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13話 ベッドの好み
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「固いな。痛いぞ」
「そうですかね? 俺らはこれで普通ですけど」
ある日、俺はバーンが作業場で作ったベッドに転がってみた。
だが、こいつが固い。
それもそのはず、なんと足つきの木枠に木材を並べただけの代物だ。
俺が作ったツタと毛皮のベッドとは大違いだ……ちなみに俺のベッドは新居に移したぞ。
「本当にコレが普通なのか? 俺のツタで作ったヤツに転がってみろ」
俺はバーンを自宅に招き、ベッドに転がした。
なんか変な表現だが、いやらしいことはしていない。
「うーん、たしかに柔らかいっすね。ツタがギシギシ鳴るのは気になるけど」
「あの固いベッドに毛皮かけても痛いだろ? 痛いよりましさ」
この家には明かりとりの小さな窓はあるが、囲炉裏に火も入ってないし、かなり暗い。
男2人、薄暗い部屋でベッド談義もなんなので作業場に戻り、ベッドの改良をすることにした。
「お、やってますね」
ベッドの枠をいじりながら作業をしていると、川に粘土を取りに行っていたコナンが戻ってきた。
今日はアシュリンとスケサンが川に魚をとりに行ったので、それについて粘土採取に行っていたのだ。
粘土とは目の細かい土のことで、窯や焼き物を作るのに使用するそうだ。
「コナンか、窯はもうすぐできそうだな」
俺は作業の手を止めてコナンが作った窯を見る。
なんというか、煙突に粘土でできた部屋をくっつけたような変な形だ。
「そうですね。あとは1度火を焚いてみて、全体的に固くなれば完成です」
ちなみにこの窯は火を入れる部分のみ作業小屋に入っており、あとの部分はみ出している。
煙突から火を吹くので、火事にならぬようにわざと屋根から外したのだそうだ。
「これで上手くいくかは難しいとこなんですが、壊れても焼けた粘土と土を混ぜることで次に作る窯は強くできます」
「そうか。俺も薪を取ってこよう」
緊張してるのだろうか。
いつになくコナンが饒舌だ。
(ここ数日かかりきりだったわけだしな。失敗して気にするなとはいかんか)
俺もバーンもなんとなくベッドを作る気分ではなくなり、コナンの火入れを手伝うことにした。
枝を集めて燃やし、徐々に大きな木をくべる。
するとすぐに煙突から勢いよく火柱が立った。
「うおっ!? スゴいな……!」
どういう仕組みなのかは分からないが、炎は窯から煙突へ吸い込まれるように流れている。
「ふーっ、形は正解だったみたいだ」
コナンが汗をぬぐう。
その汗は火の熱さだけではないだろう。
途中で窯の上部にヒビが入ったときは3人で悲鳴をあげてしまったが、なんとかそれだけの被害で済んだようだ。
ヒビはコナンが粘土で埋めていた。
次々と燃やしていた薪は燃えつきるが、余熱でも汗が吹き出すような熱気がある。
この熱で泥が陶器に生まれ変わるのだと考えると、神秘を感じずにはいられない。
「やった、成功じゃないかな!?」
「ああ、ホッとしたよ」
バーンとコナンが手を取り合って喜んでいる。
彼らからすれば、失敗したら居場所を失うような心配もあったのだろう。
(まあ、そんなことするわけないけどな)
考えて欲しい、俺の顔を見るだけで暴言を吐くアシュリンでさえ追い出さないのだ。
この2人を追い出すような真似をするはずがない。
「とりあえず上手くいきました。窯も小さいし、使ってるうちに壊れてしまうでしょうが、試作と考えれば上出来です」
コナンが嬉しげに窯を眺めた。
まだまだ納得がいかないようだが、俺やスケサンだけではなし得なかった成果だ。
追放された彼らには申しわけないが、ここに来てくれたことは俺にとっては幸いだった。
「それで、相談があるのですが」
少し緊張した面持ちでコナンが「これは我らの掟なのですが」と切り出した。
「焼窯を使えば大量の薪が必要になります。エルフは立ち木を伐ったときは種を植えて森を守る掟があるのです」
「へえ、それは同じ場所とか、同じ種類とか、そういう決めごとはあるのか?」
俺の質問にコナンとバーンが顔を見合わせて「どうだっけ?」と小声で相談している。
そんなに変なこといったか?
