裂かれ、そのまま共に霧状へと変わっていく。
魔物の放った魔法が、僕の魔力草を闇に葬ってくれたのだ。
「あ……」
頭の中が真っ白になるとは、こういうことなのだろう。
せっかくやろうとした事が台無しになり、次はどうして良いのか思いつかない。
「センっ! 危ないっ!」
テセスの声がしたと思った瞬間、ズキッ……と突然の痛みが足元を襲う。
黒いモヤ状の剣が太ももに突き刺さっているのだ。
すぐにそれは消え、代わりにキラキラとした光が足を包み込んでいく。
治癒魔法のおかげで、程なく痛みは治まっていくが、大事な回復役のテセスが僕のせいで戦いに参加できない状態になってしまった。
だけど……
「おかげでスッキリしたよ……
なんだか難しく考えすぎていたみたい」
僕はヤマダさんが手渡してくれた世界樹辞典を開き、辺りを見回す。
アステアとミアは無理そうか。
だったらリリアが一番適任だろう、僕ではそれほどの制御力は無いだろうし。
《常闇の錫杖:魔法攻撃力?、特殊効果?》
強さなんて不明で良い。
魔法使い専用武器でないことも、一応確認ができるみたいだから、最初からこれを見ておけば良かったのだ。
そして今作れそうな中で、一番下に項目のある武器、それがこれだったというだけのこと。
メイン素材に貴重な『ヒヒイロカネ』を。
せっかく集まった激レア素材だけど、残しておいても意味がないのだと分かった気がした。
どうせ上から三番目の素材なのだ。
きっと将来、もっと良い素材が手に入るのだろうし、その時はもしかしたらこんな素材では威力が足りないのかもしれないのだから。
サブ素材にはいくつかの魔物素材が必要なようだが、同じ系統のものなら代用が利くのだから悩む必要はなかった。
これもなるべく深い階層のダンジョン内で手に入れたものを利用する。
強い魔物からは強い素材が手に入る、というのが鉄則なのだろう。
そして追加素材。
正直何をどうしたらどこまで強くなるのかは分かっていないけれど、色々と入れておけば少なくとも悪い効果は生まれないだろう……多分。
「魔符に使おうと思っていたけど……これも混ぜてみるか……」
上級魔石から作った『潮』二つのルースと『嵐』二つのルース。
ただ、普通に混ぜたのでは『ルースの代わりとしても使える杖』にしかならない。
ルースを組み込むのではなく、素材の一部として使う。
それに、マスター合成になって『特性』も選べるのだ。
「んーっと……『?を?杖』と、『?の一撃』……あとは『ドラゴンキラー』かな?
一応、目標は最下層のドラゴンなんだし」
え? 意味不明な効果だって?
これはルースを混ぜた時に起こる現象らしい。
元々、ユーグが作ったわけじゃないから、そういった一種のバグみたいなものだろうってヤマダさんは言っていたかな。
よくわからないけど、ヤマダさんが問題ないと言うのなら問題無いのだろう。
ちなみに最近知ったのだけど、この魔文字の入った魔石、僕たちの住む大陸にしか無いらしい。
先代魔王が人族のために作ったのだから、魔族には不要なものだったのだろう。
だから戦える魔族は普通にレベルが高く、僕たちよりも全然強くて当たり前だと。
まぁ、今はそんなことはさておき……
「リリアっ、コレを!」
僕は出来上がったばかりの金色に輝く錫杖を投げ渡す。
世界樹辞典には銀色で描かれたのだが、おそらくルースの影響で色が変わったのだろうな。
「ど、どうすればいいの?」
右手で小さな杖を腰に巻いた布の間に差し込み、錫杖に持ち替えたリリア。
「普通に振ればいいと思う。
どれだけ魔力を消費するかはわからないけど、リリアなら多分上手に使いこなせると思うよ!」
「振るって……こう?」
ミアとアステアを避け、離れたところに立つ一体の魔物を狙ったリリア。
