スキル【合成】が楽しすぎて最初の村から出られない

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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1巻

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 3話


「セン、帰ったのね」

 家に帰ると、すでにテセスがテーブルについて待っていた。
 両親も今日ばかりは仕事を切り上げ、教会に様子を見に来てくれたのだが、帰りは僕よりも一足早かったらしい。
 母は収穫したばかりの野菜と、お祝いとしてアッシュが持ってきてくれた肉を調理しながら、『お疲れ様』と声をかけてくれた。
 多分本当にお疲れ様なのは、テセスとあのシスターだろう。
 しかも、啓示が上手くいかなかったのかと心配して様子を見に――いや、多分そうでなくても来ていただろうな、テセスは。
 いつも大事な時に、テセスは僕の家にいる。
 テセスの家には年老いた叔母おばが一人住んでいるだけで、体調の優れないときはよく横になっている。
 別に病気とかではないのだが、もう歳も六十を超えて身体が衰えてしまっているのだろう。
 僕が小さいときは、よく互いの家に行って遊んだものだ。
 そういえば、コルンと一緒に遊ぶようになったのは十歳頃のこと。アッシュが村にやってきて、二人で憧れて意気投合したって感じだったと思う。僕はそれほど冒険者のことを口にはしていなかったけれど。

「まぁまぁ、まずはお昼ご飯にしましょう」

 そう言って母は料理をテーブルに並べ、皆で席についた。
 僕の母が作った手料理は、正直美味しいと思う。
 大盛で用意された食事を、テセスが遠慮なく口に運ぶぐらいには。

「で、どうだったんだ? セン」

 まだ最初の一口も食べていないうちに、父が話しかけてくる。
 やはり皆、一生に一度の啓示のことが気がかりなのだろう。
 三人の目は僕を注視しており、『さぁ喋るんだ』と言わんばかりである。

「ごめん、正直よくわからない」
「何が?」

 僕の回答にテセスが尋ねる。自分で啓示をほどこした相手だから気になって仕方がないのか、その間隔はごくわずかであった。

「あ、いや、得られたスキルがどんなものなのか知らなくてさ。【合成】っていうんだけど」
「何の合成なの?」

 こういうスキルの場合、まぁ間違いなく専門的なスキルになるはずなので、【合成】にも何らかの方向性が定められているのだろう、という意味の質問だ。草木なのか鉱石なのか、はたまた魔物や武具に関してなのか。
 そういえば伝説の魔法使いは、二種類の魔法を同時に行使していたらしいから、魔法の合成という可能性もないわけではない。
 だが――

「ただの【合成】」
「「「?」」」

 僕が答えられるのはこれだけだ。
 そりゃあ、呆気に取られたような表情になるのも仕方がない。
 固有スキルの場合は、強力な剣技名であったり、身体能力向上であったりと、効果がわかりやすいスキル名がついている。
 一般的なスキルでも、ほとんどはその効果が知られているものなのだ。
 仮に固有スキルの中に【○○の合成】というものが存在していたとしても、ただの【合成】なんて誰も見たことがないと思う。

「もしかして、私がシスター役をしたせい?」

 テセスの表情が一瞬暗くなる。

「別に悪いスキルと決まったわけじゃないよ。それに、テセスにお願いするって決めたのは僕じゃないか」

 そうは言っても、思いがけない状況で生まれたスキルだし、テセスが初めて啓示を行って授けたのだから、暗い表情になるのも無理はない。

「多分、何かの知識のスキルよね。その一部だけが授けられたってことなのかも」
「まぁいいじゃない。後でゆっくり調べなさいよ」

 あせるテセスに対し、母はゆうちょうであった。『そんなことよりも早く御馳走を食べなさい』と。

「ごめんごめん、冷めちゃうね」
「あっ、すみません。いただきます……」

 僕のスキルのせいで、美味しい食事もテセスにはそう感じられないようだ。
 最後に水を一杯飲み、僕とテセスは二階に上がって購入してきた薬草を机に並べた。

「とりあえず試そうと思って買ってきたんだ」

 そうテセスに言うと、彼女もまたお祝いにと持ってきていた短剣を一つ取り出した。

「どんな職を選ぼうと、護身用の短剣は必要よ。多分センは冒険者を目指すのだろうけれど」

 机に置かれたのは、ダガーと呼ばれる刃渡り二十センチもない両刃の剣。
 これ一本でも銀貨数枚はするので、そう簡単に買えるものではない。
 実はテセスの亡くなった父が使っていたもので、あちこちへ魔物討伐に出向いた際のお供だったそうだ。

