スキル【合成】が楽しすぎて最初の村から出られない

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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7章《チートマジシャン》

1話

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 カンブリスが王都に帰り、3日後。
 言い出しっぺの僕と、付き添いのコルンによる、バリエさん強化計画が中級ダンジョンの中層くらいの場所で実行されていた。

「ぎ……ぎも゛ぢ……わる゛いです……」
 そりゃあ、ごく短時間で魔力の回復と枯渇が繰り返されれば、誰だってそうなるだろう。
 言っちゃあ悪いのだけど、歳も僕たちより上だし、今更魔力強化を行ったところで、どれだけ強くなれるのかは不明。
「頑張ってよバリエさん!
 強くなる為に貴重なスキルポイントを消費して、新しいスキルを習得したんだしさ!」

 今回バリエさんに習得してもらったスキルは、『魔力吸収1』というもの。
 出来る限り強い装備を身につけて、さっさとレベルを『30』程度まで上げてもらい、『倒した魔物から魔力を吸い取り、回復する。回復量は最大値の2%』というスキルを習得してもらった。
 ようするに、この常時発動のスキル、ヤマダさんに言わせると『パッシブスキル』というらしいが、それを使って魔力回復とレベル上げを同時進行しようというのだ。

「セン、集魔の香の効果が切れたみたいだぞ」
「あ、ありがとうコルン。
 じゃあ今度はレアな魔物が出やすいやつにしようかな?」
「す……少し休ませてくださいよ……」
 バリエさんには悪いけど、休んでいる余裕はない。
 ついウッカリとはいえ、一週間でカンブリス越えを口にしてしまったのだから、そのくらいは我慢してもらわなくては成せなくなってしまう。
「バリエさんだって、強くなりたいって言ってたじゃないですか!
 それに、あの隊長を倒せるくらいになったら、きっと彼女さんも嬉しいはずですよ!」
「そ、そうですねっ!
 こんなに素晴らしい装備品を用意してくださった皆さんにも申し訳ないですしっ!」
 少しばかり弱音を吐いていたバリエさんだったが、すぐに気を取り直して魔物に向かって行く。

 一緒に村で生活するようになって、バリエさんの私情も聞くようになった。
 白金貨二枚は、やっぱり凄く大事なものだったんじゃないかと思うのだけど、 まぁ本人は『それ以上のものを貰った』なんて言っているし、気にしないでおこう。
「でぇぇい!」
 大きく剣を振るバリエさん。
 僕もだけど、正直言って技術は拙いと思う。
 だけど、その差すらもあっさりと翻すほどのレベル差をつけてしまおうというのだ。
 最初は銃でも弓でも、片っ端から使おうかと思ったのだが、バリエさんは一通り使ってみて剣に落ち着いたみたいだった。

『変なこと言うみたいですけど、握ってみてしっくりきたのは……この杖かもしれません』
 試してみた後に、バリエさんが言った一言だ。
 じゃあ、杖で魔物を殴ってみたら……となるが、当然威力はほとんど無い。
 そもそも剣士としての素質がないんじゃないかと疑ってしまうぐらいだった。

「はぁはぁ……もうお昼回ったんじゃないですか?」
 集魔の香の効果は、だいたい五分で切れる。
 マスター合成で『よく燃える』の特性を付けたやつでも効果は十分程度。
 それが朝から十五回として、昼にはまだ早すぎる時間だろう。
「あと十回くらい繰り返したらお昼だと思うよー。
 それよりも、魔法のイメージが適当になってない?
 さっきまで一撃で倒せてたのに、どんどん威力が弱くなってるよ?」
 僕がバリエさんにそう伝えると、急に脱力したように崩れ落ちるバリエさん。

 なんでかはわからないけれど、このままじゃ魔物に襲われて危険なので中止せざるを得ない。
「相変わらず酷いセリフを容赦なく言うんだな」
 コルンが僕を見て、笑いながら言う。
 酷いと言われたって、強くなるためには努力しかないじゃないか。
 レベル的にはカンブリスと同じくらいにはなったと思うけど、今のままじゃ技術の差で絶対に負けてしまう。
 それに、思った以上にバリエさんはイメージすることが苦手なようだ。

『尖った槍の先っぽが、魔物に突き刺さる感じだよ』
『こうですか?』
 そんな練習で出現したのは、そこら辺に落ちている石ころのようなもの。
 しかも尖ってなくて刺さるとは思えないし、飛ばす速度も遅い。
 それでもなんとかダメージを与えられるくらいにはなったけれど、剣だけじゃなく魔法の才能もあるとは言えないみたいだ。
『だって、火が近くに出てくるのは危なそうじゃないですか。
 風は目に見えないし、水ってどこから湧いてくるんです?
 地魔法なんてわけがわかりません……』
 そんなバリエさんの言い分を聞くに、どうも理解しているというよりは、言われたまま行動してみたという感じだろう。
 逆にそれで威力のある魔法が使えるのだから、才能があるのかもしれないけれど。

 午後からは再び、集魔の香を使った特訓。
 使用するルースも、より強く魔力の消費が激しいものに変えた。
 範囲魔法攻撃一発で、大体十体の魔物を倒してもらい、魔力の消費量は、その倒した魔物から吸収する魔力量に合わせていくつもりだ。
 もちろんうまく行かずに魔力回復薬を使うこともあるが、大した問題ではない。

