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7章《チートマジシャン》
9話
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村への出入り口は東に面していて、ウルフやホーンラビットなどの危険な魔物は、そこで大体が食い止められる。
村の周囲をぐるりと、新たに魔物対策として設けられた柵に囲まれているため、それ以外で魔物の侵入を赦す事は滅多になかった。
そのため東の方に住んでいた多くの住民が、村で用意した西の仮住まいなんかに移っていった。
そうやって世界樹によるエリアが崩壊した今でも、そこそこの安全は守られていたのだ。
そして、村の入り口近くに新たに設置された、もう一つの柵に囲まれた広場。
中には三体のデク人形が備わっており、普段は通常のゴーレムにして置いておくことになった。
ミスリルゴーレムとか、頑丈な魔物にしておけばいちいち元の姿に戻る煩わしさもないだろうと思っていた。
ところが、どの冒険者も与えるダメージが『1』だったものだから、すぐに『面白くない』という声が上がってしまい変えることになったのだ。
とね屋の中でも冒険者たちの中では、その話題で持ちきりだった。
「『18』かよ、ダッセェなぁ。
俺は『31』だったぜ、もう中級ダンジョンも余裕なんじゃねぇか?」
「馬鹿言え、あのマリア様ですら『80』なんだぜ。
おめぇの攻撃なんかじゃ初級ですらクリアできねぇよ」
村の中でこのデク人形は話題になり、自らの強さを示したい冒険者たちで連日賑わっていた。
一時的かもしれないが、おかげで身の丈に合わないダンジョンへ向かう冒険者も減ったのは事実だった。
「へぇ、マリアも試してみたんだ……」
この宿兼食堂『とね屋』の一人娘で、教会でシスター見習いとして働くマリア。
「違うわよ、前々からマリアちゃんに迫ってた男が強さを見せるために連れていったのよ。
笑っちゃうよね、その男の目の前で何倍もの強さを見せつけちゃうんだもん」
リリアが持っていたスプーンを店内の角に向けていたので、そちらを向くと見た目に屈強そうな革鎧に身を包んだ男が、机に突っ伏した状態で他の冒険者たちに慰められていた。
「まぁ小さな村だからなぁ。
そんなちょっとした話題でも盛り上がっちまうんだから可哀想なもんだ」
「アッシュさんだって、みんなの前で『260』なんて数値を見せつけたじゃん。
それでようやく初級ダンジョンがクリアできる程度だなんて言うから」
コルンが言うように、冒険者たちデク人形で盛り上がっていた時、横からアッシュがデク人形に剣の一撃を浴びせたのだ。
おかげで、その場にいた腕自慢の鼻がへし折られたのは言うまでもない。
「言わなきゃ目安にもならないだろう。
お前たちだって、飄々と何千もの数値を出しちまうもんだから、俺の立つ瀬が無いったらないぜ」
アッシュが設けた目安の数値が高すぎるせいか、ここ数日はダンジョンに挑む冒険者は減ってしまった。
まぁおかげでマリアが駆り出されることも少ないみたいだし、アッシュにも余裕ができて、こうやってみんなで食事ができるのだけどさ。
「でさ、デク人形が一体無くなったって言ってたじゃないの。
アレって結局見つかってないの?」
リリアが話を変えて、元々四体だったはずのデク人形のことを尋ねる。
「なんの為に盗んだんでしょう?
お家で特訓でもしたかったのかしら……」
まぁ盗んだとは限らないけれど、テセスが言うように誰しもが盗まれたのだと思っている。
しかもヤマダさんが魔王城から持ってきたその日の夕暮れ時に、いきなりだったのだ。
ひとまず翌日に設置するまでは、正しい使い方も学んでおきたいからと解散させて、人気が無くなったと思った直後だった。
そりゃあ早く試したくてうずうずしていた冒険者が多かったのも知っているが、誤った使い方で周囲を巻き込んで爆発、なんてことになったら問題だったし。
目的はおそらく……とは思うものの、あまり信じたくないその想像は、リリアやテセスの前ではとてもじゃないが言えなかった。
なにせ多くの人たちの前で、デク人形がコルンの姿や兵士の姿に変わったりもしていたのだから。
ミアは……黙って僕たちの様子を眺めているような気もする。
なにか知っているんじゃないだろうか?
