60 / 97
7章《チートマジシャン》
7話
しおりを挟む
【ギルド副長から騎兵隊に加わったバリエは、センの放った言葉のせいで、なぜか騎兵隊隊長のカンブリスと戦うことになった。
バリエ視点、試合前日に教会を訪れたバリエのお話続き】
《バリエ ~模擬戦~》
聖騎士専用の聖剣があるのなら、きっと魔法使い専用の杖があっても不思議ではない。
ただ、魔法使いなんて街には相当な数がいるはずなのだ。
リリアさんは、僕なんかがどれだけ頑張ってもたどり着けないような強力な魔法をバンバン放っているし、聖女様の治癒魔法は本当に神の力かと思わんばかりだ。
神ではなく世界樹だと、センさんが教えてくれたけれど、よく分かっていない。
センさん自身があまり分かってないと言うのだから仕方ないのだけど。
「あの時は、私も聖騎士になれる資格があるだろうかと、そんなことを考えていたのだけど……」
センさんが作った杖を持って、私は王都の教会で祈りを捧げていた。
聖剣の代わりに杖を、それも祭壇ではなく足元に置いて、儀式の真似事なんかをしてみたわけだ。
《クエスト30/30》
《条件を満たしました、職業を魔法使いに変更しますか?》
以前は焦ってしまって詳しくは調べなかったのだけど、このクエストというもの、どうやら私がギルドで請け負っていた『図書館の本の整理』を行った回数のことのようだ。
そうすると『聖騎士』の条件はなんだったのだろうか?
魔法使いに職業を変更し、再び聖騎士へと願うと、変更するかどうかを問われるだけで、再び条件が表示されることはなかった。
騎兵隊の誰もが条件を満たしていないというのは、つまりギルドで受ける依頼が重要な意味を持つのではないかとは考えた。
「ははっ……お金のためにやってた依頼が、こんなところで役に立つなんて思わなかったよ」
ともあれ、杖を装備することはできるようになったみたいだ。
一度エメル村に戻って、センさんに報告をする方がいいだろうな。
装備品も揃えて待っててくれるみたいだし。
足元に置いた杖に手を伸ばすと、その時にゆっくりと開かれた入り口の扉から、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「なんだぁ? バリエのやつがコソコソとなにかやってるみてぇじゃないか」
「なんだあれ? もしかして儀式の真似事してんのかっ?」
騎兵隊の数名が、笑いながら中に入ってくる。
送れてカンブリス隊長も入ってきたのだが、どうやら教会に常備してあるアイテムの在庫を確認に来ているようだった。
「あっ、皆さまお疲れ様です」
憎まれ口を叩かれようと、私の先輩方であり、中には貴族の者もいる。
すぐに杖を持ち立ち上がったのだが、『誰かさんが仕事をしないせいでお疲れだよ、本当になっ』なんて言われてしまった。
隊長がその場を収めてくれたのだが、兵の一人は、『騎兵隊たるもの、いかなる時でも戦いの心得を~』なんて話を持ち出す。
要約すれば、私と隊長の模擬戦の話にかこつけて、今二人が出会ってしまったこの場の格好で行うべきだと言い始めたのだ。
卑怯だとは言いたくないが、明かに装備品を身につけていない私の状況を見てしまってから。
「それでは条件が……」
「隊長は甘すぎます! もし条件が不釣り合いだとすれば、心得を蔑ろにしている者が悪いのです!」
チラッと私を見て、兵を止めようとした隊長も、その言葉にやれやれといった感じで言葉を失ってしまった。
「別にいいですよ。
センさんに鍛えてもらってますし、簡単には負けるつもりはないですけどね……」
動きがほとんど見えなかった魔物だって、今は相手にできる。装備品が無くとも、それなりには戦えるはずだ。
そう思うと、つい口車に乗ってしまった。
「ぷっ、マジかよコイツ。
杖一本で、一体何と戦うつもりでいるんだ?