……ボシュッ……
水とも風とも思えないドス黒い何かが一直線に飛んでいき、瞬時に魔物を消し去ってしまった。
錫杖を振るったリリアも、万全の状態からではなかったせいか、多少の疲弊は見られたものの、問題はそれほどないようだ。
すぐにその武器に慣れ、次々と魔物を消し去っていったリリア。
おそらくデク人形で試せば、軽く『5000』……いや、『10000』ダメージが見られるのかもしれないな。
だが……
「せっかく倒したのにっ、これじゃキリ無いよっ!」
そう、倒しても倒しても、魔物は復活してくるのだ。
魔力回復薬をいくつも消費し、僕たちの疲れはピークに達していたのだった。
小さな女の子に戦わせているみたいで、相変わらず僕は妙な気分になってしまうのだが……
まぁ、トテトテとおぼつかない足取りなはずもなく、少し身体を温めるような仕草をしていると思ったら、地面を蹴る音がこちらにまで聴こえて……
「やあぁぁっ!」
次の瞬間には、そんな掛け声とともに、魔物二体をまとめて薙ぎ払う姿があったのだから、そんな心配は無用なのだろうけれど。
それにしても、村の中で見るミアとは違って、惚れ惚れするほどにカッコいいと思ってしまう。
それなのに僕はどうだろうか?
コルンも『必殺技が弱い』と言われ、躍起になって先ほどから繰り返し技を使っている。
「赫灼……一閃!」
番た矢が真っ赤に染まり、放たれるとそれはキィィンという空を切る音とともに魔物へと吸い込まれていく。
最初に覚えた必殺技だが、回数をこなせと言われて一番都合のいい技なのだろう。
新しい技の方は、それほど連続では放てないと、そう聞いたことはあった。
だが、その分威力は乏しいのかもしれない。
僕の合成した矢の威力が合わさっても、魔物を倒すには至らなかった。
時間が経つと、ミアが倒した分だけ、魔物は少し後ろの方で再び復活しているのがわかる。
まるで時間が遡るかのように、倒して霧のように消えた魔物が、元の姿へ戻っていくのだ。
エレメンタル特有の技かスキルなのか?
それとも魔物にも治癒……いや復活の魔法でも使えるような者がいるというのか……
「スリーピングシープ!」
ずっとファイアーボールで応戦していたバリエさんが、今度は状態異常の魔法を使う。
運が良ければ、魔物を昏睡状態にできるという、決まれば非常に強力な魔法だ。
戦いの場を覆うように青い円陣が浮かび上がり、その中から魔物だけを自動選別して青い光が包み込む。
「やはり……ダメでしたか」
失敗が当然とばかりに、気を取り直して杖を前にかざし、再びファイアーボールの詠唱を始めるバリエさん。
予想はできていた。
これまでも、何度か使用したことはあったのだが、魔法が効く魔物と効かない魔物がいる。
そしてボスはどれだけ弱くとも、例外無く効いた試しは無かったのだ。
あのオークキングですら、だ。
「アステアっ、引いて!
乱戦になってくると私がアステアを斬ってしまいそうなの!」
「え、えぇ分かりました!
ミアさんも無理しないで下さいっ!」
魔物七体が、仲間同士で武器がぶつかり合うのもお構いなしに剣を降りまくるものだから、次第に僕たちの隊列みたいなものはぐちゃぐちゃになってしまっている。
そりゃあ物理攻撃が効かないなら、そんな攻撃の仕方もあるだろうけれど、ちょっとズルいなんて思ってしまう。
「これ以上追い詰められたら危ない。
一回戦況を整え直すから……センっリリア、風の魔法でできるだけ吹っ飛ばして!」
「「わ……分かった(わ)!」」
範囲を広げて魔法を放っても、これまでの戦いを見る限り吹き飛ばすのは難しそうだ。
だったら一体ずつ……それだと先に飛ばした個体が起き上がってくるか?
「センは私に合わせて魔法を使って頂戴!