不安になるからやめてほしい。
「そこまで厳密ではなかったと思いますが……」
「すんません、俺らには普通のことなんで考えたことなくて」
2人はなんとも表現しづらい微妙な表情を見せた。
俺の質問に答えられずに気まずいようだ。
「ああ、すまん。大した話じゃないだが、種類が決まってないなら季節によって食べれる果樹を植えれたらいいなと思ってな」
「そうですか。それは大丈夫だと思いますが、同じ種類のものを固めると木が病にかかったときに全滅するかもしれません。少し離すのがよいと思います」
この言葉には驚いた。
(木に、病があるのか)
やはり森の知恵は森に長く住んでいたワイルドエルフたちに敵わない。
この掟も彼らの知恵なのだろう。
「いいんじゃないか? どこにどんな木を植えるか、その辺はまた相談しよう」
1つできたら、また違う課題がでる。
この繰り返しだが、少しずつ前進しているはずだ。
「あ、そういえば」
バーンがいきなりコナンに「これ使ってみてくれよ」と声をかけた。
そこにはバーンが作った固いベッドがある。
「コレが普通だよな?」
「うーん、ちょっと痛いぞ。木の向きがバラバラで凹凸が強すぎるし、節が上に来てるじゃないか」
コナンの指摘にバーンが「いやいや、こんなもんだって」と口答えし、なんとなく全員で笑ってしまった。
やはりバーンはいいかげんに作っていたらしい。
結局、ああでもないこうでもないと言いながら、それぞれ1つずつ製作することになった。
ベッドが余っても薪を乾かす台にでもすればいいので無駄にはならないだろう。
帰ってきたアシュリンは1つ1つ転がって寝心地を試していたが、自分の作ったベッドに横たわる彼女を見てチョッピリいけない気持ちになったのは内緒だ。
なんだかんだでバーンが始めに作ったヤツが不人気で、作業小屋に設置されることになった。
やはりアレは本人も痛かったらしい。
俺とエルフたちはベッドを作るだけでも意見が異なる。
なにごとも一つ一つ、すり合わせるように相談する形だ。
鬼人とワイルドエルフ、生きてきた環境や価値観がまるで違うのだから仕方ないだろう。
すぐに皆の生活環境を整えるのは難しい。
だが、こうして少しずつ、同じ作業をすることで皆の人となりが分かってきたようだ。
どうやら、俺はこの生活を楽しんでいるらしい。
■■■■
窯
焼き物を作るための窯。
今回は皮なめしで使えるような大きなサイズの容器を作るために、焼成室のあるかなり本格的な形だ。
耐火レンガなどがないために構造的に弱いが、間に合わせには十分。
小さいものを素焼きにするくらいならば、煙突のみのような簡単な構造の窯でも作ることはできる。
世の中には七輪で陶芸を楽しむ猛者もいるのだ。
「そうですかね? 俺らはこれで普通ですけど」
ある日、俺はバーンが作業場で作ったベッドに転がってみた。
だが、こいつが固い。
それもそのはず、なんと足つきの木枠に木材を並べただけの代物だ。
俺が作ったツタと毛皮のベッドとは大違いだ……ちなみに俺のベッドは新居に移したぞ。
「本当にコレが普通なのか? 俺のツタで作ったヤツに転がってみろ」
俺はバーンを自宅に招き、ベッドに転がした。
なんか変な表現だが、いやらしいことはしていない。
「うーん、たしかに柔らかいっすね。ツタがギシギシ鳴るのは気になるけど」
「あの固いベッドに毛皮かけても痛いだろ? 痛いよりましさ」
この家には明かりとりの小さな窓はあるが、囲炉裏に火も入ってないし、かなり暗い。
男2人、薄暗い部屋でベッド談義もなんなので作業場に戻り、ベッドの改良をすることにした。
「お、やってますね」
ベッドの枠をいじりながら作業をしていると、川に粘土を取りに行っていたコナンが戻ってきた。
今日はアシュリンとスケサンが川に魚をとりに行ったので、それについて粘土採取に行っていたのだ。
粘土とは目の細かい土のことで、窯や焼き物を作るのに使用するそうだ。
「コナンか、窯はもうすぐできそうだな」
俺は作業の手を止めてコナンが作った窯を見る。
なんというか、煙突に粘土でできた部屋をくっつけたような変な形だ。
「そうですね。あとは1度火を焚いてみて、全体的に固くなれば完成です」
ちなみにこの窯は火を入れる部分のみ作業小屋に入っており、あとの部分はみ出している。
煙突から火を吹くので、火事にならぬようにわざと屋根から外したのだそうだ。
「これで上手くいくかは難しいとこなんですが、壊れても焼けた粘土と土を混ぜることで次に作る窯は強くできます」
「そうか。俺も薪を取ってこよう」
緊張してるのだろうか。
いつになくコナンが饒舌だ。
(ここ数日かかりきりだったわけだしな。失敗して気にするなとはいかんか)
俺もバーンもなんとなくベッドを作る気分ではなくなり、コナンの火入れを手伝うことにした。
