スキル【合成】が楽しすぎて最初の村から出られない

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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2巻

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 3話


 村の南に広がる、鬱蒼とした森。その中で見つけた『ボス』と『回復の泉』に関しては、もう少し調べることにした。
 もしかしたらボスは、また違った行動をとるかもしれないし、湖がどんな癒し効果を持っているのかもハッキリはしていなかったから。
 そう考えた僕は、翌日からボス討伐をリリアに手伝ってもらい、僕が怪我をするたびに湖に転移していた。

「これ、もしかするとどんな傷でも癒してくれるんじゃない?」

 リリアがそう結論づけるのも無理はない。
 毒や胃液による痺れや痛み、それに咬み傷、打撲のアザ。
 そのどれもが、湖の水を飲むとキレイに癒されていくのだから。
 それにここ五日ほど戦って、ボスに関しても十分すぎるほどの情報が集まった。
 リリアが調べていてくれた書物の中にも、『森や洞窟に棲みつくどうもうな大型種の魔物』なんて記載があったらしいし、似たような魔物では小型の『ゴブリン』という、よりこうかつな魔物も存在するという。
 攻撃手段は棍棒による打撃と、胃液による麻痺を含む攻撃、さらには咬みつきと、攻撃が強化される力溜めだ。
 咬みつきは棍棒を捨てた時のみにするようで、結局のところ、豚人間は胃液以外は物理攻撃しかしてこないということになる。
 まぁ絡新婦じょろうぐもよりはレベルの低いボスだったせいか、一回目の討伐以降、僕のレベルは上がっていないのだけど。
 ある程度の情報は集まったので、村にある食事処兼宿屋の『とね屋』にアッシュとコルンを呼び、リリアと四人で遅めの夕食をとりながら話をする。
 ちなみに、テセスは鑑定の仕事があるそうで、今回は不参加だ。

「アッシュさんとコルンでも十分に戦えると思うんだ。どう?」
「センの用意してくれた指輪で魔法を使い続けたらいいんだろ? だったら、俺たちでなくたって余裕だな」

 僕が一通り豚人間の情報を伝えると、アッシュはお酒を一口飲んで軽く答える。お酒を飲んでいるといっても、いつでも魔物と戦えるように控えめだ。
 ボスに接近された時のために、僕とリリアが火魔法で撃退する準備をすると言うと、アッシュは『気をかせすぎだ』と苦笑した。
 コルンもまた、僕の援護については少々面白くなさそうではあったが、逃げることのできないボス戦で何かあっては困る。
 結局、アッシュとコルンは特に渋ることなく、ボス討伐を引き受けてくれた。

「よぉ、オークキング討伐おつかれさん」

 そんなセリフとともに、僕たちの囲むテーブルの近くに突然現れた、変わった衣装のヤマダさん。
 どうしてヤマダさんは、普通に現れることができないのだろうか?
 今日は異世界文字ではなく、植物の描かれた涼しげな感じのシャツだ。
 ヤマダさんのことを初めて見るアッシュとコルンは、突然のことに驚く。
 言葉も出ないでいる二人をよそに、衣服の方へ目が行ってしまう僕とリリアに対してヤマダさんがしゃべり始めた。

「これか? アロハシャツっていうんだよ。最近暑くなってきたからな」

 アロハ……? きっと、そういうものが魔族では流行しているのだろう。
 派手ながらのおかげで、周囲の冒険者や村の人たちも、の目でヤマダさんのことを見ていた。
 まぁ、それでもしばらくすると『ちょっと変わったヤツ』扱いで、たいして気にされることもなくなった。

「突然どうしたの? ……ですか?」
「あまりかしこまるなよ、お前たちとは仲良くやっていきたいんだからさ」

 僕の質問に対して、ヤマダさんの思いもよらぬ返答。
 最初は『命を奪いにきた』とか、物騒なことを言っていたと思うのだが。
 いや、それを言ったのはヤマダさんの部下の魔族デュランさんだったか?