「父みたいに無茶なことばっかりして命を落としちゃダメよ。心配だから……この剣を見た時くらい私のことも思い出して、必ず帰ってくるって約束してほしいわ」
「……ありがとう、絶対に危険なことはしないさ」

 それに、【合成】というスキルの内容次第では、冒険者を諦めてしまうかもしれない。
 アッシュは夢を諦めるなと言っていたけれど、僕はまだ悩んでいるところもあって、別に冒険者だけが道ではないと思っているから。

「じゃあ、ちょっと試してみるね」

 僕は、薬草の並ぶ机に向かった。
 もし授かったスキルが【植物の知識】の一部であるなら、レベル1では絶対に合成はできない。
 他の知識系スキルだとしても、レベル1で合成できるものは何もないはずだ。

「薬草十枚を下級ポーションへ、合成!」

 あぁ、そうそう。別に喋る必要はない。ただ、自分がやろうとしたことをテセスにもわかるように口に出しているだけだ。

「ふふっ、見ればわかるわよ」

 後ろで見ていたテセスが思わず笑っていた。先ほどまでの若干暗い表情から笑みがあふれたのだから、この言葉にも意味はあったと思う。
 合成が上手くいく場合、教会の水晶のように徐々に光が増していき、次第にその形状を変化させる。


 ポーションが容器に入ってポンッと出てくれば非常にありがたいのだけれど、そういうわけではなく、ただ液体に変化するだけだ。
 なので、母に頼んで食器を一つ借りてきていて、その上に薬草を置いている。
 最初の数秒は全く変化がなく、『あぁ、やっぱりか』と思った。
 失敗だとしたら、今度は薬草でも鉱石でも自分で採取しにいって、まずは【合成】のスキルをレベル2に上げなくては――と考えていた時だった。

「セン……それ……」

 僕が、はぁ、とため息をついた直後、後ろからテセスに声をかけられる。
 ハッとして手元を見ると、薬草に徐々に光が集まっていた。

「え!? 合成できてる!?」

 正直ダメ元と思っていたから、僕自身驚きであった。
 レベル1で合成が可能だとすれば、これはもう何かの知識系スキルの一部ではありえない。
 徐々に光は落ち着いていき、ポタポタと液体が食器に溜まっていく。
 薬草十枚が全てなくなり、代わりにできたのは食器に入った下級ポーション。
 間違いなく【植物の知識】レベル2で得られるものであった。

「どういうこと……? もしかして、私たちの知らないスキルを授かったってことなの?」
「多分そうだと思う。固有スキルでもないみたい。レベルもあるし」

 固有スキルは技の習得であり、レベルがない。その代わり、最初からとんでもない威力を持っていたり、突出した効果だったりするのだ。
 テセスの持つ【鑑定】も、レベルなしの固有スキルに分類されている。

「レベル1からポーションを作れる【合成】なんて聞いたことがないわ……もしかして……」
「うん、僕もそうだったらいいなとは思うけど、だったらあまりおおやけに言わないほうがいいよね……」

 思い当たるものは一つあるにはある。
 アッシュやコルンの得たスキルとは違い、一説には『世界を変える力』といわれるスキル。

希少ユニークスキル】

 そういったスキルを持った者がいるという伝説はあるが、それは王に仕えた英雄とか、ドラゴン討伐をした剣士とかいうとぎばなしの部類だ。

「そうね、まだよくわからないうちは知識系のスキルだと言っておいたほうがいいかもしれないわね。怪しまれたとしても、知識系スキルの混濁型マッドタイプだということにすればいいわ。それなら、不安定な啓示で授かったというのはありえない話ではないから」

 混濁型マッドタイプは、良くも悪くも複数スキルの一部ずつを使用できるというものだ。名称だけは普通のスキルで複数授かるのだが、実際にはそのスキルの全ての力が使えるわけではなく、制限が多いらしい。
 他にも、一つのスキルを授かっても一部の力しか使えない欠如型ロストタイプというものもある。
 しかし、とにかく僕はそういった欠如型ロストタイプ混濁型マッドタイプではない。
 でなければ、レベル1で合成できることに説明がつかないから。

