スキル【合成】が楽しすぎて最初の村から出られない

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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7章《チートマジシャン》

7話

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【ギルド副長から騎兵隊に加わったバリエは、センの放った言葉のせいで、なぜか騎兵隊隊長のカンブリスと戦うことになった。
 バリエ視点、試合前日に教会を訪れたバリエのお話続き】


《バリエ ~模擬戦~》

 聖騎士専用の聖剣があるのなら、きっと魔法使い専用の杖があっても不思議ではない。
 ただ、魔法使いなんて街には相当な数がいるはずなのだ。
 リリアさんは、僕なんかがどれだけ頑張ってもたどり着けないような強力な魔法をバンバン放っているし、聖女様の治癒魔法は本当に神の力かと思わんばかりだ。

 神ではなく世界樹だと、センさんが教えてくれたけれど、よく分かっていない。
 センさん自身があまり分かってないと言うのだから仕方ないのだけど。
「あの時は、私も聖騎士になれる資格があるだろうかと、そんなことを考えていたのだけど……」

 センさんが作った杖を持って、私は王都の教会で祈りを捧げていた。
 聖剣の代わりに杖を、それも祭壇ではなく足元に置いて、儀式の真似事なんかをしてみたわけだ。
《クエスト30/30》
《条件を満たしました、職業を魔法使いに変更しますか?》

 以前は焦ってしまって詳しくは調べなかったのだけど、このクエストというもの、どうやら私がギルドで請け負っていた『図書館の本の整理』を行った回数のことのようだ。
 そうすると『聖騎士』の条件はなんだったのだろうか?

 魔法使いに職業を変更し、再び聖騎士へと願うと、変更するかどうかを問われるだけで、再び条件が表示されることはなかった。
 騎兵隊の誰もが条件を満たしていないというのは、つまりギルドで受ける依頼が重要な意味を持つのではないかとは考えた。
「ははっ……お金のためにやってた依頼が、こんなところで役に立つなんて思わなかったよ」
 ともあれ、杖を装備することはできるようになったみたいだ。
 一度エメル村に戻って、センさんに報告をする方がいいだろうな。
 装備品も揃えて待っててくれるみたいだし。

 足元に置いた杖に手を伸ばすと、その時にゆっくりと開かれた入り口の扉から、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「なんだぁ? バリエのやつがコソコソとなにかやってるみてぇじゃないか」
「なんだあれ? もしかして儀式の真似事してんのかっ?」
 騎兵隊の数名が、笑いながら中に入ってくる。
 送れてカンブリス隊長も入ってきたのだが、どうやら教会に常備してあるアイテムの在庫を確認に来ているようだった。

「あっ、皆さまお疲れ様です」
 憎まれ口を叩かれようと、私の先輩方であり、中には貴族の者もいる。
 すぐに杖を持ち立ち上がったのだが、『誰かさんが仕事をしないせいでお疲れだよ、本当になっ』なんて言われてしまった。
 隊長がその場を収めてくれたのだが、兵の一人は、『騎兵隊たるもの、いかなる時でも戦いの心得を~』なんて話を持ち出す。
 要約すれば、私と隊長の模擬戦の話にかこつけて、今二人が出会ってしまったこの場の格好で行うべきだと言い始めたのだ。
 卑怯だとは言いたくないが、明かに装備品を身につけていない私の状況を見てしまってから。

「それでは条件が……」
「隊長は甘すぎます! もし条件が不釣り合いだとすれば、心得を蔑ろにしている者が悪いのです!」
 チラッと私を見て、兵を止めようとした隊長も、その言葉にやれやれといった感じで言葉を失ってしまった。

「別にいいですよ。
 センさんに鍛えてもらってますし、簡単には負けるつもりはないですけどね……」
 動きがほとんど見えなかった魔物だって、今は相手にできる。装備品が無くとも、それなりには戦えるはずだ。
 そう思うと、つい口車に乗ってしまった。
「ぷっ、マジかよコイツ。
 杖一本で、一体何と戦うつもりでいるんだ?
 スライムならこの辺りにはもういないんだぞ?」