「オークキングの討伐を二人にやらせようって話だったよな?」

 僕の席近くの壁に寄りかかり、話を続けるヤマダさん。

「そうだけど……」

 僕が答えると、目を細め少し考える仕草をしたヤマダさんは、右手をあごに添えて喋り始めた。

「うん、まぁそれはいいんだけどさ。センはどこでレベル上げをするんだ? 討伐はやらないのか?」

 どうやらヤマダさんは、アッシュとコルンのレベル上げよりも僕のほうを優先したいみたい。
 そうは言っても絡新婦じょろうぐもは強敵。ろくに準備もできていないのに戦うなんて、ぼうだと思っている。
 そんな様子でいたものだから、ヤマダさんはやれやれといった感じで、どこからともなく防具を取り出した。
 いや、本当にどこから出したのだろうか。
 ヤマダさんは手ぶらだったし、アロハなんとかの中にうようなスペースなどないはず。
 だというのに、今ヤマダさんの手にはアッシュの持つ鉄製の防具と同じものが、非常に綺麗な状態で一つ……

「これでも装備させておけば簡単にはやられないだろ。せっかく絡新婦じょろうぐもの弱点がわかったのに、経験値稼ぎをしないなんてもったいなくないか?」

 僕にはそんな気持ちは全くなく、ただ怖いだけ。
 それに、すでに持っている防具をもう一つ渡されたところで、『じゃあ行きます』とはならない。

「お前たちの考えてることくらい、俺のスキルを使わなくても大体は想像つくな」

 僕たちの心配をよそに、ヤマダさんは取り出した防具をアッシュに渡して説明を始める。

「そりゃあな、アダマンタイトでも神龍のウロコでも、防御力を上げるだけの素材ならいくらでもあるけどな。そんなもん、装備で戦ってるんじゃなく、装備に戦わされてるだけだ。それに、俺としてもちゃんとヒントを与えてやっているつもりだぜ。センなら、それくらいの装備品も作れるだろうからな」

 加えて、僕たちにはもっと強くなってもらわなきゃ困るのだと、ヤマダさんは言った。
 その真意に関しては、教えてくれなかったけれども……

「じゃあな。また来た時には絡新婦じょろうぐもくらい余裕で倒せるようになっててほしいぜ」

 去り際に、テーブルから『ワイルドボアの肉と野菜の炒め物』をつまんで食べるヤマダさん。
『ん、美味うまいじゃん。今度からここで飯を食おうかな?』なんて言いながら出入り口に向かって、行ってしまった。
 それと入れ替わるようにやってきたのが、仕事を終えたばかりのテセス。
 僕たちが来てから、すでに一時間近く。今日はいつもよりも鑑定の依頼が多かったのだろう。

「ねぇみんな……今の人、すっごい服装していなかった?」

 ヤマダさんの格好は、やはりテセスも気になったらしい。
 ただ、今は周囲の視線もテセスに向いている。
 普段からこれだけ白いよそおいで出歩く者はそういないし、ましてや聖女様なのだから注目されて当然だ。

「やっぱり驚いちゃうよね! 変な格好だけど、あれで魔族の王なんだってさ」

 リリアがそう言うと、テセスもウンウン頷いていた。
 驚きに共感したのか? それとも変な格好に……?
 とにかくそんな二人は、すでにヤマダさんが立ち去った後の出入り口をジッと見ている。
 嵐が去った――僕だけじゃなく、誰もがそう感じたと思う。
 アッシュの手には、残された防具が一つ。金属の肩当てだ。
 すでに身につけているものと同じ防具は、一体どういった意味を持つのか?
 それを調べるべく、僕はテセスにその防具の鑑定をお願いする。

「いいけど、今日は疲れてるし高いわよ。おばさーん、私にもエールをちょうだい!」

 そう言いながら手を大きく上げて、お酒を注文していた。
 要するに、『ここのお代はセンたちで持ってね』ということだろう。
 少し前まで、お酒といえば僕の父さんかアッシュが飲むものというイメージだったのだけど、最近はテセスも少しばかり飲んでいるらしい。
 それで、毎日顔をほんのり赤らめる程度には酔って帰るわけだ。

「うーん、一応普通の鉄の肩当てみたいだけれど……」

 ヤマダさんはこれを『ヒント』だと言ったわけだし、何かしらの違いはあると思ったのに。
 食事をしながら鑑定結果を確認するテセスは何か気になるようで、アッシュの肩当ても外してもらって鑑定する。
 そして、再びヤマダさんの肩当てを鑑定。

「こっちの――魔王さんが持ってきたほう? 品質がよくわからないのよね。それに『星マーク』?」

 実際に鑑定しているテセスがよくわからないのだから、聞いているだけの僕たちは余計に理解ができない。
 まだお酒は一杯目だというのに、早くも酔いが回って、テセスの目の前にはお星様でも見えているのだろうか?