「どうしよう、コルンにも言っておかなきゃ」

 家に戻る前、スキルの話をしてしまった。もしかしたら雑貨屋の人にも聞かれていたかもしれない。
 だけどテセスは『雑貨屋は気にしないほうがいいわ』と言った。
 余計なことをするより、それ以上情報を与えなければ変な噂が立つこともないだろう、ということだ。
 それもそうだな、と思い、僕はコルンにだけ伝えるために家を出る。
 コルンの家を訪ねると、村の隅にある訓練所にいるとのことだったので、そちらに向かった。
 コルンを見つけた僕は、周囲に人目がないことを確認してから事情を説明する。

「なるほどな。そりゃ伝説でしかない希少ユニークスキルかもしれないってんなら、仕方ないな」

 コルンは決して他言しないと約束してくれた。ちなみに、固有スキルを得たというコルンはとても機嫌が良く、木刀を振り回す手にも力がこもっていた。
 ひとまず安心して、その帰り道にもまた雑貨屋に寄る。
 スキルを試してみたいのは山々だが、ここでポーション用の小瓶を大量に購入してしまえば、『あいつはレベル1なのに小瓶を買っていた』などと噂になりかねない。
 だから今回は、小瓶の原料である鉱石を買うことにした。
 今日、啓示の儀式があったことは村の皆が知っているし、そこでスキルを授かった子が一日で薬草と鉱石を買っていったら、不思議に思うだろう。

「おぅセン、お前のスキルは植物か薬学じゃなかったのか?」

 やはり気になったのか、店主は声をかけてくる。
 店主の言う【植物】は知識系のスキルのこと、【薬学】は、おそらく【薬師の心得】というスキルのこと。だいたい薬草を買う者は、そのどちらかのスキル持ちということが多いのだ。

「いえ、みんなで色々やってみたいってことになって、代表で買い出しに来たんですよ」

 もちろん、そんなことはない。
 レベル1の段階では特にできることはないのだから、さらに突っ込んで質問されたら『今後の勉強のために』とでも答えようと思っている。
 けれど、それ以上追及はされなかったので、買い物を終えた僕はまっすぐ帰宅。
 再び机に向かって試すのは、【鉱石の知識】レベル2でできる、小瓶の生成。
 レベルが上がると、より透明に近い小瓶が作れるそうだ。
 他にも日用品としての皿なども作れるのだけど、今日買ってきた鉱石は小瓶用の、川に行けば落ちているような砂に近いやつである。
【合成】としか表記されていなかったスキル。
 これは分野を問わず効力を発揮するのだろうか?
 もしそうならば、自分の知っている範囲で、簡単そうなものから順に試してみたくなる。
 とはいえ、お小遣いはあまり残っていないし、十五歳になったのだから職も決めなくてはいけない。
 ひとまず落ち着いたら、ポーションを雑貨屋に買い取ってもらえるよう商人として登録をするつもりだ。
 別に商人と冒険者、どちらかしか選べないわけではないし、あくまでも今できる範囲で考えたことである。
 鉱石に魔力をこめること、数十秒。
 光が収まり、手に残ったのは一つの小瓶。
 レベル1が作ったとは思えない、そこそこ純度の高いものであった。



