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6章《吹っ切れ》

10話 ※『書籍版・レンタル版』とは内容が異なります。

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 とね屋の一階、数名の冒険者が色々と話をしているのが聞こえる。
 僕とコルンは、ヤマダさんとミアと共に食事をしながら、次の階層の攻略のために相談している最中だが、どうにも気になって聞き耳を立ててしまう。

「王都の方が騒がしいらしいじゃないか」
「なんでも城の中に不審者が入ったとかいう噂だ。
 誰だよそんな恐ろしいことをやったやつは。捕まったら打ち首は免れねぇぞ?」

 とね屋の食堂では、一部の冒険者が、そんな会話を続けていた。
 あれから五日、新しく撒いた世界樹の種は、翌朝にはすぐに新しいダンジョンへと育っていた。
 ところが、二個目のダンジョンということもあってか、一個目のものとは違って非常に魔物が強いようだ。
 確認のためにと、アッシュとコルンが中に入ってみたが、どの魔物もクセが強くまともに相手にするのは危険だと判断してすぐに戻ってきた。
 まぁ、あくまでも村にいる冒険者目線でのことなのだけど。
 それでも腕に覚えのある者は、多人数でパーティーを組み、エメル大迷宮の攻略に勤しんでいた。

「なんでも真っ黒なローブに身を包んで、闇夜に紛れて侵入したらしいな」
「何が目的なのかねぇ……」
「聞いたことあるぜ。
 なんでも秘宝と呼ばれている宝玉が存在するって話だ」

 三日目には、ヤマダさんが別の種を用意してくれて、それは王都周辺に撒いたものよりも深い階層のダンジョンができるものだったらしい。
 新しくできた三つのダンジョンを、今は村の冒険者たちも初級中級上級と分けて攻略しようとしている。
 初級は、時折攻略されてしまうのだけど、すぐに新しい種が撒かれるのでなくなることはない。
 エメル村の新しい三つの迷宮は、さらに村の人口を増やす要因となったことは言うまでもない。

「でさ、お前、今日はどうだったんだ?」
「勘弁してくれよ。何が中級だ、あんなもん俺たちに攻略できるわけがねぇじゃねぇか」

 初級ダンジョンは弱い魔物が出る十階層。
 中級は単純に攻撃力防御力が高い魔物中心の二十階層。
 上級は、魔法が使えることが前提で、魔物も知恵を持っていることが多い三十階層。
 以前のエメル大迷宮と中級ダンジョンが、おそらく同じ程度だと思う。
 ちなみに新しいエメル大迷宮は、最初のボスが既に以前の二十五階層並みの強さであった。

「エメル大迷宮は、魔物さえ倒せればなぁ……」
「やめとけやめとけ。上級ですら既に二桁のもんが大怪我を負って死に戻りさせられてんだろ?」
「あぁ治療費で小金貨三枚だっけ?
 たしかになぁ。あれさえなけりゃ、何度でも挑戦してやるってのによぉ」

 そういえば、世界樹の種ってどうやって作られているのだろうか?
 そんな疑問をヤマダさんにぶつけると、どうも世界樹そのものの根本で、あるアイテムを使うことで作ることができるらしい。
 作る際に選択できる項目があって、『魔物の強さと主な種類』『魔物の出現頻度』『階層の深さ』そして、『強制帰還』を行うかどうか。
 初級から上級のダンジョンには、この強制帰還が発動するので、死んでしまうような攻撃を受けた瞬間に、ダンジョンの外に放り出される。
 しかし、これには世界樹の力を使う代償で、強制帰還させられる冒険者の主な装備品は剥ぎ取られ、瀕死の状態のまま投げ出されてしまうのだ。

「マリアちゃんに治してもらえるなら、小金貨の三枚や五枚、惜しくないさ」
「馬鹿言え、それだけあったら一年は遊んで暮らせるぜ?」
「何言ってんだよ、お宝さえ手に入れれば、そんなもん大したことねぇよ」