スライムならこの辺りにはもういないんだぞ?」
確かに装備は手に持った杖一本。
あとはエメル村から持ってきた魔石なのだが、不正防止のためと言われ、これも袋から取り出して見せる。
あまりの大きさと輝きに、兵たちも一瞬驚きはしたものの、すぐに指を刺して笑い出した。
『錬成前の魔石だってよ。投げたら杖よりは使えるんじゃないか?』なんて言われてしまう。
そうか、錬成前だと魔法使いでも使えない可能性があるのか……少々不安になってしまった。
兵たちが奥の部屋に入っていくのを確認し、私はその間に教会を出た。
ここでの用事は済ませたのだし、いくら私でもあの兵たちと話をしていると嫌気が差してくる。
村に戻ることも考えたが、不正を働いたと言われるのはどうしても避けたい。
今日は家に戻り大人しくしているべきだろう。
しかしどうしたものか。
たまたま持っていたものは『ヒールウォーター』という青い魔石と、『フレイムピラー』という、一際綺麗で大きな赤い魔石。
試しに使用してみると、幸い昇華など行わずとも、その力は私の中に溶け込むように入っていった。
今の魔石は、先代の魔王が作ったものだと聞いた。
そしてこの魔石はおそらく、それ以前から存在していたものだとも推察しているようだった。
私の勝手な想像だが、先代魔王は優しい者だったのだろう。
誰でも気軽に使えるわけではなかった魔石を、ちょっとした日常に簡単に取り入れられるようにしようと思ったのだろう。
だが、小さな子供にまで使えるのではダメだと思い制限せざるを得なかった。
元となる魔石は誰にでも入手でき、しかし使用するには昇華を行わねばならない。
センさんが持っている【合成】スキルや、錬金なんて言われて今も残っているスキルが、つまりそういった昇華用のスキルに充てがわれたと考えると納得できる。
センさんたちが言っていたような、スキルがもっと多様だった大昔には、それでみんなが幸せに暮らせていたのだろう。
そして私は今、大昔の方法で魔法を習得したに違いない。
覚えられたことは、消費する魔力量と魔法の効果。
それに数節から成る言葉『詠唱呪文』というものだった。
「覚えなきゃいけないのかぁ……」
試合は明日だというのに、まぁいいや、煉獄の……?
要するに天と地の間から火の精霊が追い出されて、地に落ちた精霊が天にも登る火の柱を作り出した……っていう感じかな?
これは復讐? にしても、一体誰が考えたんだろう……?
魔法使いに転職した際、魔力を感じながら言葉を紡ぐことで、この魔法が発動することは理解した。
魔力うんぬん抜きにしたって、こんな長文、魔法を使うとき以外に口にすることは無いだろう。
いや、練習ならそれもあり得るのか…
とにかく、一言一句間違えては魔法は発動しないというのだから大変だ。
今はともかく、魔法の特性や効果範囲、消費魔力もそうだし、魔物と戦う時には属性も気にしなくてはならない。
試しにもう一つの『ヒールウォーター』の魔石を使うと、やや短めの詠唱呪文が表示されるようになった。
「回復かぁ……今は二つも覚える余裕がないし、こっちだけかなぁ……」
そうして夜中、私の部屋からブツブツと言葉が聞こえていたものだから、エティが心配そうに部屋に入ってきたのだけど、それは本当に申し訳ないと思った。
翌朝、ブツブツと詠唱呪文を口にしながら教会へ。
よく考えたら、センさんたちもこの街に来るだろうし、模擬戦を行うのなら城門前にある訓練場になるだろう。
今まで教えてくれたのに、さすがに無視しておくわけにもいかないだろう。
シスターに、センさんたちの特徴と言伝を残して私は城へと向かった。
室内では装備品のチェックを済ませ、その際にも『魔石は良いのか? 切り札じゃなかったのかよ』なんて笑いながら言ってくる兵士。
「切り札だからな。そんなあからさまに持ってくるわけないだろ」
まぁ本当は、使い終わって砕け散っただけなのだが。
「ちっ、言ってやがれ……」
とにかく、教会で出会った時のまま、その姿で私は試合時間までここで待たされることになった。
外に出ると、思った以上の観客の量と、そのヤジに圧倒されてしまう。
「ぁんだよ、その格好は!」
「っざけてんのかぁ?