 4話


 おそらく成功するだろうと考えてはいたが、実際に目の当たりにすると不思議なものだ。
 そもそも合成というのは人間が勝手に付けた呼び名であって、あくまでも知識系スキルの一部でしかない。まぁ、僕が授かったのが欠如型ロストタイプだとしたら【〇〇の合成】と表記されるはずなので、それとは別物だろうとは思っていたが。
 最初はもしかしたら程度であったものが、僕の中でどんどん確信に近づいていく。
 購入した鉱石で作った小瓶は全部で十五本。
 当然、売っている物を買うよりもいくぶんかは安く手に入ったのだが、そこまで格安というわけではない。
 小瓶は主に見習いが練習のために作るのだが、店には見栄えのよい上質なものも並んでいて、そちらは小銀貨五枚からという高級品。
 僕が作った小瓶はさすがに高級品と比べると見劣りしてしまうけれど、それでも乱雑に置かれた銅貨一枚で買える安い小瓶よりは、よっぽど綺麗な出来だ。
 ちなみに、銅貨十枚で小銀貨一枚と同じ金額。その上には、銀貨、小銀貨、金貨、白金貨、聖金貨があり、それぞれ十枚で一つ上の貨幣一枚と同じ価値だ。
 もうこのまま売りにいきたいと思いつつも、これはあくまで実験品であり、ポーションを保管するためのものでもある。変な噂が立つことも避けたいから、売るのはひとまずやめておく。
 とにかく、これでわかったことが増えたわけだ。
 レベル1でも、知識系スキルのレベル2で覚えるはずの素材合成術(初級)と言われていることは、おそらくできるのだと思う。というか、できてほしいという願望でしかないのだけれど。
 せっかくなので、ポーションを入れて後でテセスに鑑定してもらおうかな。
 もし、次を試すとしたらなんだろうか?
 知識系スキルで合成されるものは、あまり多くない。
 たとえば【水生物の知識】なんかは、合成の代わりに使役、召喚なんかができるみたいだし。
【武具生成術】は、合成ではなく、実際の鍛冶の腕が上昇するというスキルだ。これに関しては、金属や魔物素材を糸状に加工するといったことができるので、もしかしたら合成に近い性質なのかもしれないけれど。
 ともあれ、合成できるものは植物と鉱石で終わり、という可能性もある。だとしたら、僕のスキルはそこまで有用ではないのかもしれない……
 まぁ、今の僕はどちらにしてもお金に余裕がない。
 しばらくは母がポーションを作ったということにして、売りに行ってもらうしかないようだ。
 ちなみに父のスキルは【魔物感知】レベル4だそうで、アイテム作りとは無縁である。
 小瓶と同様に、鉱石と一緒に買った薬草の束をどんどん合成していき、十五本のポーションを完成させた。
 もし低品質であっても、わずかに損をするだけだ。それに、この瓶なら一般品よりちょっと高値が付くかも? なんて考えてしまう。
 実際は、多分わずかに質が良いだけの小瓶の価値なんて無視されてしまうだろうけどね。
 作ったものを持って一階に行き、母に事情を話す。

「……というわけなんだ、母さん」
「まったく、本当にすごいわね。あなたが授かったのは希少ユニークスキルかもしれないって聞いた時は、なんの冗談かと思ったけど、この小瓶を見るだけで普通じゃないことはすぐにわかるわ」

 母曰く、この品質の小瓶を作るには最低五年はかかるそうだ。
 そうであるのなら、中身のポーションも十五歳が作ったとは思えない出来かもしれないから、母に売りに行ってもらうというのはちょうどいいだろう。
 まぁ、まともに中身の価値を測れるような商人はあまり存在しないし、この村であれば『母が作ったものなら』と少し割り増しにしてくれるほどの、ザルな商売ではあるのだけれど。
 もちろん、たまには商品の質を確認するために、鑑定持ちの者のもとへ出向くこともある。それが商人としての信用でもあり、商売を続ける上で必要なことなのだ。

「じゃあ、これは母さんが売ってくるわね。で、センはこれからどうしようと思っているの?」

 これからというのは、仕事や将来のことだろう。
 ポーション作りにはげむにしても、本来ならば腕の立つ師匠に教えを請いながら、雑用をして生活するのが一般的だ。

「母さんに習っているということにできないかな? もちろん、薬草などの採取依頼も受けてこようと思う。だから、装備品を買うための資金を作りたいのだけれど」

 師匠のもとでの雑用はスキルレベルが3になる頃までで、それが一般的には約一年と言われている。その期間を、僕はポーションと小瓶作りについやしたいと思った。
 母さんはそれを許してくれて、ここから僕の新しい生活が始まることになった。


 ◆ ◆ ◆


 作ったポーションのうち十四本を母に渡し、僕は朝早くから植物の採取をしていた。
 知識が乏しくても初級合成に使う素材くらいは見分けられる自信があったし、持ち帰れば母のチェックによって選り分けられるのだから、ポーションに間違った素材を使う心配はない。
 こうやって、さも【植物の知識】を得たかのように、しばらく生活することに決めた。
 もちろん、自立できるタイミングで村を出て、大きな町を目指そうかとも思っている。
 ある程度の植物を採取したところで、お昼頃、僕は教会へ足を運んだ。
 腰につけた袋には、ポーション一本と摘んだばかりの薬草などが詰め込まれている。

「どうしたの、セン?」

 僕に気づいたテセスがそう言った。

「ちょっと見てもらえないかと思ってさ」

 テセスが一人になるタイミングというと、昼食が終わって休んでいる時だ。
 そんな状況でないと話ができないのは、僕のスキルに関することだから。それともう一つ、無料ただで鑑定をしてもらおうという、ちょっとずるい気持ちもあった。

「じゃあ見てみるわ。ちなみにセン、あなたまだレベル1なんでしょう?」
「うん、さすがにポンポンとレベルが上がるような、とんでもないスキルではなかったから安心してよ」