さすがに僕たちがまだ立ち話をしている中で、堂々と盗む人がいるとは思っていなかったけれど、考えてみれば目を離して依頼所の側で話をしていたし、無用心だったとは思う……
ミアの行動は、そんな僕たちにお仕置き的な意味合いもあるのだろうか?
「ねぇ、センはなんで盗まれたと思う?」
「えっ⁈ あっ……うーん、なんでだろう……」
リリアからの急な問いかけだったが、もちろん答えられるわけもない。
「ふぅーん……あんなもの、売ったりしたらするにバレちゃうのにね」
まぁ、犯人探しはすでに行っているのだが、なにせ捜索対象のモノは姿を変えることができてしまう。
無くなってしまった夕暮れ時、ほとんどの冒険者はここ『とね屋』にいたらしいし、ダンジョンに行っていたグループはその事を知る由もない。
怪しい者がいなかったかと、様々な人に尋ねて回ったりもしたけれど、あれから村を出た冒険者がいるわけでもない、顔を見せなくなったような者もいなかった。
「なんで、もうお手上げって感じなんだよ」
両手を上げて降参といったポーズをとるアッシュ。
「そうなの……まぁ一体くらいはしょうがないんじゃない?
デク人形自体は自立する程度で、周囲に危害を加えたりはできないんでしょ?」
そう言うと、リリアは『ピヨちゃんの遊び相手に』なんて言い出す。
「店番なんかにもいいかしら?
教会に置いておいたらシスターも少し休めるかしら?」
「お城の門番みたいな感じで使ったら面白そうですね。
兵士じゃなくても、ドラゴンの格好で置いておいたら迫力満点じゃないですか」
アステアまで加わって、思い思いの用途なんかを話し始めると、アッシュは不安そうな様子で喋りだす。
「危害は加えられなくても、誰かに罪を着せることはできるだろうな。
それに、間違って室内で巨大な魔物にでも変えて……」
せっかくのアイテムが、残念な使われ方をされては僕たちも悲しくなる。
「おいっ! また魔物が村に入ってきたぞ!
子供が襲われているらしいっ!」
ゆっくりと食事をと思っていると、一人の冒険者が慌てた様子で店の中に入ってきた。
村の中に魔物が入ってきたと聞いては、食事どころではない。
だが、ウルフくらいの魔物だったら、ここにいる冒険者なら誰でも倒せると思うのだけど……
「新しくできた居住区のほうか。
あそこは前に小型の竜みたいな奴が飛んでいた場所じゃないか」
「あぁ、どうやら再びこの村の近くにまで飛んできたらしいんだ」
話に耳を傾けていると、どうやら普通の魔物ではない様子。
リリアは『ピヨちゃんだったら魔物じゃないわよ』と否定していたが、さすがの冒険者たちも見慣れた子竜とは姿が違っているのだと言っていた。
ワイルドボアが柵をぶっ壊して畑を荒らしたこともあった。
だから柵はかなり頑丈にしてあるのだが、空からの侵入となるとさすがになす術がない。
僕たちも席を立ち、慌ててその現場へと駆けつける。
現場に着いた僕たちが目の当たりにした光景は、真新しい建物の屋根の部分が壊されてしまい、その少し上を見たことのない魔物がパタパタとはためいている様子。
「本当、なにかが飛び回ってるわね……」
「あれ、タイニードラゴン。
多分海を渡って飛んできたんだと思う」
ミアが言うには、そこそこ強い比較的よくいる魔物らしい。ただし魔族領に。
それほど高くは飛んでいないにしろ、剣や槍では手が出なかったため、魔法が使える冒険者を待っていたみたいだ。
まぁ迂闊に攻撃してしまい、この見たことのない強さもわからない魔物を怒らせてしまっては、この辺り一帯がどうなっていたかわからないのだが。
攻撃が届かなかったのは幸いとでも言うべきなのだろうか……