 治療費の小金貨三枚は誰の手に渡るのかって?
 残念ながら僕ではなく、教会のマリアが受け取るのだ。
 大体の場合、周囲の者が見かねて瀕死の冒険者を教会に運ぶのだけど、通常の怪我人を含め非常に数が多く、無茶をさせない為に有料化したらしい。
 僕には使用するポーション代として半分くらい入ってくるから、結局僕の手元にも小金貨は貯まっていくのだけど。
 仕方ないよね、スキルを使うにも魔法を使うにも、ちょっと油断するだけで小金貨が無くなっていくんだもの。

「そういや、武器屋に新しいのが入荷してたな。
 弓矢だっけ? お前はもう使ってみたか?」
「んなもん高くて買えねぇよ。
 大体、試し打ちした奴が、取り憑かれたように『弓矢、弓矢』ってぶつぶつ言ってんだぜ? 呪いの装備かなんかじゃねぇのかよ?」
「ハハハッ、間違いねぇ。
 それのせいで、ろくに飯も食わずにぶっ倒れたって奴のことだろ?」

 精霊鍛治のお爺さんの新作は、剣と弓と杖。
 さすがに銃はやめておこうということになって、試し打ち用のプラチナで作った弓(+5)を限定一本、白金貨十枚!
 販売用のミスリル製は、どれも金貨一枚で販売している。
 販売用は、もちろん強化はしていないから、僕たちの持っている武器と比べると攻撃力は雲泥の差。
 ただ、もう一方のプラチナ製は、『金さえ出せば伝説の武器が手に入る』のだと話題になってしまった。

 どこから聞きつけたのか、貴族の者までやってきて、その弓を強請ってくるのだ。
 こちらとしては売るつもりじゃなかったから、そういう者には同じプラチナ製でのオーダーメイドを承っている。
 攻撃力のドワーフ製、はたまた特殊効果の精霊鍛治製、追加投資いただければ、僕による強化と特性の付与も行っていたりするので、ちょっぴり汚い話だけど僕の懐は非常に温かい。
 あっ、正確にはインベントリの中が潤っていると言うべきか。

「でもありがてぇよな。武器は手が届かねぇ金額だけどよ、防具は格安で販売してくれてんだぜ?
 なんでも隣にある商業ギルドの中で、悪魔が拵えてるって噂じゃねぇか?」
「知ってる知ってる。背のちっこい奴らだろ?
 詳しくは知らねぇけどよ、あれ、魔族って言うらしいぜ」
「へぇー、しかし、どっちにしても不気味なもんだぜ。
 呪いの装備をばら撒いて、俺たちをどうにかしようって思っているのかねぇ」

 せっかく人族の為に尽くしてくれているのに、なんて言い草だろうか。
 防具だけは立派なものを装備してもらわなくちゃ、正直後味が悪いというか……
 死なれでもしたら、きっと普及させなかった僕たちが後悔すると思ってのことなのだ。
 しかし『悪魔』だの『呪い』だのと……
 ドワーフたち自身、あまり姿を見せない方がいいと思って、ほとんど出入りしなかったのが悪かったのだろうか?


《リリアside&テセス~ダンジョン~》
 所変わって、新ダンジョン三階層。
 もちろん初級や上級ではなく、新エメル大迷宮の三階層の入り口。
 転移石の前で、リリアが無理やりテセスを連れて魔物の観察に来ている。
 この階層の、魔物の倒し方がわからないのだ。
 この切羽詰まった状態であろうと、ヤマダさんは一貫して『つまらなくなるから教えない』と言っていた。

「魔法は効かないし、剣も弓もダメ。
 でも魔王さんは私たちでも倒せるって言ってたわ」
 フヨフヨと浮かぶ丸い球体を眺めていた。
 これもれっきとした魔物らしいのだが、どうやって倒すのかがわからないでいる。
「見てたって何もわからないわよ、リリアちゃん」
「そ、そうだけどさ……
 適当に攻撃してて倒せたって、なんだか悔しいじゃないの。あの変な奴に言いたい放題言われてさ」