気休めかもしれないけど、余裕のありそうなコルンにももう力を溜めてもらってるわ」
「気休めで悪かったな、火魔法以外はどうにも苦手なんだよ」
いつの間にか、コルンの手にもルースが握られている。
しかも、効果があるのかどうかはわからないが、様々なルースをいくつも持っているみたいだ。
リリアの普段持ち歩く質の良いルースというものを、選ぶ余裕もなくとにかく渡したという感じだろうか?
「行くよっ二人とも!」
「「良いよ(オッケー)」」
詠唱途中のバリエさんと、回復に専念しているテセスはともかく、アステアの前にも魔物はいる。
それだけの範囲をミアとアステアに当たらないように魔法を放つとなれば、リリアならおそらく……
「二人とも伏せてっ!」
リリアの声に合わせて、身を屈めるミアとアステア。
下手をすれば無防備になるその体勢へと、なんの躊躇もなく行動を取るのは、仲間を信頼しているからなのだろう。
そして僕はやはり躊躇してしまっていた。
「ウォータースラッシュ!」
リリアは本気の横薙ぎ一閃を、ちょうど胸あたりの高さで放っていたのだ。
そりゃあなるべく範囲を絞れば、それだけ吹き飛ばす力も上がるだろうけど。
もし味方に当たったらとか思わないのだろうか? 多分当たったら死んでたんじゃないか?
そもそも風魔法でもなかったし……
僕は万が一当たっても致命傷にはならない程度の、リリアの魔法に比べたらただの追い風みたいな魔法を。
コルンはそもそも形を成していなかったのか、アチコチに魔法が飛んでいき、屈んだ二人にも若干当たっているようではあった。
まぁ、少し考えればリリアが正しいのかもしれない。
どのみち二人が耐えられるような風魔法では、魔物たちを吹き飛ばすこともできなかっただろうし、避けてくれることは前提で考えていたのかもしれない……
何年も戦いを続けてきたけれど、僕はまだまだ状況判断をするのが遅いのだろう……
このまま行き止まり側にいても、追い詰められてしまうということで、ミアの先導で魔物の向こう側の通路へと駆けていく僕たち。
魔物とすれ違う瞬間、『なかなかの威力だ』という魔物の声が聞こえ、ダメージが無いわけじゃないことは分かる。
ふと気付いて、僕は振り返り起き上がろうとする魔物を凝視した。
《ヘプターイクリプス:七体のエレメンタルは、本体と体力を共有している》
「早く逃げるぞ、センっ!」
「あ、あぁ今行くよコルン!」
弓をインベントリに片付けているコルンが見える。
こんな時に収納可能な武器というのは便利で羨ましいものだ。
とにかくそのわずかな時間では、大した情報は読み取れなかった。
体力とか魔力も見れたけれど、だからってあとどれだけダメージを与えればいいのかもわからないし、多分だけどこれが一番重要そうな情報だったのだ。
「本体……?」
走りながら、僕はその情報の意味を考えている。
倒しても復活するのは、体力を共有しているため、他の個体から体力を分けてもらっていると考えればいいのだろう。
じゃああの七体の中に本体が混ざっているのだろうか?
魔物から離れ、見通しの良い三叉路に差し掛かると、ミアが振り返り僕たちを一瞥する。
「回復薬はみんな持ってる?
今の武器はあまり効果は無いわ、できるだけ強い魔法が使えるようにして。
バリエは時間がかかり過ぎ、もう魔法はいいから、サポートに徹して頂戴」
コルンには矢を惜しまず使うよう、リリアには弱っていそうな魔物を確実に倒して数を減らすよう。
テセスにも、状態異常の回復は無視して、その分攻撃魔法を支持していた。
戦いの中で気付いたらしいのだが、足が竦むような状態異常は、七体が揃っている時にのみ発動しているようだ。
アステアと並んで剣を構え直し、ミアは一歩来た道へと歩み出す。
「ぼ、僕は?」
アドバイスが無かったものだから、たまらずミアに聞いたのだが、その回答は冷たい言葉だった。
「……自分で考えなさいよ。
何が有効で、自分が今何をできるのか考えたらわかるでしょ……」
ミアからそう言われると、急にフッと血の気が引いたような感覚になった。
呆られているのだろうか?