「アッシュの肩当ては、並の品質だってちゃんとわかるの。でも魔王さんのは違うのよ」

 鑑定でわかるのは、『品名』と『品質』、あとは簡単な用途くらい、と以前テセスから聞いたことはある。
 だから僕は、本当にテセスが酔ってるんじゃないかと思っていた。
 何度テセスが説明しても、誰も理解できない。
 わかったのは、品質が不明ってことと、お星様が見えているってことくらいで……

「じゃ、じゃあ私たちは先に行くわね」

 リリアは心配そうにこちらを見ながら、アッシュとコルンとともに席を立って店を出ようとする。

「うん……ごめんね、みんな。ほら、テセスも行くよ」

 よほど鑑定が上手くいかなかったのが悔しかったのだろうか。
 それとも、僕たちがわかってくれないことにイライラがつのったのか。
 グイグイとお酒が進んでしまったテセスはすっかり酔いつぶれて、本当にお星様が見えている様子だった。
 一緒に付き合わされたアッシュも、いつも以上に飲んでいたようだし、今、村に何かあったらと思うと心配でならない。
 テセスは転移で帰ろうとしたのだが、僕が店の外に出たら、先に帰ったはずのテセスがなぜか店先で寝ていた。
『少しは酔いをましたほうがいい』とアッシュに言われ、家が同じ方向の僕が連れて帰ることに。
 帰り際、リリアの蹴りが何度もアッシュに向けられていたが、何か怒らせるようなことをしたのだろうか?
 ともあれ、僕はテセスを連れて家に向かう。

「ちょっと、テセスらしくないじゃん。早く帰らないとおばさんが心配しちゃうよ」

 僕も『とね屋』で、冒険者が『水ー、水ー……』なんて言いながら、仲間たちに抱えられて二階の寝室まで運ばれていく姿を何度か見ている。
 だけどまさか、僕がテセスを介抱することになるなんて思いもしなかった。
 肩にかついだテセスの髪や服から、時折良い香りがするものだから、しばらくはこうしていたいなんて思ったりしたけれど。
 だからだろうか、いつもより帰り道が短く感じられた。
 それにしても、ヤマダさんのことといい、酔いつぶれたテセスといい、本当に今日は……色々と不安な一日になってしまった……



 4話


 翌日はアッシュとコルンの二人で、オークキング討伐を行う。
 オークキングというのは、ヤマダさんから教えてもらった名前で、リリアの調べてくれたオークやゴブリンという魔物の上位種なのだそうだ。
 いきなり上位種と聞かされて驚きはしたものの、実際はそれほど強さは変わらないらしく、群れることも少ないから、かえって戦いやすいのだと言っていた。

「この先にいるから、気を抜かないでね!」

 僕たち四人は、例の回復の泉に転移して、そこからオークキングの出るエリアまで徒歩で移動している。
 テセスは昨日に続いて仕事があるから同行はできなかった。朝からつらそうな表情ではあったが……
 それはさておき、森の中でアッシュたちを先頭に、僕たちは周囲の警戒をおこたらないようにしている。
 その道中リリアが寄ってきて、僕にヒソヒソと話しかけてきた。

「昨日の夜は襲われなかったでしょうね?」

 一瞬、村に魔物でも現れたのかと思ったが、すぐにそれは間違いだと気づく。

「え、あ、いや、何もなかったけど!」

『ふーん……』といった感じで、僕の顔を眺めるリリア。

「そっかぁ、それはそれでちょっと残念かな。センなら押せば行ける気もしてたんだけど、意外とガード固いんだよねぇ」

 アッシュとコルンの歩くやや後ろ、リリアは残念そうにため息をついてトボトボと歩みを進めている。
 いやいや、テセスとはそんな関係じゃないし、姉みたいな存在だって言ったよね? 言ったっけ……?

「セン、ここで間違いないか?」

 そんなことを考えていると、先頭のアッシュが後ろを振り向いて僕に確認。

「う、うん。一回入ると、ボスを倒すまで出られないからね」
「わかった。とにかく最初から火魔法をぶっ放せばいいんだろ?」
「大丈夫だ、俺たちに任せろ!」

 アッシュが中へ、コルンもまた威勢よく返事して、アッシュに続いていく。
 当然、僕とリリアも、いざという時のために中へ。

「ガァァァ!!」

 オークキングは棍棒を高く振りかざして、僕たちを睨みつけてくる。
 いつもだったら僕とリリアで、オークキングの行動を調べながら倒すのだけど、今日はそんなつもりは全くない!

