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7章《チートマジシャン》
12話
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「アイツらはヘプターイクリプス!
七体とも見た目は骨みたいだけど、倒し方はこの階層の雑魚と一緒だからねっ!」
ミアが簡単に説明してくれたのだが、どうやら通常のエレメンタル同様に、属性攻撃しかダメージの通らない魔物らしい。
しかも、出会って早々に僕たちは謎の状態異常である。
さらには曲がり角の奥は行き止まり、どうやら戦うしかないようだ。
「細かいことは私もわからない。
でも、長時間居座っていると出てくる死神じゃないのなら、多分勝ち目はある」
ゆっくりと迫ってくる七体のエレメンタル。
こちらの七人はそれぞれ、最低限の魔法は使えるように武器を持ち替える。
だが、このところまともに魔石を扱っていなかったことが悔やまれるくらいに、今この場にある武器は心許なく感じられてしまった。
「セン、私にもルースをちょうだい」
テセスの右手には短剣が握られていて、それを盾代わりにするつもりらしい。
よく見れば、首に着けていた回復用のネックレスは引きちぎられ、剣を握る手に巻かれているようだ。
触れていなければ発動しないルースを、攻撃と回復の両方を使うために思いついた方法なのだろう。
「え、と……あまり持ってきてないんだけど、これでいいかな?」
腰袋から『星』の魔石を三つ合成したルースを取り出す。
本にも記されている地属性の上位の属性魔法が使えるという魔文字で、密かに集めている途中のものだったのだ。
だから、まだ強化の途中段階。
これがどれほどの威力を持つのかは、まともに試したことはなかった。
「いいわ、ありがとう。
……アステアのルースも、もう少し強いといいのだけど、彼ではまだ魔力が足りない……わよね」
多分……そうだろう。
リリアやテセスの魔力を基準に考えてしまうと、いつも忘れてしまいそうになる。
アステアもコルンも、それほど魔力量は多くない。
ここ半年ずっと特訓をしていたバリエさんですら、僕よりも少ないくらいなのだから、魔法をあまり使わない二人には期待できないかもしれない。
僕もルースを混ぜた剣を手に、テセスの前に一本踏み出ると、ミアがぐるりと全員を見回して声を上げる。
「来るよっ!
ちょうど七対七、一人一体を相手にして、周囲の状況を見ながら助けに入って!
ピヨちゃん……は、魔法が使えないヘボ勇者と一緒でいいわね?」
あぁ、アステアのことをミアはそう思っていたんだ。
初めて会った時から、確かに勇者のことは好きではなさそうだったけど。
ミアが青い剣を手に、魔物の群れへと駆け出していく。
剣で攻撃をするということは、その青い剣が属性効果をもったものだということなのだろう。
それを見た僕たちは少しだけ散開し、バリエさんは真先に詠唱に入っていた。
「動きは遅いみたいね、これなら全体攻撃じゃなくて、一体だけを狙って威力の高い攻撃をした方がいいかも……」
そう呟きながら、杖の先から魔法が発動し始めているリリア。
僕も同じように魔力を剣に込め初めているが、慣れなどもあるのだろう、その速度は僕のものとは段違いだった。
ここは、小金貨を消費してでも、(僕が勝手に)封印していたスキルを使って魔法を使うべきだろうか……
真先に駆けていったミアに続き、アステアもまた魔物の群れに近づいていった。
「皆さんの準備ができるまでっ、時間を稼ぎます!」
持っている武器ではダメージを与えられないことは分かっているのだろう。
端にいた一体を斬りつけたミアが、アステアに気付いてインベントリから小さな短剣を取り出して、近くへと投げつけていた。
地面を滑りながら、鞘に収まった短剣はくるくるとまわり、アステアの足元で止まる。