 僕は笑いながらそう言った。
 鑑定でわかるのはアイテム名、そして品質。
 小瓶に入ったポーションの場合、必然的にその両方が鑑定の対象となるらしい。
 啓示を受けたばかりの者では、どちらもまず作ることができない。
 数ヶ月間努力をしてようやくレベルが上がっても、作れるアイテムといえば大概が低品質。下手をすれば粗悪品ということもある。
 並であれば万々歳、良品や高品質などはその道の修業を長く積んだ者が作り出せるものであり、そこらへんの村人が作れる品ではない。

「えっと……小瓶が低品質で、ポーションも同じね、低品質」

 正直なところ、見た目だけで高品質とは言わないまでも良品くらいは、と思っていた僕は、ちょっと恥ずかしくなった。

「すごいじゃない、粗悪品じゃないだけ上出来よ。もしかしたらレベルが一つ上がるだけで、フロウさんに追いつくんじゃない?」

 フロウというのは僕の母親のことだ。つまり、今の僕では母に及ばないと言われているのである。
 そうなると、早くレベルを上げたくて仕方がないわけなのだが、一般的な魔力量では一日に作れるアイテムはせいぜい三十個程度。
 昨日は限界まで作ってみたい気持ちもあったのだけれど、今はお金がないし、機会があれば確認しようと思った。

「ありがとう、テセス。僕はやっぱり、しばらくこの村で【合成】で稼ごうと思う。一年後か十年後かはわからないけれど、冒険者への道に進むのはその後でもいいと思ってるんだ。それに、今はまだ僕自身が何をするべきかわかっていないから」
「いいと思うよ、セン。私もスキルを貰った当初はそんな気持ちだったと思う。もちろん、私も冒険者になることを諦めたわけじゃないけどね」

 突然のカミングアウトである。正直、初耳であった。
 テセスは望んでシスターの道を選んだのだろうと思っていたが、実は、冒険者として僕と旅をすることも望んでいるのだとか。
 僕が十五歳になり、得られるスキル次第ではすぐにでも旅立つつもりだったらしい。
 結局それもしばらく延期になったわけだけど、教会での仕事が楽しくなってきたから別に問題ないとのこと。
 だったらこのまま、これからの子たちのために教会で仕事をしていたほうがいいんじゃないか?
 僕だって、みんなの反対を押し切って冒険者への道を進む覚悟なんてないし。
 そんなことも考えたが、それはテセスが決めることだ。


 ◆ ◆ ◆


 僕の進む道は、とりあえずは決まった。しばらくこの村で生活を続けようと思う。
 まぁ、すぐに旅立とうと考えているのは、固有スキルを入手したコルンぐらいなものだろう。
 そう思いつつ僕の今後をコルンに報告したのだが、返ってきた言葉は意外なものであった。

「俺もしばらくこの村で修業を積むことにした」

 アッシュに何度も頼み込んで、一緒に狩りや採取に出向くことを許されたのだそうだ。
 てっきりコルンは新しい世界へ足を踏み出すのだと思っていたから、僕は驚いてしまった。
 これまで通りコルンと顔を合わせられるのはもちろん、まさかアッシュがコルンの同行を許すとは思っていなかったのである。
 今までどんな理由があろうとも、アッシュは全ての依頼を一人でこなしていた。
 この村の依頼がどれも簡単だというわけではない。魔物退治に協力は不要、道案内すら必要ないと言って、常に一人で行動をしてきたのだ。
 この村に来る前、アッシュがこれまで組んでいた数々のパーティーは全て壊滅してしまったらしい、と噂で聞いていた。
 現に、他の町から来た冒険者が『死神アッシュ』などと口にしている事実もあるそうだ。
 つらい目にったからなのだろう、アッシュは他の者と組むことを拒絶しているのだと理解していた。
 だからこそ、コルンの同行を許した理由がわからなかったのである。
 単なる気まぐれなのか、はたまた何か思うことがあったのか?
 なんにせよ、コルンはこの村に留まるのだとわかり、僕は今まで通り三人で遊んでいる姿を想像してしまった。

「じゃあな。アッシュさんと何日か山のほうにこもるから、次に会う時には俺はもっと強くなってるぜ」

 コルンは相変わらずの強気だ。
 それだけ過酷な状況に身を置けば、きっと新たなスキルも得られるはず。より一層、冒険者として成長していくんだろうな。


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