こっちは隊長様に傷を付けられる方に小金貨賭けてんだぜぇ!」
なるほどそういうことか。
しっかりと見せ物にして、これを機に私を騎兵隊から追い出そうというのだろう。
恥さらしとでも言って無様に負けた姿を見せつけておくのだろうさ。
試合開始、となればさっそく詠唱呪文といいたいところなのだが。
「っさすがにっ、これはっ!」
「むっ……バリエよ、かなり腕を上げたじゃないか。それに、良い杖だな」
「ありがとうございますっ……私ももう少し余裕があると思っていたんですがねっ」
普段の長剣ではなく、小さな剣である分カンブリス隊長の剣筋はいつもより早く感じられる。
この頑丈な杖で受け切ってはいるが、詠唱呪文なんて口にする余裕は微塵も無かったのだ。
運良く攻撃が当たったところで所詮は杖。
傷を付けられたわけでもなく、やはり賭けも成立はしていないと判断された様子。
魔法の詠唱を、と思っても、当然そんな余裕は与えてくれなかった。
「ちっ……やるな、あのクソやろう……」
おいおい、いくら戦闘中だからって、周囲の声が耳に届かないわけじゃない。
さすがにそうあからさまに口にされると、こちらも不愉快だぞ。
「ヒソヒソ……使うか……」
「あぁ……全員持ったか……」
なんの相談だ? そう思った瞬間、身体がやけに重く感じられてしまう。
「うわっ⁈ な、な……」
「どうしたバリエよ、体力切れか?」
そうではない、スタミナならここ一週間だけでも十分すぎるほどについた。
なるほどそうか、きっとあいつらの妨害工作といったところだろう。
私が兵たちをチラッと見ると、手にアクセサリーを隠している様子だった。
全員……か。
とにかく負けるにしても、一方的に向こうの思うままにやられるのは堪らない。
「とりあえず、距離をっ!」
センさんが作ってくれた魔法媒体を一つ取り出す。
ルースというものを魔法の練習用に預かっているものだけど、ちゃんとしたイメージが必要だからどこまで使えるものか。
「ファイアー!」
「ぬぅ、魔法の腕もかなりのものではないか」
私の出したヘロヘロの火魔法は、カンブリス隊長を怯ませるには十分だった。
だが、それでどれだけの時間が取れるかというと、大したことはなかった。
何度も間合いをとり、小さな火の玉で応戦。
さすがにもう無理かと思ったのだが、なぜだろう、急に身体が動くようになってきたではないか。
妨害が収まった? なぜ?