「誰でも使えるような属性の持った剣なんて、もう他には無いんだから。
くっ……小さいけど我慢して使いなさいよねっ」
ちょうど魔物からの反撃を受け、ミアの手甲には魔物の持つ剣の刃先が当たっている。
「アイスランスっ!」
サポートしなくてはと思っていると、僕よりも一足先に発動させたリリアの氷の魔法が、その一体の頭部を貫く。
魔物は、力は抜けたように腕がダラリと垂れ下がるが、次の瞬間には傷付いた頭部も元に戻り、再び剣を頭上に振り上げていた。
「させないわよっ!」
続けてテセスの星魔法、いくつかの石つぶてが振り上げた剣を吹き飛ばし、少し奥に立っていた別の一体に突き刺さったようだ。
「二人ともナイスっ! えぇぇい!」
再びミアの一撃で、集中攻撃を受けていた一体目は腰あたりから砕けて、ガシャっという音と共に地に伏せた。
もう一方、アステアの方はというと、さすがに使い慣れない短剣ではうまく攻撃できない様子。
「アステアっ、僕が動きを止めるから!」
この魔物たちに出会った瞬間から僕は足が竦むような感覚があって、一瞬だけそれは和らいだのだけど、おそらくテセスが回復してくれたからだと思う。
またすぐに同じ感覚に捉われてからは、きっとテセスも回復が意味を成さないのだと悟ったのだろう、治ることはなかったが、完全に動けないわけではないのが救いなのだろう。
「フリーズダスト!」
風魔法と氷魔法を使い、魔物の足を地面に固定させる魔法を使ってみる。
草刈りなんかで役に立っていた魔法なのだけど、七体とも動けなくなれば余裕なんじゃないかと思ったのだ。
「あ、あれ……?」
魔物の足元に薄い氷の膜はできたと思うのだけど、それは魔物の行進とともにパリパリと簡単に砕けてしまった。
「氷蟲の陣!」
一呼吸置いて、コルンが覚えたばかりの必殺技を放つ。
放たれた矢は弧を描き、魔物の群れる中心へと落下。
そこから円陣が浮かび上がり、その上にいた五体は悲鳴のような声を上げながらダメージを負っていた。
「やっぱり強いじゃねーか!
これで弱いってんなら、その強い技ってのを見てみたいもんだぜっ」
ミアに『弱い』と言われたことを、やはり気にしているのだろう。
背に抱えていた矢筒から次の氷の矢を取り出して、弓に添えながら息巻いていた。
しかし、今のところ一体の魔物も倒せてはいない。
やはりボスだけあってか、体力も相応に多いのだろう。
「キュイッ!」
「やぁっ!」
アステアとピヨちゃんの周りにも、わらわらと三体の魔物が近寄っており、すでに攻撃を捌くので手一杯のようだ。
ミアは、二体の魔物を相手にしながらも、まだ余裕はある……というか、攻撃を受けながら斬りかかっているものだから、見た目には相打ち覚悟のようにも見える。
時折テセスが回復してくれているから、黒いローブは傷だらけだけど、動きは最初と変わっていない。
魔物に隙ができたと思った瞬間、ふと、ミアの動きが止まる。
「そう……強い必殺技を見てみたいのね。
別にいいけれど、コレを使ったらしばらくはコルン、あなたがコイツらの相手をしなさいよ……」
ミアがそう言うものだから、気になってしまいリリアも僕もアステアへの援護の手が止まる。
あ、もちろん小金貨を消費しつつ放ったアイスランスで、既に十発分は消費したのだが。
「ぐっ……」
せっかく生まれた魔物の隙に、一切の攻撃もせずに力を溜め始めたミア。
テセスの回復も追いつかない、ミアの正面に立つ魔物が、執拗にミアの身体に剣を振りかざしてくるのだ。
「ちょっ……ミアっ大丈夫っ⁈」
「見てなさい、私の使える一番強い技よっ!
はぁぁ……カラミティーエンドォ!」
凄まじかったとしか形容する他ない。
エメラルドグリーンだったミアの頭髪が、不思議と真っ赤に染まり、ミアがまるで巨大なドラゴンにでもなったように見えたのだ。
闘気とでも言うのだろうか?
