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7章《チートマジシャン》
8話
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「どうでしょうか……
本の整理なんかは、週に一度程度ですし、そもそも騒ぎを起こした私たちが王都のギルドに登録できるかどうかも……」
村に戻った翌日のとね屋、みんなの集まる中、リリアとバリエさんで魔法使いになる方法を話している。
バリエさんが言うには、ギルドで一定回数の依頼をこなす事が転職の条件なんだとか。
貧民の子を優先する依頼もあれば、小さすぎる子には難しく大人にはメリットが少ないような依頼もある。
まぁ、その本の整理というのが後者の依頼にあたるわけらしい。
「せっかく強い魔法を覚えられると思ったのになぁ……」
残念そうに漏らすリリア。
「そんなにいい事ばかりでもないですよ。
イメージで形状が変わるわけじゃないですし、なんてったってあの威力ですから」
確かに、ポンポンとあの威力の魔法を放たれては、それを知らない周辺の住民や冒険者にとっては恐怖でしかないだろう。
ただでさえ先日の一件で、街中に世界の終わりが来たのだと噂が広まってしまったというのに。
いや、世界の終わりは本当だからなぁ。
なんだか複雑な心境だ……
「それにアレですよ……長ーい呪文。
アレを全部唱えなきゃいけないんですよ?
村に戻ってから三つばかし、新しい魔法を覚えましたけど、それが辛くて辛くて……」
なんとなく僕の残しておいた『ファイアーボール』『スリーピングシープ』『フロート』の魔石。
バリエさんが使えるのなら、あげるよと言って渡してしまった。
一つの詠唱呪文を覚えるのに何時間もかかるのに、それを一度に五つも使えるようになったのだから、大変なのは容易に想像できた。
バリエさんに言わせれば、言葉の意味が気恥ずかしいのも抵抗がある要因なのだとか……
「そういえばカンブリス……だっけ?
隊長さんのことはどうなったのよ?」
僕たちは先に村に戻っていたので、事の顛末を詳しくは知らない。
リリアが問いかけると、バリエさんは少し言いにくそうにしながら答えていた。
さすがに犬化はすぐに解除され、人間に戻ったカンブリスの前には石化した兵士たちが並んでいた。
これに関してはミアとリリアの憂さ晴らしなので、バリエさんは何も悪くないのだけど。
意識があるのに動けず、頭に鳥が止まろうと、さらには糞尿を落とされようとも何一つ抵抗できない兵士たち。
「好きにしていいのですから、もちろん不問なのですがね」
何をしたって約束事なのだから悪いことは何一つ無いのだとバリエさんは言う。
とはいえ、少々やり過ぎだった。
城内から異変を感じた兵がやってきて……
いやまぁ、あの火柱を見たら誰だって異変だと思うけれど、大ごとになりそうだったものだからバリエさんを残して帰ってきてしまったというわけ。
「もう一つだけ見せつけてきましたよ。
選ばれた聖騎士にしか扱えない剣だって言ってた剣ですよ。
なんてことない普通の武器で笑っちゃいましたけどね」
詳しく聞いたところ、カンブリスに命じて、教会で剣の儀式を行ったのだとか。
バリエさんは聖騎士への転職もできるらしく、そうなれば当然剣の装備も可能だから、それを見ていた兵たちも唖然としていたらしい。
「どうやって装備できたとかわかるの?」
「皆さんは、用意された丸太を斬って試していましたが、私の場合は鉄の鎧でしたね。
斬れなかったら装備できていないと言うつもりだったんでしょうが、あんなものは今の私たちなら、きっと普通の剣でも斬れますから」
レベルも上がっているし、なんなら僕の作った杖でも木刀でだって凹ませるくらいは簡単だとも言い切るバリエさん。
面白そうだとコルンが言い出して、店を飛び出しどこかへ行ったと思ったら、家から木刀を持ってすぐに戻ってきた。
「え? もしかして試してみるの?」
まさかと思っていたコルンの行動に、僕は驚いてしまう。
「ほら、センの使ってたやつも、俺の家に置いてあったぜ」