確かにこのところ、まともに戦えている気はしない。
ボス戦では剣を振るアステアと、魔法を使うバリエさんとリリア。
コルンの弓は大きなダメージ源になっているようだし、テセスの治癒魔法は大事なものだ。
じゃあ僕は戦いの最中、一体何をしていたのだろうか?
ちょこちょこと魔法を使って、確かにダメージは与えているだろうけれど、それだけじゃないだろうか?
回復薬もそれぞれのインベントリに入っていて、手渡す必要はない。
「来るよっ! 大丈夫、無敵の魔物なんていないって、魔王様が言っているんだから!
この世で唯一無敵なのは、魔王様だけよっ!」
そのミアの言葉に、動揺していた僕もすぐに我に帰る。
そうだ、とにかく今はあの魔物たちを倒さなくてはいけないのだ。
武器を構えるみんなを見て、ぼくも冷静に今できることを考える。
きっと、手持ちのルースでは威力は低い。
バリエさんの魔法やコルンの必殺技でも弱いのだと、ミアは言うのだ。
僕が何かしたところで焼石に水なのだろう。
それほど、深い階層にやってきて、魔物は強くなっているのだと思い知らされた。
「ちょ、ちょっとセン⁈
こんなところで何を広げてるのよ?」
リリアが驚くのも当然だろう。
インベントリに入っていた素材を、全て外に取り出したのだ。
もちろん、邪魔になりそうな大きな毛皮なんかは、取り出した後に再び片付けてはいるが。
牙、皮、水晶体、液体の入った瓶、そんなものの合成はあらかたやり尽くした。
属性のダメージなら魔符だろう。
だがそれでは狙いが定めにくい上、一度きりの効果。
もっと、ルースのように汎用性を持たせつつ、威力の高いものを作らなくてはいけない。
金属のぶつかり合う音が聞こえ、ミアの咆哮に似た大声も聞こえる。
「リリアっ! センのことはいいから、早く魔法を!」
「えっ、あっ……うん!」
次第に状況が悪化していく様子が、音だけでも十二分に伝わってくるが、おそらく僕が加勢したところでそれは変わらない。
「この魔力回復薬、貰うわよっ」
視線の先にあったアイテムを一つ、リリアが手に取るのが見える。
既に魔法を何度も放ち、魔力も尽きかけているのだろう。
ならば、やはり魔符が一番だろう。
大量に合成して、風魔法で魔物の群れの中に運んで破ってやればきっと……
すぐに腰袋のルースを取り出して、素材を集める。
コピアの木も、コルンが面白がって集めてくれたおかげで、まだ大量に残っているのだ。
あとは、魔力の素となる魔力草。
この際惜しんでなんていられない……
一瞬、その高価な草に手を伸ばすのを躊躇ってしまったが、すぐに思い直して手を伸ばす、が……
ズシャッ!