ミアの全身をなにかが包んだと思った瞬間、ミアの正面にいた二体の魔物は一瞬で姿を消してしまった。
剣を振ったところまでは見えたのだけど、その剣から、まるで呪いか厄災とでもいうか、魔法とも違う不穏な空気が渦巻くようで、見ていた僕たちまでもどこかにダメージを負ったような気にさえなってしまった。
「はぁっ……はぁっ……さすがに体力を削る技の多用は遠慮したいわね……」
すぐにテセスの元まで下がるミア。
技自体でも自分の体力を削るそうなのだが、それに加えて斬りつけられた左腕を抑えながら歩く姿が痛々しい。
「そんな無茶な戦い方しなくたって……」
テセスが心配そうに治癒魔法をかける。
コルンは長剣に持ち替えて前に出たのだが、僕もまたリリアに言われて前に出ていた。
「ミアちゃんが回復するまでお願いっ」
そう言われなくても動かなくちゃいけないよなぁ。
今だけは魔法の制限も解除しているのだから、少しくらいは……
「くぉー(難しいな)」
「くぁー(しょうがないだろ)」
「え……?」
「おいっ、センどうしたんだっ」
僕の目の前でコルンが魔物からの攻撃を防ぐ。
「あっ、ごめん!」
すぐに僕は魔法を使い、コルンに接触していた魔物を引き剥がす。
構え直して、僕が魔法を連発する間に、コルンは必殺技の準備に入ったようだ。
「くぁー(全然だな……)」
「くぉー(……俺の魔法の方が強いな)」
さっきから魔物の声がうるさくて仕方ない。
制限解除を意識したものだから、どうやらこちらの制限も解除されてしまったのだろうか。
「くぉー(どれ、お手本といくかねぇ)」
「あ、危ないコルンっ!」
魔物の一体がお手本と言った。
その瞬間に腕を前にかざした魔物を見て、僕は嫌な予感がしたのだ。
「……クォー(ダークネスブロード)!」
魔物の腕から小さな円陣が浮かび上がる。
まるで地面に浮かび上がったコルンの必殺技を、手元で繰り出しているかのようなその光景。
「な、なんだっ?」
「防いでっ、コルン!」
漆黒の剣が空中に出現、それも一本や二本ではなくいくつもの剣が宙をくるくると回っている。
ふっ……と一本目の剣が、コルンの肩に突き刺さり消える。
「っ……⁉︎」
コルンの声にならない叫び声が聞こえるようだった。
その表情は苦悶に満ち、次いでやってきた無数の剣は、足や腕を確実に捉える。
「ポ、ポーション!」
堪らずインベントリから回復薬を取り出して、力のままに小瓶の蓋をもぎ取ると、すぐにコルンに中身をぶっかける。
だか回復が追いついている気がしない。
もっと大量に、いちいち小瓶を取り出していたのでは間に合わないかもしれない!
次の瞬間、最後の一本の剣は、コルンの腹部に突き刺さり、コルンはそのまま力なく後ろに倒れ込む。
「コ、コルンっ⁈」
なんて無力なのだろうと思った。
なぜもっと強力な回復薬を持っていないのだろうかと、そう思いながら、目の前の魔物に剣を振るう。
剣ではダメージは与えられず、攻撃を防ぎながらでは、まともにコルンにポーションをかけられない。
「ぐぅぅっ……」
幸いまだ息はあるようだ。
早くポーションを使いたいのだが、どうすれば……
「そ、そうだっ!」
ある案を思いついた僕は、魔物から距離をとり、インベントリの中にある素材を見て判断を下す。
「くぉー?(お、なんだなんだ?)」
「くぁー(次は俺がやってやるぜ)」
「今ここで作れば良いだけじゃん!
小瓶なんて回復にかんけいないんだからさっ」
インベントリ内の素材を混ぜ合わせ、その場で回復薬を生成すると、それをコルンの頭上に出現させたのだ。
パシャア……
「っっ⁈ ……ぷわっ、ちょ、そっちで死ぬかと思ったわ!」
「良かった! 大丈夫みたいだねっ」
すぐに剣を持ち立ち上がるコルンを見て、僕も落ち着きを取り戻した。
背後を見てみると、まだミアは治りきっていないようだし、リリアはアステアのフォローでいっぱいいっぱいだ。
「このまま耐えていれば、またミアが……」
なんて想いを僕が口にしたところで、コルンが異変に気付いた。
「なぁセン、もしかしてだけど……魔物の数って最初は九体だったか?」
「いや? 僕たちと同じ七体のはずだし、ミアが二体……あれ?」
僕たちの前に二体と、奥にも二体。
じゃあアステアの方には一体だけなのかと思って再び目をやると、そこにはなぜか三体の魔物。
「増えてる……よな」
「う、うん……多分」
ミアがダメージを負いながら倒した二体はなんだったのか?
再びミアが復活したところで、この魔物たちを殲滅できるのか?