そう言って、一本の木刀を投げ渡してくる。
小さい頃は、よく二人で雑草めがけて振ったりもしたけれど、この歳になって木刀を持つなんて思いもしなかった。
「ははっ、面白そうだな。
せっかくなら、色々な鎧でも置いて、冒険者の腕を見る訓練場でも作ってみるか?」
久しぶりに依頼所も落ち着いているそうで、アッシュも共に食事をしている。
そんなアッシュが言うには、自身の実力を見誤ってダンジョンで倒れる者はやはり多いようで、強さの基準となる何かは欲しいと思っていたのだとか。
「革と鉄、合金と魔銀とプラチナ……
あとはアグルの木で、丸太をいくつか用意しておきましょうか?」
そう言って乗り気の勇者アステアも、ちょっと自分の腕を試してみたいと言う。
「ちょっと、剣ばっかりズルイわよ。
魔法の強さがみれるようにも、ちょっとは考えてよね」
リリアが不満げに漏らすと、コルンは『必要ないだろう』と言う。
「丸太でいいじゃねーか。
どうせリリアだったら、鎧でも丸太でも形残らず燃やし尽くしちまうんだからうよ」
笑いながらコルンに言われて、ちょっとだけむくれているリリア。
その脇で、ちょこんと座っていたミアが何か思い出したらしく、小さな手を上に上げていた。
「それだったら、確か魔王城にピッタリのが……」
キィィ……
ミアが言い終わる前に入り口の扉が開かれて、例の如く見慣れない格好の男が入ると、店内はいつもより騒がしくなってくる。
「笑い声が外まで聞こえていたぞ?
なんの話をしてたんだ?」
「それよりも、なんなのよいつもいつも変わった格好ばかりしてきてさぁ」
さすがに不思議な格好が続くものだから、教えられる前にリリアが尋ねていた。
全体に黒いパリッとした装い、紅腕章に帽子には羽を広げた鳥の飾りがあしらわれている。
「軍服ってやつだ。別に何かと争うつもりで着ているわけじゃねーけど、久々に身体を動かしたくてな。
城の地下で必殺技の連携を試していたところだ」
するとミアが『ちょうど良かった』と言い、先程の話をヤマダさんに伝えていた。
「あぁ、練習場のデク人形が欲しいのか。
別に元々この国にあったやつだし、俺も一体あれば十分だしな」
ヤマダさんが言うには、破壊しても自然と再生する不思議な人形が五つばかり存在しているらしい。
しかも、そのデク人形というものに攻撃をすると、与えたダメージが表示されると言うのだから意味がわからない。
「そのまんまだよ、赤い文字でダメージ量が浮き出てくるんだ。
わかりやすくて良いじゃねぇか」
食事を終え、席を立ったヤマダさんは、しばらくしてそのデク人形というものを抱えて村に戻ってきた。
人形とはいうが、どう見ても人間にしか見えない……というか、コルンと全く同じ姿をした人形が4体も……
「ちょっ⁈ なんで俺がモデルになってるんだよっ⁈」
当然その姿を見たコルンから驚きの声が。
僕もだけど、他のみんなには何が起きたのかよくわからなかった。
なんでコルンが四人もヤマダさんに抱えられているのだろう? としか……
このデク人形の姿形、思い描くことでどんな風にも変えることができるそうだ。
まぁ見たことのあるものに限り、だそうだけど。
試しに僕も、デク人形に触れながらワイルドボアの姿を思い浮かべてみる。
みるみると形を変えて、デク人形が見慣れた獰猛な魔物の姿に変わると、傍目に見ていた周囲の冒険者たちの慌てだす様子も窺える。
『そういうものだ』とアッシュが説明するが、やはりすぐには受け入れられないようだ。
「じゃあ俺から試してみっかな!」
そう言いながら木刀を構えるコルン。
「赫灼一閃!」
木刀は、真っ赤な炎に包まれて、そのまま石のゴーレムを模したデク人形へと振り落とされた。
『170』
赤い文字でダメージ量がわかる。
うん。こうやって目のあたりにすれば、確かに言葉通りの現象。
続いてバリエさんも杖を構えて、魔法の呪文を詠唱しだしたのだが、相手はどう見ても城の兵士。
「ちょっ⁈ それ見られたらまずいって!」
別にデク人形なのだから、破壊しても誰かを傷つけたりというわけではないけれど……
「やっぱりダメですかね?