「いくよっ! 一斉に攻撃して、反撃される前に片付けるわよっ!」
僕たち以外にも魔法を使える人たちが集まり、各々の武器を取り出した。
様々な魔法媒体に魔力が込められて、バリエさんのファイアーボールの詠唱が終わると同時に無数の魔法が放たれた。
『16』『727』『1126』……
誰もが、その赤い文字の浮き出る光景にギョッとしたことだろう。
確かに以前、このタイニードラゴンという魔物はこの場所に来た事があったようだ。
その時は屋根で羽を休めていただけで、村人が騒ぎ出すとどこかへ飛んでいってしまったのだとか。
じゃあ今回のデク人形は、誰がなんの目的で盗んでまでタイニードラゴンに変化させたかったのか。
なんてことはない、ただ好奇心旺盛だった僕やコルンみたいな子供たちが、子竜を連れて歩いているリリアを羨ましがっただけのことだった。
すぐに発覚しなかったのは、今まではスライムとかウルフにしか変化できなかったから。
村の騒ぎに怯えながら外に出てきた子供達の中には、偶然タイニードラゴン騒動の中にいた子供もいたそうだ。
屋根の修繕はともかく、子供たちからはデク人形を返してもらい、悪さをした罰と騒ぎを起こした謝罪は親たちに任せることにした。
「それだけで済ませちゃって良いんですか?」
王都だったら、ごめんなさいじゃ済まされない事だとアステアは言うのだが、僕たちが言うのもアレだけどここは辺鄙な村なのだし。
そんなことを言っては昔の(僕はともかく)コルンなんか、何度罪に問われたことかわかったもんじゃない。
「どれだけ悪いことをしたのかなんて、本人たちが一番わかってるわよ。
まだ怒られてるうちはいいけど、コルンみたいに諦められたらおしまいね」
テセスが昔のことを思い出したように、クスクスと笑い出す。
「なんだよ、みんなして俺がいつも悪事ばっかり働くような言い方してさぁ」
「あら、違ったかしら?
連れ回されてたセンは、家に帰ってくる度に怒られてたから可哀想だなぁって、いつも思っていたわよ?」
あー……そういえばよく怒られてたなぁ。
(無理やり連れ回されて)遅くなってご飯抜きだったり、(コルンが)村のものを壊したり畑に穴を開けて怒られたり。
「センまで、なんだよその目……」
「いや、僕って可哀想だったんだなぁって思っ……
ぷっ……っははは!」
自分で言っておいて、つい笑ってしまった。
それにつられてか、みんなも昔のことを喋りながら笑っていて、とね屋に戻った頃には騒ぎのことなんて忘れてしまっていたくらいだった。
後日、僕たちの元にも子供たちが謝りに来た。
というか、デク人形が使いたいとか、ピヨちゃんと遊びたいとか、そっちがメインだったみたいだけど。
「仕方ないわね……二、三日待ってなさい」
リリアが子供達にそう言って、ミアに案内され僕たちは魔族領に足を運んでいた。
そこら辺の冒険者なんかより、よっぽど強くて安全なタイニードラゴンが召喚されると、アッシュもリリアに頼み事をしていた。
日中は子供達の遊び相手、そして僕たちの外出中も、空から来る魔物を退治してくれているそうだ。
みんなの待つ『とね屋』に戻る僕とリリア。
「ずっと召喚しぱなっしで、魔力は大丈夫なの?」
「大したことないわよ。
それに使い続ければ少しずつ増えるんだし、バリエさんに魔法の威力で負けたままじゃ悔しいもの」
特訓のためでもあるってことなのか。
とっさの時に爆弾ふぐを口の中に突っ込ませる!
……みたいな事はできなくなったみたいだけど、『だからセンが私を守ってよね』なんて言われたから『もちろんだよ』って答えた。
考えてみたら、結構守られてばっかりなのに、本当に大丈夫なんだろうか?