不安は一層増すばかりであった。
七体とも見た目は骨みたいだけど、倒し方はこの階層の雑魚と一緒だからねっ!」
ミアが簡単に説明してくれたのだが、どうやら通常のエレメンタル同様に、属性攻撃しかダメージの通らない魔物らしい。
しかも、出会って早々に僕たちは謎の状態異常である。
さらには曲がり角の奥は行き止まり、どうやら戦うしかないようだ。
「細かいことは私もわからない。
でも、長時間居座っていると出てくる死神じゃないのなら、多分勝ち目はある」
ゆっくりと迫ってくる七体のエレメンタル。
こちらの七人はそれぞれ、最低限の魔法は使えるように武器を持ち替える。
だが、このところまともに魔石を扱っていなかったことが悔やまれるくらいに、今この場にある武器は心許なく感じられてしまった。
「セン、私にもルースをちょうだい」
テセスの右手には短剣が握られていて、それを盾代わりにするつもりらしい。
よく見れば、首に着けていた回復用のネックレスは引きちぎられ、剣を握る手に巻かれているようだ。
触れていなければ発動しないルースを、攻撃と回復の両方を使うために思いついた方法なのだろう。
「え、と……あまり持ってきてないんだけど、これでいいかな?」
腰袋から『星』の魔石を三つ合成したルースを取り出す。
本にも記されている地属性の上位の属性魔法が使えるという魔文字で、密かに集めている途中のものだったのだ。
だから、まだ強化の途中段階。
これがどれほどの威力を持つのかは、まともに試したことはなかった。
「いいわ、ありがとう。
……アステアのルースも、もう少し強いといいのだけど、彼ではまだ魔力が足りない……わよね」
多分……そうだろう。
リリアやテセスの魔力を基準に考えてしまうと、いつも忘れてしまいそうになる。
アステアもコルンも、それほど魔力量は多くない。
ここ半年ずっと特訓をしていたバリエさんですら、僕よりも少ないくらいなのだから、魔法をあまり使わない二人には期待できないかもしれない。
僕もルースを混ぜた剣を手に、テセスの前に一本踏み出ると、ミアがぐるりと全員を見回して声を上げる。
「来るよっ!
ちょうど七対七、一人一体を相手にして、周囲の状況を見ながら助けに入って!
ピヨちゃん……は、魔法が使えないヘボ勇者と一緒でいいわね?」
あぁ、アステアのことをミアはそう思っていたんだ。
初めて会った時から、確かに勇者のことは好きではなさそうだったけど。
ミアが青い剣を手に、魔物の群れへと駆け出していく。
剣で攻撃をするということは、その青い剣が属性効果をもったものだということなのだろう。
それを見た僕たちは少しだけ散開し、バリエさんは真先に詠唱に入っていた。
「動きは遅いみたいね、これなら全体攻撃じゃなくて、一体だけを狙って威力の高い攻撃をした方がいいかも……」
そう呟きながら、杖の先から魔法が発動し始めているリリア。
僕も同じように魔力を剣に込め初めているが、慣れなどもあるのだろう、その速度は僕のものとは段違いだった。
ここは、小金貨を消費してでも、(僕が勝手に)封印していたスキルを使って魔法を使うべきだろうか……
真先に駆けていったミアに続き、アステアもまた魔物の群れに近づいていった。
「皆さんの準備ができるまでっ、時間を稼ぎます!」
持っている武器ではダメージを与えられないことは分かっているのだろう。
端にいた一体を斬りつけたミアが、アステアに気付いてインベントリから小さな短剣を取り出して、近くへと投げつけていた。
地面を滑りながら、鞘に収まった短剣はくるくるとまわり、アステアの足元で止まる。
「誰でも使えるような属性の持った剣なんて、もう他には無いんだから。
くっ……小さいけど我慢して使いなさいよねっ」