せっかくだから憂さ晴らしとも思ったのですが」
城の誰かに見られるのはもちろんだけど、冒険者たちの視線もあるし、変に噂でも広まったら困る。
「私もあのムカつく男の姿にしてやりたかったわよ。
まぁ……人目もあるし大人しく魔物の姿にしておきましょう?」
リリアも残念そうな表情を浮かべながら、黒い衣装のデク人形の姿は、よく見るスライムへと変化していった。
「では、さっそく……」
バリエさんは、一歩前に出て杖を前にかざすと、すぐに詠唱に入った。
またも精霊がどうのと呟くバリエさんは、側から見てあまりカッコいい感じはしなかったが、直後に放たれた魔法を見たらそんなことはどうでもよく感じられてしまった。
「ファイアーボール!」
バリエさんが杖を掲げ、詠唱を終えると、宙に現れた無数の火の玉が次々にウルフを模したデク人形に当たり爆発を引き起こす。
ドォォン……ドォォン! と、爆発の度に『170』『353』『516』……と赤い文字が変化していき、最終的には『4315』という数値を残してデク人形は木のような質感の人形へと変化してしまった。
「これは……意外と病みつきになりそうですね。
カンブリス隊長と戦ってわかったのですが、なかなか詠唱を終えられないのがもどかしくて。
一対一ではなかなか使えない魔法も、これだったら撃ち放題ですしね」
楽しいと言って、再びデク人形の姿を変え、森の中で出会ったワイバーンを作り出すバリエさん。
「な、なんだこいつはっ⁈」
当然そんな魔物を見たことがない冒険者たちは、驚きのあまり腰を抜かしているようだ。
「おいっ……変化させられるってことは……」
「だよなぁ……あんなバケモン、一体どこに……」
何に驚いたって、想像だけではちゃんとした姿にはならないと説明されたはずなのに、ちゃんとした伝説のワイバーンを生み出したバリエさんに、だ。
集まった冒険者にも一体渡して、試し斬りなんかをしてもらっていたが、誰もそんな魔物の姿を思い描くことはできない。
「フレイムピラー!」
『6330!』
再び詠唱すると、先ほどよりも魔法の威力は高かったようだ。
模擬戦の時にも見た魔法だが、やはり天にも届く炎の柱は何度見ても圧巻である。
「あれ? 今度は人形に戻らないんですね」
より高い威力の魔法を放ったのに、元の姿に戻らないデク人形をみてバリエさんが首を傾げる。
「あぁ、体力も姿を変えた魔物に合わせて増えるからな。
ワイバーンか、だったらあと十五発は撃たないと倒せないだろう」
ヤマダさんはそう言うと、細身の剣を取り出して構えた。
考えてみれば、ヤマダさんがこうやって構えている姿は初めて見るんじゃないだろうか?