目の前にあった緑色をした葉は、黒い剣の形をしたものに切り裂かれ、そのまま共に霧状へと変わっていく。
魔物の放った魔法が、僕の魔力草を闇に葬ってくれたのだ。
「あ……」
頭の中が真っ白になるとは、こういうことなのだろう。
せっかくやろうとした事が台無しになり、次はどうして良いのか思いつかない。
「センっ! 危ないっ!」
テセスの声がしたと思った瞬間、ズキッ……と突然の痛みが足元を襲う。
黒いモヤ状の剣が太ももに突き刺さっているのだ。
すぐにそれは消え、代わりにキラキラとした光が足を包み込んでいく。
治癒魔法のおかげで、程なく痛みは治まっていくが、大事な回復役のテセスが僕のせいで戦いに参加できない状態になってしまった。
だけど……
「おかげでスッキリしたよ……
なんだか難しく考えすぎていたみたい」
僕はヤマダさんが手渡してくれた世界樹辞典を開き、辺りを見回す。
アステアとミアは無理そうか。
だったらリリアが一番適任だろう、僕ではそれほどの制御力は無いだろうし。
《常闇の錫杖:魔法攻撃力?、特殊効果?》
強さなんて不明で良い。
魔法使い専用武器でないことも、一応確認ができるみたいだから、最初からこれを見ておけば良かったのだ。
そして今作れそうな中で、一番下に項目のある武器、それがこれだったというだけのこと。
メイン素材に貴重な『ヒヒイロカネ』を。
せっかく集まった激レア素材だけど、残しておいても意味がないのだと分かった気がした。
どうせ上から三番目の素材なのだ。
きっと将来、もっと良い素材が手に入るのだろうし、その時はもしかしたらこんな素材では威力が足りないのかもしれないのだから。
サブ素材にはいくつかの魔物素材が必要なようだが、同じ系統のものなら代用が利くのだから悩む必要はなかった。
これもなるべく深い階層のダンジョン内で手に入れたものを利用する。
強い魔物からは強い素材が手に入る、というのが鉄則なのだろう。
そして追加素材。
正直何をどうしたらどこまで強くなるのかは分かっていないけれど、色々と入れておけば少なくとも悪い効果は生まれないだろう……多分。
「魔符に使おうと思っていたけど……これも混ぜてみるか……」
上級魔石から作った『潮』二つのルースと『嵐』二つのルース。
ただ、普通に混ぜたのでは『ルースの代わりとしても使える杖』にしかならない。
ルースを組み込むのではなく、素材の一部として使う。
それに、マスター合成になって『特性』も選べるのだ。
「んーっと……『?を?杖』と、『?の一撃』……あとは『ドラゴンキラー』かな?
一応、目標は最下層のドラゴンなんだし」
え? 意味不明な効果だって?
これはルースを混ぜた時に起こる現象らしい。
元々、ユーグが作ったわけじゃないから、そういった一種のバグみたいなものだろうってヤマダさんは言っていたかな。
よくわからないけど、ヤマダさんが問題ないと言うのなら問題無いのだろう。
ちなみに最近知ったのだけど、この魔文字の入った魔石、僕たちの住む大陸にしか無いらしい。
先代魔王が人族のために作ったのだから、魔族には不要なものだったのだろう。
だから戦える魔族は普通にレベルが高く、僕たちよりも全然強くて当たり前だと。
まぁ、今はそんなことはさておき……
「リリアっ、コレを!」
僕は出来上がったばかりの金色に輝く錫杖を投げ渡す。
世界樹辞典には銀色で描かれたのだが、おそらくルースの影響で色が変わったのだろうな。
「ど、どうすればいいの?」
右手で小さな杖を腰に巻いた布の間に差し込み、錫杖に持ち替えたリリア。
「普通に振ればいいと思う。
どれだけ魔力を消費するかはわからないけど、リリアなら多分上手に使いこなせると思うよ!」
「振るって……こう?」
ミアとアステアを避け、離れたところに立つ一体の魔物を狙ったリリア。
……ボシュッ……
水とも風とも思えないドス黒い何かが一直線に飛んでいき、瞬時に魔物を消し去ってしまった。
錫杖を振るったリリアも、万全の状態からではなかったせいか、多少の疲弊は見られたものの、問題はそれほどないようだ。
すぐにその武器に慣れ、次々と魔物を消し去っていったリリア。
おそらくデク人形で試せば、軽く『5000』……いや、『10000』ダメージが見られるのかもしれないな。
だが……
「せっかく倒したのにっ、これじゃキリ無いよっ!」
そう、倒しても倒しても、魔物は復活してくるのだ。
魔力回復薬をいくつも消費し、僕たちの疲れはピークに達していたのだった。
11
お気に入りに追加
4,182
あなたにおすすめの小説

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』
ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。
誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。


劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。