思い返してみてそんなことを思うと、自然と声に出てしまっていた。
「ううん……絶対に守ってみせる!」
なんだか今までの恥ずかしい自分を否定するかのように、改めて決意している自分がいた。
「あ、いや……そんな言い方されると恥ずかしいんだけど……」
「え? ……あっ!」
互いに少し顔を赤らめながら、しばらく無言で歩いていた僕とリリア。
後から『とね屋』にヤマダさんがやってきて『来る途中に面白いものを見たんだが』と言いながら、僕を見てきた。
なんだろう、リリアは相変わらずヤマダさんに辛辣な言葉を浴びせているが、今日は僕も言いたい気分になってしまった……
村の周囲をぐるりと、新たに魔物対策として設けられた柵に囲まれているため、それ以外で魔物の侵入を赦す事は滅多になかった。
そのため東の方に住んでいた多くの住民が、村で用意した西の仮住まいなんかに移っていった。
そうやって世界樹によるエリアが崩壊した今でも、そこそこの安全は守られていたのだ。
そして、村の入り口近くに新たに設置された、もう一つの柵に囲まれた広場。
中には三体のデク人形が備わっており、普段は通常のゴーレムにして置いておくことになった。
ミスリルゴーレムとか、頑丈な魔物にしておけばいちいち元の姿に戻る煩わしさもないだろうと思っていた。
ところが、どの冒険者も与えるダメージが『1』だったものだから、すぐに『面白くない』という声が上がってしまい変えることになったのだ。
とね屋の中でも冒険者たちの中では、その話題で持ちきりだった。
「『18』かよ、ダッセェなぁ。
俺は『31』だったぜ、もう中級ダンジョンも余裕なんじゃねぇか?」
「馬鹿言え、あのマリア様ですら『80』なんだぜ。
おめぇの攻撃なんかじゃ初級ですらクリアできねぇよ」
村の中でこのデク人形は話題になり、自らの強さを示したい冒険者たちで連日賑わっていた。
一時的かもしれないが、おかげで身の丈に合わないダンジョンへ向かう冒険者も減ったのは事実だった。
「へぇ、マリアも試してみたんだ……」
この宿兼食堂『とね屋』の一人娘で、教会でシスター見習いとして働くマリア。
「違うわよ、前々からマリアちゃんに迫ってた男が強さを見せるために連れていったのよ。
笑っちゃうよね、その男の目の前で何倍もの強さを見せつけちゃうんだもん」
リリアが持っていたスプーンを店内の角に向けていたので、そちらを向くと見た目に屈強そうな革鎧に身を包んだ男が、机に突っ伏した状態で他の冒険者たちに慰められていた。
「まぁ小さな村だからなぁ。
そんなちょっとした話題でも盛り上がっちまうんだから可哀想なもんだ」
「アッシュさんだって、みんなの前で『260』なんて数値を見せつけたじゃん。
それでようやく初級ダンジョンがクリアできる程度だなんて言うから」
コルンが言うように、冒険者たちデク人形で盛り上がっていた時、横からアッシュがデク人形に剣の一撃を浴びせたのだ。
おかげで、その場にいた腕自慢の鼻がへし折られたのは言うまでもない。
「言わなきゃ目安にもならないだろう。
お前たちだって、飄々と何千もの数値を出しちまうもんだから、俺の立つ瀬が無いったらないぜ」
アッシュが設けた目安の数値が高すぎるせいか、ここ数日はダンジョンに挑む冒険者は減ってしまった。
まぁおかげでマリアが駆り出されることも少ないみたいだし、アッシュにも余裕ができて、こうやってみんなで食事ができるのだけどさ。
「でさ、デク人形が一体無くなったって言ってたじゃないの。
アレって結局見つかってないの?」
リリアが話を変えて、元々四体だったはずのデク人形のことを尋ねる。
「なんの為に盗んだんでしょう?
お家で特訓でもしたかったのかしら……」
まぁ盗んだとは限らないけれど、テセスが言うように誰しもが盗まれたのだと思っている。
しかもヤマダさんが魔王城から持ってきたその日の夕暮れ時に、いきなりだったのだ。
ひとまず翌日に設置するまでは、正しい使い方も学んでおきたいからと解散させて、人気が無くなったと思った直後だった。
そりゃあ早く試したくてうずうずしていた冒険者が多かったのも知っているが、誤った使い方で周囲を巻き込んで爆発、なんてことになったら問題だったし。
目的はおそらく……とは思うものの、あまり信じたくないその想像は、リリアやテセスの前ではとてもじゃないが言えなかった。
なにせ多くの人たちの前で、デク人形がコルンの姿や兵士の姿に変わったりもしていたのだから。
ミアは……黙って僕たちの様子を眺めているような気もする。
なにか知っているんじゃないだろうか?