「まぁ見てなっ! ……ふっ!」
全身に力を込めたのかと思った瞬間、瞬時にその場から姿を消したヤマダさん。
ガガガッと、何かが削られるような音が聞こえ顔を上げると、ワイバーンの喉元で見えないほど早く剣を振るうヤマダさんが見えた気がした。
だが次の瞬間には、その攻撃は足元で行われており、いつの間に持ち替えたのかヤマダさんの手には身体ほどもある大きな剣が握られている。
「まだまだぁ!」
地面を擦るように大剣を大きく振り回すと、ヤマダさんの何倍も大きなワイバーンの身体は宙へと浮いてしまう。
高く上げられたワイバーンに向かって、またも持ち変えられた武器、二つの銃から放たれた弾が無数に撃ち込まれていく。
「ラストォ!」
地面に向かって落ちるワイバーンに対し、地面に手をついたヤマダさんは、その落下地点に目掛けて地属性魔法を放った。
地面からワイバーンを貫き、周りからも同様にワイバーンを貫く巨大な岩の針が出現する。
『99999』
おかしい、僕とリリアで結構な時間がかかったワイバーンの体力を、ヤマダさんは一瞬で削り切ってしまった。
「すごいのはわかったけど、そんなに暴れて世界樹は大丈夫なの?」
冷たい視線でリリアがヤマダさんに問う。
「いいじゃねーか。
問題なのは俺のスキルだし、ダメージを受けない限りは大丈夫だって」
ヤマダさんも全く戦えないのはつまらないらしく、ユーグから詳しく聞いたのだそうだ。
ついでに『コンボ』なる技術も教えておこうかと思って、技を見せてくれたらしい。
コンビネーションや連携攻撃なんかもあるらしく、どれも大事な戦闘技術なのだとか。
「まずはな、攻撃する時に一瞬光が見えるだろう?」
「えっ?」
ヤマダさんがその説明をしようとしたのだが、さっそく意味のわからないことを言われて僕は困惑する。
「……光らないのか?」
「なんのことかわかりません……」
結局、誰一人としてその技術を習得できる者はおらず、タイミングが重要なその技術を、光が見えない僕たちに教えるのは無理だとヤマダさんに言われてしまった。
ちなみに僕の木刀での威力は『65』、リリアの魔法は『1020』、冒険者たちはいずれも『10』から『20』くらいだ。
アステアやピヨちゃんも試してみたところで再びコルンが『もう一度やらせてくれ』と言い出す。
弓に持ち替えたコルンが、レイラビット相手に『critical!』の文字と共に『3880』ダメージを与えて、胸元で拳を強く握りしめて喜んでいた。
ただ、直後にレイラビット相手にテセスが、赤色ではなく緑色の『9999』を出していたので、なんだか妙な雰囲気になっていたのだけど。
本の整理なんかは、週に一度程度ですし、そもそも騒ぎを起こした私たちが王都のギルドに登録できるかどうかも……」
村に戻った翌日のとね屋、みんなの集まる中、リリアとバリエさんで魔法使いになる方法を話している。
バリエさんが言うには、ギルドで一定回数の依頼をこなす事が転職の条件なんだとか。
貧民の子を優先する依頼もあれば、小さすぎる子には難しく大人にはメリットが少ないような依頼もある。
まぁ、その本の整理というのが後者の依頼にあたるわけらしい。
「せっかく強い魔法を覚えられると思ったのになぁ……」
残念そうに漏らすリリア。
「そんなにいい事ばかりでもないですよ。
イメージで形状が変わるわけじゃないですし、なんてったってあの威力ですから」
確かに、ポンポンとあの威力の魔法を放たれては、それを知らない周辺の住民や冒険者にとっては恐怖でしかないだろう。
ただでさえ先日の一件で、街中に世界の終わりが来たのだと噂が広まってしまったというのに。
いや、世界の終わりは本当だからなぁ。
なんだか複雑な心境だ……
「それにアレですよ……長ーい呪文。
アレを全部唱えなきゃいけないんですよ?
村に戻ってから三つばかし、新しい魔法を覚えましたけど、それが辛くて辛くて……」
なんとなく僕の残しておいた『ファイアーボール』『スリーピングシープ』『フロート』の魔石。
バリエさんが使えるのなら、あげるよと言って渡してしまった。
一つの詠唱呪文を覚えるのに何時間もかかるのに、それを一度に五つも使えるようになったのだから、大変なのは容易に想像できた。
バリエさんに言わせれば、言葉の意味が気恥ずかしいのも抵抗がある要因なのだとか……
「そういえばカンブリス……だっけ?