ちょうど魔物からの反撃を受け、ミアの手甲には魔物の持つ剣の刃先が当たっている。
「アイスランスっ!」
サポートしなくてはと思っていると、僕よりも一足先に発動させたリリアの氷の魔法が、その一体の頭部を貫く。
魔物は、力は抜けたように腕がダラリと垂れ下がるが、次の瞬間には傷付いた頭部も元に戻り、再び剣を頭上に振り上げていた。
「させないわよっ!」
続けてテセスの星魔法、いくつかの石つぶてが振り上げた剣を吹き飛ばし、少し奥に立っていた別の一体に突き刺さったようだ。
「二人ともナイスっ! えぇぇい!」
再びミアの一撃で、集中攻撃を受けていた一体目は腰あたりから砕けて、ガシャっという音と共に地に伏せた。
もう一方、アステアの方はというと、さすがに使い慣れない短剣ではうまく攻撃できない様子。
「アステアっ、僕が動きを止めるから!」
この魔物たちに出会った瞬間から僕は足が竦むような感覚があって、一瞬だけそれは和らいだのだけど、おそらくテセスが回復してくれたからだと思う。
またすぐに同じ感覚に捉われてからは、きっとテセスも回復が意味を成さないのだと悟ったのだろう、治ることはなかったが、完全に動けないわけではないのが救いなのだろう。
「フリーズダスト!」
風魔法と氷魔法を使い、魔物の足を地面に固定させる魔法を使ってみる。
草刈りなんかで役に立っていた魔法なのだけど、七体とも動けなくなれば余裕なんじゃないかと思ったのだ。
「あ、あれ……?」
魔物の足元に薄い氷の膜はできたと思うのだけど、それは魔物の行進とともにパリパリと簡単に砕けてしまった。
「氷蟲の陣!」
一呼吸置いて、コルンが覚えたばかりの必殺技を放つ。
放たれた矢は弧を描き、魔物の群れる中心へと落下。
そこから円陣が浮かび上がり、その上にいた五体は悲鳴のような声を上げながらダメージを負っていた。
「やっぱり強いじゃねーか!
これで弱いってんなら、その強い技ってのを見てみたいもんだぜっ」
ミアに『弱い』と言われたことを、やはり気にしているのだろう。
背に抱えていた矢筒から次の氷の矢を取り出して、弓に添えながら息巻いていた。
しかし、今のところ一体の魔物も倒せてはいない。
やはりボスだけあってか、体力も相応に多いのだろう。
「キュイッ!」
「やぁっ!」
アステアとピヨちゃんの周りにも、わらわらと三体の魔物が近寄っており、すでに攻撃を捌くので手一杯のようだ。
ミアは、二体の魔物を相手にしながらも、まだ余裕はある……というか、攻撃を受けながら斬りかかっているものだから、見た目には相打ち覚悟のようにも見える。
時折テセスが回復してくれているから、黒いローブは傷だらけだけど、動きは最初と変わっていない。
魔物に隙ができたと思った瞬間、ふと、ミアの動きが止まる。
「そう……強い必殺技を見てみたいのね。
別にいいけれど、コレを使ったらしばらくはコルン、あなたがコイツらの相手をしなさいよ……」
ミアがそう言うものだから、気になってしまいリリアも僕もアステアへの援護の手が止まる。
あ、もちろん小金貨を消費しつつ放ったアイスランスで、既に十発分は消費したのだが。
「ぐっ……」
せっかく生まれた魔物の隙に、一切の攻撃もせずに力を溜め始めたミア。
テセスの回復も追いつかない、ミアの正面に立つ魔物が、執拗にミアの身体に剣を振りかざしてくるのだ。
「ちょっ……ミアっ大丈夫っ⁈」
「見てなさい、私の使える一番強い技よっ!
はぁぁ……カラミティーエンドォ!」
凄まじかったとしか形容する他ない。
エメラルドグリーンだったミアの頭髪が、不思議と真っ赤に染まり、ミアがまるで巨大なドラゴンにでもなったように見えたのだ。
闘気とでも言うのだろうか?