さすがに僕たちがまだ立ち話をしている中で、堂々と盗む人がいるとは思っていなかったけれど、考えてみれば目を離して依頼所の側で話をしていたし、無用心だったとは思う……
ミアの行動は、そんな僕たちにお仕置き的な意味合いもあるのだろうか?
「ねぇ、センはなんで盗まれたと思う?」
「えっ⁈ あっ……うーん、なんでだろう……」
リリアからの急な問いかけだったが、もちろん答えられるわけもない。
「ふぅーん……あんなもの、売ったりしたらするにバレちゃうのにね」
まぁ、犯人探しはすでに行っているのだが、なにせ捜索対象のモノは姿を変えることができてしまう。
無くなってしまった夕暮れ時、ほとんどの冒険者はここ『とね屋』にいたらしいし、ダンジョンに行っていたグループはその事を知る由もない。
怪しい者がいなかったかと、様々な人に尋ねて回ったりもしたけれど、あれから村を出た冒険者がいるわけでもない、顔を見せなくなったような者もいなかった。
「なんで、もうお手上げって感じなんだよ」
両手を上げて降参といったポーズをとるアッシュ。
「そうなの……まぁ一体くらいはしょうがないんじゃない?
デク人形自体は自立する程度で、周囲に危害を加えたりはできないんでしょ?」
そう言うと、リリアは『ピヨちゃんの遊び相手に』なんて言い出す。
「店番なんかにもいいかしら?
教会に置いておいたらシスターも少し休めるかしら?」
「お城の門番みたいな感じで使ったら面白そうですね。
兵士じゃなくても、ドラゴンの格好で置いておいたら迫力満点じゃないですか」
アステアまで加わって、思い思いの用途なんかを話し始めると、アッシュは不安そうな様子で喋りだす。
「危害は加えられなくても、誰かに罪を着せることはできるだろうな。
それに、間違って室内で巨大な魔物にでも変えて……」
せっかくのアイテムが、残念な使われ方をされては僕たちも悲しくなる。
「おいっ! また魔物が村に入ってきたぞ!
子供が襲われているらしいっ!」
ゆっくりと食事をと思っていると、一人の冒険者が慌てた様子で店の中に入ってきた。
村の中に魔物が入ってきたと聞いては、食事どころではない。
だが、ウルフくらいの魔物だったら、ここにいる冒険者なら誰でも倒せると思うのだけど……
「新しくできた居住区のほうか。
あそこは前に小型の竜みたいな奴が飛んでいた場所じゃないか」
「あぁ、どうやら再びこの村の近くにまで飛んできたらしいんだ」
話に耳を傾けていると、どうやら普通の魔物ではない様子。
リリアは『ピヨちゃんだったら魔物じゃないわよ』と否定していたが、さすがの冒険者たちも見慣れた子竜とは姿が違っているのだと言っていた。
ワイルドボアが柵をぶっ壊して畑を荒らしたこともあった。
だから柵はかなり頑丈にしてあるのだが、空からの侵入となるとさすがになす術がない。
僕たちも席を立ち、慌ててその現場へと駆けつける。
現場に着いた僕たちが目の当たりにした光景は、真新しい建物の屋根の部分が壊されてしまい、その少し上を見たことのない魔物がパタパタとはためいている様子。
「本当、なにかが飛び回ってるわね……」
「あれ、タイニードラゴン。
多分海を渡って飛んできたんだと思う」
ミアが言うには、そこそこ強い比較的よくいる魔物らしい。ただし魔族領に。
それほど高くは飛んでいないにしろ、剣や槍では手が出なかったため、魔法が使える冒険者を待っていたみたいだ。
まぁ迂闊に攻撃してしまい、この見たことのない強さもわからない魔物を怒らせてしまっては、この辺り一帯がどうなっていたかわからないのだが。
攻撃が届かなかったのは幸いとでも言うべきなのだろうか……
「いくよっ! 一斉に攻撃して、反撃される前に片付けるわよっ!」
僕たち以外にも魔法を使える人たちが集まり、各々の武器を取り出した。
様々な魔法媒体に魔力が込められて、バリエさんのファイアーボールの詠唱が終わると同時に無数の魔法が放たれた。
『16』『727』『1126』……