 バリエさんの魔力の増減も、次第に穏やかになっていき、気持ち悪さもなくなってきたみたいだ。
 まだまだ僕やリリアには敵うはずもないけれど、かなりの魔力量になってきたのは見て取れる。
「センさん、ずっと気になっていたのですが、魔物を倒した時に時々出てくる魔石は、どうして拾わないんですか?
 見た感じ、ものすごく強い力を持っていそうなのですが……」
「あぁ、えっと……」

 どう説明していいものか。
 最近は魔石を拾うことが少なくなっている。
 というのも、魔文字ではない魔石の使い道がわからないためだった。
 一応、インベントリに入るみたいなので部屋を圧迫したりはしないのだけど、拾うのが手間なので放置しているだけ。
 例えば『ファイアーボールの魔石』が入手できたところで、誰もその魔法は使えなかった。
 唯一、合成で素材に『魔石』がある場合にだけ使用することはあるけれど。

「だから、同じ魔石ばっかりいくつもは、別にいいかなって思って。
 さっき試しに拾ってみたやつも、やっぱり同じような魔石だったし、ダンジョンの中で拾える魔石は全部そんなのみたいだよ」
 僕がバリエさんに説明していると、横からコルンが『俺はどっちの魔石でもろくに扱えないけどな』なんて言う。
 結局、昇華しないとただの石ころだし、僕の合成スキルでルースに変えたところで、やっぱり魔法が使えるわけじゃなかったから、僕の中でこれは『魔石に似た何か』という結論に至っている。

「なんだか勿体無いですね。
 地上だと、こんなに立派な魔石は、最低でも金貨一枚くらいで取引されるんじゃないですか?」
「んー……かもしれないね。
 でも、売ってから『使えない!』なんて言われたらお互いに困るだけだからさ」
 まぁ、もっと確実に稼げる手段があるのだから、変なものを売る必要もないのだけど。

 日が沈む頃、僕たちがようやくその日の特訓を終えて、ダンジョンから出てくると、いつか見た覚えのある大きな鳥の魔物が三体、姿を見せていた。
「コカトリスじゃん。
 また山の向こうから降りてきたの?」
 あれ以来初めて見る、その魔物の姿に、僕が驚いて声を上げると、コルンはすでに弓を構えていて、僕たちの方を見ていた。
「さっさと始末してやろうぜ」
「う、うん」

 まだバリエさんには手に負えないだろう、その魔物たちを倒すのに、何も大変なことはなかった。
 解体せずには、インベントリに入らないし、まぁこれは『素材』じゃないからって理由だと思うけど。
 そのまま放置すると、死骸に引き寄せられて別の魔物が来るらしい。
 サラマンドル湿地帯なら気にせずに放置しちゃうんだけど、村の周りだとそういうわけにも……

「良かった、無事みたいね」
「三人とも、まだ帰ってこないからテセスが心配したのよ。ちゃんと謝んなさいよ」
 暗くなって様子を見にきたリリアとテセスが、僕たちに近づいてくる。
 上級ダンジョンほどは離れていない、ウルフやワイルドボアのよく見かける山の麓に、中級ダンジョンは作ってある。
 ちなみに初級ダンジョンは、レイラビットたちのいる草むら。
 僕たちは転移すれば一瞬だけど、村にいる冒険者は、間違って強い魔物の出るダンジョンに入り込まないように考えられた配置。
 四龍のいるダンジョンは基本封鎖してるし、たまーに忍び込んで帰ってこない冒険者がいると聞いたことはあるけれど、嘘だと思いたいものだ。

「ちょうど良かったぁ。
 リリアにこれの収納頼んでも良い?」
 目の前に積まれた三体のコカトリスを指差して、リリアに頼むことにする。
「ちょっと、その前に言うことあるでしょ?」
「ごめんごめん、ダンジョンの中じゃ、時間がよくわからなくてさ。
 コルンも『まだ間食の時間くらいだろ』って言うから、大丈夫だと思ったんだよ」
 バリエさんの調子がついてきて、つい張り切りすぎたのがいけないのだろうな。
 僕は頭を掻きながら、二人に向かって謝っていた。

「私は別に、そんなには心配してないわよ。
 フロウさんが、ご飯抜きにするよって怒ってたから」
 テセスの言葉で、僕の表情は曇ってしまう。
 母フロウの言うご飯抜きは、外食も禁止のスキル使用も禁止。
 大きくなって自分で生きていけるかもしれないけれど、周りに心配をかけるような生き方はしちゃダメだっていう戒めのための罰だって言われている。
 つまり……

「は、早く帰らなきゃ⁈
 ご、ごめん! 先に帰ってるから、コカトリスの解体と、バリエさんのこともお願いっ!」
 慌てて村に転移する僕。
 幸いまだ日は沈みきってはいない。
 毎日楽しく過ごしたいなら、せめて周囲に心配をかけないようにしなさいという、母の言葉は理解できる。
 だけど、ダンジョンの中じゃ時間はわからないし、何度も出入りするのは面倒だし気が散って仕方ない。
 何かいい方法はないものかと、帰宅して母に頭を下げながら、しばし思うのだった。
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