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3話 初の猟果

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 翌日、まだ早い時間に目が覚めた。
 腹が減ったのと、コウモリの鳴き声で体を休めることができなかったためだ。
 サバイバルはなかなかつらい。

(腹が減りすぎて気持ち悪いな……なんでもいいから、早くメシが食いたいな)

 疲労と空腹で体が重い。

 水筒に溜まった雨水を飲み、体をほぐして行動開始だ。

 さっそく俺はスケサンに指導され、猟具を整え始める。
 昨日の俺は無策でうろつき成果はゼロだった……準備が大切ってことだろう。

「この棒はどうだろう?」

 俺は木の枝を拾い、コンコンと叩く。
 なかなか固そうな木だ。

「うむ、なかなかいいぞ。次に石と石をぶつけて割るといい。尖った石は握斧あくふになる。なにかと使える道具だ」

 スケサンの指示に従い、俺は適当な石を数個投げてぶつける。
 石はウンコ洞窟(仮)の周囲に豊富にあり、尖った形のものがいくつかできた。

「なかなか上手いぞ。その握斧で棒の枝を落とすといい。このていどの作業で鉄のナイフを使うのはもったいないからな」
「なるほどね、道具ってこうして作るんだな」

 純粋な鬼人族はマジで何も作らない。
 支配している他族に何もかもやらせ、戦いのみを行うのだ。
 俺がこうして道具を作れるのは人間ヒューマンやドワーフの血かもしれない。

「なかなか上等な棍棒だ。今から川に向かう途中で小動物を見つけたら投げて仕留めるといい」
「飛び道具か! そいつはいいな」

 何度か軽く投げて感触を確認するが、なかなかいい。
 俺はズタズタになった雑嚢リュックサックをねじりながら帯のように腰に巻き、棍棒と握斧を挟み込んだ。

「いい工夫だろ?」
「うむ、帯に挟めば持ち運びも楽だ。固い木片などがあれば集めておくといい」

 こうして支度を整え、高台から確認した流れの方角に向かって歩く。

「ところどころの木に印をつけておけ。クソまみれのコウモリの巣は生活に適しているとは言いがたいが、とりあえずは拠点にできる。戻れるようにしなければな」
「そうだな、そうしよう」

 俺は枝を折ったり、木に傷をつけたりしながら進む。
 鬱蒼うっそうとした森の中では目印がなければすぐに迷ってしまうだろう。
 こうしたスケサンの知恵はありがたかった。



☆★☆☆



 数時間ほど歩いた。
 喉がカラカラ、腹は減りすぎて気分が悪くなってきた。

「ううむ、生き物の気配はあるが非常に警戒しているようだな。ひょっとしたら他族の人がいるのかもしれんぞ」

 他の人は気になるが、今はとにかく腹が減っていて思考が鈍い。

 乾きや空腹が危険なのはこれである。
 徐々に思考力が低下し、冷静な判断ができなくなるのだ。

「石でも裏返したらなんかいないかな?」

 俺の愚痴にスケサンが「ヘビや虫はいるだろうが生食は危険だ」とか律儀に答えてくれた。

「でもなあ、腹が減るのと下痢じゃどちらがましなんだ?」
「水の確保ができていない状態での下痢は命取りだ」

 スケサンの言うことは正しいのだが、渇きと空腹でイライラする。
 いらだちまぎれに適当な細木をボキリと折ると、スケサンに「うむ、杖にちょうどいい」とか褒められた……少し複雑だ。

 重い足どりで、さらに進むことしばし。
 待望の水の音が聞こえてきた。

「やったぞ! 水だ」

 小走りで近づくと、わりと川幅と水量のある流れが見えてきた。
 流れはさほど速くはない。

 土のような色をした川だ。
 澄んだ流れには見えないが、もう我慢ができない。

 水辺に駆け寄り、顔を流れに浸して水をがぶ飲みする。
 疲れた体に水が染み渡るのを感じた。

「うーむ、いきなり川の水を飲むのはオススメできんが仕方ないだろうな。ほら、あそこに獲物がいるぞ」

 スケサンに促され顔を上げると、大きなカメが甲羅干しをしていた。
 今までの小動物と比べて信じられないような警戒心のなさだ。

「水辺のカメは天敵が少ないからな。だが、握斧があれば腹から割って食べることができる。甲羅は器にもなるだろう」
「よし、あのデカいのを捕まえてやる」

 俺は少し離れた位置から杖で甲羅を小突く。するとカメは手足を引っ込め、簡単に捕獲できた。
 即座にひっくり返し、逃げられないうちに引っ込んだ頭へナイフを突っ込む。

「やったぞ! 飯だ!」

 なんとも締まらない初猟果だが、嬉しさのあまりガッツポーズが出た。

「うむ、幸先がいいな。川辺にある穴に手を突っ込んでみるといい。カエルの巣だ。ついでに川で体を清めるのもいいだろう」
「それはいいんだが、変な肉食魚に齧られるのはごめんだぞ?」

 俺のぼやきを聞き、スケサンが「カカカ」と愉快げに笑う。
 危険はないということだろう。

 季節は春。
 服を脱ぎ、流れに体を浸すとヒヤリとするが良い気持ちだ。

「ワニでも来たら知らせてやる。体を清潔に保つのは大切だ、垢を落とすといい」

 スケサンが怖いことを言うが、冗談だろう。
 泥の穴に手を突っ込むと、ヌルリとした感触と激しい抵抗を感じる……カエルだ。

「よし、捕まえたぞ」

 握りこぶし半分くらいのサイズ感だが、腹の足しになる。
 そのまま足を掴み、川辺の石に叩きつけてトドメをさした。

「上等だ。今日は無理だが、余裕ができたら川辺に拠点を構えるといい。コウモリの巣は水場から遠すぎる」
「そうだな、ここは幸先がいい」

 水から上がり、カメとカエルをぶら下げてウンコ洞窟へと戻る。

 途中で枝や倒木、枯れ草を拾い集めてかなりの大荷物になってしまった。
 カエルはスケサンにくわえてもらったぞ。

「さて、火おこしだが、その大きな固い木片に溝を彫るのだ」

 俺は言われた通りに握斧で木片に溝を刻む。
 この握斧って道具は実に便利だ。

「こんなもんか?」
「うむ、十分だ。後は煙があがるまで木っ端を擦りつける……弱いぞ、しっかり擦りつけろ!遅い、もっと早くだ!」

 必死で火おこしをし、カメを解体して食べるころには日が暮れていた。

「1日が過ぎるのが早いな、食事をするだけで終わってしまう」
「初めはそんなものだ。明日からは石斧を作って川辺に小屋をかけよう。環境が整えば楽になる」

 満腹と焚き火、そして疲労。
 今日はよく眠れそうだ。

(俺はツイてる。こんなところで独りじゃ、1日だって耐えることはできなかった)

 幸いなことに俺には話し相手がいる。
 相手が首だけでも、孤独ではない。
 見ず知らずの土地で見ず知らずのしゃれこうべに助けられるとは思わなかった。
 人生はわからないもんだ。

 こうして、俺の森生活は始まる。
 水、食、火……次はねぐらだ。



■■■■


カメ

硬い甲羅に守られたカメは警戒心が低く、捕まえやすい獲物だ。
解体することが可能ならば、水辺での貴重な食料となる。
旧石器時代の人類はカメを石器で解体し、甲羅ごと焼いて食べていた痕跡があるようだ。
また、チンパンジーがカメの甲羅を割って食べるのも観察されている。
寄生虫が多く生食は厳禁。
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