誰もが、その赤い文字の浮き出る光景にギョッとしたことだろう。
確かに以前、このタイニードラゴンという魔物はこの場所に来た事があったようだ。
その時は屋根で羽を休めていただけで、村人が騒ぎ出すとどこかへ飛んでいってしまったのだとか。
じゃあ今回のデク人形は、誰がなんの目的で盗んでまでタイニードラゴンに変化させたかったのか。
なんてことはない、ただ好奇心旺盛だった僕やコルンみたいな子供たちが、子竜を連れて歩いているリリアを羨ましがっただけのことだった。
すぐに発覚しなかったのは、今まではスライムとかウルフにしか変化できなかったから。
村の騒ぎに怯えながら外に出てきた子供達の中には、偶然タイニードラゴン騒動の中にいた子供もいたそうだ。
屋根の修繕はともかく、子供たちからはデク人形を返してもらい、悪さをした罰と騒ぎを起こした謝罪は親たちに任せることにした。
「それだけで済ませちゃって良いんですか?」
王都だったら、ごめんなさいじゃ済まされない事だとアステアは言うのだが、僕たちが言うのもアレだけどここは辺鄙な村なのだし。
そんなことを言っては昔の(僕はともかく)コルンなんか、何度罪に問われたことかわかったもんじゃない。
「どれだけ悪いことをしたのかなんて、本人たちが一番わかってるわよ。
まだ怒られてるうちはいいけど、コルンみたいに諦められたらおしまいね」
テセスが昔のことを思い出したように、クスクスと笑い出す。
「なんだよ、みんなして俺がいつも悪事ばっかり働くような言い方してさぁ」
「あら、違ったかしら?
連れ回されてたセンは、家に帰ってくる度に怒られてたから可哀想だなぁって、いつも思っていたわよ?」
あー……そういえばよく怒られてたなぁ。
(無理やり連れ回されて)遅くなってご飯抜きだったり、(コルンが)村のものを壊したり畑に穴を開けて怒られたり。
「センまで、なんだよその目……」
「いや、僕って可哀想だったんだなぁって思っ……
ぷっ……っははは!」
自分で言っておいて、つい笑ってしまった。
それにつられてか、みんなも昔のことを喋りながら笑っていて、とね屋に戻った頃には騒ぎのことなんて忘れてしまっていたくらいだった。
後日、僕たちの元にも子供たちが謝りに来た。
というか、デク人形が使いたいとか、ピヨちゃんと遊びたいとか、そっちがメインだったみたいだけど。
「仕方ないわね……二、三日待ってなさい」
リリアが子供達にそう言って、ミアに案内され僕たちは魔族領に足を運んでいた。
そこら辺の冒険者なんかより、よっぽど強くて安全なタイニードラゴンが召喚されると、アッシュもリリアに頼み事をしていた。
日中は子供達の遊び相手、そして僕たちの外出中も、空から来る魔物を退治してくれているそうだ。
みんなの待つ『とね屋』に戻る僕とリリア。
「ずっと召喚しぱなっしで、魔力は大丈夫なの?」
「大したことないわよ。
それに使い続ければ少しずつ増えるんだし、バリエさんに魔法の威力で負けたままじゃ悔しいもの」
特訓のためでもあるってことなのか。
とっさの時に爆弾ふぐを口の中に突っ込ませる!
……みたいな事はできなくなったみたいだけど、『だからセンが私を守ってよね』なんて言われたから『もちろんだよ』って答えた。
考えてみたら、結構守られてばっかりなのに、本当に大丈夫なんだろうか?
思い返してみてそんなことを思うと、自然と声に出てしまっていた。
「ううん……絶対に守ってみせる!」
なんだか今までの恥ずかしい自分を否定するかのように、改めて決意している自分がいた。
「あ、いや……そんな言い方されると恥ずかしいんだけど……」
「え? ……あっ!」
互いに少し顔を赤らめながら、しばらく無言で歩いていた僕とリリア。
後から『とね屋』にヤマダさんがやってきて『来る途中に面白いものを見たんだが』と言いながら、僕を見てきた。
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