「俺からいくぞっ! ファイアーボール!」

 アッシュに渡した『火』の力の込められた指輪から、巨大な火球が出現する。
 魔法のイメージは各々の自由だが、アッシュにとって火魔法といえば、この巨大な火球のようだ。
 魔文字を五重層にしてあるため、威力は非常に強いが、その分、打てる数には限りがある。
 それでも二人とも、おそらく八発は可能。
 火球を避けられなかったオークキングの姿を見て、コルンはあろうことか勢いよく接近しだす。

「ちょ、ちょっとコルン! 接近戦は危ないって!」

 僕が遠くから叫ぶのだけど、コルンはお構いなし。
 オークキングが再び棍棒を振りかぶり、それを勢いよく振り下ろすと、コルンは、あらかじめわかっていたかのように左へ進路をずらした。

「足元がガラ空きだぜっ!」

 そう叫びながら、コルンはオークキングの右ふくらはぎを大きくよこぎにする。

「グォォッ!」

 魔物って、ガァとかグォーとか、いつも何を喋っているかはわからないけれど、今のコルンの一撃がかなりのダメージを与えたことは容易にわかった。
 コルンの持つレーヴァテインは、持ち主が叫ぶと同時に真っ赤に燃え、オークキングを斬りつけた途端に炎で相手を包み込んだのだった。
 それがコルンにとっての火魔法、そして彼の想像していたレーヴァテインの使い方なのだろう。
 それでも、オークキングを包んだ火はすぐに消え、まだまだ敵が倒れてくれる気配はない。
 僕とリリアで戦った時は、魔法二発で倒すこともできたのだけど。
 それが魔力の差なのか、レベルの差なのかはわからない。
 リリアは魔銀ミスリルで作った杖も持っているから、それも大きな差なのだろうか?
 とはいっても、アッシュもコルンも、オークキングの動きはつかんでいるようなので、僕は安心して見ていられる。
 さすが、ここは経験の差と言うべきところだろう。
 結局、オークキングの動きがそこまで速くはないこともあって、アッシュもまた近接攻撃に魔法を交えながら戦っていた。
 つごう十発の魔法攻撃。それでようやく、オークキングは動きを止める。

「二人とも、お疲れ様!」

 だが、僕とリリアが二人のもとに近づくと、何か様子がおかしい気がした。
 倒し方に納得がいかなかったのか、それともどこかにダメージを受けてしまったのか?
 そんなことを気にして駆け寄ると、こっちに気づいたアッシュが一言。

「セン! すごいぞ! 今の俺ならどんな魔物でも倒せそうだ!」

 コルンもまた、アッシュの隣で自身の変化に驚いているようだ。
 良かった。何かあったわけではなく、ただレベルアップを感じていただけらしい。

「た……たぶん、レベルが上がって、二人とも強くなったんだと思うよ」
「そうか! だったらもっともっと、その『ボス』を倒しに行かなきゃならないなっ」

 そう、だから毎日オークキングと戦ってほしかったのだけど、調子に乗ったコルンが『絡新婦じょろうぐもとかいうのも倒しに行こうか』なんて言い出した。
 確かに僕とリリアだけでも、かなり危なかったとはいえなんとかなっていたのだし、もしかしたら四人で挑めば意外と余裕があるのかもしれない。
 だけど、試しに戦って殺されるのは勘弁だ。
 そこは慎重に判断するように、アッシュがコルンに言ってくれていたが。
 そう、少なくとも魔符の作成か、ヤマダさんの持ってきた防具の秘密をあばくまでは……
 僕たちは泉まで戻り、少しの間休憩をとった後に、村に帰った。
 アッシュとコルンには、村の外で素材を集めてもらって、リリアは僕の部屋で一緒に防具作りを試してみる。
 素材といっても、別に良いものを探しに行ってもらったわけではない。
 魔銀ミスリルを試作品に使うのがもったいなかったので、まずは魔物の皮を使ってみようと思い、ノーズホッグ狩りを頼んでいる。
 それほど頑丈な素材ではないけれど、普通の布よりは強いし、数も集まりやすいから。