隊長さんのことはどうなったのよ?」
僕たちは先に村に戻っていたので、事の顛末を詳しくは知らない。
リリアが問いかけると、バリエさんは少し言いにくそうにしながら答えていた。
さすがに犬化はすぐに解除され、人間に戻ったカンブリスの前には石化した兵士たちが並んでいた。
これに関してはミアとリリアの憂さ晴らしなので、バリエさんは何も悪くないのだけど。
意識があるのに動けず、頭に鳥が止まろうと、さらには糞尿を落とされようとも何一つ抵抗できない兵士たち。
「好きにしていいのですから、もちろん不問なのですがね」
何をしたって約束事なのだから悪いことは何一つ無いのだとバリエさんは言う。
とはいえ、少々やり過ぎだった。
城内から異変を感じた兵がやってきて……
いやまぁ、あの火柱を見たら誰だって異変だと思うけれど、大ごとになりそうだったものだからバリエさんを残して帰ってきてしまったというわけ。
「もう一つだけ見せつけてきましたよ。
選ばれた聖騎士にしか扱えない剣だって言ってた剣ですよ。
なんてことない普通の武器で笑っちゃいましたけどね」
詳しく聞いたところ、カンブリスに命じて、教会で剣の儀式を行ったのだとか。
バリエさんは聖騎士への転職もできるらしく、そうなれば当然剣の装備も可能だから、それを見ていた兵たちも唖然としていたらしい。
「どうやって装備できたとかわかるの?」
「皆さんは、用意された丸太を斬って試していましたが、私の場合は鉄の鎧でしたね。
斬れなかったら装備できていないと言うつもりだったんでしょうが、あんなものは今の私たちなら、きっと普通の剣でも斬れますから」
レベルも上がっているし、なんなら僕の作った杖でも木刀でだって凹ませるくらいは簡単だとも言い切るバリエさん。
面白そうだとコルンが言い出して、店を飛び出しどこかへ行ったと思ったら、家から木刀を持ってすぐに戻ってきた。
「え? もしかして試してみるの?」
まさかと思っていたコルンの行動に、僕は驚いてしまう。
「ほら、センの使ってたやつも、俺の家に置いてあったぜ」
そう言って、一本の木刀を投げ渡してくる。
小さい頃は、よく二人で雑草めがけて振ったりもしたけれど、この歳になって木刀を持つなんて思いもしなかった。
「ははっ、面白そうだな。
せっかくなら、色々な鎧でも置いて、冒険者の腕を見る訓練場でも作ってみるか?」
久しぶりに依頼所も落ち着いているそうで、アッシュも共に食事をしている。
そんなアッシュが言うには、自身の実力を見誤ってダンジョンで倒れる者はやはり多いようで、強さの基準となる何かは欲しいと思っていたのだとか。
「革と鉄、合金と魔銀とプラチナ……
あとはアグルの木で、丸太をいくつか用意しておきましょうか?」
そう言って乗り気の勇者アステアも、ちょっと自分の腕を試してみたいと言う。
「ちょっと、剣ばっかりズルイわよ。
魔法の強さがみれるようにも、ちょっとは考えてよね」
リリアが不満げに漏らすと、コルンは『必要ないだろう』と言う。
「丸太でいいじゃねーか。
どうせリリアだったら、鎧でも丸太でも形残らず燃やし尽くしちまうんだからうよ」
笑いながらコルンに言われて、ちょっとだけむくれているリリア。
その脇で、ちょこんと座っていたミアが何か思い出したらしく、小さな手を上に上げていた。
「それだったら、確か魔王城にピッタリのが……」
キィィ……
ミアが言い終わる前に入り口の扉が開かれて、例の如く見慣れない格好の男が入ると、店内はいつもより騒がしくなってくる。
「笑い声が外まで聞こえていたぞ?