 確かに装備は手に持った杖一本。
 あとはエメル村から持ってきた魔石なのだが、不正防止のためと言われ、これも袋から取り出して見せる。
 あまりの大きさと輝きに、兵たちも一瞬驚きはしたものの、すぐに指を刺して笑い出した。
 『錬成前の魔石だってよ。投げたら杖よりは使えるんじゃないか?』なんて言われてしまう。
 そうか、錬成前だと魔法使いでも使えない可能性があるのか……少々不安になってしまった。

 兵たちが奥の部屋に入っていくのを確認し、私はその間に教会を出た。
 ここでの用事は済ませたのだし、いくら私でもあの兵たちと話をしていると嫌気が差してくる。
 村に戻ることも考えたが、不正を働いたと言われるのはどうしても避けたい。
 今日は家に戻り大人しくしているべきだろう。

 しかしどうしたものか。
 たまたま持っていたものは『ヒールウォーター』という青い魔石と、『フレイムピラー』という、一際綺麗で大きな赤い魔石。
 試しに使用してみると、幸い昇華など行わずとも、その力は私の中に溶け込むように入っていった。
 今の魔石は、先代の魔王が作ったものだと聞いた。
 そしてこの魔石はおそらく、それ以前から存在していたものだとも推察しているようだった。

 私の勝手な想像だが、先代魔王は優しい者だったのだろう。
 誰でも気軽に使えるわけではなかった魔石を、ちょっとした日常に簡単に取り入れられるようにしようと思ったのだろう。
 だが、小さな子供にまで使えるのではダメだと思い制限せざるを得なかった。
 元となる魔石は誰にでも入手でき、しかし使用するには昇華を行わねばならない。
 センさんが持っている【合成】スキルや、錬金なんて言われて今も残っているスキルが、つまりそういった昇華用のスキルに充てがわれたと考えると納得できる。

 センさんたちが言っていたような、スキルがもっと多様だった大昔には、それでみんなが幸せに暮らせていたのだろう。
 そして私は今、大昔の方法で魔法を習得したに違いない。
 覚えられたことは、消費する魔力量と魔法の効果。
 それに数節から成る言葉『詠唱呪文』というものだった。

「覚えなきゃいけないのかぁ……」
 試合は明日だというのに、まぁいいや、煉獄の……?
 要するに天と地の間から火の精霊が追い出されて、地に落ちた精霊が天にも登る火の柱を作り出した……っていう感じかな?
 これは復讐? にしても、一体誰が考えたんだろう……?

 魔法使いに転職した際、魔力を感じながら言葉を紡ぐことで、この魔法が発動することは理解した。
 魔力うんぬん抜きにしたって、こんな長文、魔法を使うとき以外に口にすることは無いだろう。
 いや、練習ならそれもあり得るのか…

 とにかく、一言一句間違えては魔法は発動しないというのだから大変だ。
 今はともかく、魔法の特性や効果範囲、消費魔力もそうだし、魔物と戦う時には属性も気にしなくてはならない。
 試しにもう一つの『ヒールウォーター』の魔石を使うと、やや短めの詠唱呪文が表示されるようになった。
「回復かぁ……今は二つも覚える余裕がないし、こっちだけかなぁ……」
 そうして夜中、私の部屋からブツブツと言葉が聞こえていたものだから、エティが心配そうに部屋に入ってきたのだけど、それは本当に申し訳ないと思った。

 翌朝、ブツブツと詠唱呪文を口にしながら教会へ。
 よく考えたら、センさんたちもこの街に来るだろうし、模擬戦を行うのなら城門前にある訓練場になるだろう。
 今まで教えてくれたのに、さすがに無視しておくわけにもいかないだろう。
 シスターに、センさんたちの特徴と言伝を残して私は城へと向かった。

 室内では装備品のチェックを済ませ、その際にも『魔石は良いのか? 切り札じゃなかったのかよ』なんて笑いながら言ってくる兵士。
「切り札だからな。そんなあからさまに持ってくるわけないだろ」
 まぁ本当は、使い終わって砕け散っただけなのだが。
「ちっ、言ってやがれ……」
 とにかく、教会で出会った時のまま、その姿で私は試合時間までここで待たされることになった。