 魔王ヤマダは、私たちにも簡単に倒すことができる魔物だと言っていた。
 強いわけではなく、むしろ弱いと言ってもいいくらいの攻撃力しかない魔物。
 ピヨちゃんでもクロでもガンちゃんでもダメ。
 名前はつけてないけど、爆弾ふぐの自爆でもノーダメージ……
 いつも特攻してばかりで可哀想だし、名前くらいつけてあげた方がいいのかな……

「物理攻撃でも魔法攻撃でもダメなんだから、他の方法があるってことなんでしょ?
 私の治癒魔法だったら、攻撃じゃないから効いちゃうんじゃない?」
 テセスが、そんなことを言いながら魔物に魔法を使うが、やはり倒せるはずがない。
 一瞬でも『もしかしたら……』なんて思ったけど、まぁそんなことはないよね。

「もぅっ! こんなのわかんないわよ!
 頭が混乱してきて状態異常にでもかかった気分よ!」
 私だって自分で言うのもなんだけど、賢い方だとは思っている。
 でも、こんなナゾナゾみたいなのは好きじゃない。
 攻撃は効かないけど倒せる。
 即死魔法? そんなのあるわけないじゃないのよ。
 じゃあアイテムでも使うの?
 魔石でも牙でもなんでも投げてやったわよ。

「ねぇリリアちゃん。状態異常って試してみたかしら?」
 突然テセスが聞いてきたのだけど、返答に詰まってしまった。
 状態異常といっても、色々ありすぎるし、試したかどうかもハッキリしなかったから。
「さ、さぁ? 私の技に『麻痺の邪眼』はあるけど、試したことはないわね……」
 テセスに言われて初めて試してみる。
 麻痺にかかっても、魔物って普通に動いていたりするし、センに使ってみた時もあまり効いてないみたいだったから考えたこともなかった。

「んー……効いてはいるみたいだけど、全然倒せる気がしないわ」
 そりゃあそうだ、動きを鈍らせる程度の効果しかないのが麻痺。
 もっと強力にかけることができたら、呼吸とかも止めることが出来るかもしれないけど、それほどの効果は無いみたい。

「じゃあさ、ダメージがありそうな状態異常は?」
「そうねぇ、合成スキルで作れるのだと、毒……くらいかな?
 火傷とか凍傷は、そもそも魔法攻撃が効かないんだし意味ないかも」
「じゃあ、とりあえずそれをやってみよ」
 えっと……毒投げナイフだったかな。
 たしか毒草と投げナイフの合成なんだけど、投げナイフはウルフの牙と鉄の合成だったハズ。
 試しにその場でやってみたら、品質は普通だけど、ちゃんと毒投げナイフになったみたいだ。

「さっそく投げてみるわ。
 ……ちょっと、的が小さすぎないかしら?」
 魔物の大きさは、私たちの頭くらい。
 あまり近づくと襲ってくるから、離れたところから狙っているのだけど、魔法と違って手で投げるから緊張してしまう。
「だったら、リリアちゃんお得意の風魔法で飛ばしちゃったら?」
 なるほど、そういう手もあるわね。
 『投げナイフ』なんて名前のせいで、手で投げるものだっていう先入観があったわ。

 『プスっ』
 風魔法で飛ばされたナイフは、なんとも軽い音で魔物に突き刺さった。
 見た目に変化は無いが、効いているのならちゃんとダメージを与えているハズだ。
 なんて思った矢先に、丸い球体の魔物は、地面に落ちて溶けていったのだった。
「あ……毒の状態異常は効いちゃうんだ……」
「簡単に倒せたわね。戻ってみんなにも教えてあげなきゃ」
 これで三階層も突破できそうだ。
 これからは状態異常もちゃんと使いながら攻略する必要があるのだろう。
 その事を私たちの身に刻み込むために、アイツは黙っていたのかしら?
 いやいや、アイツはそんな奴じゃないわ。きっと面白がっているだけよ……
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