なんの話をしてたんだ?」
「それよりも、なんなのよいつもいつも変わった格好ばかりしてきてさぁ」
さすがに不思議な格好が続くものだから、教えられる前にリリアが尋ねていた。
全体に黒いパリッとした装い、紅腕章に帽子には羽を広げた鳥の飾りがあしらわれている。
「軍服ってやつだ。別に何かと争うつもりで着ているわけじゃねーけど、久々に身体を動かしたくてな。
城の地下で必殺技の連携を試していたところだ」
するとミアが『ちょうど良かった』と言い、先程の話をヤマダさんに伝えていた。
「あぁ、練習場のデク人形が欲しいのか。
別に元々この国にあったやつだし、俺も一体あれば十分だしな」
ヤマダさんが言うには、破壊しても自然と再生する不思議な人形が五つばかり存在しているらしい。
しかも、そのデク人形というものに攻撃をすると、与えたダメージが表示されると言うのだから意味がわからない。
「そのまんまだよ、赤い文字でダメージ量が浮き出てくるんだ。
わかりやすくて良いじゃねぇか」
食事を終え、席を立ったヤマダさんは、しばらくしてそのデク人形というものを抱えて村に戻ってきた。
人形とはいうが、どう見ても人間にしか見えない……というか、コルンと全く同じ姿をした人形が4体も……
「ちょっ⁈ なんで俺がモデルになってるんだよっ⁈」
当然その姿を見たコルンから驚きの声が。
僕もだけど、他のみんなには何が起きたのかよくわからなかった。
なんでコルンが四人もヤマダさんに抱えられているのだろう? としか……
このデク人形の姿形、思い描くことでどんな風にも変えることができるそうだ。
まぁ見たことのあるものに限り、だそうだけど。
試しに僕も、デク人形に触れながらワイルドボアの姿を思い浮かべてみる。
みるみると形を変えて、デク人形が見慣れた獰猛な魔物の姿に変わると、傍目に見ていた周囲の冒険者たちの慌てだす様子も窺える。
『そういうものだ』とアッシュが説明するが、やはりすぐには受け入れられないようだ。
「じゃあ俺から試してみっかな!」
そう言いながら木刀を構えるコルン。
「赫灼一閃!」
木刀は、真っ赤な炎に包まれて、そのまま石のゴーレムを模したデク人形へと振り落とされた。
『170』
赤い文字でダメージ量がわかる。
うん。こうやって目のあたりにすれば、確かに言葉通りの現象。
続いてバリエさんも杖を構えて、魔法の呪文を詠唱しだしたのだが、相手はどう見ても城の兵士。
「ちょっ⁈ それ見られたらまずいって!」
別にデク人形なのだから、破壊しても誰かを傷つけたりというわけではないけれど……
「やっぱりダメですかね?
せっかくだから憂さ晴らしとも思ったのですが」
城の誰かに見られるのはもちろんだけど、冒険者たちの視線もあるし、変に噂でも広まったら困る。
「私もあのムカつく男の姿にしてやりたかったわよ。
まぁ……人目もあるし大人しく魔物の姿にしておきましょう?」
リリアも残念そうな表情を浮かべながら、黒い衣装のデク人形の姿は、よく見るスライムへと変化していった。
「では、さっそく……」
バリエさんは、一歩前に出て杖を前にかざすと、すぐに詠唱に入った。
またも精霊がどうのと呟くバリエさんは、側から見てあまりカッコいい感じはしなかったが、直後に放たれた魔法を見たらそんなことはどうでもよく感じられてしまった。
「ファイアーボール!」
バリエさんが杖を掲げ、詠唱を終えると、宙に現れた無数の火の玉が次々にウルフを模したデク人形に当たり爆発を引き起こす。
ドォォン……ドォォン! と、爆発の度に『170』『353』『516』……と赤い文字が変化していき、最終的には『4315』という数値を残してデク人形は木のような質感の人形へと変化してしまった。
「これは……意外と病みつきになりそうですね。
カンブリス隊長と戦ってわかったのですが、なかなか詠唱を終えられないのがもどかしくて。
一対一ではなかなか使えない魔法も、これだったら撃ち放題ですしね」
楽しいと言って、再びデク人形の姿を変え、森の中で出会ったワイバーンを作り出すバリエさん。
「な、なんだこいつはっ⁈」
当然そんな魔物を見たことがない冒険者たちは、驚きのあまり腰を抜かしているようだ。
「おいっ……変化させられるってことは……」
「だよなぁ……あんなバケモン、一体どこに……」
何に驚いたって、想像だけではちゃんとした姿にはならないと説明されたはずなのに、ちゃんとした伝説のワイバーンを生み出したバリエさんに、だ。
集まった冒険者にも一体渡して、試し斬りなんかをしてもらっていたが、誰もそんな魔物の姿を思い描くことはできない。
「フレイムピラー!」
『6330!』
再び詠唱すると、先ほどよりも魔法の威力は高かったようだ。
模擬戦の時にも見た魔法だが、やはり天にも届く炎の柱は何度見ても圧巻である。
「あれ? 今度は人形に戻らないんですね」
より高い威力の魔法を放ったのに、元の姿に戻らないデク人形をみてバリエさんが首を傾げる。
「あぁ、体力も姿を変えた魔物に合わせて増えるからな。
ワイバーンか、だったらあと十五発は撃たないと倒せないだろう」
ヤマダさんはそう言うと、細身の剣を取り出して構えた。
考えてみれば、ヤマダさんがこうやって構えている姿は初めて見るんじゃないだろうか?