「じゃあテセスの言ってた、お星様の謎を解かなきゃね」

 ごく自然に、まるで自分の部屋であるかのように僕の部屋で素材を広げるリリア。
 僕もまた、部屋のすみから使えそうな木材や皮素材などをつくろってくる。
 それらを使って、ヤマダさんの持ってきた防具と同じような鑑定結果のものを作るつもりだ。
 もちろん、夕方になってテセスの手が空くまでは、どれが正解かはわからない。
 とにかく思いつく方法を片っ端から試してみようと思っている。
 ちなみにここ数日、リリアは、そのあり余る魔力で大量のポーションを作っていたせいか、いつの間にか【合成】スキルのレベルが4になっていた。
 一年先輩の僕でさえ、少し前にレベル4になったところ。
 あと半年もすれば追い越されてしまうんじゃないだろうか? もしも『レベル5が存在すれば』の話だけど。
 そんな話を僕の母フロウに漏らしたところ、『その歳でレベル4なんて普通はありえませんよ』なんて言われたから、僕もリリアも、外ではレベルの話はしないようにしている。

「やっぱり特殊な素材が入っていて、普通のよりも頑丈にできてるんじゃないかしら?」

 二人して真っ先に思い浮かんだのがそれ。
 鉄の一部を魔銀ミスリルに変えて作っているか、金属をより硬くするような薬品が使われているか。
 薬品といえば、中和剤を普段から使っているのだが、そんな効果が現れたことなんて一度もない。

「じゃあさ、同じ魔物素材の『ホーンラビットの角』でも混ぜてみる?」
「そうね、ウルフの『魔獣のたてがみ』なんかもいいんじゃないかしら?」

 色々と案を出しながら、とりあえず一つ作ってみることにする。
 僕たちは、部屋に置いてあった魔獣の皮から、いくつかの革の服を作成することに決めた。
 材料は『魔獣の皮』適量に、キングスパイダーからとれる『魔虫の糸』、僕特製の中和剤。そこに別の追加素材。

「やっぱり鑑定してもらわなきゃ、見た目は一緒だね」

 魔獣の皮をワイルドボアの皮に替えてみたり、リザードのウロコを加えてみたりもしたが、どれも見た目には違いがわからない。
 ヤマダさんの持ってきた肩当てだって、別段変わったようには見えなかったし、もしかしたらこれで正解なのかもしれない。
 ひとまずテセスが仕事を終えるまでの間、別の方法も試してみようと、再び素材を選ぶ僕とリリア。
 ちょうどアッシュとコルンも狩りから戻り、魔獣の皮以外にも、『まだら毒茸』や『ピリン草』、なんの生き物の骨かもわからない『頑丈な骨』なんかも拾ってきてくれた。
 骨はひとまず置いておくとして、次に僕とリリアが試そうと思ったことが『状態異常を引き起こしたり治したりする時に使う素材の合成』だ。
『お星様』を、何かの異常状態だと考えることもできる。もしかしたら武器や防具にも、【合成】で状態異常を付与することができるのではないか?
 そんなリリアの意見を採用した結果、僕は自分で調合した『毒消し薬』をはじめとした各種状態異常回復薬を、リリアは逆に状態異常を引き起こす素材を集めた。
 もちろん、アッシュとコルンが採取してくれたばかりの新鮮な素材だって活用させてもらう。

「なんだか危なそうな臭いがしない……?」

 リリアの作った革の服は毒々しい紫に仕上がり、その服を着用すれば、おそらく自身がダメージを受けてしまうであろう臭いが漂っていた。
 失敗……というよりも、意図せぬものができ上がったと言うべきなのだろうか?
 とにかく使い道も思い浮かばないような服があっても仕方がない。
 捨てるにしても、村の人に迷惑をかけるのが嫌だった僕たちは、その服を普通の革の服と合成しておいた。もちろん、毒消し薬とともに。
 気を取り直し、別の素材を。
 僕の使った素材では変なことは起きなかったが、リリアの使った素材は全て状態異常を引き起こすものばかり。
 でき上がるたびに、僕がその状態異常の回復薬を用いて再度合成。
 失敗品ばかりが増えていく。
 夕方には入手してきてもらった魔獣の皮も底を突き、僕たちは一階に下りて、母による手料理をみんなで食べることにした。
 テセスも仕事が終わったら僕の家にやってくるだろうし、革の服を大量に『とね屋』に持っていくわけにもいかなかったので、ちょうど良い。
 予想通りテセスがやってきて、いつも以上ににぎやかな食事の時間が過ぎていった。
 その後はすぐに、僕たちは二階にある僕の部屋で、日中に作った試作品の結果を聞かされることになったのだった。
『全部、普通の革の服みたい……』と。


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