枝を集めて燃やし、徐々に大きな木をくべる。
するとすぐに煙突から勢いよく火柱が立った。
「うおっ!? スゴいな……!」
どういう仕組みなのかは分からないが、炎は窯から煙突へ吸い込まれるように流れている。
「ふーっ、形は正解だったみたいだ」
コナンが汗をぬぐう。
その汗は火の熱さだけではないだろう。
途中で窯の上部にヒビが入ったときは3人で悲鳴をあげてしまったが、なんとかそれだけの被害で済んだようだ。
ヒビはコナンが粘土で埋めていた。
次々と燃やしていた薪は燃えつきるが、余熱でも汗が吹き出すような熱気がある。
この熱で泥が陶器に生まれ変わるのだと考えると、神秘を感じずにはいられない。
「やった、成功じゃないかな!?」
「ああ、ホッとしたよ」
バーンとコナンが手を取り合って喜んでいる。
彼らからすれば、失敗したら居場所を失うような心配もあったのだろう。
(まあ、そんなことするわけないけどな)
考えて欲しい、俺の顔を見るだけで暴言を吐くアシュリンでさえ追い出さないのだ。
この2人を追い出すような真似をするはずがない。
「とりあえず上手くいきました。窯も小さいし、使ってるうちに壊れてしまうでしょうが、試作と考えれば上出来です」
コナンが嬉しげに窯を眺めた。
まだまだ納得がいかないようだが、俺やスケサンだけではなし得なかった成果だ。
追放された彼らには申しわけないが、ここに来てくれたことは俺にとっては幸いだった。
「それで、相談があるのですが」
少し緊張した面持ちでコナンが「これは我らの掟なのですが」と切り出した。
「焼窯を使えば大量の薪が必要になります。エルフは立ち木を伐ったときは種を植えて森を守る掟があるのです」
「へえ、それは同じ場所とか、同じ種類とか、そういう決めごとはあるのか?」
俺の質問にコナンとバーンが顔を見合わせて「どうだっけ?」と小声で相談している。
そんなに変なこといったか?
不安になるからやめてほしい。
「そこまで厳密ではなかったと思いますが……」
「すんません、俺らには普通のことなんで考えたことなくて」
2人はなんとも表現しづらい微妙な表情を見せた。
俺の質問に答えられずに気まずいようだ。
「ああ、すまん。大した話じゃないだが、種類が決まってないなら季節によって食べれる果樹を植えれたらいいなと思ってな」
「そうですか。それは大丈夫だと思いますが、同じ種類のものを固めると木が病にかかったときに全滅するかもしれません。少し離すのがよいと思います」
この言葉には驚いた。
(木に、病があるのか)
やはり森の知恵は森に長く住んでいたワイルドエルフたちに敵わない。
この掟も彼らの知恵なのだろう。
「いいんじゃないか? どこにどんな木を植えるか、その辺はまた相談しよう」
1つできたら、また違う課題がでる。
この繰り返しだが、少しずつ前進しているはずだ。
「あ、そういえば」
バーンがいきなりコナンに「これ使ってみてくれよ」と声をかけた。
そこにはバーンが作った固いベッドがある。
「コレが普通だよな?」
「うーん、ちょっと痛いぞ。木の向きがバラバラで凹凸が強すぎるし、節が上に来てるじゃないか」
コナンの指摘にバーンが「いやいや、こんなもんだって」と口答えし、なんとなく全員で笑ってしまった。
やはりバーンはいいかげんに作っていたらしい。
結局、ああでもないこうでもないと言いながら、それぞれ1つずつ製作することになった。
ベッドが余っても薪を乾かす台にでもすればいいので無駄にはならないだろう。
帰ってきたアシュリンは1つ1つ転がって寝心地を試していたが、自分の作ったベッドに横たわる彼女を見てチョッピリいけない気持ちになったのは内緒だ。
なんだかんだでバーンが始めに作ったヤツが不人気で、作業小屋に設置されることになった。
やはりアレは本人も痛かったらしい。
俺とエルフたちはベッドを作るだけでも意見が異なる。
なにごとも一つ一つ、すり合わせるように相談する形だ。
鬼人とワイルドエルフ、生きてきた環境や価値観がまるで違うのだから仕方ないだろう。
すぐに皆の生活環境を整えるのは難しい。
だが、こうして少しずつ、同じ作業をすることで皆の人となりが分かってきたようだ。
どうやら、俺はこの生活を楽しんでいるらしい。
■■■■
窯
焼き物を作るための窯。
今回は皮なめしで使えるような大きなサイズの容器を作るために、焼成室のあるかなり本格的な形だ。
耐火レンガなどがないために構造的に弱いが、間に合わせには十分。
小さいものを素焼きにするくらいならば、煙突のみのような簡単な構造の窯でも作ることはできる。
世の中には七輪で陶芸を楽しむ猛者もいるのだ。
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