「まぁ見てなっ! ……ふっ!」
全身に力を込めたのかと思った瞬間、瞬時にその場から姿を消したヤマダさん。
ガガガッと、何かが削られるような音が聞こえ顔を上げると、ワイバーンの喉元で見えないほど早く剣を振るうヤマダさんが見えた気がした。
だが次の瞬間には、その攻撃は足元で行われており、いつの間に持ち替えたのかヤマダさんの手には身体ほどもある大きな剣が握られている。
「まだまだぁ!」
地面を擦るように大剣を大きく振り回すと、ヤマダさんの何倍も大きなワイバーンの身体は宙へと浮いてしまう。
高く上げられたワイバーンに向かって、またも持ち変えられた武器、二つの銃から放たれた弾が無数に撃ち込まれていく。
「ラストォ!」
地面に向かって落ちるワイバーンに対し、地面に手をついたヤマダさんは、その落下地点に目掛けて地属性魔法を放った。
地面からワイバーンを貫き、周りからも同様にワイバーンを貫く巨大な岩の針が出現する。
『99999』
おかしい、僕とリリアで結構な時間がかかったワイバーンの体力を、ヤマダさんは一瞬で削り切ってしまった。
「すごいのはわかったけど、そんなに暴れて世界樹は大丈夫なの?」
冷たい視線でリリアがヤマダさんに問う。
「いいじゃねーか。
問題なのは俺のスキルだし、ダメージを受けない限りは大丈夫だって」
ヤマダさんも全く戦えないのはつまらないらしく、ユーグから詳しく聞いたのだそうだ。
ついでに『コンボ』なる技術も教えておこうかと思って、技を見せてくれたらしい。
コンビネーションや連携攻撃なんかもあるらしく、どれも大事な戦闘技術なのだとか。
「まずはな、攻撃する時に一瞬光が見えるだろう?」
「えっ?」
ヤマダさんがその説明をしようとしたのだが、さっそく意味のわからないことを言われて僕は困惑する。
「……光らないのか?」
「なんのことかわかりません……」
結局、誰一人としてその技術を習得できる者はおらず、タイミングが重要なその技術を、光が見えない僕たちに教えるのは無理だとヤマダさんに言われてしまった。
ちなみに僕の木刀での威力は『65』、リリアの魔法は『1020』、冒険者たちはいずれも『10』から『20』くらいだ。
アステアやピヨちゃんも試してみたところで再びコルンが『もう一度やらせてくれ』と言い出す。
弓に持ち替えたコルンが、レイラビット相手に『critical!』の文字と共に『3880』ダメージを与えて、胸元で拳を強く握りしめて喜んでいた。
ただ、直後にレイラビット相手にテセスが、赤色ではなく緑色の『9999』を出していたので、なんだか妙な雰囲気になっていたのだけど。
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「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
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