ミアの全身をなにかが包んだと思った瞬間、ミアの正面にいた二体の魔物は一瞬で姿を消してしまった。
剣を振ったところまでは見えたのだけど、その剣から、まるで呪いか厄災とでもいうか、魔法とも違う不穏な空気が渦巻くようで、見ていた僕たちまでもどこかにダメージを負ったような気にさえなってしまった。
「はぁっ……はぁっ……さすがに体力を削る技の多用は遠慮したいわね……」
すぐにテセスの元まで下がるミア。
技自体でも自分の体力を削るそうなのだが、それに加えて斬りつけられた左腕を抑えながら歩く姿が痛々しい。
「そんな無茶な戦い方しなくたって……」
テセスが心配そうに治癒魔法をかける。
コルンは長剣に持ち替えて前に出たのだが、僕もまたリリアに言われて前に出ていた。
「ミアちゃんが回復するまでお願いっ」
そう言われなくても動かなくちゃいけないよなぁ。
今だけは魔法の制限も解除しているのだから、少しくらいは……
「くぉー(難しいな)」
「くぁー(しょうがないだろ)」
「え……?」
「おいっ、センどうしたんだっ」
僕の目の前でコルンが魔物からの攻撃を防ぐ。
「あっ、ごめん!」
すぐに僕は魔法を使い、コルンに接触していた魔物を引き剥がす。
構え直して、僕が魔法を連発する間に、コルンは必殺技の準備に入ったようだ。
「くぁー(全然だな……)」
「くぉー(……俺の魔法の方が強いな)」
さっきから魔物の声がうるさくて仕方ない。
制限解除を意識したものだから、どうやらこちらの制限も解除されてしまったのだろうか。
「くぉー(どれ、お手本といくかねぇ)」
「あ、危ないコルンっ!」
魔物の一体がお手本と言った。
その瞬間に腕を前にかざした魔物を見て、僕は嫌な予感がしたのだ。
「……クォー(ダークネスブロード)!」
魔物の腕から小さな円陣が浮かび上がる。
まるで地面に浮かび上がったコルンの必殺技を、手元で繰り出しているかのようなその光景。
「な、なんだっ?」
「防いでっ、コルン!」
漆黒の剣が空中に出現、それも一本や二本ではなくいくつもの剣が宙をくるくると回っている。
ふっ……と一本目の剣が、コルンの肩に突き刺さり消える。
「っ……⁉︎」
コルンの声にならない叫び声が聞こえるようだった。
その表情は苦悶に満ち、次いでやってきた無数の剣は、足や腕を確実に捉える。
「ポ、ポーション!」
堪らずインベントリから回復薬を取り出して、力のままに小瓶の蓋をもぎ取ると、すぐにコルンに中身をぶっかける。
だか回復が追いついている気がしない。
もっと大量に、いちいち小瓶を取り出していたのでは間に合わないかもしれない!
次の瞬間、最後の一本の剣は、コルンの腹部に突き刺さり、コルンはそのまま力なく後ろに倒れ込む。
「コ、コルンっ⁈」
なんて無力なのだろうと思った。
なぜもっと強力な回復薬を持っていないのだろうかと、そう思いながら、目の前の魔物に剣を振るう。
剣ではダメージは与えられず、攻撃を防ぎながらでは、まともにコルンにポーションをかけられない。
「ぐぅぅっ……」
幸いまだ息はあるようだ。
早くポーションを使いたいのだが、どうすれば……
「そ、そうだっ!」
ある案を思いついた僕は、魔物から距離をとり、インベントリの中にある素材を見て判断を下す。
「くぉー?(お、なんだなんだ?)」
「くぁー(次は俺がやってやるぜ)」
「今ここで作れば良いだけじゃん!
小瓶なんて回復にかんけいないんだからさっ」
インベントリ内の素材を混ぜ合わせ、その場で回復薬を生成すると、それをコルンの頭上に出現させたのだ。
パシャア……
「っっ⁈ ……ぷわっ、ちょ、そっちで死ぬかと思ったわ!」
「良かった! 大丈夫みたいだねっ」
すぐに剣を持ち立ち上がるコルンを見て、僕も落ち着きを取り戻した。
背後を見てみると、まだミアは治りきっていないようだし、リリアはアステアのフォローでいっぱいいっぱいだ。
「このまま耐えていれば、またミアが……」
なんて想いを僕が口にしたところで、コルンが異変に気付いた。
「なぁセン、もしかしてだけど……魔物の数って最初は九体だったか?」
「いや? 僕たちと同じ七体のはずだし、ミアが二体……あれ?」
僕たちの前に二体と、奥にも二体。
じゃあアステアの方には一体だけなのかと思って再び目をやると、そこにはなぜか三体の魔物。
「増えてる……よな」
「う、うん……多分」
ミアがダメージを負いながら倒した二体はなんだったのか?
再びミアが復活したところで、この魔物たちを殲滅できるのか?
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