ふと、兵たちの方を見ると、全員が辺りを見回して何かを探している様子。
あぁ、きっと誰かが助けてくれたのだろう。
魔力も無駄に使ってしまったし、そろそろ勝負に出るとしようか……
「ファイアー!」
「ふんっ、なかなかキレが出てきたではないかっ……む?」
「堕天を貫け! フレイムピラー!」
私が詠唱呪文を唱えると、すぐに魔法は発動した。
直撃は怖いし、カンブリス隊長のすぐ後ろには観客もいる。とりあえず目についた小石が対象物だった。
『消費魔力30、敵単体を中心とした中範囲を対象とした火炎魔法攻撃、威力350』
基準は分からないが、おそらくリリアさんくらいの魔法は出るんじゃないだろうか。
逆に回復魔法の『効果150』というのも、どの程度回復できるのか気になるし。
まぁイメージも必要ない、大昔の魔法にどれほど期待できるものか。
地面が次第に赤くなり、その円のギリギリ外にはカンブリス隊長。
「ダメだったら、さすがにお手上げかなぁ……」
そうして私と隊長の模擬戦は幕を閉じたのだった。
バリエ視点、試合前日に教会を訪れたバリエのお話続き】
《バリエ ~模擬戦~》
聖騎士専用の聖剣があるのなら、きっと魔法使い専用の杖があっても不思議ではない。
ただ、魔法使いなんて街には相当な数がいるはずなのだ。
リリアさんは、僕なんかがどれだけ頑張ってもたどり着けないような強力な魔法をバンバン放っているし、聖女様の治癒魔法は本当に神の力かと思わんばかりだ。
神ではなく世界樹だと、センさんが教えてくれたけれど、よく分かっていない。
センさん自身があまり分かってないと言うのだから仕方ないのだけど。
「あの時は、私も聖騎士になれる資格があるだろうかと、そんなことを考えていたのだけど……」
センさんが作った杖を持って、私は王都の教会で祈りを捧げていた。
聖剣の代わりに杖を、それも祭壇ではなく足元に置いて、儀式の真似事なんかをしてみたわけだ。
《クエスト30/30》
《条件を満たしました、職業を魔法使いに変更しますか?》
以前は焦ってしまって詳しくは調べなかったのだけど、このクエストというもの、どうやら私がギルドで請け負っていた『図書館の本の整理』を行った回数のことのようだ。
そうすると『聖騎士』の条件はなんだったのだろうか?
魔法使いに職業を変更し、再び聖騎士へと願うと、変更するかどうかを問われるだけで、再び条件が表示されることはなかった。
騎兵隊の誰もが条件を満たしていないというのは、つまりギルドで受ける依頼が重要な意味を持つのではないかとは考えた。
「ははっ……お金のためにやってた依頼が、こんなところで役に立つなんて思わなかったよ」
ともあれ、杖を装備することはできるようになったみたいだ。
一度エメル村に戻って、センさんに報告をする方がいいだろうな。
装備品も揃えて待っててくれるみたいだし。
足元に置いた杖に手を伸ばすと、その時にゆっくりと開かれた入り口の扉から、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「なんだぁ? バリエのやつがコソコソとなにかやってるみてぇじゃないか」
「なんだあれ? もしかして儀式の真似事してんのかっ?」
騎兵隊の数名が、笑いながら中に入ってくる。
送れてカンブリス隊長も入ってきたのだが、どうやら教会に常備してあるアイテムの在庫を確認に来ているようだった。
「あっ、皆さまお疲れ様です」
憎まれ口を叩かれようと、私の先輩方であり、中には貴族の者もいる。
すぐに杖を持ち立ち上がったのだが、『誰かさんが仕事をしないせいでお疲れだよ、本当になっ』なんて言われてしまった。
隊長がその場を収めてくれたのだが、兵の一人は、『騎兵隊たるもの、いかなる時でも戦いの心得を~』なんて話を持ち出す。
要約すれば、私と隊長の模擬戦の話にかこつけて、今二人が出会ってしまったこの場の格好で行うべきだと言い始めたのだ。
卑怯だとは言いたくないが、明かに装備品を身につけていない私の状況を見てしまってから。
「それでは条件が……」
「隊長は甘すぎます! もし条件が不釣り合いだとすれば、心得を蔑ろにしている者が悪いのです!」
チラッと私を見て、兵を止めようとした隊長も、その言葉にやれやれといった感じで言葉を失ってしまった。
「別にいいですよ。
センさんに鍛えてもらってますし、簡単には負けるつもりはないですけどね……」
動きがほとんど見えなかった魔物だって、今は相手にできる。装備品が無くとも、それなりには戦えるはずだ。
そう思うと、つい口車に乗ってしまった。
「ぷっ、マジかよコイツ。
杖一本で、一体何と戦うつもりでいるんだ?