 外に出ると、思った以上の観客の量と、そのヤジに圧倒されてしまう。
「ぁんだよ、その格好は!」
「っざけてんのかぁ?
 こっちは隊長様に傷を付けられる方に小金貨賭けてんだぜぇ!」
 なるほどそういうことか。
 しっかりと見せ物にして、これを機に私を騎兵隊から追い出そうというのだろう。
 恥さらしとでも言って無様に負けた姿を見せつけておくのだろうさ。

 試合開始、となればさっそく詠唱呪文といいたいところなのだが。
「っさすがにっ、これはっ!」
「むっ……バリエよ、かなり腕を上げたじゃないか。それに、良い杖だな」
「ありがとうございますっ……私ももう少し余裕があると思っていたんですがねっ」
 普段の長剣ではなく、小さな剣である分カンブリス隊長の剣筋はいつもより早く感じられる。
 この頑丈な杖で受け切ってはいるが、詠唱呪文なんて口にする余裕は微塵も無かったのだ。
 運良く攻撃が当たったところで所詮は杖。
 傷を付けられたわけでもなく、やはり賭けも成立はしていないと判断された様子。
 魔法の詠唱を、と思っても、当然そんな余裕は与えてくれなかった。

「ちっ……やるな、あのクソやろう……」
 おいおい、いくら戦闘中だからって、周囲の声が耳に届かないわけじゃない。
 さすがにそうあからさまに口にされると、こちらも不愉快だぞ。
「ヒソヒソ……使うか……」
「あぁ……全員持ったか……」
 なんの相談だ? そう思った瞬間、身体がやけに重く感じられてしまう。
「うわっ⁈ な、な……」
「どうしたバリエよ、体力切れか?」
 そうではない、スタミナならここ一週間だけでも十分すぎるほどについた。
 なるほどそうか、きっとあいつらの妨害工作といったところだろう。
 私が兵たちをチラッと見ると、手にアクセサリーを隠している様子だった。
 全員……か。

 とにかく負けるにしても、一方的に向こうの思うままにやられるのは堪らない。
「とりあえず、距離をっ!」
 センさんが作ってくれた魔法媒体を一つ取り出す。
 ルースというものを魔法の練習用に預かっているものだけど、ちゃんとしたイメージが必要だからどこまで使えるものか。
「ファイアー!」
「ぬぅ、魔法の腕もかなりのものではないか」
 私の出したヘロヘロの火魔法は、カンブリス隊長を怯ませるには十分だった。
 だが、それでどれだけの時間が取れるかというと、大したことはなかった。

 何度も間合いをとり、小さな火の玉で応戦。
 さすがにもう無理かと思ったのだが、なぜだろう、急に身体が動くようになってきたではないか。
 妨害が収まった? なぜ?

 ふと、兵たちの方を見ると、全員が辺りを見回して何かを探している様子。
 あぁ、きっと誰かが助けてくれたのだろう。
 魔力も無駄に使ってしまったし、そろそろ勝負に出るとしようか……

「ファイアー!」
「ふんっ、なかなかキレが出てきたではないかっ……む?」

「堕天を貫け! フレイムピラー!」
 私が詠唱呪文を唱えると、すぐに魔法は発動した。
 直撃は怖いし、カンブリス隊長のすぐ後ろには観客もいる。とりあえず目についた小石が対象物だった。
 『消費魔力30、敵単体を中心とした中範囲を対象とした火炎魔法攻撃、威力350』
 基準は分からないが、おそらくリリアさんくらいの魔法は出るんじゃないだろうか。
 逆に回復魔法の『効果150』というのも、どの程度回復できるのか気になるし。
 まぁイメージも必要ない、大昔の魔法にどれほど期待できるものか。

 地面が次第に赤くなり、その円のギリギリ外にはカンブリス隊長。
「ダメだったら、さすがにお手上げかなぁ……」
 そうして私と隊長の模擬戦は幕を閉じたのだった。
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