スライムならこの辺りにはもういないんだぞ?」
確かに装備は手に持った杖一本。
あとはエメル村から持ってきた魔石なのだが、不正防止のためと言われ、これも袋から取り出して見せる。
あまりの大きさと輝きに、兵たちも一瞬驚きはしたものの、すぐに指を刺して笑い出した。
『錬成前の魔石だってよ。投げたら杖よりは使えるんじゃないか?』なんて言われてしまう。
そうか、錬成前だと魔法使いでも使えない可能性があるのか……少々不安になってしまった。
兵たちが奥の部屋に入っていくのを確認し、私はその間に教会を出た。
ここでの用事は済ませたのだし、いくら私でもあの兵たちと話をしていると嫌気が差してくる。
村に戻ることも考えたが、不正を働いたと言われるのはどうしても避けたい。
今日は家に戻り大人しくしているべきだろう。
しかしどうしたものか。
たまたま持っていたものは『ヒールウォーター』という青い魔石と、『フレイムピラー』という、一際綺麗で大きな赤い魔石。
試しに使用してみると、幸い昇華など行わずとも、その力は私の中に溶け込むように入っていった。
今の魔石は、先代の魔王が作ったものだと聞いた。
そしてこの魔石はおそらく、それ以前から存在していたものだとも推察しているようだった。
私の勝手な想像だが、先代魔王は優しい者だったのだろう。
誰でも気軽に使えるわけではなかった魔石を、ちょっとした日常に簡単に取り入れられるようにしようと思ったのだろう。
だが、小さな子供にまで使えるのではダメだと思い制限せざるを得なかった。
元となる魔石は誰にでも入手でき、しかし使用するには昇華を行わねばならない。
センさんが持っている【合成】スキルや、錬金なんて言われて今も残っているスキルが、つまりそういった昇華用のスキルに充てがわれたと考えると納得できる。
センさんたちが言っていたような、スキルがもっと多様だった大昔には、それでみんなが幸せに暮らせていたのだろう。
そして私は今、大昔の方法で魔法を習得したに違いない。
覚えられたことは、消費する魔力量と魔法の効果。
それに数節から成る言葉『詠唱呪文』というものだった。
「覚えなきゃいけないのかぁ……」
試合は明日だというのに、まぁいいや、煉獄の……?
要するに天と地の間から火の精霊が追い出されて、地に落ちた精霊が天にも登る火の柱を作り出した……っていう感じかな?
これは復讐? にしても、一体誰が考えたんだろう……?
魔法使いに転職した際、魔力を感じながら言葉を紡ぐことで、この魔法が発動することは理解した。
魔力うんぬん抜きにしたって、こんな長文、魔法を使うとき以外に口にすることは無いだろう。
いや、練習ならそれもあり得るのか…
とにかく、一言一句間違えては魔法は発動しないというのだから大変だ。
今はともかく、魔法の特性や効果範囲、消費魔力もそうだし、魔物と戦う時には属性も気にしなくてはならない。
試しにもう一つの『ヒールウォーター』の魔石を使うと、やや短めの詠唱呪文が表示されるようになった。
「回復かぁ……今は二つも覚える余裕がないし、こっちだけかなぁ……」
そうして夜中、私の部屋からブツブツと言葉が聞こえていたものだから、エティが心配そうに部屋に入ってきたのだけど、それは本当に申し訳ないと思った。
翌朝、ブツブツと詠唱呪文を口にしながら教会へ。
よく考えたら、センさんたちもこの街に来るだろうし、模擬戦を行うのなら城門前にある訓練場になるだろう。
今まで教えてくれたのに、さすがに無視しておくわけにもいかないだろう。
シスターに、センさんたちの特徴と言伝を残して私は城へと向かった。
室内では装備品のチェックを済ませ、その際にも『魔石は良いのか? 切り札じゃなかったのかよ』なんて笑いながら言ってくる兵士。
「切り札だからな。そんなあからさまに持ってくるわけないだろ」
まぁ本当は、使い終わって砕け散っただけなのだが。
「ちっ、言ってやがれ……」
とにかく、教会で出会った時のまま、その姿で私は試合時間までここで待たされることになった。
外に出ると、思った以上の観客の量と、そのヤジに圧倒されてしまう。
「ぁんだよ、その格好は!」
「っざけてんのかぁ?
こっちは隊長様に傷を付けられる方に小金貨賭けてんだぜぇ!」
なるほどそういうことか。
しっかりと見せ物にして、これを機に私を騎兵隊から追い出そうというのだろう。
恥さらしとでも言って無様に負けた姿を見せつけておくのだろうさ。
試合開始、となればさっそく詠唱呪文といいたいところなのだが。
「っさすがにっ、これはっ!」
「むっ……バリエよ、かなり腕を上げたじゃないか。それに、良い杖だな」
「ありがとうございますっ……私ももう少し余裕があると思っていたんですがねっ」
普段の長剣ではなく、小さな剣である分カンブリス隊長の剣筋はいつもより早く感じられる。
この頑丈な杖で受け切ってはいるが、詠唱呪文なんて口にする余裕は微塵も無かったのだ。
運良く攻撃が当たったところで所詮は杖。
傷を付けられたわけでもなく、やはり賭けも成立はしていないと判断された様子。
魔法の詠唱を、と思っても、当然そんな余裕は与えてくれなかった。
「ちっ……やるな、あのクソやろう……」
おいおい、いくら戦闘中だからって、周囲の声が耳に届かないわけじゃない。
さすがにそうあからさまに口にされると、こちらも不愉快だぞ。
「ヒソヒソ……使うか……」
「あぁ……全員持ったか……」
なんの相談だ? そう思った瞬間、身体がやけに重く感じられてしまう。
「うわっ⁈ な、な……」
「どうしたバリエよ、体力切れか?」
そうではない、スタミナならここ一週間だけでも十分すぎるほどについた。
なるほどそうか、きっとあいつらの妨害工作といったところだろう。
私が兵たちをチラッと見ると、手にアクセサリーを隠している様子だった。
全員……か。
とにかく負けるにしても、一方的に向こうの思うままにやられるのは堪らない。
「とりあえず、距離をっ!」
センさんが作ってくれた魔法媒体を一つ取り出す。
ルースというものを魔法の練習用に預かっているものだけど、ちゃんとしたイメージが必要だからどこまで使えるものか。
「ファイアー!」
「ぬぅ、魔法の腕もかなりのものではないか」
私の出したヘロヘロの火魔法は、カンブリス隊長を怯ませるには十分だった。
だが、それでどれだけの時間が取れるかというと、大したことはなかった。
何度も間合いをとり、小さな火の玉で応戦。
さすがにもう無理かと思ったのだが、なぜだろう、急に身体が動くようになってきたではないか。
妨害が収まった? なぜ?
ふと、兵たちの方を見ると、全員が辺りを見回して何かを探している様子。
あぁ、きっと誰かが助けてくれたのだろう。
魔力も無駄に使ってしまったし、そろそろ勝負に出るとしようか……
「ファイアー!」
「ふんっ、なかなかキレが出てきたではないかっ……む?」
「堕天を貫け! フレイムピラー!」
私が詠唱呪文を唱えると、すぐに魔法は発動した。
直撃は怖いし、カンブリス隊長のすぐ後ろには観客もいる。とりあえず目についた小石が対象物だった。
『消費魔力30、敵単体を中心とした中範囲を対象とした火炎魔法攻撃、威力350』
基準は分からないが、おそらくリリアさんくらいの魔法は出るんじゃないだろうか。
逆に回復魔法の『効果150』というのも、どの程度回復できるのか気になるし。
まぁイメージも必要ない、大昔の魔法にどれほど期待できるものか。
地面が次第に赤くなり、その円のギリギリ外にはカンブリス隊長。
「ダメだったら、さすがにお手上げかなぁ……」
そうして私と隊長の模擬戦は幕を閉じたのだった。
11
お気に入りに追加
4,182
あなたにおすすめの小説

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。